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IPv6編
第1回:IPv6とは


 IPv6は、現在使用されているIPアドレス(IPv4)に代わるもの。約43億個のIPv4に対して、IPv6では約340澗(かん)個(約43億個の4乗)ものアドレスが使えるようになりますが、IPv4からの移行がなかなか進んでいないのが目下の課題です。


IPアドレスとは

 インターネットに接続する機器には、特定の「アドレス」をつける必要があります。ちょうど、住所が一意に決まっているのと同じようなもので、仮に同じ住所が複数あると、訪問するにせよ、手紙を送るにせよ困ったことになってしまいます。

 こうした各機器につけられたアドレスのことを「IPアドレス」と呼びます。Webサイトへのアクセスは、ホスト名(例えばbb.watch.impress.co.jp)でも良いのですが、これは人間が認識しやすくするための別名であって、実際にはホスト名をIPアドレスに変換した「202.218.223.142」という値が使われます。試しに、http://202.218.223.142/cda/koko_osa/にアクセスしてみると、連載ページにアクセスできることがわかります。

 ここで示したIPアドレスですが、正確には「IPv4(Internet Protocol Version 4)」と呼ばれ、「A.B.C.D」というフォーマットになっています。アルファベットの部分にはそれぞれ、「0」から「255」までの整数が入ります。従って、組み合わせは「0.0.0.0」から「255.255.255.255」までで、その数は約43億個になります。

 これは「住所」ですから、重複したりしてはいけません。上述の例で言えば、「202.218.223.142」は今のところ、株式会社Impress WatchのBB Watchのみが使うことを許されており、インターネットに繋がった世界中の他のサーバーで使うことは許されていません。

・IPv4
アドレスの形式 aaa:bbb:ccc:ddd
(aaa~ddd:0~255)
総組み合わせ数 256×256×256×256
=4294967296個


IPv4アドレスの減少が深刻に

 このIPアドレスを管理する大元は「ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)」という民間の非営利組織になりますが、実際には地域単位で細かく管理が行われています。例えるならば、ICANNは住所で言えば国連のようなもので、住所の中で管理しているのは国単位、その先は各国の政府や自治体が決めることになります。

 IPアドレスも同じく、大枠はICANNで決められますが、細かな割り振りはその下位組織である「地域レジストリ」と呼ばれる組織が行います。日本の場合では、「JPNIC(Japan Network Information Center)」がICANNからある程度の「アドレスの塊(アドレスブロック)」を割り当てられ、これを国内のユーザーに再配分する作業を行っています。


 このIPv4の仕様が公開されたのは、1981年のことです。当時は現在のようにインターネットに多数の機器が接続するようになるとは誰も想像しておらず、約43億個というアドレスでじゅうぶんだと考えられていました。

 ところが、1990年代に入ってから接続する機器の台数が飛躍的に伸び始めました。現在、世界の人口は約67億人ですが、仮に1人1台ずつインターネットに接続可能な機器を持っていたら、それだけでIPv4の数は足りないことになります。AV機器やゲーム機、携帯電話もネットワーク接続機能が標準となりつつある状況の中で、IPアドレスが不足することは目に見えています。

 IPアドレスの不足が特に著しいのは、発展途上国です。米国をはじめ、初期からインターネットに参加していた国は、相対的に大きなアドレスブロックを割り当てられていたので、使い切るまでまだゆとりがありますが、後から参加した国への割り当てが少なく、早いタイミングで使い切ってしまう可能性があります。このため、例えば中国では早くからIPv4の枯渇が問題視されてきました(関連記事)。

 そこで、より多くのIPアドレスを使用できる「IPv6(Internet Protocol Version 6)」の仕様が1998年に定められました。IPv6は「E:F:G:H:I:J:K:L」の8フィールドをもち、それぞれ「0」から「65535」までの整数が入ります(実際は16進法で0~FFFF)。データ長で言えば、IPv4の32bitから128bitへと拡張されました。IPv6では「0:0:0:0:0:0:0:0」から「FFFF:FFFF:FFFF:FFFF:FFFF:FFFF:FFFF:FFFF」までの表現が可能になり、総数はIPv4の43億個の4乗、約340澗(かん)個にもなります。実際に示すと、340282366920938463463374607431768211456個となり、これだけの数値があれば、しばらく大丈夫だろうというわけです。

・IPv6
アドレスの形式 dddd:eeee:ffff:gggg:hhhh:iiii:jjjj:kkkk
(dddd~kkkk:0~65536)
総組み合わせ数 65536×65536×65536×65536×65536×65536×65536×65536
=340282366920938463463374607431768211456個


IPv6移行への課題も

 しかしながら、目下の問題はIPv6への移行が進んでいないことです。このIPv6に対応するためには、大きく分けて以下の3つが必要になります。

(1)インターネットサービスプロバイダー(ISP)同士がIPv6による通信をサポートする必要がある
(2)ISPと各ユーザーの間で、IPv6通信ができるようになる
(3)各ユーザーがIPv6に対応した環境を用意する

 このうち、1番早くから実現できたのは3番目でした。例えば、Windows Vista/XPやMac OS X、LinuxやBSDなどのUNIX系OSはIPv6への対応がすでに完了しています。古いバージョンのOSを使っている場合は別ですが、最新のOSであれば問題ないと言えるでしょう。

 一方、直近の問題はISP側のIPv6対応が進んでおらず、ISP同士の接続でもIPv6も完全に対応しているとは言えません。対応が遅れる理由としては、「IPv6になったことで新機能が増えるわけではなく、移行するための費用をかけられない」という点が考えられます。

 しかしながら最近では、すこし風潮が変わりつつあります。というのも、ICANNが抱えている「未使用のアドレスブロック」が2010年から2011年に0となり、地域レジストリが抱えている分を含めても2012年には新規のIPアドレスを割り振れなくなってしまう事が明確になってきたからです(これは俗に「IPv4枯渇問題」と呼ばれます)。

 例えば中国の場合、「CNNIC(中国のIPアドレスを管理する地域レジストラ)」は、2008年9月時点でIPv4アドレスの割り当て残量が830日程度分しか残されていないとレポートしています。つまり、ICANNの過剰分が無くなる前に、中国においては新規のIPv4アドレスの割り当てが不能になるわけです。

 もちろん、割り当て後に未使用のIPアドレスなどもあるため、これを回収して再配分する議論もあります。しかし、回収に必要なコスト、回収してもIPv4をそれほど長く延命できるわけではないことから抜本的にはIPv6への移行が不可避とされています。

 IPv4の枯渇状況に関しては、例えばインテック・ネットコアが公開するブログパーツ「IPv4枯渇時計(URL)」などを通じて、視覚的に捉えることが可能です。こうした動きを受け、業界では以前よりも真剣に移行方法などが検討されつつあり、次回も引き続きIPv6について取り上げたいと思います。


2009/02/16 11:03

槻ノ木 隆
 国内某メーカーのネットワーク関係「エンジニア」から「元エンジニア」に限りなく近いところに流れてきてしまった。ここ2年ほどは、企画とか教育、営業に近いことばかりやっており、まもなく肩書きは「退役エンジニア」になると思われる。
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