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モバイルデータ通信編
第5回:次世代PHS


 次世代PHSは、ウィルコムが「WILLCOM CORE」という名称で2009年にサービス提供を予定しています。技術面では、利用する周波数帯や通信方式はモバイルWiMAXとほとんど差がありませんが、サービス形態は現行のPHSを踏襲したものになるようです。


ウィルコムが2009年に商用化を目指す「次世代PHS」

表1:次世代PHSのサービス概要
 前回の現行PHSに続いて、今回は次世代PHSを取り上げます。現行PHSは接続性はともかく、HSDPAによる通信サービスと比較して通信速度面ではアドバンテージがあるとは言えず、モバイルデータ通信にじゅうぶんな帯域があるとは言えません。

 これに関しては以前からわかっていた点でもあり、PHSの仕様策定を行う「PHS MoU Group」では、「次世代PHS(Next-generation PHS)」との名称でより広帯域な次世代サービスの仕様策定を進めていました。現時点で、同仕様にそって次世代PHSサービスを投入するのがウィルコムとなります。

 ウィルコムでは、次世代PHSを「WILLCOM CORE」というブランド名称で提供を予定しています。まずは2009年4月に東京・山手線内でのサービスを開始し、10月に東名阪エリアへの拡大を図りながら、本格サービスを開始する予定です。

 通信速度は最大100Mbps超となりますが、サービス開始当初は数十Mbps程度になります。料金体系は月額3000円から4000円程度を予定しています。なお、次世代PHSは現行PHSと同様に複数チャネルを同時利用しれ高速化を実現しているため、現行PHSサービスと同様に通信速度に応じた料金体系が採用されるかもしれません。

 その次世代PHSですが、通信方式だけを見るとモバイルWiMAXや次回以降に紹介するLTEとよく似ています。簡単にまとめると、次世代PHSとモバイルWiMAX、LTEはほぼ同じ周波数帯を利用し、ほぼ同じ程度の帯域を、ほぼ同じ変調方式を使って通信します。

 特に次世代PHSとモバイルWiMAXでは、方式がかなり近いものになっています。もちろん、細かく言えば差異はありますが、ハードウェア構成を作り直すほどではありません。

 それでは何が異なるかというと、最大の点は基地局の密度でしょう。モバイルWiMAXの回で少し触れましたが(記事URL)、モバイルWiMAXの場合は基地局をあまり高密度に配置することができません。これは基地局間の干渉があるためで、干渉を防ぎつつ、カバー範囲の漏れがないようにするためには、基地局同士が正六角形を構成するように配置する必要があります。

 基地局間の距離は数kmを予定していますが、これは都心部ではなかなか難しい話です。というのも、多数の建造物がすでに存在する都心部では、均一の間隔で基地局をあとから設置するのが物理的に難しいからです。また、日本国内で次世代PHSとモバイルWiMAXが使用する2.5GHz帯は電波の直進性が高く、建造物の影などに入ると接続が難しくなりやすく、この点もネックと言えます。


WIRELESS JAPAN 2008で展示された次世代PHSの基地局モック
 モバイルWiMAXではこのため、ピコセル基地局という仕組みを導入するという話があります。1つの基地局がカバーする範囲のことを「マクロセル」と呼ぶのですが、ピコセル基地局はマクロセル内に配置されつつ、もっと小さい範囲(数百メートル)をカバーするものです。ちなみに、さらに小さい範囲(数十メートル)をカバーするものを「フェムトセル」と呼びますが、これは本論から外れるのでまたの機会にします。

 ピコセル基地局は、すでに第3世代携帯電話では同基地局を利用し、例えば地下街などでも通話性を確保しています。しかし、今度はピコセル基地局同士の干渉やカバー範囲が課題となり、これらを設置する作業も骨の折れる作業と言えそうです。

 一方、次世代PHSでは現行PHSの仕組みを取り込んでいます。基地局同士が“自律分散”という仕組みを持っています。これは、各基地局が独立して周波数割り当てを制御し、簡易なネットワークの運用や周波数の事業者間共用が可能になるというものです。

 また、そもそも基地局に相当するのが、モバイルWiMAXでいうピコセル基地局に近く(=カバー範囲が数百メートル以下)、多数の基地局を配置することで同時利用者数や速度を確保する方式になります。ちなみにウィルコムでは、この基地局のことを「マイクロセル」と呼んでいます。

 もちろん、どちらが良いかに関しては一長一短です。設置自体は次世代PHSが楽ですし、基地局自体のコストも安いはずですが、逆に基地局の数をじゅうぶんに揃えなければカバー範囲が広がらないことになります。ウィルコムでは、現行PHSと同様に約16万のマイクロセル基地局を次世代PHSサービスで用意するとしており、これがどの程度のペースで実現できるかが鍵になりそうです。


関連情報

URL
  モバイルデータ通信編 索引ページ
  http://bb.watch.impress.co.jp/cda/koko_osa/23612.html

2008/12/08 10:58

槻ノ木 隆
 国内某メーカーのネットワーク関係「エンジニア」から「元エンジニア」に限りなく近いところに流れてきてしまった。ここ2年ほどは、企画とか教育、営業に近いことばかりやっており、まもなく肩書きは「退役エンジニア」になると思われる。
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