ブログ関連サービスに携わる方にお話を伺い、ブログの世界をつないでいくインタビュー連載です。第16回は、RSSリーダー「eクルーザー」を提供するレッドクルーズの船木信宏氏です。
■ ビジネス展開を視野に入れてRSSリーダーを開発
――本日はよろしくお願いします。はじめにRSSリーダー開発のきっかけを教えてください。
船木:研究分野からブログという単語を耳にしたのは2~3年前のことですが、その時にRSSというXMLの形も出てきたらしいと言うことを知りました。その頃はメールマガジンがスパムメールに押され、クリック率などの効果もなかなか出ない状況で、企業の情報を一般消費者に伝えたいというニーズはあっても、それがなかなか実現できなかった。
RSSを使えば、企業と一般消費者をつなぐパイプのようなものが実現できる。それもユーザーが意識的に取りに行くのではなく、自動的に電光掲示板のような形で情報を流していけるツールは便利なのではないか、そう考えてRSSに取り組みました。
――最初は研究目的でRSSに取り組まれたのでしょうか。
船木:RSSを知ったのは研究がきっかけですが、取り組みは最初からビジネスを目的としていました。最初に手がけたのは「ReadOne」です。学生の仲間同士で集まって作っていたのですが、その頃は「ビジネスモデルってどうやって考えたらいいんだろう?」という段階で、具体的な話はありませんでした。ただし、ベンチャーはやりたいなとその頃から考えていました。
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船木氏が最初に手がけたRSSリーダー「ReadOne」。アクセス履歴を元にユーザーの興味を自動で学習する「ニュースマイニング」機能を搭載。現在は公開を中止している
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――ReadOneの特徴は。
船木:当時、ReadOneにつけていたキャッチコピーが「学習するRSSリーダー」でした。あの頃はすでに「SharpReader」など初期のRSSリーダーが登場し始めていたので、単なるRSSリーダーを出しただけでは面白くないと思ったんです。僕自身の研究がパーソナライゼーションだったこともあり、RSSで情報を収集するソフトにもパーソナライゼーションを使ってみよう、というコンセプトを曲がりなりにも形にしたというのが1つの特徴です。
――ReadOneでのビジネス化は難しかったのでしょうか。
船木:一番大きな問題は、ReadOneがサーバー型だったということですね。ユーザー数も多くなり、サーバー側での処理も大きくなるにつれて、自宅のサーバーでは運営が難しくなっていました。これをビジネス化するには非常にコストがかかるので、広告モデルでの運営は厳しい。かといってシステムをまるごと売るには、内容が複雑すぎるという問題もありました。その後、レッドクルーズ社長の増田に声をかけてもらったのがきっかけで、レッドクルーズで「eクルーザー」の開発を始めました。
■ ターゲットユーザーを広げるためにティッカー型を採用
――eクルーザーのコンセプトは。
船木:ReadOneは正直なところマニアックすぎたと反省しています。もっと簡単なRSSリーダーを作ることもできたんですが、「学習するRSSリーダー」というキャッチコピーは、アーリーアダプター層のユーザーには受けても一般層には届かない。ティッカー型は初心者層にもわかりやすい形式なので、ターゲットユーザーを広げるという意味で選択しました。
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ティッカー型のRSSリーダー「eクルーザー」。デザインを変更できるスキン機能も搭載
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――ティッカー型のRSSリーダーは多くありますが、eクルーザーならではの特徴は。
船木:今までずっと心がけてきたのは、使っていただくユーザーの意見や要望を反映することです。他のソフトに比べてバージョンアップも頻繁に行なって完成度を高めてきました。
企業向けのカスタマイズバージョンを提供していることもあり、スキンが変更できる点も特徴ですね。企業ごとのデザインをeクルーザーに反映できるようになっています。おかげさまで、今のところ20社近い企業に採用していただいています。
――予定されている機能拡張は。
船木:eクルーザーは今のところ、自己完結型のツールなので、ユーザー間でコミュニケーションが取れるような機能が欲しいと考えています。弊社では「ログログシール」というサービスも提供していますが、それ以外にも読んだ記事を共有するとか、面白い記事を薦めるといった機能に挑戦してみたいですね。
――ログログシールの位置付けは。
船木:ログログシールは、ユーザーに楽しんでもらえるツールを作れたら、と思って開発しました。ダウンロード数などは非公開ですが、ページビューは順調に伸びています。
――スキン変更による広告モデルもできそうですが。
船木:今の段階では正直難しいですね。新しいサービスはなかなか企業では受け入れられないので。今はようやくブログやRSSの認知度が高まってきていて、今までは「RSSとは何か」というのを説明するところから入っていたのが、今はRSSというものを何となくわかってもらえている。ログログシールはその先のサービスと言えます。
――ログログシールの機能拡張は。
船木:いろいろと考えています。1つは昔はやった「ビックリマンチョコ」のように、シールを集められる機能ですね。自分で集めてもいいし、人と交換してもいい。そんな機能を考えています。
■ ReadOneの再開は無期延期に
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現在ReadOneのサイトにアクセスすると「reboot ... failed!」の文字だけが表示される
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――時期、ReadOneが再開するとの話がありましたが(現在、ReadOneは公開を中止している)
船木:予定自体はあったんです。今年のエイプリルフールに間に合わせて公開しようと思っていたんですが、間に合わなくてそのままずるずる伸びてしまいました。
――RSSリーダーの数も増えてきた今であれば、ReadOneのコンセプトは受け入れられそうにも感じます。
船木:現状はまだまだ、シンプルでオーソドックスなRSSリーダー、というニーズが強いですね。サーバサイドのRSSリーダーだとユーザが増えて動作が重くなったりしますが、安定してすぐに見られるRSSリーダーが求められていると感じています。
――公開予定だったReadOneの特徴は。
船木:4月頃に公開を予定していたこともあり、その頃話題だったAjaxをふんだんに利用して開発していました。リリースのタイミングが流れてしまったので、今のところ公開は未定です。
■ リアルも含めた情報管理の統合的存在を目指す
――企業向けはどのようなサービス展開でしょうか。
船木:OEMのように売りっぱなしではないので、ASPに近いですね。バージョンアップの際にはすべての企業向けバージョンを含めて行なっていますし、メンテナンスも対応しています。
RSSリーダーの提供だけではなく、RSS配信も含めたトータルソリューションを行なっています。現状では、RSSのアイコンが置いてあるだけというサイトも多いですが、あのかたちだとなかなかうまくいかないと思います。RSSがわかる人はいいが、今はRSSがわからない人のほうが圧倒的に多いでしょう。eクルーザー自体もRSSリーダーを誇張することなく、新しい情報を取得するためのツールとして展開しています。
――企業向けの他のサービスは。
船木:「eクルーザーJIVE」と「ブロガーチャンネル」ですね。eクルーザーJIVEは、RSSに動画や音声などをパッケージ化して提供できるサービスです。例えば、流れてくるティッカーで「新曲発売」という情報をクリックすると、楽曲の購入ページ以外にプレーヤーが立ち上がって音楽を再生する、といった仕組みで、Podcastingに近い技術です。
ブロガーチャンネルは、ユーザーがブログに投稿した商品やサービスの評価を収集してRSSで配信する「口コミ情報配信システム」です。RSSがメインとしながら、ブログなどのサービスをくっつけていくことで、RSSでの情報提供に付加価値や連携を加えられれば、というコンセプトです。
――Podcastingへの対応予定は。
船木:現状は検討段階です。Podcastingではコンテンツがすべてだと思いますので、今はまだ難しいでしょう。もっとコンテンツがたくさん登場すれば、Podcastingできるツールも増えていいと思います。
――Windows Vistaなどの次期OSがRSSの対応を表明していますが、RSSが一般に普及した場合のレッドクルーズの位置付けは。
船木:Windows Vistaが普及するには非常に時間がかかるでしょう。そこまでのリードタイムが2年あるとすれば、RSS市場はある程度勝負がつくのではないでしょうか。Internet Explorer 7の開発者向けベータ版も見てみましたが、今のところRSSリーダー機能はついていないようです。今後はどうなるかわかりませんが、RSSの知名度が上がるという点ではいいことだと思います。
企業ではまだWindows 98を使っているところもあって、Windows XPも登場してから4年近く経ちますが、まだ市場には無視できない数の古いWindowsが存在しています。これがVistaになるともっとスペックの高いPCが必要になってユーザーの敷居も高くなり、結果として普及するのかどうか疑問なところもあります。
また、仮に5年後にWindows Vistaが普及したとすれば、その頃にはもっと新しい市場もあるのではないでしょうか。RFIDはうまくいけば後5年くらいで普及するといわれていますが、スーパーマーケットなどがタグで情報を管理するようになれば、そのタグ情報の管理も必要になるでしょう。
そういった情報管理のニーズはPCからリアルの世界にどんどん近づいていて、現実の世界でもRSS的なものが出てくるのではないか。その時に企業から消費者に届けたい情報もあると思いますし、レッドクルーズとしてはRSSに限らず情報をまとめてコントロールしていければと考えています。
よく情報は海に例えられますが、レッドクルーズという社名は情報の海を快適に航海するためのツールを提供していく、との意味でつけられました。今後もそういった情報のコントロールをターゲットとしてビジネスを進めていきます。まずは今年をRSS元年にしたい、それが今の目標ですね。
――本日はありがとうございました。
■ URL
レッドクルーズ
http://www.redcruise.com/
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(甲斐祐樹)
2005/09/30 11:04
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