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海底ケーブルネットワーク(2)
これが海底ケーブルだ!


無外装光海底ケーブル(Light Weight Cable)
 FTTHサービスを申し込むと、1本ないし2本ペアの光ケーブルが屋内に引き込まれる。見た目はメタル系のケーブルとたいして変わらないが、中身は細い光ファイバで、局までの数kmの道のりをパケットが100Mbpsのスピードでかっ飛んでいく。これが大陸間を結ぶ海底ケーブルになると、距離も容量も一気に数千倍に跳ね上がる。中身はどんなスゲー奴なんだろうと思ったが、意外とこれがごく普通の光ファイバだった。

 インフラ探検隊、KDDI取材シリーズの2回目は、海底ケーブルそのものに迫ってみよう。

 論より証拠、まずは実物を見ていただきたい。ちょっと凄そうな外皮はとりあえず横に置いといて、肝心のご本尊はというと、先のほうにチョロチョロっと出ている細いやつだけ。その数もわずか3ファイバペアの6本。太さは違うが、インテリア照明のアレと共通する手触りである。

 話によると、このファイバ部分に関しては、地上で使っているもの(もちろんインテリアではなくて通信用ね)と、基本的には変わらないという。同軸ケーブルなどのメタル線は、電線の径が太くなれば電気抵抗が減って伝送損失が低減される。そこで、扱いやすさを優先する屋内はともかく、屋外には低損失の太い同軸ケーブルが張られている。ところが、コアの中に光を閉じ込めて伝送する光ファイバの場合には、コア径を太くしたからといって伝送損失が減るわけではない。むしろ、必要以上に太くしてしまうと、光の伝搬モードが増えて悪影響をおよぼすため、同軸ケーブルのような太い光ファイバというのが、そもそも存在しない。髪の毛より細いケーブルでも高速に伝送できます、じゃなくて、必然的にああなったというのが真相だ。

 芯線がたった6本というのは、かなり意外だった。その辺の電柱に架かっている光ケーブルだと、数十本から数百本の芯線が束になっているのだが、こちらは引き込み線とそう変わらない、数ファイバペアの小規模設計である。単純に芯線を増やせば、容量アップにつながるだろうと思うのだが、その辺は信頼性との兼ね合いだという。芯線が増えれば、それに応じて装置や中の回路も増えてしまう。たとえば、10日に1回故障する機械(こんなのは使いたくないが)を10台連動させると、確率的には、毎日どれかが故障して、全体が止まってしまう事が予想される。数を増やすと、それだけで信頼性が落ちてしまうのだ。

 これがネックになって、これまではファイバ数を増やすのではなく、ひたすらファイバそのものの高速化技術で大容量化に対応してきた。たとえば、間もなく開通が予定される最新のAPCN2(Asia Pacific Cable Network 2)は、設計容量2.4Tbpsだが、ケーブルそのものは4ファイバペア(8本)に過ぎない。ただ、ファイバ自身の高速化は、徐々に理論限界に近づきつつあるそうで、これが頭打ちになれば、今度は芯線を増やす方向での容量アップに頼らなければならなくなるかもしれない。

 現在のケーブル設計では、12本くらいまで収納できるそうで、多少手直しすれば16本程度までは可能という。が、さらに増やして中の空間が大きくなると、今度は耐圧の問題を処理していかなければならない。ほんの少し広げるだけでも、ケーブルの太さはぐっと増えてしまい、回線が増える分、周辺装置も巨大化していく。という具合に、あちこちにいろいろな障害が待ち受けており、「たりなきゃ芯線増やせばぁ~」という浅知恵が、それほど簡単に実現できることではないことがわかる。というか、簡単ならとっくにやっている。

 ファイバそのものは、基本的には地上用と変わらない海底用ではあるが、実際には、いろいろなところに工夫が凝らされている。たとえばファイバ自身でいうと、テラビット級の伝送が行なえる品質が重要であり、製造した上で特に性能のよい優れた特性のものが海に使われているそうだ。見た目は一緒でも、海に沈められるやつはエリート中のエリートなのである。またこの特性にしても、すべてが同じというわけではない。ファイバに流す光信号は、単一の波長が理想的なのだが、実際にはある程度の広がりがある。そんな光信号がファイバの中を進むと、波長の長い側の進み方が速いとか、短いほうが速いといった微妙な違いが生じる。このようなズレがあると光信号がぼやけてしまうため、途中で逆の特性のものをうまく組み合わせ、ズレが集束する整えている。

海底ケーブルの断面図
 海底ケーブルでは、敷設先が8000m級の深海にまでおよぶ。JIS 8等級くらいじゃなんの役にも立たないってことはわかるが、800気圧という水圧はちょっと想像しがたい、地上用の製品にはないスペックである。このような高い水圧に耐えられるように、ファイバは金属のパイプで覆って保護されている。保護パイプといっても、長い管の中にファイバを収めるのではなく、断面が扇形の鉄線3本を使って、ファイバを囲むように覆う構造になっている。これは、KDDI独自の「鉄3分割パイプ」と呼ばれる技術で、この鉄3分割パイプにより、KDDIの海底ケーブルは、製造が容易で高耐圧が実現できているそうだ。見た目は、これで800気圧いけちゃうのって感じだが、このさり気なさが達人の凄いところかもしれない。取材した本人は、この辺がまったくわかってなくて、いまだにこれだけの仕組で800気圧に耐えられるのが信じられないでいる。

 この鉄3分割パイプの周りを、さらに補強用の鋼線と、中継機器などへの給電線を兼ねた銅パイプ(大地を帰路として使うので単線)で囲み、ポリエチレンの外皮を付けたのが、最初にご覧いただいた無外装光海底ケーブルと呼ばれるタイプである。直径は約2cmで、一見するとごつい感じもするが、1mで1kg程度とかなり軽量に作られている。深海は水圧に耐えると同時に、自重で切れてしまったり、後から引き上げられなくなってしまわない軽量性も要求されるわけだ。



武装する海底ケーブル

 前掲の無外装光海底ケーブルは、敷設する場所や水深などに応じて、ケーブルを保護するためのさらなる強力な外装が施される。

 もっとも強力なのが、2重外装光海底ケーブルと呼ばれる、外装鉄線を2重に巻いたタイプである。漁具などによる人為的な損傷を受ける可能性が高い沿岸部では、この2重外装タイプや鉄線を1重にした1重外装タイプを使い、ケーブルを厳重に保護する。太さは、2重で6cm、1重で4cmくらい。こ、これですよ、筆者がイメージしていた海底ケーブルは、まさにこのタイプなのだが、こいつを太平洋の真ん中沈めてしまうと、二度と揚がらなくなってしまうので使えないということだ(ぜひ沈んでいてほしいのだが)。

 1000mくらいから先になると、重い鉄線の外装は使わず、魚に噛まれたり岩に擦れたりといったことから保護するための薄いジャケットを付けたケーブルを使用する。無外装タイプよりも少し太目で、見た目は、その辺の電柱に架かっている電線と少しも変わらない。ちょっと残念だが、それが現実である。

 好き勝手に膨らませていた海底ケーブルのイメージは、かなり打ち砕かれつつも、新たな発見に胸躍らせた第2回に続き、次回はいよいよ海底ケーブル敷設の現場から実況生中継風に、聞きかじったお話をお届けしたい。

2重外装光海底ケーブル(Double Armored Cable)
1重外装光海底ケーブル(Single Armored Cable)
強化ジャケット光海底ケーブル(Fish Bite Protection Cable)

(2001/10/10)


□KDDI
http://www.kddi.com/

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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