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CATVのインフラ(2)
行け行け! 同軸ケーブル


 電話線は、加入者宅と収容局間を1対1で接続するのが基本だった。対するCATVのインフラは、共同視聴システムが基本。1本の同軸ケーブルを分岐しながら、各戸に配線していく世界である。アンテナ線がそのまま街中を駆け巡っていくネットワークなのだが、実際のところはどうなっているのだろうか。先週に引き続き、イッツ・コミュニケーションズ(旧:東急ケーブルテレビジョン)の取材をもとに、CATVのインフラに迫ってみたい。

 イッツ・コミュニケーションズは、6つのセンターを東急電鉄の光ファイバで接続した大規模なCATV局である。その中核となるのが「たまプラーザ放送センター」で、各種放送の受信再送(地上波は隣りの鷺沼から送られてくるが)、自主番組の製作等の一切をここで行なっている。放送は、周辺一帯に送り出すと同時に、光ケーブルを使って各サブセンターにも配信。各サブセンターでは、それを中継する仕組みになっている。ネットワークの規模としては、この個々のサブセンター(受信設備はないが)から先が、一般的なCATV局の施設に相当する。

 CATVの加入者側のネットワークには、オーソドックスな同軸ケーブルで配線するタイプと、幹線に光ファイバを使うHFC(Hybrid Fiber Coaxial)と呼ばれるタイプとがある。同社の場合、開局当初に設計した部分は同軸オンリーだが、1997年から2000年にかけて新たに構築した、元住吉と青葉台の一部はすでにHFC化されており、2003年の夏完了をメドに全域のHFC化が進められている。

ツリー状に分岐する同軸ネットワーク

局舎の壁から出ていくケーブルたち
 同軸ケーブルだけを使うネットワークは、アンテナ線の分配をそのまま地域一帯に広げた設備である。アンテナ線の大本にある「アンテナ」に相当するCATVの設備をヘッドエンドという。これは、映像や音声信号の変復調器、チャンネルプロセッサ、スクランブラー、増幅器といった、放送に必要な各種モジュールをラックマウントしたもので(小規模な局はパソコン1台分くらいの小さな装置だが)、これが、加入者側ネットワークの局側の起点となる。同軸ネットワークの場合は、ここから同軸ケーブルが延びていくわけだ。

 電話回線の場合には、NTTの収容局がすべての加入者宅に引き込まれる1本1本の電話線を集線する巨大なハブになっており、局舎を中心に大量のケーブルが街中に延びていった。巨大なスター型のネットワークだったわけだが、CATV局の場合、ケーブルは少なければ1本。イッツ・コミュニケーションズでも、1つのセンターから出ていく同軸ケーブルはせいぜい数本程度という。局舎から直接架空に出ていくこのケーブルがバスとなって、先々で枝分かれしながら地域一帯をカバーしていくのである。

 信号は、ケーブルが長ければ長いほど、周波数が高ければ高いほど激しく減衰していく。全線同軸ケーブルのネットワークでは、扱う周波数帯を450MHzまでとしているが、それでも減衰は激しく、おまけに分岐していくため、数百mおきにアンプを入れて信号を補強している。しかしそれにも自ずと限界があり、ツリー状に分岐する同軸ネットワークのサービスエリアは、局から概ね半径4km程度(高域を使わない再送専門の局や分岐の少ない局ならば、もっと距離を稼ぐことができるだろう)。同社がサブセンター化しているのは、この限界を克服し、より広範囲にわたる多数の世帯をカバーするためである。

 局を出た同軸ケーブルは、そのまま電柱を伝って街を巡っていく。一般に電柱は、一番上に電力線、一番下に電話線が通っており、この間を他のケーブルが使用している。電話線のすぐ上あたりに、ところどころに銀色の四角い箱の付いたケーブルを見かけることがあると思うが、これがCATV用のケーブルで(違う場合もあるだろうが)、銀のボックスが増幅や増幅兼分岐用のアンプである。

 ちなみに架空用には、自己支持型のケーブルがよく使われるが、この自己支持のタイプには、ケーブルを支持線に巻き付ける「巻き付け型」、ケーブルと支持線を並べて一緒に被覆した「8字型」、ケーブルと支持線をワイヤでバインドする「ラッシング型」がある。イッツ・コミュニケーションズや筆者の近所のCATVの場合には、最後のラッシング型の同軸ケーブルが張られていた。

 小さいのであまり目立たないかもしれないが、CATV用のケーブルのもう1つの特徴が、銀色のアンプよりもずっと数の多い、タップオフと呼ばれる小さなボックスである。メーカーや製品、分岐数などによっていろいろな形のものがあるが、これが、CATVの引き込み端子で、このタップオフから分岐したケーブルが、壁などに取り付けた保安器を経由して宅内に引き込まれる。設備こそ違うが、やり方は電話線と同じだ。

 ちなみに、よく見かけるタップオフには4端子のものが多く、4端子なら一戸建ての住宅4世帯分になる。集合住宅の場合には1本だけ引き込み、その後で増幅・分岐しながら各戸に配線していく。前回も触れたが、TVのアンテナのところまで引っ張っていくなどの方法で、既存の共同視聴設備につなぐやり方が一般的だ。

ケーブルに取り付けられた増幅用のアンプ

光ファイバ化が進むCATV

 長年愛用し続けた同軸ケーブルだが、このCATVの世界にも今、光ファイバ化の波が押し寄せている。ただし、今話題のFTTH(Fiber To The Home)ではなく、支線は従来の同軸ケーブルのまま、幹線を光化するスタイルである。光と同軸のハイブリッドなタイプなので、これをHFC(Hybrid Fiber Coaxial)と呼んでいる。

 光化の大きなメリットは、帯幅が広がることと、通信に適したネットワークが構築できることだと同社は説明する。広帯域化は、現在の450MHzに対しHFCでは750MHzまでの伝送が可能になり、さらなる多チャンネル化やインターネット回線の広帯域化といった、サービスの向上が図れるほか、IP電話のような新しいサービスも提供できるようになる。もう1つの、通信に適したネットワークという点では、特にネットワークの信頼性が強調されている。

 同社のネットワークは、すでに一部がHFC化されている。HFC化された部分を見ると、単に同軸の幹線を光ファイバに張り替えたのではなく、幹線をループ状に敷いている点が目に止まる(局から複数のループが出ていたり、ループの先にさらにループがつながっている部分もある)。

 HFCでは、このループ状の光幹線の途中にノードを置き、このノードから先を従来の同軸ネットワークで構成する。これまでのツリー状の同軸ネットワークでは、ケーブルに障害が起きた場合、その先すべてのサービスが止まってしまう。極端な話、局を出たところで断線しようものなら、同軸ネットワークは全滅してしまうのである。一方の光幹線のほうは2重ループになっており、障害が起きた場合には迂回措置がとれるようになっている。通常とは逆周りのルートをたどれば、障害部分を避けてサービスを継続できるのである。

 ノードから先に関しては従来どおりの同軸なので条件は一緒だが、1ノードあたり500~1000世帯の設計になっているので、同軸オンリーのネットワークとは、予想される被害の規模もかなり縮小される。500~1000世帯といっても、あまりピンとこないかもしれないが、首都圏近郊の都市部で1km平米あたり2~3千世帯。住宅密集地で4~5千世帯というから、最悪でも障害の影響を数百m程度の範囲に留められるわけだ。

 HFC化により通信品質も向上するので、これまで以上の遠距離伝送も可能になるし、さらにFTTH化すれば、より多彩なサービスが提供できる可能性もある。が、これらに関しては、同社の場合はあまり積極的なアプローチはない。前者は、隣接地域ですでに他社のサービスが行なわれているためで、エリアを積極的に広げていく予定は今のところないという(現行の準備地域は当然カバーしていくが)。

 後者は、かかるコストと得られるメリットの兼ね合いである。昨年9月の資料では、全長約5000kmのケーブルのうち、光ケーブルは約160km。これで、1/3のHFC化が完了としているところから推測すれば、HFC化完了時点で500km程度の光幹線に対し、FTTH化には残り4500kmにも及ぶ同軸ケーブルをすべて張り替える必要がある。加えて、30万世帯のユーザー側設備(引き込み線や機器)が全取っ替えになるわけだから、膨大なテマとコストがかかってしまう。その見返りが、さしあたっては将来の可能性程度では、あまりに説得力に欠ける。同社が考える明日のサービスは、まだFTTHではなくても十分な段階にあり、持ってる資源を最大限に活用したHFCこそが、現在考えられるもっともコストパフォーマンスの高い有効な手段というわけである。

 てなところで、今週はこれでおしまい。来週は、まさにこのCATVのインフラを有効に活用する、インターネット接続サービスについてレポートしよう。


□イッツ・コミュニケーション
http://www.itscom.jp/

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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