1台の基地局で広いサービスエリアをカバーできれば、設置する基地局は少なくてすみイニシャルコストを大幅に低減できる。ところが、より多くのユーザーに快適なサービスを提供しよう、あるいはより広いエリアにサービスを展開していこうとすると、それだけではすまない問題が出てくる。限られた周波数帯域を有効に活用するためには、独立したチャンネルがどれだけ確保できるかが大きなポイントなのだ。
周波数帯域を有効に活用する主な手段には、時間、空間、周波数の3つがある。無線LANベースのシステムでは、基本的にひとつの基地局のサービスエリア(空間)内のユーザーが同じチャンネル(周波数)を共有し、送信のタイミング(時間)をずらすことによって、互いの通信が競合しないようにしている。たいへんコストパフォーマンスの高いシステムなのだが、ユーザー数や通信量が増加すると、そのままでは次第に通信帯域が逼迫してしまう。
スピードネットの場合、1チャンネルあたりの実効帯域は1.5Mbps(もちろん上下対称)。ひとつの基地局が半径約350m程度のサービスエリアをカバーしており、現状の使い方では、1基地局当たり30ユーザー程度までのトラフィックを想定した設計になっているという。加入者密度が増加したり、広帯域コンテンツがガンガン飛び交うようになると、想定したトラフィックを上回ってしまう可能性が出てくることになるが、これには基地局の増設で対処しているそうだ。この場合、別の場所に新たに設置するケースと、同じ場所に無線機とアンテナを追加して処理能力を上げるケースがあるが、いずれも同じ空間内で時間的な競合を低減しなければならないので、選択肢は残る周波数、すなわち異なるチャンネルに分散しなければならない。
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チャンネル余裕の周波数ホッピング
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サービスエリアを面で展開する場合、正三角形の頂点に基地局を配置する必要がある |
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IEEE802.11bの無線LANでもおなじみの直接拡散方式(DS~Direct Spread)では、2.400~2.4835GHz(ARIB STD-T66)に5MHz幅の13チャンネルを設定している(*)。信号は、1Mのシンボルレート(1秒あたりの変調回数)に11Mのチップレート(掛けあわせる拡散符号の1秒あたりのビット数)を掛けあわせて直接広帯域に拡散。占有帯域は、そのまま11倍(チップレート÷シンボルレート)の22MHz(中心周波数±11MHz)に広がってしまうので、互いに干渉しない独立したチャンネルは、実質3チャンネルしか確保できない。さらに、前回お話したマイクロ波治療器などの干渉があれば、1チャンネルが丸々潰れてしまう可能性もある。こうなるとトラフィックを分散する余地は、残り1手。それも、スポット的なサービスエリアを前提とした場合だ。
サービスの面的な展開を考えると、状況はさらに厳しくなる。無線のサービスエリアを完全な真円と仮定すると、サービスエリアに内接する正三角形の頂点に基地局を置けば、平面的に隙間なくエリアを拡張していくことができる。干渉しない3チャンネルというのは、このような面的な展開に必要な最低条件なのだが、実際にはサービスエリアは真円とはならないし、都合よく頂点に基地局を設置できるわけでもない。3チャンネルでのやりくりには、多少の干渉や不感地帯が生ずることを覚悟しなければならないのである。
周波数ホッピング方式(FH~Frequency Hopping)では、2.400~2.4835GHzに1MHz幅の79チャンネルが設定されており、搬送波の周波数を次々に切り換えることによって、信号を広い帯域に拡散する。FHでいう独立した通信チャンネルというのは、この切り換えるパターン、ホップシーケンスの違いだ。IEEE802.11の規格では、3種類のシーケンスセットしか使用しないため、実質的にはDSと同じ3チャンネル分の運用になってしまうのだが、スピードネットのシステムでは、シーケンスセットをフルに活用。最大23チャンネルでの運用が可能であり、基地局の増設や面的な展開に柔軟に対応することができる。仕様上高速化は難しいが、ノイズに強くなおかつ多くのチャンネルが利用できるFHは、スピードネットが目指すFWA(Fixed Wireless Access)システムにとっては、最適な選択肢だったのである。
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国内では、2.400~2.4835GHzのほかに、認可当初の2.471~2.497GHz(RCR STD-33)も利用でき、多くの無線LAN製品はこれら両方に対応している。2.471~2.497GHzは、DS方式では下の帯域と重ならないように第14チャンネルが設定されており、当初はこの1チャンネルのみの運用となっていた(現在は両対応の機器なら最大4チャンネルが使える)。FH方式では、2.471~2.497GHzに25チャンネルが設定されており(一部は下の帯域と重複するため両方を合わせると94チャンネル)、規格では3種類のシーケンスセットを規定。この帯域だけでも、3チャンネル分の運用が可能だった。
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スピードネットの無線システム
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スピードネットで使われているAlvarion製の端末局 |
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実際に使われている無線機材は、すでに写真でご覧いただいたが、ここで改めてざっと説明しておこう。
初回にお話したように、各エリアに置かれた8カ所の集線局から、20~40本の光ファイバがループ状に走っており、そこから分岐して1ループあたり10数個程度の無線基地局が設置されている。光ファイバに取り付けられるクロージャ本体は、無線もFTTHもほとんど変わらず、看板やアンテナが付いていなければ、CATVのクロージャと識別するのも難しいだろう(というか同じものを流用しているそうだ)。
無線設備本体は、当初からサービスされていた埼玉、東京エリアでは、Alvarion(旧BreezCom)製のBreezNETが、神奈川、千葉エリアでは、MarconiのWipLL(Wireless IP Local Loop~もとは同社に買収されたイスラエルのRDC Communicationsの製品)が採用されている。ちなみにスペックシート上の最大データレートは、それぞれ3Mbps、4Mbpsとなっている。写真は、Alvarion製の端末局で、ユーザー側のインターフェイスは10BASE-T。無線側は、ここから同軸ケーブルを屋外に延ばし、10センチ角の平面アンテナを接続する。アンテナにまつわる基礎知識は、また別の機会にまとめてお話しようと思うが、この平面アンテナは、一般の無線LANに使われているものと違って、正面方向60度程度の指向性を持った高利得アンテナ。基地局のコリニアアンテナ(水平方向に無指向性だがこちらも利得がある)とあわせて、サービスエリアの拡大と安定した通信に大きく貢献している。
無線に使用する2.4GHz帯は、非常に直進性の強い電波なので、サービスエリア内であることと同時に、基地局のアンテナが見通せるかどうかが、サービスの可否を決める大きなポイントになる。ベランダから外を眺めて、基地局のアンテナを探して見てもいいが、申し込みに際しては、予め電波が届くかどうかをシミュレーションしてもらえるそうなので、とりあえず問い合わせて見るのが手っ取り早い。
FTTHサービスのほうも、無線と同じ基幹を使用しているので、サービスエリアは共通。ただしこちらは、光ファイバの敷設状況に大きく左右される。次回は、そんなFTTHサービスと、基本動作試験を終えたばかりの5GHz帯の動向を伺ってみたい。
□スピードネット株式会社
http://www.speednet.co.jp/
(2002/03/27)
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