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ホームネットワークのインフラ(10)
ホームのインフラ予備軍たち


 より速く簡単で便利なネットワークを目指し、さまざまな技術が開発されている。今のところは、有線・無線のイーサネット系が主役の座に就いてはいるが、数年先もこれが安泰でいられるかどうかは分からない。インターネットの波が、圧倒的な数を誇る家電の世界にじわじわと押し寄せつつある現在、はたして誰がこの金脈を掘り当てるのだろうか。「ホームネットワークのインフラ」の最終回として、次期主役を狙うそんな予備軍たちに注目してみたい。

 家庭での使用を考えた場合、簡単で便利というのが重要なキーワードであることはいうまでもない。加えて、どれだけ安く供給できるかというのが、非常に重要なファクタである。これには、大量に生産すればコストが劇的に落ちるという、単純明快な市場原理が大きく作用するのだが、同時にそれなりの需要がないと大量生産に漕ぎ付けられないという卵と鶏の世界でもある。これから先、何が飛び出してくるのかは、はっきりいって分からないのだが、少なくとも1社でどうこうできる市場規模でないことは確かだ。そういった意味でも、イーサネット系は最有力候補のひとつであり、ホームゲートウェイ代わりのインテリジェントなアクセスポイントを使う無線LANは、かなりイイ線をいっている。逆に、このイーサネット系無線LANと高速・低価化が進むWAN回線のおかげで、すっかり影の薄くなってしまった規格や製品も多い。


・HomeRF
 ひところ騒がれたHomeRFも、そのひとつだろう。イーサネット系のインフラは、よくも悪くもメディアに近い低レベルの部分だけを規定した規格であり、ネットワーク機能の充実は、上位のプロトコルに強く依存する。HomeRFは、802.11の技術をベースに使いつつ、標準でインテリジェントな機能をサポート。QoS(Quality of Service[*1])や電話との融合も考慮した、文字どおりの家庭向け無線LAN規格だった。いや、まだちゃんと活動を続けており、現行規格では10Mbpsの無線インフラを提供する規格になっているのだが、立ち上がりが遅く(標準化でもめていたのも多分に影響していると思われる)、普及のタイミングを逸してしまった感がある。

*1 帯域などを保証する機能で、ホームネットワークでは、AV系機器の接続などに欠かすことができない。IEEE802.11では、標準仕様に盛り込まれておらず、現行の規格にQoS機能を付加するIEEE802.11eとして標準化が進められている。

□HomeRF Working Group
http://www.homerf.org/

3ComのBluetoothアダプタ。PCとはUSBで接続する
・Bluetooth
 話題ばかり先行して、なかなか市場が立ち上がらないという点では、このBluetoothも同じかもしれない。実際、「いまさらダメだろう」という意見もよく耳にするのだが、筆者自身は、必要な規格であると思っている。Bluetoothもまた、HomeRFと同じようなインテリジェントな機能を持つ2.4GHz帯の無線だが、高速性やサービスエリアに対するこだわりはバッサリ切り捨て、1Mbpsで数メートル届けばよいというレベルに押さえている。有線LANの代替えが目的ではなく、ケーブルで接続するさまざまな機器をワイヤレス化するための規格なのである。したがって、ホームネットワークのメインインフラからは外れてしまうが、無線の応用例のひとつとして興味深い一面をもっている。ちなみに仕様上は、周波数ホッピング方式の802.11に似ており(ホッピングは毎秒1600回と非常に高速)、送信出力が1mWないし2.5mWに押さえられているのが大きな特徴である。

□Bluetooth SIG
http://www.bluetooth.com/

リンクシスのHomePNA対応機器。2001年の展示会には出展されていたが……
・HomePNA(Home Phoneline Networking Alliance)
 有線系では、電話線や電力線を流用するいろいろな製品が考案されている。ワイヤレスの自由度にはおよばないが、既設のケーブルがそのまま利用できれば、めんどうなケーブリングの手間が一掃できる。電話線や電力線の流用は、基本的にADSLと同じように信号を重畳させるシステム。既存のADSLと大きく異なるのは、複数台をつないで等速の双方向通信が行なえるようになっている点である。HomePNAもそのひとつなのだが、初期バージョンはわずか1Mbps。現行規格は10Mbpsをサポートするが、これから普及させるには少々色褪せており、より高速なシステムの開発を進めるベンダも多い。いわゆる、VDSL(Very high data rate Digital Subscriber Line)と呼ばれている、短距離向けの高速DSLである。ただしVDSLという標準規格があるわけではなく、現状ではまだ各社各様の域を脱していない。

□HomePNA
http://www.homepna.org/

・HomePlug、CEA R-7.3
 電力線のほうはというと状況はさらに混沌としており、標準化云々以前に法整備が必須となる。現状では、電力線に高周波を流すことができず(国内の法規では450kHzまで)、国内規格であるECHONET(*2)などはわずか9600bps。技術的には数Mbps程度はいけるといわれているが、ホームネットワークのインフラとしては、今さらという声も多い。

 このHomePlugは、昨年業界団体で標準化された電力線ネットワーク(PLC~Power Line Communication、またはCarrier)の規格で、伝送速度は最大14Mbps。年内には、CEA R-7.3(*2)の標準化も予定されており、こちらは、2M~20MbpsのPLC規格を検討。すべての部屋、それこそ台所や洗面所に至るまで整備されている、あのコンセントに挿すだけでネットワークになってしまうという、非常にインパクトのある魅力的なPLCなのだが、残念ながら、これら海外仕様のPLCは今のところ国内で利用することはできない。利用の検討は進められているそうだが、タイミング的には微妙な伝送速度(AV系をつなぐとなると、今後は30Mbpsはほしいところ)である。

*2 ECHONET(Energy Conservation and Homecare Network)は、国内の家電メーカーなどで構成されるプロジェクトで、データ通信ではなく電製品の制御系ネットワークに主眼を置いている。
*3 CEA(Consumer Electronics Association)は、米国の民生用エレクトロニクス・メーカーの業界団体で、R-7.3は、その中のネットワーク規格の標準化を推進するコミッティー。HomePlugには、おなじみのPC系ベンダーが名を連ねているが、PLC業界最大手のInari(旧Intelogis)などはこちらに参加している。

□HomePlug Powerline Alliance
http://www.homeplug.com/
□CEA
http://www.ce.org/
□ECHONETコンソシアム
http://www.echonet.gr.jp/

 標準化を中心に、いくつかのインフラ予備軍たちを紹介したが、このほかにも同種の独自仕様はあまたあり、既設のケーブル以外では、IEEE1394を使うHAViなども有力候補のひとつになるかもしれない。がいずれも、なかなかうまく立ち上がらないという共通の問題を抱えており、先行するイーサネット系に比べると決め手に欠ける。

 なんとなくとりとめなくなってしまったが、ホームネットワークのインフラは、ひとまずこれでおしまい。次回からは、「最短4日」の広告がやたらと目に付くスピードネットにおじゃましてみたい。


(2002/03/06)

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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