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東京電力のネットワーク(1)
電力網の仕組と通信インフラ


 通信に欠かすことのできないものといえば電気。そしてその供給元といえば、全国10社の電力会社である。確かに電気がなければ通信はできないのだが、その電力屋さん自らが通信事業を始めるとなると話は別。もしやあの鳥たちの憩いの場、電線を使って通信サービスを始めようというのではと思っていたら、実は、意外なところに立派な通信インフラをお持ちになっていた。

 いくら電話が普及したとはいえ、電灯線に比べればまだまだひよっ子。家々はもちろん、家の中の部屋の隅々にまで配線され、いたるところに取り口があるものといえば、電話のモジュラージャックなどではなく、電気のコンセントにほかならない。もしこれが、そのまま高速回線になってしまったら、ADSLなんて簡単にぶっ飛んでしまいそうな気もするが、さすがにそれは時期尚早。世の中そこまで甘くはない。「それじゃあいったい、何をしようってんだ!」というわけで、今回のインフラ探検隊は、東京電力におじゃまして、電力屋さんのネットワークを調査してくることになった。お話を伺ったのは、情報通信事業部・光ファイバー事業グループの田代哲彦さんと羽山剛弘さん。「おお、最近は光ファイバで電気も送れるんだ」などと早合点しないように。ガラスは、電気を通さない絶縁体であり、それを素材に使った光ファイバは、あくまで光通信のためのインフラである。実は東京電力では、これを使ったFTTHサービスを来春に予定しており、現在、都内の一部で試験運用を行っている。

 電力会社と通信事業というのもそうだが、送電と光ファイバの関係も今ひとつピンとこない。まずはこの辺の事情から解明せねば、ということで、非常に初歩的なところから攻めてしまうインフラ探検隊に、最後までていねいにお答えいただいた田代さんと羽山さん。そして、セッティングにご尽力下さった広報部・報道グループの大橋大毅さん。この場を借りて、改めてお礼を申し上げたい。



コンセントの向こう側

一般家庭に設置されている分電盤。赤、白、黒の3本の配線が使われているのがわかる
電柱に並んでいるのが高圧線や低圧線、柱上変圧器だ
 通信インフラに入る前に、まずは本業である電力のインフラのほうをざっとチェックしておこう。壁のコンセントは100Vで電気の電線は2本と思っている方は意外と多いのかもしれない。が、これが当たり前なのは、せいぜい電柱まで。早ければすでに屋内で、2線100Vの世界は終わっている。最近は、大電力のエアコンや調理器などで、200Vの製品を見かけることが増えてきた。このタイプの電化製品をお使いの、あるいはあらかじめ使えるように設計されているお宅は、一度、分電盤のブレーカーのところをよく見てみよう。白黒の2本線ではなく、赤白黒の3色が引き込まれているはずだ。このタイプを単相3線式といい、電気は2本の電圧線(赤黒)とアース線(白[*1])の3本の電線で送られてきている。そしてアース線と一方の電圧線を使えば100Vが、2本の電圧線を使えば200Vが取り出せ、どちらの機器にも対応できるという仕組になっているのだ。もちろん、単相2線式と呼ばれる昔ながらの100Vオンリーのお宅も多いだろう。この場合には、電気は2本で引き込まれているが、その先をたどれば行きつくところは同じ電柱。いちばん上を見上げれば、そこに通っているのは紛れもなく、3本1組の電線なのである。

 写真は、540万本あるといわれる東電の電柱の中の、ごく普通の1本である。家庭などに電気を届けるための末端の電線を配電線(延べ100万km)といい、電柱は配電柱と呼ばれている。電柱の上のほうで水平に3本並んでいるのが、上流から送られてきた6600Vの高圧線。その下にある縦に3本並んでいるのが100/200Vの低圧線。さらに下にある円筒形のヤツが、高圧を低圧に変える柱上変圧器だ。電力は、電圧×電流と習ったことがあるだろう。同じパワーを得るためには、電圧を上げても電流を上げてもよいのだが、電線には少なからず抵抗があるので、電圧降下や電力のロスが発生する。電圧降下は、オームの法則でおなじみの電流×抵抗。ロスは、ジュールの法則でおなじみのジュール熱で、抵抗×電流の2乗となる。同じ電力を送るなら電圧を高くして電流を抑えたほうが効率的であり、電流が少なければ、電線も細くてすむのだ。そこで、できるだけ高圧で送り、引き込む直前の電柱の上で、家庭に必要な100Vや200Vに落とすというやり方が採られている。

 この3線式の高圧線の中身は、3相交流といって、同じ3線でも家庭に引き込まれている単相交流とは少々異る、かなり秀逸な仕様になっている。3相交流は、位相を120度ずつずらした3つの交流をいっしょにしたもの。すなわち、6600Vの単相交流3系統分が、この3本の電線で送られているのである。3系統の電気をごく普通に送ろうとすると、電線は6本必要になる。が、位相を120度ずつずらしてあるので、3つの電圧の合計は常に0になり、帰路を省略した3本で送ることができる。送電面ではたいへん経済的であり、大元の発電機も、単相の大電力を発電するより負担が軽くなるのである。3本の中の2本の組み合わせで、一緒になった交流の中から任意の1つを取り出すことができるので、単相にするのはいたって簡単。先の変圧器の場合には、2線を引き下ろして1個のトランスにつなげば単相2線式に。2個のトランスを組み合わせれば、単相3線式にも3相3線式にも降圧できる。ちなみに6600Vをそのまま200Vに降圧した、3相3線式の電気も実際に供給されている。こちらは、主に工場などの動力用として用いられる事から、3相タイプを動力線、単相タイプを電灯線と呼ぶこともある。

 さて、話が横道に逸れてばかりいると、コンセントの向こう側が一向に進展しないので、高圧線の先を急ぐことにしよう。高圧線を上流方向にたどって行くと、やがて変電所にたどり着く。筆者の近所では、電話も電気もすぐに地下に潜りたがるため、高圧線経由で変電所にたどり着くことはできなかったが、運がよければきっとたどり着けるだろう。変電所は、その名のとおり電気の電圧を変える柱上変圧器の親玉であり、電気の分配制御なども行なっている。6600Vの源にあるのは、配電用変電所と呼ばれているところで、鉄塔や白い碍子がまぶしい、いかにもなところもあるが、金網で囲まれた人気のない建物だったり、妙なロッカーや怪し気なタンクのようなものが並んでいるだけという、地図にも載っていない小さな施設も多い。また、都内などではすでに半分近くが地下ケーブルになっており、変電所も地下に作られているケースがあるそうだ。

近所で見つけた小さな変電所
いかにもな感じの変電所(1次変電所なので実は敷地もすごく広い)

 この配電用変電所から上流は、電圧も一段と高くなり、6万6000Vで1次変電所に続いている。ここからは、配電線ではなく送電線と呼ばれ、架空なら電柱ではなく小ぶりの送電鉄塔になる。が、筆者の近所では、全部地下送電線になっているようで、近所の探索では、残念ながらこのタイプを見つけることはできなかった。1次変電所からさらに上流は、15万4000Vの発電所や27万5000~50万Vを扱う超高圧変電所を経て発電所へと続くのが、電気の大まかな流れである。ちなみに、東京電力の変電所は、大小1500個所あり(1/3が東京都内にあり、23区内では、2~3平方キロに1カ所の割合であるという)、4万5000の鉄塔と地中を合わせた、延べ4万km近い送電線が敷設されている。関東の電源である発電所は、表のような構成になっており、最大出力は、全国の1/3にあたる5940万kW。エリアは全国の1割に過ぎないが、1/3の人口が密集する東電管内には、それに見合った電力が供給できるようになっている。いうまでもないが、水力発電は水の力で発電機回す水車タイプ。火力発電は、ガスや油を使ってお湯を沸かし、出てきた水蒸気の勢いで発電機を回すやかんタイプ(数には地熱も含まれる)。原子力発電も同じやかんタイプだが、こちらは、ウランの核分裂で発生する熱エネルギーでお湯を沸かす。八丈島にある東電が持つ唯一の風力発電は、風を受けてプロペラが回る風車タイプだ。

東京電力の発電所
タイプ設備数認可出力(万kW)構成比
水力発電所160810.314.0%
火力発電所253243.456.1%
原子力発電所31730.829.9%
風力発電所10.10.0%


電力と通信の親密な関係

マイクロウェーブの鉄塔。実はコントロールセンターも兼ねた変電所で、後の建物の中に設備がスッポリ収まっている屋内変電所。電線も全部地下なので、一見変電所とは思えないが、27万5000Vの超高圧を扱える近代的な施設である。
送電鉄塔のいちばん上を見ると、架空地線(グランドワイヤー)と呼ばれる避雷用のワイヤーが張られている
 では、いったいこの中のどこに通信が関係しているのだろうか。基幹系の電力系統や変電所、発電所などは、常に効率よく安全に運転されているかどうかを監視しており、異常時には、事故区間を系統から切り離したりといったことを行なっている。また、刻一刻と変化する電力需給にあわせて発電所の出力を調整したり、周波数を安定に維持したりといった制御も行なわれている。先ほど変電所を、金網で囲まれた人気のない建物と書いたが、実際に、配電用変電所などには人はいないし、無人の発電所もあるという。多くは、遠隔監視・遠隔制御の世界なのである。配電線のほうもオートメーション化が進んでおり、配電線系の遠隔監視や、配電線に流す電気をON/OFFする開閉器(スイッチ)などの遠隔制御なども行なわれている。このようなシステムを実現するためには、データを集配信したり制御したりするための通信設備が必須なのだ。コントロールセンターには、写真のようなパラボラアンテナが付いた立派な鉄塔を備えている。このように、基幹通信網には、マイクロウェーブの無線も使用しているが、同時に、有線の整備も進めてきたそうだ。古くはメタル回線で、事業所間の通信などにも使用。現在もその一部が、特別高圧を入れている顧客間の専用電話線(保安上設置が義務付けられている)として使われているそうだ。1980年代の半ばからは、順次光ファイバに置き換わり、現在は、ほぼ光化が完了しているという。

 実際、注意して見ると街中の電柱にもけっこう張られているようで、地図にも載っていない近所の変電所などは、配電線ではなく、配電線と並んで地中から上がってきていた怪しげなケーブルの道中で見つけたものである(もちろんしっかり引きこまれていた)。また、筆者の近所特有のことなのかもしれないが、ひっそりと1本だけ顔を出しているNTTの光ファイバに対し、こちらは5~6本が束になって出てきているのが印象的だった。その中には、TTNetのタグの付いたケーブルもあったが、後は何が何だかさっぱりである。ちなみにTTNetは、東京電話や東京インターネットを提供している東電のグループ企業のひとつ、東京通信ネットワークのこと。同じくスピードネットもこの界隈でサービスを提供しているし、アステルのアンテナもあちこちの電柱に付いている(こちらはあまり珍しくないが)という、とっても東電な一帯だったりする。

 さて、送電系のほうにも目を向けると、ここにもしっかり光ケーブルが敷設されていたりする。鉄塔のいちばん上を見ると、架空地線(グランドワイヤー)と呼ばれる避雷用のワイヤーが張られている。電線よりも高いところで落雷の洗礼を一手に受け止め、大地に逃がしてやるのがこの架空地線の本来の目的だ。架空地線には、OPGW(OPtical Ground Wire)と呼ばれるタイプが使われていたりする。読んで字の如く、光ファイバ複合架空地線という奴で、鋼線の被覆の中にアルミ管が通っており、その中に光ファイバが収められているのである。発電所は、東京都内にもあるが、近郊はもちろん、栃木や福島、新潟などの遠方から送ってくる電気も多い。また、電力各社の電力系統は連係しており、たとえば、必要に応じて中部電力や関西電力などから電力を融通してもらうこともできるようになっている。OPGWのほうは、主に県間の連携用に用意したものだが、何のことはない、全国規模の光ファイバ網もしっかり構築されているのである。こうした自前の通信幹線がすでにあり、なおかつ市街地には貸すほどの電柱を持っている(というか実際に貸しているのだが)というのが電力会社の大きな強味。決して侮ることのできない存在なのである。

 そんな東電が始めるFTTHサービスとは。この続きはまた来週。

(2001/11/8)


□東京電力
http://www.tepco.co.jp/

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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