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モバイルデータ通信編
第1回:HSDPA


 「HSDPA(High Speed Downlink Packet Access)」は、下り側の通信速度を高速化した技術です。第3世代携帯電話の通信速度は384kbpsですが、HSDPAは理論上で最大14.4Mbps、実際のサービスでも数Mbpsが可能です。


下り通信速度を高速化させる「HSDPA」

 携帯電話の方式は複数ありますが、現在広く使われているのが第3世代、通称3G(3rd Generation)と呼ばれるものです。NTTドコモの「FOMA」、auの「CDMA 1X」、ソフトバンクの「Softbank 3G」などが該当します。

 そして、3Gに続くものが第3.5世代(3.5G)と呼ばれるもので、NTTドコモのFOMAハイスピードやauのCMDA 1X WIN(CDMA2000 1x EV-DO)、ソフトバンクの「3Gハイスピード」などがサービス提供されています。この3.5Gで採用されている技術の1つが、今回取り上げるHSDPAです。

 HSDPAは、正式名称の「High Speed Downlink Packet Access」からわかる通り、基地局側から端末側に対して高速なパケット通信を行う技術です。当初、携帯電話各社では、着うたや着メロ、携帯向けアプリを速くダウンロードできる点や、写真付きメールを素早く受け取れる点などを特徴として挙げていました。

 もっともサービス開始当初は、それほどの盛り上がりは見せませんでした。理由は簡単で、確かに速度は高速ですが、パケット単位の従量課金となるため、利用料金が跳ね上がってしまうからです。また、携帯電話単体で大量のデータ通信を行うケースは稀であり、一般的にはPCを組み合わせた利用になると思いますが、従量課金でHSDPAによる通信を使用し続けていると、あっという間に膨大な金額になりかねません。

 こうした状況が変わってきたのは、パケットの料金定額制が導入されてからです。特にきっかけとなったのは、イー・モバイルが2007年3月に導入した定額制データ通信サービスの「EMモバイルブロードバンド」でしょう。サービス開始当初からPCカードタイプの端末を用意しており、まさしくPCに接続して利用することを想定したサービスです。


図1:いろいろあるHSDPA対応端末

 EMモバイルブロードバンドはHSDPAを採用しており、当初は下り最大3.6Mbps、現在では下り最大7.2Mbpsの端末も登場しています。携帯電話だけでは、なかば宝の持ち腐れ的なHSDPAですが、PCと組み合わせることで大きくニーズが広がることになりました。

 これに続く形で、他の携帯電話各社も相次いでPC利用時におけるパケット定額サービスを追加しはじめます。最近ではNTTドコモの「FOMA HIGH-SPEED」に対応し、モジュールを内蔵したノートPCが各社から発売されるようになりました。また、店舗によってはイー・モバイルのサービスにネットブックなどを組み合わせて販売するなど、販売形態も多様化し、利用が広がりはじめています。

 技術的な観点で言えば、HSDPAは音声のサポートを切り捨てたことで、より高効率な転送を可能にした方法と言えば良いでしょう。従来は音声をサポートする関係で、データ圧縮に時間がかかる方法がとれないため(タイムラグが発生してしまい、通話が難しくなります)、300kbps前後の転送速度が現実的な数字となっていました。

 一方、データ通信であれば、タイムラグが多少大きくてもそれほど支障がないため、より圧縮率の高い方式を利用できます。これに加えて、条件が許せば広い周波数を1度に使うことができるので、より高速な通信が可能になる仕組みです。ただ、逆に言えば同じ基地局に多数のユーザーが接続している場合には、1度に複数の周波数を占有することはできませんし、各端末で時分割で基地局に接続している以上、端末が増えれば転送速度が落ちることは避けられません。

 ちなみにHSDPAはダウンロードのみを高速化したもので、アップロード、つまり端末から基地局側への上り速度は従来の3G携帯電話の場合と変わりはありません。なお、アップロード側を高速化する技術は「HSUPA(High Speed Uplink Packet Access)」や「EUL(Enhanced UpLink)」などと呼ばれおり、通信速度は最大5.76Mbpsとなっています。ただし、現時点では同規格に対応したサービスを提供している事業者は存在していません。


2008/10/20 11:07

槻ノ木 隆
 国内某メーカーのネットワーク関係「エンジニア」から「元エンジニア」に限りなく近いところに流れてきてしまった。ここ2年ほどは、企画とか教育、営業に近いことばかりやっており、まもなく肩書きは「退役エンジニア」になると思われる。
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