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無線LANルータ編
第3回:MIMOとIEEE 802.11n


 IEEE 802.11nは次世代の無線LAN規格。ただし、現時点で標準化作業が継続している規格のため、ドラフト仕様の製品では機器間の相互接続性や将来の正式版への対応状況など、不安な点も少なくありません。


無線LANの速度や距離を向上させる「MIMO」と「IEEE 802.11n」

 2006年頃から、「MIMO」や「IEEE 802.11n ドラフト」への対応をうたった製品を店頭で多く見かけるようになりました。これらはIEEE 802.11a/b/gと同じように無線LAN通信を行なうための技術ですが、どのような仕組みなのでしょうか。今回はこのMIMOとIEEE 802.11nについて、順に説明していきたいと思います。

 まず、MIMOに関してですが、これは「Multiple Input Multiple Output」という用語の略称になります。簡単に説明すれば、複数のアンテナを同時に使用して電波のやり取りを行なうことで、通信速度の向上や通信距離を伸ばす仕組みになります。

 「MIMO以外のアクセスポイントでも、アンテナを2本持っている製品も以前からあるのでは?」という疑問を持つ方もおられるかもしれませんが、この場合、MIMOとは少し異なる仕組みになっています。従来の無線LAN機器では、ダイバシティアンテナというものが使われていました。例えば、図1のような環境では、左側の部屋はアンテナAを、右側の部屋はアンテナBを使ったほうが効果的な通信が期待できます。

 そこで、2つのアンテナから入る電波を比較して、より強い側を選択するというのがダイバシティアンテナの大まかな仕組みです。従って、複数のアンテナがアクセスポイントにあっても、1度に使われるのは1つのアンテナだけになります。


図1:ダイバシティアンテナ

 一方のMIMOですが、こちらでは複数のアンテナを同時に使い、複数のデータをやり取りする方式になります。図2のイメージにあるように、通常の速度から倍以上の通信が可能になるほか、2つの通信をリンクさせるなどして、通信パケットの効率化を図るオプションも用意されています。

 こうした仕組みによって、MIMOでは通常の無線LANと比較して3~4倍の実効速度を実現させるのも不可能ではなく、通信可能な距離も数百mにおよぶ場合もあります。ただし、これらの性能はアクセスポイントが搭載するアンテナ数などにも影響されるため、最終的には使用する製品次第という面も強いです。


図2:IEEE 802.11a/b/gとMIMOの通信イメージ




IEEE 802.11n対応製品は現時点でドラフト準拠。標準化作業は継続中

 MIMOは当初、独自規格として出発しました。米Airgo Networks(現在はQUALCOMMが買収)がこの分野の草分けで、日本でもAirgoの無線LANチップを搭載した製品が2005年頃から登場しはじめています(関連記事)。そして、その後、標準化の動きが活発になり、IEEE 802.11nとしての標準化作業が現在進んでいます。

 しかしながら、IEEE 802.11nの標準化は難航しています。標準化作業の当初は、「WWiSE(World Wide Spectrum Efficiency)」と「TGn Sync」という2団体を中心に互いの技術仕様を競っていたものの、技術面で一本化される段階で、「EWC(Enhanced Wireless Consortium)」という新たな団体が、別の標準化案を提出するという事態が発生しました。

 最終的には、2006年初頭にEWCが提出した案が「IEEE 802.11n ドラフト(草案) 1.0」として取り上げられたものの、5月の採決で否決されてしまいました。そして改めて、ドラフト 2.0に向けた作業が開始され、現在はドラフト 2.0の採択が行なわれている段階です。しかしながら、有力視されているドラフト 2.0でも、最終的にどうなるかは不透明です。

 一方で、店頭では否決されたドラフト 1.0に準拠した製品が2006年の春以降に登場し始めています。こうした製品は、同一メーカー間では問題なく通信できるはずですが、複数のメーカー製品が混在した環境では、11nモードが正常に動作するかは保証がありません。また、現在採択中のドラフト 2.0、最終的に採択される正式版にファームウェアで対応できるかという点に関しても保証はされていません。

 現実的な話をすれば、「IEEE802.11n ドラフト準拠」として登場した初期の製品に関しては、恐らく正式版への対応は行なわれないと見られています。このため、長期的な利用を考えた場合、IEEE 802.11n ドラフトに対応する製品を購入する場合、もう少し動向を見極めてから判断するのが賢明でしょう。

 もし、どうしても今すぐ欲しいという場合には、「IEEE802.11n ドラフト 2.0」への対応を明示した製品を選択した方が良いと思われます。というのも、「ドラフト準拠」とだけ表記されている場合、それはドラフト 1.0に準拠した製品の可能性が高いからです。

 [お詫びと訂正]
 MIMOの記述について、複数の周波数を使用するとした初出時の表記を修正いたしました。


関連情報

URL
  無線LANルータ編 索引ページ
  http://bb.watch.impress.co.jp/cda/koko_osa/17754.html

2007/05/07 10:58

槻ノ木 隆
 国内某メーカーのネットワーク関係「エンジニア」から「元エンジニア」に限りなく近いところに流れてきてしまった。ここ2年ほどは、企画とか教育、営業に近いことばかりやっており、まもなく肩書きは「退役エンジニア」になると思われる。
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