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海底ケーブルネットワーク(1)
KDDIのインフラ


 海外のサイトを訪問すると、机の上のパソコンが海の向こうのホストとコミュニケーションをはじめる。何気ないマウスのクリックで、無数のパケットが大洋を往来する。そんなパケットを運ぶのが、数千メートルの海底に横たわる1本の海底ケーブルである。10月のインフラ探検隊は、インターネットを支える縁の下の、いや海の底の力持ち、海底ケーブルの世界に迫ってみたい。

 国際回線といえば、かつては国内唯一のキャリアだったのが、現在のKDDIの前身である国際電信電話株式会社。とりあえずここにいけばまちがいないだろうということで、新宿のKDDIビルにおじゃまし、ネットワーク技術本部、海底線部ケーブル計画グループの宇佐美稔氏と小野宏二氏に、海底ケーブルに関するいろいろなお話をお伺いした。お忙しい中、貴重な時間を割いて下さった両氏ならびに、セッティングにご尽力頂いた広報部、企画・報道グループの北山文義氏には、この場を借りてお礼を申し上げたい。



初期の海底ケーブル

 海底ケーブルの歴史は意外に古く、1851年に英仏海峡に敷設されたのがはじまりといわれている。電話が登場する四半世紀も前の電信時代のこと。上りと下り、2ペア4本の銅線で作られた世界初の海底ケーブルで、英仏間の通信は一応の大成功を収めたのだが、肝心の海底ケーブルは、わずか1日で切れてしまったという。1858年には、大西洋を横断する海底電信ケーブルも開通(これも直後に切れてしまい翌年再建するのだが)。電信網は次々に海を越え、世界中へと広がっていくのだった。

 わが国初の電信業務が東京~横浜間で始まるのは、それから10年余りたった1869年のことだが、2年後の1871年には、デンマークのGreat Northern Telecom社(大北電信会社)によって、長崎~上海間と長崎~ウラジオストック間の海底電信ケーブルが敷設される。本土を縦断するよりも早く(電信線が関門海峡を越えたのは翌72年)、国際通信がスタートしていたわけだ。

 明治・大正を一気に飛び越え、時計の針を昭和の半ばまで進めよう。1949年、それまでの逓信省が電気通信省と郵政省に分割され、3年後の52年には、電気通信省が発展的に解消。NTTの前身である日本電信電話公社が誕生する。KDDIの前身である国際電信電話株式会社が設立されたのは、その翌年の1953年のこと。同社は、98年にテレウェイ(日本高速通信株式会社)と合併してKDD株式会社に。2000年には、DDI(第二電電株式会社)とIDO(日本移動通信株式会社)との3社合併で株式会社ディーディーアイ(KDDI)に。そして、今年の4月からKDDI株式会社となっているのだが、社名にこだわっているとややこしくなるので、とりあえず全部ひっくるめてKDDIとして話を進めよう。



同軸海底ケーブル網

 神奈川県の二宮海底線中継所とグアム間がつながり、ハワイを経て米本土へ続く最初の海底ケーブル「TPC-1(Trans Pacific Cable-1~第1太平洋横断ケーブル)」が開通したのは、1964年6月19日のことである。同軸海底ケーブルを使った記念すべき第1号は、電話128回線相当という小容量ではあったが、その後、1990年までの26年間にわたって日米間の通信業務を遂行。現在は、東京大学地震研究所に譲渡され、地震観測などの研究用としてその余生を送っている。

 このTPC-1以後80年代までは、海底ケーブルにはもっぱら同軸ケーブルが使われていたが、TPC-1が運用を停止した90年前後から、大容量の光ファイバへの移行が始まる。移行といっても海底ケーブルそのものを張り替えるようなことはなく、新設されたケーブルにトラフィックを移行し、順次古いケーブルを廃止していくという意味である。使わなくなったケーブルは、必要に応じて沿岸部を撤去するが、残りはそのまま海中に放置されることになる。TPC-1の場合には、ケーブル自体が断線や浸水などで使いものにならなくなってしまったというわけではないので、研究機関に譲渡し活用してもらっているのである。

 ちなみにこのTPC-1をはじめ、沖縄~グアム間を結ぶTPC-2(76-94年)、JASC(JApan Sea Cable~日本海ケーブル[69-95年])、ECSC(East China Sea Cable~日中ケーブル[76-97年])、OKITAI(OKInawa TAIwan~沖縄・台湾間ケーブル[79-97年])、JKC(Japan Korean Cable~日韓ケーブル[80~97])、沖縄ケーブル(84~97)といった同軸組みたちが現役をリタイヤし、学術研究用として活躍しているそうだ。



光海底ケーブルによりテラビットの時代へ

 同軸ケーブルに代わり、現在の海底ケーブル網は光ファイバが主流となっている。左下の図は、日本に陸揚されている代表的な国際海底ケーブル網だが、いずれも光ケーブルを使ったタイプだ。光通信技術に関しては改めてお話するが、この光化という技術革新によって、海底ケーブルは国際通信のもうひとつの雄、衛星通信とは比べものにならない大容量時代を迎える。メガビット時代からギガビット時代を経て、まもなく運用開始が予定されているAPCN2(Asia Pacific Cable Network 2)やC2C(City-to-Cityに由来する企業名)では、海底ケーブルの設計容量は、いよいよテラビット時代へと突入する。1989年に開通したTPC-3から数えて、わずか10年あまりのできごとである。

 そんな国際海底ケーブル網とともに重要なのが国内側のネットワークだが、KDDIでは、高速道路に沿って建設された延べ9000kmの陸上の光ケーブル網(テレウェイが構築してきたもの)と、日本列島をループ状に取り巻く1万300kmの海底ケーブル「JIH(Japan Information Highway)」を用意している。周囲を海に囲まれ、大都市の多くが海岸線に集中しているわが国では、海底ケーブルは最小限のコストと時間で基幹網を構築する有用な手段でもあるのだ。

 1997年1月に着工し、2年後の1999年4月1日に運用を開始したこのJIHは、列島を1周する5800kmの幹線とそこから分岐する延べ4500kmの支線からなり、17の陸揚局を100Gbpsで接続する。JIHは、国内通信の基幹であると同時に、国際海底ケーブルとの相互接続ポイントという重要な役割も担っているのである。

日本に陸揚されている代表的な国際海底ケーブル
日本列島をループ上に取り巻く海底ケーブル

主な国際海底ケーブル
ケーブル名運用開始全長伝送容量陸揚局陸揚国
TPC-3
(Trans Pacific Cable-3)
1989年13,300km560Mbps千倉グアム、ハワイ、米国
NPC
(North Pacific Cable)
1990年8,400km480Mbps三浦米国
TPC-4
(Trans Pacific Cable-4)
1992年9,900km1Gbps千倉カナダ、米国
TPC-5CN
(TransPacific Cable-5 Cable Network)
1995年24,500km10Gbps二宮、宮崎グアム、ハワイ、米国
China-US2000年30,000km80Gbps千倉、沖縄中国、韓国、台湾、米国
PC-1
(Pacific Crossing-1)
2000年21,000km80Gbps(最大640Gpps)阿字ヶ浦、志摩米国
Japan-US2001年21,000km400Gbps北茨城、丸山、南志摩米国
H-J-K
(Hongkong-Japan-Korea)
1990年4,600km280Mbps千倉韓国、香港
APC
(Asia Pacific Cable)
1993年7,500km560Mbps三浦、宮崎台湾、香港、マレーシア
C-J FOSC
(China-Japan Fiber Optical System Cable)
1995年1,300km560Mbps宮崎中国
APCN
(Asia Pacific Cable Network)
1996年11,900km10Gbps宮崎韓国、香港、フィリピン、台湾、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア
R-J-K
(Russia-Japan-Korea)
1996年1,800km1Gbps直江津韓国、ロシア
FLAG
(Fiberoptic Link Around the Globa)
1997年28,000km5Gbps三浦、二宮韓国、中国、香港、タイ、マレーシア、インド、アラブ首長国連邦、ヨルダン、エジプト、イタリア、スペイン、英国
SEA-ME-WE 3
(South East Asia-Middle East-West Europe 3)
1999年36,000km40Gbps沖縄韓国、中国、台湾、香港、マカオ、フィリピン、タイ、ブルネイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、インド、インドネシア、ミャンマー、オーストラリア、スリランカ、パキスタン、オマーン、アラブ首長国連邦、ジブチ、トルコ、サウジアラビア、エジプト、キプロス、ギリシャ、イタリア、モロッコ、ポルトガル、フランス、英国、ベルギー、ドイツ

(2001/10/04)


□KDDI
http://www.kddi.com/

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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