TechCrunch40の2日目は、初日と同様に20個の新サービスが5個ずつ4セッションに分けて発表された。また、初日を含めた40サービスの中かから最優秀賞も発表された。
■ セッション5: 生産性とWebアプリケーション
- Xobni(ゾブニ): メール・コンタクト・アタッチメントの管理や検索を強化するOutlookプラグイン
- Orgoo(オーゴー): 複数メール・メッセンジャーアカウントを統合するWebサイト
- App2you: カード型データベースWebアプリケーション
- Mint: 銀行やクレジットカードのオンラインサイトを統合して管理できるサービス
- Kerpoof: インタラクティブなアニメーションカードを作れるWebサイト
App2youは、Webデータベース「サイボウズ・デヂエ」をインターネット無料モデルに適応させたようなサービス。サイボウズ・ラボに務める筆者としても要チェックのサービスだ。
Kerpoofは子供向けのアニメーション作成システムで、動画編集ソフト風の機能をFlash上で実現していた。デモでは寸劇風のデモのおもしろさが目立っていた。
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ブラウザ上で子供がアニメーションを作るKerpoof
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エキスパート・パネルの講評では、まずは「Xobni」が注目を集めた。ただしメールの受信箱「inbox」をさかさまにしたその製品名のセンスには、苦言も呈されていた。
多数の銀行・金融機関のオンラインバンクサービスを束ねる「Mint」もエキスパート達の言及が多かった。以前にも同様のサービスが存在したことも指摘された(日本でも存在する)が、当時に比べてオンラインバンクの利用者が増加しているのが追い風になるだろうという評価。初日の旅程管理サービス「Tripit」もそうだが、(管理する資産がたくさんありそうな)パネリストたちの需要にマッチしていたというのもありそうだ。
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講評するガイ・カワサキ氏
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Release2.0のエスター・ダイソン氏
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前面に大きな漢字の入ったオレンジのシャツ、といういかにもな格好のガイ・カワサキ氏(元Appleのエヴァンジェリスト)と、業界からの信頼を集めるエスター・ダイソン氏らの軽妙な掛け合いで会場は大きく盛り上がった。
■ GoogleはGoogle DocsのAjaxプレゼンテーションを紹介
Googleの発表枠では、前日に公開されたばかりであるGoogle Docs(日本名はGoogleドキュメント)のAjaxプレゼンテーションアプリに関するデモンストレーションが、Google Docsのプレゼンテーションを用いて行なわれた。
アーリントン氏や会場からは、オフライン機能の搭載予定やデータのセキュリティ、(Google Docsがずっと「ベータ」であることから)、データバックアップなどについて活発な質問がなされた。
TechCrunch40に合わせて会場で初公開、となれば主催側も歓迎するだろうとは思うし、「Googleが新サービスを初公開する」との事前案内もあった。しかし、このサービスは前日にGoogle公式ブログ等で発表されてしまっていたため、そこまでのインパクトはなかったのが実際だ。このあたりはTechCrunch40に参加しつつも、「リリース日は自分達で決める」というGoogle側の意思があったのかもしれない。
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Google Docsのデモ
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主催のアーリントン氏の「使用前」「使用後」。パネリストいじりもプレゼンの技のうち
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■ セッション6: レベニューモデルと解析
次のセッションでは、広告関連のベンチャーを中心としたセッションが集まった。
- Spottt: AdBriteによる中小Webサイト向けの広告スペース交換仲介サービス
- Clickable: AdBriteによる各社広告サービスの横断管理とパフォーマンス分析改善支援ツール
- GotStatus: オープンソースのブログやCRM、ウェブサービスなどを統合監視するサービス
- PubMatic: 複数広告ネットワークの統合管理・広告最適化支援
- ZocDoc: 医師・歯科医師と患者のマッチング・検索・予約サービス。まずはマンハッタンから拡大予定
Spotttは過去に大流行した、サイト間でリンクを融通しあうサービス「LinkExchange」のWeb 2.0的な焼き直し、と発表者自身がプレゼン中で認めている。お互いのサイトに広告を張るところがWidgetになっているなど、昨今の流行を取り入れている。
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広告の管理・支援ツール「Clickable」
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マイケル・ムーアの映画「Sicko」の影響などアメリカの医療保険制度についての議論が高まっていることもあり、エキスパート・パネルでは医者探しを支援する「ZocDoc」に注目が集まった。販売者側のデータベース化、地図等とのマッシュアップ、ユーザ・レコメンデーションなど、旅行サイトやショッピングサイトと同様の仕組みで医者探しや保険の扱いが簡単にできる点が注目された。
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発表者(左側)とエキスパート達(右側)
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■ 午前のパネルディスカッションはVC出資がテーマ
午前中の部の最後は、DiggのCEOジェイ・アデルソン氏や著名なベンチャーキャピタリスト7人で、「ベンチャーキャピタルに出資してもらうにはどうすればいいか」をテーマにしたパネルディスカッション。
会場の企業家や企業家志望者向けに、ベンチャーキャピタル(VC)に顔をつなぐためのさまざまな手段、VCと話し合いを持つときに必要な準備や、すべきでないことなどが議論された。
実際のところはともかくとして門戸は常に開かれていること、一度却下されても改善を続けて再挑戦して出資を受けた話なども披露され、VC側でもいつも企業家との接点を探っているということでまとめられた。
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ベンチャーキャピタリスト大集合
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■ セッション7: リッチメディアとマッシュアップ
セッション7、セッション8は、カンファレンス終盤の聴講者の疲れを予想して組まれたのか、見た目が派手なサービスが揃っていた。ただし、面白いけれども出来はばらばら、という印象も同時に受けた。
- xtr3D(エクストリーム3D): Webカメラによる3Dジェスチャー認識入力。ゲームの入力用などにエンジンを提供
- Broadcrip: ストリーミング音楽の録音とMP3プレーヤーへの転送アプリケーション。インターネットラジオにおけるハードディスクレコーダー
- mEgo(ミーゴー): 動くアバター+プロフィール+フィードアグリゲーター+ゲストブック+アクセスカウンタ for サイト/Widget/iPhone
- Wixi: 写真・動画・音楽のソーシャル・オンラインストレージ
- BeFunky: 写真からコミック調アバター作成、痩せ加工、動画のコミック化
エクストリーム3Dでは、パソコンについているWebカメラ「だけ」で、マウスやキーボードを触らずに空中でのジェスチャーによる入力操作を実現している。映画「マイノリティ・リポート」を観た方であれば、トム・クルーズが未来のコンピュータを操作するシーンをイメージしていただきたい。
トルコから来たBeFunkyは、ユーザーの写真を基にカートゥーン調のアバターを生成するサービス。
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ユーザーの写真からコミック調アバターを作るBeFunkyのデモ
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M.C.ハマーを含むエキスパートによるパネルセッションでは、インターネットラジオを録音するBroadclipや、ソーシャルネットにオーディオ共有などをつけた「Wixi」など、著作権が絡むビジネスの難しさについて議論が交わされた。
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M.C.ハマー
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■ セッション8: 全年齢対象のエンターテインメント
- flowplay: 無料ゲーム・トークン・アバター・ソーシャルネットワーク
- metaplace: マークアップで拡張できる仮想空間ゲーム
- woome(ウーミー): オンラインお見合い(スピード・デーティング)パーティー
- ZIVITY: モデルによるアダルト画像の直販支援サイト
- kaltura: 音声・動画の共同編集サイト&ウィジェット
woomeは、Webカメラを使ったオンラインのお見合い。数十秒という決められた時間で、男女の参加者が組み合わせを変えつつ全員と会話をするというサービス。「スピードデーティング」というジャンルのようだ。
ZIVITYは、モデルが自分でセクシーな写真をアップロードし、気に入った訪問者がお金を払うというコンテンツ販売のビジネスモデル。収入をモデルとサービス運営者で分配する形となる。発表には実際のモデル4人も登壇し(服は着ていたが)華やかな雰囲気となった。
最後に空いていた40番目の発表枠には、初日と2日目にデモ会場で発表した企業からもっとも多くの参加者の票(特注のTechCrunch40カジノチップがこのために製作された)を集めた「kaltura」が登場した。kalturaは、Wikiのような共同編集を動画などについてな行えるというサービス。
デモの100社は数も多く、そのテーブルに行って説明員に聞かなければサービス内容もわからない状況だったため、100社すべてを比較して投票したような人は少なかった。kalturaの名前が発表されても、参加者の多くは無反応。100社についても簡単に各サービスを紹介するような資料が配布されていれば、と感じた。
エキスパートによる講評は、オンラインお見合いサービスの「woome」とモデルによるアダルト画像の直販支援サービス「ZIVITY」が中心だった。スピードデーティング(出会いサービス)の市場が成長しているということで、この先に期待できるということだが、出会いやアダルトに関するサービスの常で、未成年を排除する仕組みなどについて議論が進んだ。
■ 午後のパネルセッションはベンチャーを換金する「出口戦略」
最後のパネルディスカッションは、ベンチャーを売却して換金する「exit strategy(出口戦略)について。成功者が会社を売ってまた別のベンチャーを起こす繰り返しが日常であるアメリカらしいこのテーマは、創業者がずっと経営をし続けることの多い日本とは大きく違うところ。
パネリストは、実際に売却側のエージェントとしてや大企業の買収側としてベンチャー企業のM&Aに関わったプロフェッショナル達。
利益の出ていない段階のベンチャーの価値を算定することの大変さ、売却額の妥当性を双方に納得させる苦労、売却にあたっての準備や心構えなどについて、各人の体験談も交えながら討論がされた。
■ 最優秀サービスは「Mint」に決定
全2日、40ベンチャーの発表を終え、続きの間にて1時間強のカクテルパーティーが行なわれた。参加者全員(主催者、スポンサー、ベンチャーキャピタル、発表者、プレス、一般参加者)の交流と、賞金50,000ドルの最優秀賞を審査する時間を確保する、という2つの目的からと思われる。
1000人の参加者の多くが最後まで残り、カジュアルで温かい雰囲気の中、「次回もやりたいね」という主催者2人の締めと、最優秀賞には銀行やクレジットカードなどのオンライン管理サービス「Mint」が発表され、カンファレンスは終了した。
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最優秀賞は「Mint」に
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なお、なぜMintが選ばれたのか、Mintはさらにどうしていくべきか、といった審査経過や講評は一切行なわれず、閉会はかなりあっさりしていた。
次のレポートでは、カンファレンス全体についてや参加者の雰囲気、筆者が注目したサービスなどを紹介する。
■ URL
TechCrunch40
http://www.techcrunch40.com/
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(秋元裕樹/サイボウズ・ラボ)
2007/09/21 13:10
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