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ホームネットワークのインフラ(4)
気になる無線LANの動向


  AV機器のリモコンから尻尾が消えたのは、もうずいぶん昔のことである。リビングでのリモコンの使われ方を考えれば、無線の優位性は歴然であり、民生機から有線リモコンが一掃されてしまったことも頷ける。これがそのままホームネットワークにも当てはまると言ってしまうと異論の余地も若干残るが、ワイヤレスのインフラには、性能面や価格面のデメリットを補っても余りある大きな魅力があることは確かである。今週は、そんなホームネットワークのもうひとつの主役、シェアを広げつつある無線LANにスポットをあてたい。



無線LANの標準化動向

メルコが昨年11月に発表した、無線LANアクセスポイント「WLA-T22G」。IEEE 802.11bを拡張、22Mbps通信に対応する

 現在使われている無線LANは、イーサネットと同じくIEEEで標準化されたもので、オリジナルの規格は、最大2Mbpsの伝送速度を実現する無線LAN規格「IEEE802.11」として1997年にリリースされた。詳しくは後述するが、簡単に言えば、イーサネットのメディアを無線に置き換えたものと考えればよい。

 この802.11の物理層には、赤外線を使うタイプと2.4GHz帯の電波を使うタイプがあり、電波の方はさらに、周波数ホッピング方式のスペクトラム拡散(FHSS~Frequency Hopping Spectrum Spread)と、直接拡散方式のスペクトラム拡散(DSSS~Direct Sequence Spectrum Spread)という、2種類の変調方式を規定。これら3種類のメディアを使ったEthernet規格が、最初の802.11規格である。国内でも、一部のベンダーから無線タイプの802.11製品が発売されたが、無線LAN市場が本格的に立ち上がり始めたのは、その後の「IEEE802.11b」からだ。

 1999年にリリースされたIEEE802.11bは、DSSS方式の802.11の伝送速度を最大11Mbpsに引き上げた上位互換プロトコルで、現在広く普及している無線LANがこれに準拠した製品である。この年には、5GHz帯を使う別の無線LAN規格「IEEE802.11a」もリリース。こちらは、現在最も注目されているトレンドな技術であるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex~直交周波数分割多重変調)を使ったタイプである。

 開発の難易度が高いことと法的な問題から、実機はなかなか出て来なかったのだが、現在はこれらもクリア。去年あたりから、最大54Mbpsの高速無線LAN製品として市場にお目見えするようになった。さらに、このOFDMを2.4GHz帯に応用した「IEEE802.11g」の標準化も年内に予定されている。有線LANに比べると可愛いレベルではあるが、無線LANの世界も着実に高速化の道を歩んでいるのだ。

 ネットワーク製品の普及には、規格の標準化と同時に、異なるベンダー間の相互運用という点も重要なポイントである。10BASE-Tや100BASE-TXのように広く普及してしまうと、「規格には準拠しているが接続保証は自社製品だけ」などという命知らずのベンダーはさすがに見かけない。しかし、全く新しい分野の製品では、こういうことがままあるのが現状だ。

 802.11b時代には、無線LANの普及促進と相互接続性の検証を行なうための団体「WECA(Wireless Ethernet Compatibility Alliance)」が設立され、この互換性の確保に大きな貢献を果たした(実質2社のチップセットしか無かったということも大きいが)。WECAでは、ベンダー間の相互接続性を保証するための一定の基準(実装すべき基本仕様)を設け、テストにパスした製品には、802.11b製品の愛称である「Wi-Fi」のロゴを付与したのである。802.11aに関しても、「Wi-Fi5」というネーミングが決まっており、同様のプログラムが予定されている。

□802.11 Working Group
http://www.ieee802.org/11/
□WECA
http://www.wi-fi.org/



国内の標準化動向

技術基準適合証明を受けた製品に記されるマーク。「GZ」が2.4GHz帯のSTD-33仕様で「NY」がSTD-T66仕様の技適番号(5GHz帯は「WY」)

 無線の最大のメリットは、いうまでもなく配線が不要で自由度が高いという点である。いちいち配線しなくても、電波さえ届けばケーブルでつないだのと同じ結果が得られるわけだが、これは同時に、ケーブル接続という物理的な行為では管理できないという電波の弱点でもある。

 好むと好まざるとに関わらず、電波はある程度の範囲に届いて競合してしまうため(周波数帯によっては地球の裏側まで届いてしまう)、各国や国際間で一定の運用ルールのもとに、有限な電波資源を効率良く活用しなければいけない。国際間の取り決めは、ITU-R(International Telecommunication Union-Radiocommunication sector~国際電気通信連合無線通信部門)で。国内の取り決めは、総務省の監理の元で行なわれており、そのための電波法や関連省令などが施行されている。ケーブル製品と違い、標準化が実を結ぶかどうかは、この国内の運用ルールに強く依存するのだ。

 電波は、原則として用途や目的に応じた割り当てがあり、免許制で運用されている。が、著しく微弱な電波しか出さない製品や市民ラジオ、特定の用途に使用する小電力の無線局に関しては、例外的に無免許で利用できる。無線LANの場合は、3つ目の無免許タイプで、身近なところではPHSも同じ仲間にあたる。携帯電話も、一見同じタイプに見えるが、こちらは全くの別物。確かに用途が決まっており、PHSと同様、簡単な手続きで利用できるのだが、免許を必要とするタイプなのだ。

 ただし携帯電話の免許は、包括的に与えられているので、ユーザーにとっては、PHSと同じ手軽な存在に見える。では両者の決定的な違いは何かというと、無免許タイプの空中線電力が、10mW以下に限定されている点である。無線LAN(小電力データ通信システムという区分)も同様で、このほかにも使用する周波数や電波の型式などが、総務省令で細かく規定されている。

 このタイプは、指定機関の技術基準適合証明を受けた無線設備だけを使用することも必須条件になっているので、適合証明のない並行直輸入品を利用するようなことはできない。また、仕様が変更された場合には、改めて適合証明を受け直さなければならないので、改造はもちろんアンテナを付け替えるようなこともダメ。改造後適合証明を受ければ良いわけで不可能ではないが、ユーザーが自分で行なうのはほとんど現実的ではないので、最初から付け替え用のアンテナも含んだ形で適合証明を受けている製品を選択する必要がある。

 この技術基準適合証明のよりどころとなる、国内の運用状況に合わせた無線LANの仕様は、ARIB(Association of Radio Industries and Businesses of Japan~電波産業会)のワークグループが国際規格や国内法の動向に合わせて随時策定しており、2.4GHz帯は「RCR STD-33(小電力データ通信システム/ワイヤレスLANシステム標準規格)」と「ARIB STD-T66(第二世代小電力データ通信システム/ワイヤレスLANシステム標準規格)」に、5GHz帯は「ARIB STD-T71(小電力データ通信システム/広帯域移動アクセスシステム(CSMA)標準規格)」にまとめられている。

 2.4GHz帯の仕様が2つあるのは、国内法では当初2.471~2.497GHzしか利用できず、これに沿ったSTD-33を93年に策定(98年に国際規格に合わせて改訂)。その後2.400~2.4835GHzも利用できるようになり、1999年にSTD-T66が追加されたからだ。実際の802.11b製品では、両方の認定を取得したものが大半であり、STD-T66で802.11bが想定する第1~13チャンネル(独立して運用できるチャンネルは3個)を、STD-33で第14チャンネル(独立した1チャンネルとして運用可)の全チャンネルをカバーしている。ちなみに、既存の有線インタフェースをワイヤレス化するBluetoothや、スピードネットのアクセスラインなどにも、この2.4GHzが使われている。

 一方の5GHz帯は、802.11aでは5.15~5.25GHz、5.25~5.35GHz、5.725~5.825GHzの3バンドを想定しているが、国内では上の帯域が気象レーダーや地球探査衛星の周波数と競合するため、利用できるのは5.15~5.25GHz(独立した4チャンネル)のみの屋内に限定されている。2000年にリリースされたSTD-T71は、これに沿った1バンド(5.2GHz帯と呼んでいる)だけの規格だが、総務省では現在4.9~5GHzの追加を検討している。ひょっとすると、2.4GHz帯と同じ様に後から拡張される可能性があるのだ。

 ちなみにこのSTD-T71は、業界各社が集うMMAC(Multimedia Mobile Access Communication Systems~マルチメディア移動アクセス推進協議会)が直接標準化を行なったのだが、MMACではこのほかにも、「HiSWANa(High Speed Wireless Access Network type a)」と「ワイヤレス1394」という5.2GHz帯の無線システムを標準化。これらも、それぞれ「ARIB STD-T70」「ARIB STD-T72」というARIB規格に採用されている。いずれも802.11a互換の物理層を使った規格で、HiSWANaはEthenrtの代わりにATM(Asynchronous Transfer Mode)を、ワイヤレス1394はその名の通りIEEE1394を乗せた規格である。

 このほかにも、60GHz帯を使う156Mbps全二重(312Mbps)の無線LAN規格(ARIB STD-T74)や、割り当てが検討されている25/27GHz帯など、無線LANの世界も気になる存在が目白押しなのだが、さしあたっては、2.4/5GHz帯のワイヤレスEthernetである802.11ファミリーが現実的な選択肢。次回は、これら身近な無線LANたちに迫ってみることにする。

□ARIB
http://www.arib.or.jp/
□MMAC
http://www.arib.or.jp/mmac/


(2002/01/17)

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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