FTTHのホールセール(卸し売り)という、新たな通信サービスを開始する東京電力だが、改めて身の回りを眺めて見ると、すでに私たちの生活の中のいろいろなところに、電力系の通信サービスが浸透していることに気がつく。「東京電力のネットワーク」の最終回は、いつの間にか電柱に架かっていた光ファイバから少し離れて、そんな電力各社の通信事業全体を眺めてみたい。
日本電信電話公社が民営化され、通信事業の新規参入が認められるようになったのは、1985年のことである。この通信の自由化以来、さまざまな企業が開かれた門戸になだれ込んできた。もちろん、各地の電力会社もその例外ではなかった。
新規参入組の中で、ネットワーク設備を持つ第一種事業者のことを新電電(NCC~New Common Carrier)と呼んだ。なかでもとりわけメジャーだったのが、一般向けのリーズナブルな長距離電話サービスを提供する長距離系の新電電、日本テレコム(JT)、日本高速通信(TWJ)、第ニ電電(DDI)の御三家である(0070のTWJ、0077のDDI、0041のJTといったほうがピンとくるだろうか)。資本で見ると、JR系のTJ、道路公団とトヨタのTWJ、京セラなどが出資するDDIというように、なかなか特色のあるスタートだったのだが、その後TWJはKDDに吸収され、さらにそのKDDとDDI、日本移動通信(IDO)の3社が合併し、現在のKDDIに統合。JTには、ブリティッシュ・テレコム(BT)とAT&Tという英米の外資が入り、現在は英ボーダフォンの支配下に置かれている(役員の総入れ替えは今月末の臨時株主総会を経てからだが)。
通信の自由化を契機に、電力各社が出資する直系の新電電も次々に創業を開始する。通信の自由化当初の通信事業は、地域系、長距離系、国際系、移動系というように、提供できるサービスが明確に区分されており、異なるサービスへの進出は規制されていた。先の長距離系新電電が地域間を結ぶサービスのみを提供するのに対し、電力系の新電電は、エリア内の通信サービスのみを提供する地域系新電電と呼ばれるタイプである。
これは、現在のNTTの長距離会社(NTTコミュニケーション)と地域会社(NTT東・西)の関係と考えるとわかりやすいだろう。電力の供給は、ご存じのように北海道から沖縄までを10社の電力会社でカバーしている。当初は、この10社がそれぞれに起こした通信会社が、それぞれのエリア内で通信サービスを提供する地域会社だったわけだ。ただし、長距離系のような一般向けのサービスはなく、専用線やフレームリレー、ATMなどの法人向けのサービスに終始していたため、企業以外のユーザーにとっては、なじみの薄い存在だったかもしれない。
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電力会社が展開する全国ネットワーク |
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通信事業者のサービスに関する規制は96年に撤廃され、その後は多角化や提携、合併などによって、新電電から従来のような色分けは次第に消えていく。電力系の新電電もこれを受けて、96年に東京通信ネットワーク(TTNet)、中部テレコミュニケーション(CTC)、大阪メディアポート(OMP)の3社が連係。翌年には全10社が接続され、全国サービスの提供を開始する。98年には、全10社の連係サービスを一元化して販売する「パワーネッツ」が設立され、10社をとりまとめる「パワー・ネッツ・ジャパン(PNJ)」という連合を結成。99年には、今後が有望視されるIPサービスに向けて「PNJコミュニケーションズ(PNJ-C)」も設立された。
PNJ-Cの資本は、今年に入って電力系新電電10社から電力会社10社へと譲渡され、先頃「パワードコム」に社名変更。新電電と同じ電力会社直系の子会社という位置付けになった。また、先のパワーネッツも、現在はパワードコムの100%子会社となっている。私たちエンドユーザーが直接サービスを受ける存在ではないが、全国の電力系通信リソースが集約されたパワードコムは、全国を隈なくカバーするアクセス回線とバックボーンの両方を持つ、強力なキャリアである。
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電力系通信会社の一般向けサービス
「最初の電力系通信サービスはPHSだった」。そういうユーザーも多いことだろう。自動車電話の発展形である携帯電話(PDC~Personal Digital Cellular)に対し、95年に本サービスが始まったPHS(Personal Handy-phone System)は、いわゆるコードレス電話の発展形である。屋内では普通のコードレス電話の子機だが、基地局があるところなら基地局が親代わりになって屋外でも使えるという、オマケ付きコードレス電話なので(そういう売られ方ではなかったが)、端末の出力は10mWと非常に小さく、周波数も1.9GHz帯という直進性の強い周波数帯を使用している。1つの基地局に対するサービスエリアが、せいぜい数百mと非常に狭いので、広範囲なサービスを提供するためにはあちこちにアンテナを立てなければいけないのだ。
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市街地のあちこちで見かけるアステルのアンテナ。一部の地域では、PHSベースの常時接続も始まっている |
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大量の光ファイバが引き込まれてるTTNetの交換センター。左隣には、変電所が隣接している |
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ラストワンマイルを2.4GHz帯の無線でつなぐためのアンテナ。写真はスピードネットのもの |
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このようなことが有利に展開できるのは、やはりNTTと電力会社だったのだろう。NTTパーソナル、DDIポケット、それに電力系のアステルが、その年のうちにサービスを開始する。一時は、爆発的な勢いで伸びたPHSだったが、その後の不振ぶりはご存じのとおり。NTTパーソナルは、NTT移動通信網(現在のNTTドコモ)に営業権を譲渡。アステルもまた、沖縄以外は先の電力系新電電や関連会社と合併、もしくは営業権を譲渡している。
一般向けに提供されている電力系通信会社のサービスには、このほかに電話やCATV、インターネット接続サービスなどがある。電話は、いまのところ東京電力系の東京通信ネットワーク(TTNet)が提供する東京電話と、九州電力系の九州通信ネットワーク(QTNet)が提供する九州電話のみ。法人向けのサービスとは異なり、末端側はNTTの電話線をそのまま使う、ほかのキャリアと同じスタイルである。CATVは、ユーザーが直接利用する直系局こそ少ないが(埼玉や大阪、高松の一部)、バックボーンやコンテンツなどを地元局に提供するといったスタイルで、積極的に推進している。
最後のISP関係は、概ね前出の電力系新電電またはファミリー企業が何らかの形で提供している。今回取材した東京電力の場合には、自らがFTTHの卸し売り業務をはじめるわけだが、このほかにもTTNetが電話回線系のサービス、スピードネットが従来の2.4GHz帯の無線LANに加えて、直販タイプのFTTHサービスの提供を開始している。FTTHに関する他社の状況は、関西電力系のケイ・オプティコムが、64kbpsのPHS常時接続「eo64エア」や2.4GHz帯無線LANを使う「eoメガエア」、100MbpsのマンションタイプFTTHサービス「eoメガファイバー」を提供。ラストワンマイルに、アステル関西から受け継いだ資産を活かしている点がおもしろい。
中部電力は、1年の実験を終えて現在事業化を検討中。中国電力は10月から、引き込み、無線LAN、PHSの3方式による接続試験を開始。試験の結果を踏まえて事業化を検討するとしている。先のQTNetは、来春の本サービスに向け、予定どおりなら12月3日から引き込みタイプの試験サービスが始まっているはずである。このほかにも、ブロードバンド化に向けたコンテンツ配信事業や、企画会社の立ち上げなども着々と進行。ここ当分の間は、ほとんど全方位から攻め込みつつある電力系ネットワークの動向から、目が離せない状況が続きそうだ。
(2001/12/06)
□東京電力
http://www.tepco.co.jp/
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