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200芯光ファイバケーブル |
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発電所や変電所、本・支店や営業所などの事業所間に敷設されていた東京電力の光ファイバケーブル。もともとは電力設備の遠隔監視や制御、事業所間の通信用に用意したものだが、これをちょっと延ばして家庭に引き込んでしまおうというサービスが、来春から始まるという。東京電力自らが始めるFTTHは、いったいどんなサービスになるのだろうか。
前回は、鉄塔や電柱をわたる送電線や配電線と一緒に、既に多くの光ファイバが敷設されているというお話をした。写真は、そのへんの電柱に架かっている光ファイバケーブルで、200芯のタイプである。太さは、以前ご覧いただいた海底ケーブルの無外装タイプと同じくらいだが、800気圧に耐える必要はないので、同じ太さでも芯線の数はぐっと多い。構造的には、ケーブルの中心にファイバに大きな張力がかからないようにするためのテンションメンバが入っており、そのまわりを何芯かを束ねたユニットで囲み外被で覆った形だ。電柱は、いちばん上に高圧線、そのすぐ下に低圧線がとおり、いちばん下に電話やCATVなどの通信線が張られている。これらと同じ位置か少し上くらいによく、こんなケーブルが1本から数本の束になって張られていたり、地下から東電マークの鉄パイプを通って出てきている電柱を見かける。全部が全部そうではないが、そのうちのいくつかは、東電やグループ企業の施設に続いているだろう。
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地中から上がってきた東電のケーブル群。左側の低い位置に架かっているのが光ファイバ、右側の上のほうまでいっているのは高圧線 |
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電柱に架かる光ケーブル。上の段で束ねられている2組が東電やTTNetの光ファイバたち、同じ位置にあるケーブルの周りに支持線が巻かれているのはCATV、左下の黒い箱は電話の引き込み端子函(クロージャ)、右下の小さな箱はCATVの引き込み端子(タップオフ) |
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東京電力と通信事業
2000年度末で、東京電力の管内だけで既に5万3000kmもの光ファイバが敷設されているが、ケーブル自体は規格品を使っているので、たとえば60芯で足りるところでも100芯を敷いていたりすることがよくあるそうだ。また、近年の光ファイバの大容量化によって、本業に必要な芯線の数も少なくて済むようになり、既設の電力用光ファイバに余裕ができた。これを有効に活用しようということになり、東電は1999年10月から光ケーブルを他社に貸し出す事業を開始する。当時はまだ電気事業法の規制下にあったため、個別に許可を得る必要があったのだが、2000年3月に施行された新法で事業規制が緩和され(*)、本格的なセールスが展開できるようになった。
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最近よく耳にする電力の自由化と呼ばれているもので、電力会社以外でも電力を販売できるようになったと同時に、電力会社に対する規制も緩和。従来の兼業規制が撤廃されている。
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ただしこれは、東電が通信業務そのものを担うものではなく、第1種通信事業者やCATV事業者を対象に、必要な区間をポイントツーポイントで結ぶ光ケーブルの芯線貸し出し業務である。今回着手しているFTTHは、さらにコンシューマ市場にまで手を広げるものだが、東電自身がISP事業を行なうというわけではなく、既存のISPとユーザーを結ぶアクセス回線の卸し売りというスタイルをとっている。
現在のADSLサービスを見ると、3つの接続形態がある。1つは、NTTのフレッツのように、相互接続用のネットワークとユーザー側のアクセス回線を用意し、ISPと(ISPでなくとも企業のプライベートネットワークとして利用できる)ユーザーの橋渡しを行なうスタイルだ。2つ目は、Yahoo! BBのようにアクセス回線の提供とISPを兼ねたタイプで、末端からインターネットまでのすべての通信設備を自前で用意し、ユーザーに直接サービスを提供する。FTTHでは、有線ブロードネットワークスがこれにあたる。
そしてもう1つが、アッカやイー・アクセスのようなホールセール(卸し売り)業者である。こちらは、アクセス回線側の設備を整えてISPに販売。ISPが、それを自社のサービスとしてユーザーに販売するスタイルで、東電が行なうFTTHサービスがこれにあたる。したがってユーザーは、東電からアクセス回線を直販してもらうのではなく、あくまでISPのサービスメニューの1つとしてISPから購入することになる。どれくらいの価格を予定しているのかは、現在最大の企業秘密の1つだそうで、結局明かしてはもらえなかった。が、既存のFTTHサービスの品質と料金を考慮しつつ、ADSLの二の舞いにならないようにしたいとおっしゃっていたことを付け加えておこう。
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FTTHネットワークの構成
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変電所の片隅に設置されたFTTH用の設備 |
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接続や分岐個所を保護するクロージャ |
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では、実際にどのような形でユーザーとISP間が接続されるのだろうか。ユーザー側から見た場合、直接的には既存のFTTHと同様、近所の電柱から分岐した光ケーブルを、たとえばクーラーのダクトなどを使って屋内に引き込む。この加入者宅向けのケーブルが直接下りてくる電柱を引込点といい、何カ所かの引込点から集まってきたケーブルは、電柱上の分岐点で1本のケーブルに束ねられ、上流の分散拠点と呼ばれる施設に接続される。
分散拠点は、電話でいうところの収容局、電気でいうところの配電変電所にあたるところで、実際にこの変電所が、分散拠点の第1候補になっている。写真は、この分散拠点に設置される光ファイバの収容設備である(実験サービスで使用したもの)。変電所は、東電管内に1500カ所あり、その1/3が都内に、さらにその2/3が区内にあるという。そのすべてに、このような設備を収容するスペースがあるわけではないが、もともとが電力の需要にあわせて設置されたところなので、収容局としてもベストな立地条件といえるだろう。
先ほどの分岐点は、この分散拠点から何方かに出ていった200芯クラスの太いケーブルを、数十芯クラスの複数の細いケーブルに分けて末端に広げているだけなので、物理的には、加入者宅とこの分散拠点が1対1の100Mbpsで接続されることになる。ちなみに分散拠点から引込点までの光ファイバは、これから準備していく部分になっており、2005年までに約5万kmの敷設が予定されている。
加入者宅からきた光ファイバは、この分岐点で集約され、さしあたっては1Gbpsの回線に乗って上流に向かう。ここから先は、既に電力用の通信回線が敷設されているところだ。電力線は、1次変電所を経て発電所へと向かっていくが、光ファイバの上流は、支社や電力所といわれている事業所である。ここは中間拠点と呼んでおり、20カ所程度の事業所で、末端からきたケーブルをいったん集約。それを中央拠点で集約してNOC(Network Operations Center)に渡す。中央拠点は、大きな支店の一部(2~3カ所)を予定しており、ユーザーの通信回線が最終的に終結するNOCは、アット東京に置かれる。ここまでが、東電がISPに販売するアクセス回線で、ISPはこのNOCからインターネットまでのサービスを、自社の通信網を使ってユーザーに提供することになる。
東電のFTTHサービスは、2002年3月に目黒区、太田区、世田谷区でスタート。来年度中に23区と武蔵野市、三鷹市をカバーする予定でいる。といっても、採算性を無視することはできないので全域とはいかない。基本的には密度の高いエリアから、順次末端のケーブルを敷設しながらのサービス提供だ。それ以外の地域に関しては、2002年度の動向を見ながら検討するとしているが、これに該当するエリアは、いまのところ千葉、神奈川、埼玉止まり。管内全域にまで展開するようなところまでは、視野に入っていない。
規模こそ異なるが、このネットワーク自体は、以前に登場したCATV局と同じツリー状の構成である。したがって、このままの形で対応できるのは、基本的に23区内とそれに隣接した地域程度。さらなるサービスエリアの拡大には、センターの分散が伴なうため、いきなりコストが跳ね上がってしまうのだ。東京電力の田代氏は、「向こう1~2年はおそらくADSLであり、その中でとにかくFTTHを事業として成り立たせるのが当面の課題」と話す。やたらとハデな打ち上げ花火を上げたがるこの手の事業の立ち上げとしては、なかなか控えめなお話だが、たしかにそれが現実だ。
ADSLの普及も手伝って、ようやく広帯域コンテンツの需要が見え始めたところ。FTTHの存在がクローズアップされるのは、次のステップに駒を進めてからだ。もちろん、進めてしまってから準備したのでは遅過ぎる。「光の需要は、おそらく2003年くらいからが上がりはじめ、2005年頃に20%強の比率を占めるだろう」と田代氏。そして「それに見合う拠点を整備していける」と自信を覗かせた。
(2001/11/22)
□東京電力
http://www.tepco.co.jp/
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