電話線、同軸ケーブル、無線。アクセス回線の形態は異なるものの、その先をたどっていけば、どこかで必ず光ファイバに集約される。それならいっそうのこと、末端まで光を延ばしてしまえ、というのが「Fiber To The Home(FTTH)」。スピードネットのFTTHサービスは、まさにそれをそのまま地でいく、もうひとつのアクセス手段である。
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スピードネットの有線システム
電話線を使うADSLは、局に収容された後、光ファイバのネットワークに接続されている。同軸ケーブルを使うCATVの場合には、以前は局まで同軸というケースも多かったが、現在はHFC(Hybrid Fiber/Coaxial)化が進んでおり、電柱を走る基幹のケーブルは光ファイバが主流。最終的に加入者宅に引き込まれる、末端の部分だけが同軸というスタイルである。かたやテレビ放送が主体のCATVであるため、通信システムそのものはまったく異なるが、ネットワークの構成に関してはスピードネットも同様。基幹に光ファイバを走らせるこのスタイルである。
スピードネットの「無線アクセスサービス」は、この基幹から分岐したところに基地局を設置。無線でアクセスできるようにしたサービスなのだが、これを取っ払って光ファイバのまま持っていってしまおうというのが、もうひとつの「有線アクセスサービス」である。どちらもバックボーンのネットワークは同じなので、接続方法のバリエーションといったほうが適切かもしれない。ケーブルが引き込める環境なら光のまま直接、引き込めなくても無線で対応という、たがいに補間しあう存在なのである。
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スピードネットのFTTHサービスで使用されるノード。屋外に設置されるため頑丈な保護カバーで覆われている |
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引き込み用の光ファイバ。中心にある青色の線が保護用の鉄線。その両脇にある白色の線が光ファイバ |
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光ファイバ(光信号)を100BASE-TXインターフェイスに変換するメディアコンバータ |
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有線アクセスサービスの場合には、中継点の無線基地局の代わりに写真のようなノードが設置される。クロージャ(保護カバー)の外観しかお見せできないため無線の基地局とまったく区別がつかないが、中身は数個の光ポートを持ったイーサネットのスイッチングハブのような装置と思っていただきたい。もちろんセキュリティの部分はあらかじめちゃんと工夫されているそうで、当たり前だが隣りの通信がキャプチャできてしまうようなことはない。
このノードからは、引き込み用の回線がまとめて出力され、途中に設けられたクロージャ内で、今度はファイバレベルで分岐して、1組ずつ加入者宅に引き込んでいく。引き込まれる光ファイバは、写真のような細いケーブル。非常に細くて分かりにくいが2芯構造になっており、間には保護用の鉄が入っていて意外と重量感がある。一戸建てならこれがそのまま室内に、集合住宅ならMDF(Main Distribution Frame~主配電盤)まで持っていきメディアコンバータに接続される。メディアコンバータは、光信号と電気信号の変換を行なう装置で、ユーザー側には最終的に100BASE-Tのインターフェイスが提供されることになる。
さて、基幹の光ファイバは現在100Mbpsで運用しているという。無線の基地局が10や20ぶら下がったところで、まったく問題のないレベルだ。が、FTTHも同じバックボーンとなると、いくらベストエフォートとはいえ、帯域がちょっと心配になってくる。この点に関しては、現在FTTH自体の数があまり出ていないこともあって、まだトラフィックが逼迫するような状況には至っていないという。また将来的には、バックボーンを1Gbpsや10Gbpsへ拡張することも考えているそうなので、現状で打ち止めというわけではない。FTTHのトラフィックが上がってきたら、それなりの対処が期待できるのだろう。
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5GHz帯無線アクセス事情
スピードネットが行なった5GHz帯無線アクセスの動作試験に関しては、すでにニュースでもご覧いただいたと思う。5GHz帯といえば、IEEE802.11aの無線LANでおなじみの帯域だが、現在国内で利用できるのは5.15~5.25GHzのみで、なおかつ屋内での使用に限定されている。現状では、FWA(Fixed Wireless Access)には使えない仕様なのである。
総務省では、以前から5GHz帯の拡充を検討してきたのだが、上の帯域は気象レーダーなどの周波数と競合するためムリという結論になり、審議会では現在、下の帯域を割り当てようということで検討を進めている。スピードネットもこの審議会の作業班に加わっているそうだが、候補のひとつである4.9~5.0GHzは現在NTTやKDDIなどが使っているため、開放するとしても、すぐにというのは難しいとのことだ。審議会では、新たに5.03~5.091GHzについての割り当ても検討しており、今回の動作試験もこの帯域をターゲットとしている。いまのところはまだ基本的な実験をすませた段階であり、今後の展開はこれから決めていくところだが、開放を睨んで機器の開発などの準備は進めつつあるそうだ。基本的には802.11aに順じた仕様になるようで、順調にいけばFWAの通信速度が一足飛びに加速することになる。
ただし、2.4GHz帯を5GHz帯に置き換えるのではなく、たとえば廉価版と高速版、あるいは携帯電話と融合するなど、別のサービスへの展開が有力のようす。現在のスピードネットの無線システムは限りなく有線に近い固定サービスであり、モバイルにはなっていないのだが、これを歩いていても使えるシステム程度には持っていきたいという抱負もお聞きすることができた。ただし、携帯電話のようにどこでもつながるシームレスなシステムとなると、設備投資が膨大になるため現状ではムリ。スポットサービスの融合という点も、5GHz帯に関してはかなり可能性はあるが、当面は考えていないという。なかなか微妙なところだが、ある程度の範囲は融通が効く、しっぽのないインターネットアクセス環境といったところだろうか。
5GHz帯になると電波の飛びがさらに悪くなるため、FWA的な使い方はつらくなるのではと思ったのだが、この辺はアンテナと高周波回路の工夫次第で補えるだろうとのこと。さすがにノイズはないそうなので、この辺も有利に働くだろう。総務省では、さらに上の20GHz台の割り当ても検討しているのだが、さすがにここまで上がってしまうと減衰が激しくて使いづらいうえ、デバイスの値段が別次元になってしまい、今のところはまだ現実的ではないという。現在の2.4GHz帯がそうであるように、技術が確立されデバイスのローコスト化が進んでいくというのが大きなポイントであり、そういった意味でも次なる展開につながる最有力候補は、IEEE802.11aの開発にともなった急速な進展が期待できる5GHz帯ということになる。
当面は、ようやくできあがった2.4GHz帯とFTTHのシステムで足元を固めつつ、次のステップへの構想を練っていく。情報通信関連の事業者の中には、惜しげもなく打ち上げ花火を上げまくるところが多いのに対し(筆者自身は嫌いなのだが)、同社のスケジュールはいたって堅実。それだけに、「数年のうちに移動ということも考えたアクセスシステムが出てくるでしょう」という松本さんのお話に、現実的な近未来を垣間見たような気がした。大きな波が押し寄せつつあるインターネットの無線アクセスは、これからが本番だ。
□スピードネット株式会社
http://www.speednet.co.jp/
(2002/04/03)
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