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モバイルデータ通信編
第4回:PHS


 HSDPAサービスの開始により速度的な面では不利な部分がありますが、現行のPHSでは今も一定の需要があります。全国規模では、現在ウィルコム1社がサービスを提供しています。


「次世代PHS」の登場も控えるPHS

 前回、モバイルWiMAXを紹介しましたが、同時期にはウィルコムが次世代PHSの提供を予定しています。今回は、次世代PHSを紹介する前に、現行のPHSについて取り上げていきます。

 PHSはもともと、固定電話と携帯電話の中間的な位置付けでスタートしました。発売当初は、外出時で携帯電話のように持ち歩くのに加えて、家庭内でコードレス子機として扱う使用法が想定され、対応するホームステーションも発売されました。

 コードレス子機という使い方を考慮すると、通話が傍受されないような仕組みが必要となり、PHSでは当初からデジタル方式が利用されていました。このため、データ通信用途にも使用が可能となり、当初から「PIAFS(Personal Handyphone System Internet Access Forum Standard)」と呼ばれるデータ通信規格が策定されており、PIAFSを使ったデータ通信サービスも開始されました。

 PIAFSの通信速度は当初32kbpsの「PIAFS 1.0」でしたが、続いて64kbpsの通信が可能な「PIAFS 2.0」が登場。その後も2.1/2.2というように改訂されています。


図1:PHS端末のいろいろ

 市場動向に関しては、最大手だったNTTパーソナルは加入者が伸び悩みなどがあり、NTTドコモへと最終的に営業譲渡され、2008年1月にサービスを終了しました。また、アステルグループも全国ローミングを提供しましたが、こちらも経営難によって2003年11月のアステル九州のサービス終了を皮切りに順次サービスを終了し、2006年12月のアステル東北の終了をもってアステルブランドのサービスが消滅しました。なお、関西地域に関しては、ケイ・オプティコムがデータ通信サービス「eo64エア」を継続して提供しています。

 こうした中で、全国的にPHSサービスを提供しているのがウィルコムです。ウィルコムでは、PHSをベースにした「AIR-EDGE」を2001年から開始します。これはデータ通信をターゲットに絞ったサービスで、当初は32kbpsのみでしたが、2002年に128kbps、2005年には256kbpsの通信が可能な定額制サービスを開始しました。

 最近では携帯電話の技術をベースとした定額制データ通信サービスが増えていますが、2007年頃までは事実上、AIR-EDGEしか選択肢がなかったと言えます。現在はHDSPAによるデータ通信サービスの開始による影響などもあり、契約者数は減少傾向にありますが、AIR-EDGEや音声定額などを武器に増加傾向に転じさせた時期もありました。

 技術的には32kbps~256kbpsまで、まったく同一です。いずれも1.9GHz帯を使用し、1チャネルあたり32kbpsで転送できます。これはもともと、PHSが音質確保のために32kbpsのADPCMという音声符号化方式を使っており、これをデータ通信に転用した形になります。

 そして、チャネルを2つ束ねたものが64kbps、4チャネルが128kbps、8チャネルが256kbpsということになります。また、高度化PHS規格である「W-OAM」の場合は最大408kbps、「W-OAM typeG」の場合は最大800kbpsの通信が可能になります(いずれも8チャネルの場合)。

 もっとも、常に8チャネルを占有できるとは限らないので、利用者が多い場所では速度は落ちますが、PHSは携帯電話とは違い電波出力が小さいぶん、小型基地局を多数配置することになり、結果として携帯電話と比べて繋がりやすい(=多数のチャネルを占有しやすい)というメリットがあります。また、電波出力が小さいため、消費電力も少なくて済み、モバイルデータ通信サービスに適した特性と言えるでしょう。

 ただ、現行PHSの通信速度は、メールのチェックなどには充分でも、Webサイトの閲覧や動画を視聴する際には厳しいものがあります。もっとも、ウィルコムもこうした点は承知しており、早期から次世代PHSの話をしていました。この次世代PHSに関しては次回に紹介したいと思います。


関連情報

URL
  モバイルデータ通信編 索引ページ
  http://bb.watch.impress.co.jp/cda/koko_osa/23612.html

2008/11/17 11:01

槻ノ木 隆
 国内某メーカーのネットワーク関係「エンジニア」から「元エンジニア」に限りなく近いところに流れてきてしまった。ここ2年ほどは、企画とか教育、営業に近いことばかりやっており、まもなく肩書きは「退役エンジニア」になると思われる。
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