|
お話を伺ったスピードネットの技術部長、松本登さん |
|
高速回線をどうやって屋内に引き込むのか。いわゆるラストワンマイルは、ブロードバンド化にとって頭の痛い問題だ。正攻法のケーブル新設から電話線やテレビの同軸といった既存のケーブルの流用までさまざまなアプローチが採られているが、忘れてはいけないもうひとつの手段がケーブルを使わない無線アクセス「FWA(Fixed Wireless Access)」である。今回のインフラ探険隊は、関東圏で無線LANの技術を使ったアクセス回線を提供するスピードネットにおじゃまして、技術部長の松本登さんと広報グループの西野真理さんにお話をお伺いした。
ソフトバンク、東京電力、マイクロソフトの3社が、高速インターネット接続に向けた合弁会社の設立を発表したは99年の夏のことである。それと前後して、東京めたりっくやイー・アクセスなども設立されるが、今をときめくADSLが産声を上げるのはもう少し後のこと。インターネット接続の主力はダイヤルアップであり、定額常時接続といえば、それまでは3万8000円のOCNエコノミーが定番。これに、前年から急速に立ち上がりはじめたCATV(93年に続く大幅な規制緩和が97年に行なわれことに起因する)が、低価格なブロードバンド回線を掲げて切り込んできたところだった。
街中に張り巡らされた東電の光ファイバ。立ち並ぶ電柱には無線基地局が転々と設置され、厄介な回線の引き込みなしですぐに使える電話代のかからない定額高速回線。ひたすらテレホーダイに頼るしかなかったケーブルの新設がほぼ絶望的な集合住宅の5階に住む筆者宅にも、ぱーっとバラ色の未来が広がったのである。ところが、その後はとんと話が進まず、2000年夏の予定はズルズルと後退。2000年5月に社内の人事を一新し、発表から1年後にようやく広域エリア実験に漕ぎ付けるという事態になってしまった。期待の分だけ落胆が大きかったのは、おそらく筆者だけではなかったろう。
■
スピードネットのシステム構成
|
スピードネットが提供する無線アクセスサービスの提供エリア |
|
さいたま市の一部を皮切りに、無線アクセスの本サービスが開始されたのは、2001年5月のことである。8月にはサービスエリアをさいたま市全域に拡大し、9月からはFTTHのメニューも追加。以後、東京都市部、神奈川県の川崎、横浜、千葉県の船橋、市川、浦安と、首都圏をぐるりと取り囲む国道16号線のすぐ内側の地域を中心に、環状のサービスエリアを展開。この2月に当初計画していた全エリアが整備され、これと前後して本格的なプロモーション活動を始めたというのが、同社の現状である。
まず最初に気になるのが、この環状のサービスエリアではないだろうか。スピードネットの無線接続は、無線LANと同じ2.4GHz帯を使用する。直進性が強い電波を使うという特性上、見通しの悪い地域では自ずとひとつの基地局でまかなえるエリアが狭くなってしまう。地形的には平坦なほうがよく、建物も高層なものよりも低層の建物が中心であるほうが好ましい。かといって、見渡す限りの田圃ではもちろん話にならない。住宅が密集し過ぎていない、かといって過疎じゃない。ほどほどの密度のあるところというのが、システム的にも営業的にもベストな場所。その結果選ばれたのが、16号線のすぐ内周なのだそうだ。実はPHSや携帯電話のトラフィックが夜間増えるエリアがこの16号線のすぐ内周で、その中でも30代前半から40代前半くらいのインターネットの需要層と重なりそうなところを重点的に選んだ結果が、この環状のサービスエリアだったのである(神奈川の一部は地理的にはちょっと不利だが)。
ネットワークの構成は、これらサービスエリアの中の東京電力の事業所8カ所に、POP(Point Of Presence)と呼ばれる集線局を設置。上流は都内のセンターに集約され、そこからインターネットに接続される。下流は、各POPから20~40程度の回線がループ状に走り、要所要所から分岐させて基地局を設置する。ループ配線は回線の分散が容易な上に、万一のケーブル事故でもバックアップ回線として機能するという大きなメリットがある。1本の幹線を延ばしただけのシステムでは、ケーブル事故が起こるとそこから下流の通信がすべて止まってしまうが、ループ配線なら逆廻り方向を使ってサービスを継続できるわけだ。
|
無線基地局。屋外用のため頑丈なクロージャに収納されている |
|
|
電柱に設置されたアンテナ |
|
各ループの容量は100Mbpsで、ネットワークの負荷にもよるがひとつのループに10数個の基地局が接続されるそうだ。基地局というのは無線LANのアクセスポイントそのものであり、加入者側の無線を光ファイバのバックボーンに接続する。ただし、屋外に設置する関係から見た目は無線LANのアクセスポイントとはかなり異なっており、頑丈なクロージャに収納。そこに、幹線の光ファイバとアンテナの同軸ケーブルが接続される。ちなみに写真のように電柱に設置するので、電柱を廃した市街地や新興住宅地などでは基本的にサービスできない。現在、全体では200くらいのループと2000強の基地局が稼働しているそうで、FTTHサービスもこの同じシステムを使用している。こちらは、基地局の代わりに光ファイバをそのまま延ばして、加入者宅に引き込む形だ。
スピードネットが使用している無線は、周波数ホッピング方式のIEEE802.11がベースになっており、通信速度は2Mbps(実質1.5Mbps)。これを、基地局周辺のユーザで共有するのだが、一般的な使い方であれば1基地局あたり30ユーザ程度までなら不都合なく使えるという。ちなみに、ひとつの基地局がサービスできるエリアは、地形や建物にもよるが半径350m程度。意外に広いので、加入者が殺到してしまったらどうするのか、ちょっと心配になってしまう。実は、ここからが周波数ホッピング方式が本領を発揮するところなのだが、その辺のお話はまた次回。スピードネットの核心に迫ってみたい。
□スピードネット株式会社
http://www.speednet.co.jp/
(2002/03/13)
|