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【JASRACシンポジウム2005】
文化庁甲野氏講演「何がネットでのコンテンツ流通を妨げているのか」

 JASRACシンポジウム2005の基調講演では、文化庁長官官房著作権課長の甲野正道氏が登壇。「本稿は私見である」との前提の上で、ネット上でのコンテンツ流通に関する現状と課題に関して講演した。


「ビジネスモデルが存在しない」ためにテレビのネット配信が進まない

文化庁長官官房著作権課長の甲野正道氏
 甲野氏は初めに、テレビ番組のネット配信に関して言及。「テレビ番組のネット配信は近年進みつつあるが、なかなか大々的には進んでいない」と指摘し、その理由として2001年度の民法テレビ局営業収入構成のデータを示した。放送局の収入の93.9%は放送事業であり、視聴率を高めて放送事業を大きくすることが放送局の経営としては最重要項目であるために、番組の制作時点では通常2次利用が想定されておらず、結果として放送番組に2次利用を妨げる要素が入り込むのだという。

 甲野氏は続けて、「著作権の法制度がコンテンツのネット流通の障害になっていると言われるが、放送番組のビデオ化とネット配信では、著作権法上の制約に違いはない」と説明。「レンタルビデオ店ではテレビ番組のコーナーが用意されているが、著作権法上では、ビデオ化できるものはネットでも同じことができる(甲野氏)」。

 さらに、2005年3月に著作権関連団体との合意が発表されたブロードバンド配信の仕様料率に関しても「2006年3月末までの暫定ルールながら、現時点で適用された例はない」と指摘。「ネット配信のルールはできたのにテレビ番組がコンテンツとして流れない、これはどういうことなのか」との課題を投げかけた。

 これらの理由として甲野氏は「放送局のやる気の問題、と片づける前に、そもそもネットで利益を上げるビジネスモデルが無かったことに尽きる」との考えを披露。「テレビのビデオ化が進んでいるのは、それがビジネスとして成立しており、番組制作の時点でビデオ制作を想定した契約や締結が結ばれている。放送局も企業である以上利益を求めるのは当然のこと」とした上で、「IT分野をインフラとして重視することは国策でもあり、各方面がネット配信をビジネスにつなげるために協力し合う必要がある」と語った。


テレビ局収入の93.9%は放送事業 テレビ番組のビデオ化もネット配信も、著作権上では違いはない

放送番組のネット配信ルールは現在のところ適用事例なし ビジネスが成立していないためにネット配信が進まない

地上デジタルのIP再送信は有線放送か、自動公衆送信か

IPマルチキャスト放送の仕組み。リクエストのあった番組を配信するという点で「インタラクティブ要素を含むために従来解釈では自動公衆送信(甲野氏)」
 次に甲野氏は、2006年に予定されている地上デジタルのIP網による再配信実証実験を踏まえ、「IPマルチキャストによる放送は有線放送か、自動公衆送信なのか」という問題に触れた。文化庁の従来からの解釈によれば、インタラクティブな要素を含む放送はすべて自動公衆送信であり、各家庭から要求のあったチャンネルのみ送信するIPマルチキャストはその仕組み上、自動公衆送信にあたるのだという。

 有線放送と自動公衆送信の違いは、権利問題に大きな影響を与える。「例えばレコードで曲を流す場合、自動公衆送信ではコンテンツ配信に了解が必要だが、有線放送では二次使用料請求権で料金さえ支払えば良い。また、放送を再送信する場合も自動公衆送信は許諾が必要だが、有線放送は法律上では権利がない(甲野氏)」。甲野氏は「有線放送の再送信の場合、実際には契約でごくわずかの対価が支払われている」と補足した上で、「許諾をどこまで取るか、という点で大きな違いが存在する」とした。

 地上デジタルのIP再送信に関し、現状の解釈を維持した場合「放送と通信の峻別となり、放送が法律上有利になる」という問題があるという。また、文化庁の解釈を変更、IPマルチキャストを実質的に有線放送と同等に扱ったとしても、「地上デジタル再送信が法令違反でなくなるかもしれないが、メリットはそれだけかもしれない。また、文化庁が従来方針から態度を変える理由も問われる」との課題を示した。

 これらの点を踏まえ、甲野氏は「解釈の変更ではではなく、法律そのものを改正する考えもある」とコメント。「法律関係を明確化することで、放送と通信の融合という時代の流れにも沿うだろう」との考えを示したが、「権利者や有線放送事業者など反対する団体も多く、今後の技術の推移などを考えると時期尚早かという問題もある」とした。


有線放送と自動公衆送信では権利に大きな違いが 甲野氏が考える今後の文化庁の対応

世間の感覚と法律上の規範の距離を狭めることが重要

「世間の感覚」と「法律上の規範」の距離を狭めることが重要
 今後の文化庁の取り組み姿勢として甲野氏が「まったくの私見だが」との前提で挙げたのが「世間の感覚と法律上の規範の距離を狭める」こと。「最近の社会からは、著作権が障害であり、権利者の正当な権利行使が問題のように思われているが、1つには世の中の感覚に合うように法律を変えていかなければならない側面がある」。一方で、「著作物の利用に際しては適正な負担が必要であることも周知し、広報活動していく必要もある」とした。

 今後の社会の進展により、新たなビジネスが発生した際には「技術変化に伴うビジネスモデルの変化にも対応する必要がある」とした上で、「既存のビジネスモデルに影響がないからといって、新たなビジネスモデルだけが著作物で利益を得るというのは公平の観点から問題。新たなビジネスモデルにおいても、利用された著作物の権利を持った人が対価を得られる仕組みが必要だ」との見解を示した。


関連情報

URL
  JASRACシンポジウム2005
  http://www.jasrac.or.jp/culture/schedule/2005/1121.html

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(甲斐祐樹)
2005/11/21 17:59
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