ここまで電力線を利用した高速PLCを取り上げてきましたが、同軸ケーブルを使ってネットワークを構築できる規格も存在しています。
■ アンテナ線を利用してLANを構築する同軸アダプタ
3回に分けて高速PLC規格を紹介してきましたが、これらはいずれも電力線、つまりはコンセント経由でLANを構築するものでした。今回取り上げるのは、同軸ケーブルを利用してLANを構築する通信方式です。この方式では、電力線ではなく、テレビを視聴するために自宅に敷設されているアンテナ線を利用します。
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図1:同軸アダプタの利用イメージ
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この方式には、複数の選択肢が存在します。例えば、高速PLC規格の「HomePlug」では同軸ケーブルを使うオプションがあり、電力線と同軸ケーブルの双方をサポートした製品が存在しています。また、「UPA」規格でも同様の製品があります。
少し過去に遡ると、「10BASE-5/2」という規格は同軸ケーブルを使ったLANですし、その後の100BASE-TXやGbE/10GbEなどにも同軸ケーブルのオプションがあります。また、VDSLモデムなどでも同軸ケーブルを使用する製品があります。
もっとも10BASE-5/2の場合、どのような同軸ケーブルを使用できるわけではありません。家庭用アンテナで使用する同軸ケーブルは、「インピーダンスが75Ω」という規格に沿ったもので、一方の10BASE-5/2は「インピーダンスが50Ω」だからです。また、VDSLや100BASE-TXなどは2カ所(Point-to-Point)を接続するものになるため、家の中全体を接続するには作業が大がかりになってしまいます。
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NTT-ME、NTTネオメイトが販売するc.LINK対応の同軸アダプタ
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アンテナ線を利用してLANを構築したい場合、日本国内では「c.LINK」規格に対応した製品がNTT-MEなどから発売されています。c.Linkは、米Entropic Communications社(Webサイト)が開発した技術で、2004年に設立された業界単体「MoCA(Multimedia Over Coax Alliance、Webサイト)」が標準化作業を行っています。すでにMoCA 1.0がリリース、1.1も批准済みで、現在は2.0の標準化作業が開始されています。
ただ、日本国内においてはEntropic社のチップを採用した製品がほとんどで、c.LINKという名称の方がMoCAよりもとおりが良い状態です。このため、本文中ではc.LINKの名称で表記します。
c.LINKの特徴としては、以下の点が挙げられます。
・接続は同軸ケーブルのみを想定
・TV放送やCATVなどと共存できる
・公称270Mbps、実効速度で最大130Mbps程度の性能が得られる
・家庭内向けのほか、集合住宅などの構内通信網の用途にも利用できる
もともと、CATVなどのケーブルの流用を想定していたため、CATVが使用する770MHz帯とBS/CS放送の1GHz以上の周波数帯の間にある900MHz付近を使って、通信を行う仕組みになっています。このため、電力線を使用する高速PLCと比べて広い帯域を占有でき、PLCのように他の機器などからノイズが入りにくいといったメリットもあります。
集合住宅などで共同アンテナを使用している場合には、アンテナ線を使って集合住宅全体をまとめてインターネットに接続させるといった使い方も可能です。海外ではすでに、そうした製品も登場しています。
ただ、日本の住宅事情を考えた場合、各部屋にアンテナ端子があるというケースは多いわけではありません。新築住宅は別ですが、新規に同軸ケーブルを引くよりは、LANケーブルを各部屋に伸ばした方が安価となるため、c.LINKが広く使用されるまでには達していません。
国内ではJ-COMなどが加入者向けにサービスを提供しているほか、NTT-MEなどが2007年から一般販売を開始しています。なお、KDDIが「ひかりone ホーム」向けに同軸ケーブルアダプタを提供していますが、こちらは「G.9954(HomePNA 3.0)」という異なる規格を使用しており、c.LINKとの互換性はありません。
■ URL
高速PLC&同軸アダプタ編 索引ページ
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/koko_osa/22457.html
2008/08/04 10:34
槻ノ木 隆 国内某メーカーのネットワーク関係「エンジニア」から「元エンジニア」に限りなく近いところに流れてきてしまった。ここ2年ほどは、企画とか教育、営業に近いことばかりやっており、まもなく肩書きは「退役エンジニア」になると思われる。 |
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