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NTTのインフラ(3)
開花するADSLサービス


 MDFの向こう側につながる設備を変えることによって、アナログ電話にもISDNにも使える電話線。電力線と並ぶ普及率を誇るこの電話用のメタルケーブルを使い、インターネット用の高速なアクセスラインを提供するADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line~非対称デジタル加入者線)サービスが、今注目を集めている。

 1985年に施行された電気通信事業法により、誰もが自由に通信事業に参入できるようになった。電電公社の民営化と新電電(NCC:New Common Carrier)の誕生を告げたこの年は、我々エンドユーザーにとってはネットワークの末端が開放された年でもあり、以後、一定の技術基準に適合した製品であれば、電話回線に自由に接続できるようになった。

 1999年には、通信市場の公正な競争を目指してNTTを再編。さまざまな通信サービスや割引サービスが生まれ、ついには1976年以来の伝統だった「3分10円」の市内通話料のダンピングにまで至っている。この1999年の再編と前後して、NTTが持つメタルケーブルそのものを他の業者に開放する、いわゆるドライカッパーが実現。MDFの向こう側に、NTT以外の業者が用意した設備が接続できるようになり、NTT自らのADSL試験サービスと並行して、東京めたりっく通信、イー・アクセス、アッカ・ネットワークスといった業者が次々にADSL市場に参入していく。

 総務省が発表した7月31日付けのDSL加入者数は、40万760人。NTT東西が「フレッツ・ADSL」の本格提供を開始した昨年末にはわずか1万人足らずだったユーザーが、この半年で急増したことが伺える。「Yahoo! BB」を契機に一気に低価格化が進行しており、今後はますますADSLの普及に拍車がかかることだろう。

ADSLモデムはアナログモデムの並列版!?

 電話用のメタルケーブルを使って高速通信を実現する。これがADSLの趣旨である。そのための仕掛けが、メタルケーブルの両端に設置するADSLモデムなのだが、これはちょうど、アナログ電話で使うモデムをたくさん並列につないだような仕様になっている。

 アナログモデムは、音声を伝送するための電話回線に合わせた信号、すなわち一定の「音」を使い、この音をデジタル信号で変化させるやり方でデータを伝送している。これを「変調」、変調された信号から元の信号を取り出すことを「復調」というが、アナログモデムの場合には、「ピーヒョロヒョロ」というような音でやり取り(上りと下りで異なる周波数の音を使用)しているのである。

 1秒間に何回データを乗せるか、すなわち1秒あたりの変調回数のことを変調速度という。伝送速度を上げるためには、この変調速度を上げるか、1回の変調に乗せるビット数を増やす。一般に、変調速度を上げればそれだけ使用する周波数帯域が広がり、ビット数を増やせばノイズに弱くなる(誤り率が上がる)。音声用の回線をそのまま使うアナログモデムは使用できる帯域(約4kHz)にも送信電力(最大-8dBm)にも制限があるため、この範囲内で悪戦苦闘しながら伝送速度の向上を図ってきた。

 前回お話ししたISDNは、設備そのものを変え、4kHzというアナログ回線の帯域制限から開放されたところで、直接デジタルで通信を行なう。使用帯域は320kHz。AMI(*1)という変調方式が使われており、時間を区切って伝送することによって、複数のチャンネルと双方向の通信を実現している(*2)。AMIは、1クロックで1bitしか伝送できないが、使用できる帯域が広がっているため、上下合わせて300kbps弱のペイロード(実データの伝送帯域)が保証できているのである。

*1 AMI(Alternate Mark Inversion)は、メタル線にデジタル信号をほとんどそのまま乗せる変調方式だが、単純に0と+という2種類の電位に2値を対応させるのではなく、+と-を交番させるやり方で伝送する。
*2 送受信を交互に行なうことによって双方向通信を実現する方式を、TMC(Time Compression Multiplexing)という。ADSLの使用帯域は、早くからISDNとの干渉が懸念されていた。この干渉は、ケーブルの遠端でISDNの送信が行なわれるタイミング(ユーザーサイドから見ると局側からの送信時間)よりも、近端で送信が行なわれるタイミングのほうが一般に大きい。そこで、ISDNの送受信を切り換えるタイミング(2.5ミリ秒=400Hz)に合わせてADSLの変調ビットの割り当てを変更しようという日本向けの仕様が作られ、G.992.1、G.992.2それぞれに、「AnnexC」という形で盛り込まれている。ISDNとの干渉がなければ無用の規格だが、干渉がある場合には速度低下を最小限に抑えることができる。


 ADSLは、このISDNよりもさらに広い帯域と効率的な変調方法を使って高速化を実現している。一般に使われているADSLモデムは、ITU-T勧告の「G.992.1」と「G.992.2」という規格に準拠した製品で、前者は「G.dmt」あるいは「フルレートADSL」、後者は「G.lite」あるいは「簡易型ADSL」と呼ばれている。

 使用帯域は、G.dmtが1104kHzまで、G.liteが548kHzまで(*3)。ただし、どちらも帯域全体をバーンとハデに使った伝送ではなく、全体を4kHz(正確には4.3125kHz)の小さな帯域に分け、それぞれに搬送波を立てて変調するDMT(Discrete Multi-Tone)という方式を採っている。

ADSLモデムでは帯域を小さく分けそれぞれに搬送波を立てて変調する

 広い帯域を使って伝送するためには、使用する帯域全体が一様の品質でなければならない。ところが、相手は元々が音声品質の伝送に設計された回線。ケーブルが長くなるにつれて、とくに高域側ほど激しく信号が減衰していく。DMTは、このような悪条件の中で、最大限の伝送速度を確保できるようにするためのもので、各帯域のS/N比に合わせて、1回の変調で割り当てるビット数を変えて対応していく。個々の帯域は、アナログモデムと同じQAM(*4)という変調方式を使用しており、G.dmtで最大14bit、G.liteで最大8bitの範囲内で、コンディションのよい帯域により多くのビットを割り当てるように最適化を行なう。まさに、アナログ電話で使うモデムをたくさん並列につないだような仕様である。変調速度は4000ボー。最大転送速度は、標準仕様のG.dmtで下り6144kbps、上り640kbps。G.liteが下り1536kbps、上り512kbpsとなっている(*5)。

*3 一番下の帯域はアナログ電話と重畳(異なる信号を多重化すること)するために空けてあり、約26~134kHzまでの26バンドを上り用に、約142kHz以上の帯域を下り用に使用する。下り用は、G.liteで95バンド、G.dmtで223バンド用意されていることになる。
*4 QAM(Quadrature Amplitude Modulation)は、搬送波のレベル差と位相差を使った多値変調で、180度の位相差を持つ搬送波を、何レベルかで変調して合成する。それぞれ2レベルで変調すれば、全部で4つの状態を表わすことができ(4QAM)、1回の変調で2bitの伝送が行なえる。同様に、4レベルなら16通りの4bit(16QAM)、6レベルなら64通りの6bit(64QAM)となる。
*5 下りの全帯域にフルにビットを割り当てることができれば、G.liteで約3Mbps、G.dmtで約12Mbpsまで対応できる計算になる。


ADSLサービスの仕組み

局側に設置されているDSLAM
 ADSLサービスは、メタルケーブルの両端にこのADSLモデムを設置するわけだが、メタルケーブルの使い方と収容形態が、それぞれ2通りある。

 ケーブルの使い方は、1対のメタルケーブルでアナログ電話とADSLを同時に使用する「タイプ1」とADSL専用に使う「タイプ2」の2種類。後者はADSLモデムに直結するスタイルだが、前者のタイプ1の場合にはアナログ電話の音声信号とADSL用の信号を合成・分離するためのスプリッタという装置を接続し、その先に電話機とADSLモデムが接続される形になる。局側の設備でいうと、アナログ交換機とADSL収容装置という形だ。

 ADSL収容装置は、複数の回線を束ねてアップリンク回線に接続するラックマウントタイプの集合モデムで、DSLAM(ディスラム~DSL Access Multiplexer)と呼ばれる。標準ラックは、180×90×60cm(H×W×D)というから、ちょうどドア1枚分くらいの大きさ。これに、1000~1500程度のユーザーが収容できるそうだ。

 2通りの収容形態は、このDSLAMがNTTの設備なのか、他社の設備なのかである。NTTの設備の場合には、アップリンク側がNTTの地域IP網につながる「フレッツ・ADSL」というサービスになる。地域IP網というのは、インターネットと同じIPプロトコルを使った県単位で運営されている専用線ネットワークのことである。NTT東西は、県をまたがる通信を提供することはできないので、直接インターネットにつなげるサービスは提供していない。ユーザーは、この地域IP網につながっている任意のプロバイダーに接続し、そのプロバイダーのサービスを使ってインターネットを利用する。プロバイダーまでの接続料は、電話と共用するタイプ1で月額3800円、専用のタイプ2で5450円。これに、モデムのレンタル料や各プロバイダーの使用料等が加算されることになる。ちなみに、一連のフレッツサービス(フレッツ・ISDNやBフレッツ)は、アクセスラインの違いはあるが、その先は同じシステムである。

ADSLモデムからDSLAMまでの配線図

 他社の設備に収容した場合には、各社が用意したバックボーンにつながるわけだが、ユーザーサイドから見た利用形態としては、さらに2通りに分かれる。1つは、東京めたりっくやYahoo! BBのようなプロバイダーが用意した設備。もう1つは、イー・アクセスやアッカのようなホールセール(卸売り)事業者の設備である。前者は、そのままプロバイダーに収容されるわけだが、後者の場合には、その業者が周旋する任意のプロバイダーを経由して(任意のプロバイダーが利用しているホールセール事業者を選ぶのかも知れないが)インターネットに接続する。フレッツ・ADSLの他社版と考えればよいだろう。

 いずれの場合も、NTTが提供するのはMDFまでのドライカッパーであり、共用のタイプ1で月額187円、ADSL専用のタイプ2で2,600円が、純粋なメタルケーブルの使用料としてNTT東西に支払う料金になる。これに、プロバイダーやホールセール業者の接続料、モデムのレンタル料等を加算したのが、ユーザーにとっての最終的な使用料になるわけだが、それにしてもYahoo! BB。DSLAM以降の設備をすべて自前で用意した上で、ADSL接続分に990円、プロバイダー分に1,290円という価格を提示しているわけだが、「おい、お前ほんとに大丈夫かぁ~」と思っているのは、筆者だけではないだろう。

 さて、お届けしてきた「NTTのインフラ」は次回で最終回。最後は、遠いと思っていた明日の通信網がにわかに現実となってしまった……、そんな感のある光ファイバーとBフレッツにスポットを当ててみよう。


□NTT東日本
http://www.ntt-east.co.jp/

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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