2002年6月1日から8月31日まで、有線ブロードネットワークスによるHFC通信のフィールドテストが開始される。端的に言えば以前よりサービスされている有線放送のケーブルを使ってインターネットへアクセスしようというものだが、果たしてどのようなサービスになるのだろうか? このサービスの詳細について、取締役HFC事業部部長の藤本氏、社長室広報担当の山田氏に聞いてみた。
■HFCサービスとは
今回、有線ブロードネットワークスがフィールドテストを行なうHFC(Hybrid Fiber Coax)とは、CATVなどでも採用されている光ファイバと同軸ケーブルによる混成タイプのインターネット接続サービスのことだ。幹線には光ファイバを利用し、そこからユーザー宅までに有線放送用の同軸ケーブルを利用する。これで、最大で下り30Mbps、上り1.5~10Mbpsのサービスを提供することになる。すでに同社では、光ファイバを利用したサービスとして「BROAD-GATE 01」を開始しているが、これを補完する形で今回のサービスを開始する予定となっている。
すでにFTTHでのサービスを開始しているのに、なぜ後から同軸でのサービスを開始するのか不思議に思うかもしれないが、藤本氏によると「これはタイミングの問題だけだった」とのことだ。「もともと、すでにある有線放送用の同軸ケーブルを通信インフラとして活用する戦略はあった。しかし、当時はHFCの信頼性などの問題があり、とりあえず将来を見据えてFTTHからサービスをスタートした」(藤本氏)とのことだ。そもそも同社は、すでに広い範囲に同軸ケーブルの有線放送のネットワークを保有している。これを活かして、コストパフォーマンスの高いサービスを提供しようというのは、ごく自然な成り行きと言えるだろう。
ちなみに、今回、同社が利用するサービスは、CATVなどでも利用しているDOCSIS(Data-Over-Cable Service Interface Spaecification)の1.1と基本的に同じだが、多少のアレンジが加えられている。同軸ケーブル内で利用する周波数帯は、全部で0~770MHzまでとなっており、本来は90MHz~600MHzまでの一部を下りに、0~42MHzを上りに利用する。しかし、同社では、すでに有線放送に29~76MHzまでを利用しているため、上りの帯域を650~770MHzに変更しているとのことだ。これにより、有線放送との干渉を避けながら、インターネット接続も同時に利用可能になっている。
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同軸ケーブルの中を通る信号の周波数分布図。有線放送で使っていない上の周波数はすべてデータ通信で使用する |
■光ファイバの敷設やブースターの交換が必要
この方式の最大の特徴は、有線放送用の同軸ケーブルをそのままインターネット接続に利用できる点と言える。つまり、すでに有線放送を利用しているユーザーであれば、そのままインターネット接続できる可能性が高い。また、新規に導入する場合でも有線放送で培ったノウハウがあるため、現場での工事なども容易に可能となる。
ただし、幹線に関しては、既存のインフラをそのまま利用できるとは限らない。幹線に光ファイバを利用する以上、ある程度の地点(ノード)まで光ファイバを敷設しなければならない。また、電柱などに敷設されている同軸ケーブルには、信号を増幅するためのブースター(アンプ)が取り付けられているが、既存の有線放送用のブースターは下りのみに対応した1wayタイプであるため、これを下りと上りの双方向通信に対応した2wayタイプに置き換えなければならない。このため、「現状、有線放送が利用できるエリアであれば全国一斉にサービス開始できるというものではなく、やはり徐々にエリアを広げていく展開方式にならざるを得ない」(藤本氏)とのことだ。
しかし、このような環境が整ってしまえば、高速なサービスを安定して提供できる可能性が高い。ADSLなどでは、電話局からの線路長が長くなるほど信号が減衰し、サービスの品質は低下する。しかし、HFCでは、光ノードから2kmまでの距離なら30Mbpsで安定したサービスが提供できるが、それより遠い場所には、極端な話、光ノードをユーザー宅の近くに設置してしまえば容易に高い品質のサービスを提供できることになる。たとえば、マンションなどであれば、マンション自体まで光ファイバを敷設し、そこを光ノードとし、構内を同軸で配線できるわけだ。
なお、現状、多くの家庭ではアンテナからテレビまで地上波テレビ用の同軸ケーブルが敷設済みとなっているが、「地上波テレビ用の同軸ケーブルに対して相乗りができるかどうかも、6月からのフィールドテストで検証していく予定(藤本氏)」だそうだ。また、「マンションなどで、どうしても同軸の配線が難しい場合は、構内配線にDSLを使うことも検討している」(藤本氏)とのことだ。もしも、これらの方式が現実に可能になれば、マンションなどの配線が難しい環境でのサービス提供も可能になるだろう。
■コストパフォーマンスの高いサービスを目指す
気になる料金体系だが、現状はまだ検討中とのことだが、「現状のADSLと十分対抗できる価格にしていくつもりで、高くても3000円台にはしたい」(藤本氏)とのことだ。ただし、月々の料金は低く抑えることはできても初期費用に関しては別問題と言える。現状、CATVなどでも初期費用が非常に高いが、やはり同軸ケーブルを引き込むという工事が伴う以上、同様のものになると予想できる。しかし、逆に言えば、すでに有線放送を利用していれば、ADSLのように自分でモデムを接続するだけでよいため、初期費用もADSL並みになる。このあたりのコストをどこまで引き下げることができるかが普及のカギになると言えそうだ。
また、ターゲットユーザーとしては、「個人宅、オフィスなどはもちろんのこと、現状、ほとんどの事業者がカバーできていない業務店(喫茶店など)の市場も見込んでいる(藤本氏)」とのことだ。確かに、同社は業務店にはBGMなどの用途で大きなシェアを持っており、有線放送の全132万ユーザーのうち83万が業務店となる。ここをターゲットにできるのは実に大きい。もちろん、インターネット接続だけでは訴求力に欠ける可能性もあるが、同社では有線放送はもちろん、メディアのIP電話サービスの再販などと組み合わせた商品展開が可能だ。これらを組み合わせてサービスを提供すれば、ADSLとまではいかないまでもCATVに匹敵するユーザー数を獲得することは不可能ではないだろう。
現段階では、サービス提供時期、提供エリアも不明だが、6月からのフィールドテストがうまくいけば、早々に高い品質で、かつコストが安いサービスが登場する可能性が高い。個人的には、一部のCATVのようにプライベートIPアドレスを付与するといった限定的なインターネット接続サービスとならないことを期待したいところだが、同社はその点もよく理解していて、グローバルIPアドレスの付与や複数ユーザーの利用などもきちんと視野に入れている。
ADSLより高品質で、かつFTTHよりもコストが低い。このような中間をねらったサービスとして、有線ブロードネットワークスのHFC通信は、今後、面白い存在になっていきそうだ。
(2002/05/23 清水理史)
□有線ブロードネットワークス
http://www.usen.com/
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