ブログの特長であるトラックバックにちなみ、ブログ関連サービスに携わる方を次々に紹介していただき、ブログの世界をつないでいくインタビュー連載です。第6回は、ブログサービス「ココログ」を運営し、はてなと共同でブログ認知度向上キャンペーンを展開しているニフティの清田一郎氏です。
清田一郎(きよた いちろう) ニフティ ソーシャルシステム部所属。2003年12月に、米Six Apartのブログサービス「TypePad」をベースとした「ココログ」を立ち上げる。現在ははてなと共同でブログの認知度向上キャンペーン「ブログる場合ですよ!!」を展開中。
□ココログ
http://www.cocolog-nifty.com/
|
|
■ ブログはインターネット全体を変える存在
――本日はよろしくお願いします。はじめに、ニフティがココログを始めたきっかけを教えてください。
清田氏:インターネット時代になって、無料掲示板をはじめとするさまざまなコミュニティが登場しましたが、正直なところ、ニフティは個人ホームページ以外では出遅れている感がありました。パソコン通信時代からコミュニティの運営を大切にしているニフティとして、「インターネットで何ができるだろうか」ということは常に模索し続けていました。
その一環として、米国で流行しているというブログについて調べてみたところ、インターネット上のコミュニケーションツールとして新しい可能性を持っていると気づき、2003年の春頃から「もしかしたらブログでインターネット全体が変わるかもしれない」なんて話をしていました。ちょうどその頃、米国の駐在員も「最近ブログが流行している」というレポートを提出していて、(現在ははてなに勤務する)伊藤直也くんがかつて所属していた開発部でも、ブログについて調べていたのです。
ただ、方向性はさまざまで、駐在員は「流行している」というレポートを提出したのみで、開発部ではニフティのホームページサービス「@homepage」の新機能として日記ツールを提供することを考えていたようです。そのため、実際のサービス提供についてはみんなで集まって議論を交わしました。その中で出てきた「@homepageの拡張機能ではなく、まったく新しい夢を感じさせるようなものとして出していこう」というアイディアを重視した結果、今のココログが立ち上がりました。
|
ココログの中から優秀な作品を書籍化するプロジェクト「ココログブックス」。1月22日には表彰パーティを兼ねた「ココログ新年会」も開催される
|
――2004年はさまざまなブログサービスが登場しましたが、その中でココログの強みは。
清田氏:1つはニフティそのものの強みでもありますが、コミュニティを運営するコツを押さえている点です。サーバーの応答速度や安定性には、神経質なくらいに気を使っています。タグやアップロードするファイルに不要な制限はかけていませんし、トラブルが発生した際の対応にも十分な実績と経験があります。ココログの強みは、「ユーザーにとって安心かつ安全に使えるブログツールだ」という点にあると考えています。
また、我々がブログで注目しているのは、これまでインターネットで情報を発信することのなかった、初心者や時間のない人たちが、情報発信やコミュニケーションを楽しむことができるツールだという点です。こういった層にブログを楽しんでもらうために、我々は「ココログナビ」というサービスを始めました。ココログナビでは、ブログを楽しむ際に障害となりそうな「使い方がわからない」「楽しめない」「仲間が欲しい」といった問題を解決するためのさまざまなコンテンツやサービスを提供しています。「ブログという新しいテクノロジーに触っているだけで楽しい」という層以外へのアプローチを、最初から意識していますね。
最近では「ココログブックス」という、ブログを書籍化するプロジェクトも始めました。我々はココログユーザーのブログを全部とは言わないまでもほとんど見ていて、その中で文章の面白い人には出版への道を提示したり、イラストレーションの能力に優れていればテンプレートやココログのイラストを描いていただいたりなど、ユーザーの人生が広がるような出口を提供しようと常々考えています。ココログは機能的な差別化ももちろん、それ以上に「ココログに参加しているユーザーを常に大切にしよう」としている点が大きな特徴ではないでしょうか。
□関連記事:@nifty、ココログで作成した記事を書籍化する「ココログブックス」
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/6808.html
■ 「ブログは日記」はブログの可能性のほんの一部に過ぎない
――ユーザーが作るテンプレートというお話がありましたが、それはココログデザインを通じて提供されるのでしょうか。
清田氏:そういった可能性もあると思います。ココログでは、ココログ関係のアプリケーションを作った方々はすべてココログナビのリンク集コーナーに登録しています。これもニフティの伝統かもしれませんが、パソコン通信とシェアウェア作者というか、ココログのためにツールを作っていただいた方は大切にしていきたいと思っています。それがユーザーが作ったココログテンプレートだったり、あるいは文章能力に優れている方をココログブックスを通じてコラボレーションするなど、いろいろな方法があると思います。
ココログデザインは、イラストや写真をあしらったテンプレートを提供する新サービスですが、ユーザーのブログの見た目を決定するサービスですので、徹底してセンスとクオリティにこだわりたいと考えています。また、ココログデザインには、同じテーマのテンプレートを使っているユーザーを一覧表示する「ラブリング」というコミュニティ機能も提供しています。同じテンプレートを使っている人であれば趣味や嗜好が似ている可能性も高く、そういう形で友達を見つけていく可能性もあるなと考えています。
ニフティには「With Us, You Can.」という言葉がありますが、その「You」の意味の1つはユーザーなんですね。我々がサポートしながらもユーザーを巻き込んで何かできるように、という方向で常に発想しようと思っています。
□関連記事:ココログ、女性向けテンプレートを提供する「ココログデザイン」
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/7790.html
――「ココログアフィリエイト」も始まりましたが、現在は書籍のみに限定されています。今後の展開は。
清田氏:まずは書籍から試してみようという段階ですが、今後は「ココログアフィリエイト」という名の下で結構激しい展開をする予定です。続々と機能やサービスを展開していって、「なぜブログをやるのか」というモチベーション向上の一助にしたいと思っています。
よく「ブログは日記だ」と言われますが、そうした言い方はブログの可能性のほんの一部しか見ていないと思いますし、我々サービスの提供側からしても、そういう捉え方はブログのシーンを縮小していってしまうと思います。なぜなら、日記を書く人もそれを読む人もそれほど多くないですし、「インターネット上に日記をさらすのは嫌だ」という人も根強くいるからです。
しかし、ブログはもっといろいろな使い方ができます。クラフトをやっている人が自分の作品をブログで公開したり、いくつかの有名ブログのようにコラムを書いたりしてもいい。あるいはまったく書かなくなっても、何かのニュースにある日反応して、そのニュースについての意見を書くだけでも、新着記事一覧などで広がっていく。自分の日常を書く必要もないし、毎日書く必要もない。自分が思ったことを思ったときに、アクセス数なんて気にしないで本音で書けばいい。
もちろんアクセス数にこだわるのもいいですし、アフィリエイトが最終目的でもかまいません。ブログはいろいろな使い方があるツールですので、個人的には「ブログは日記である」という説明を無くしていく運動を展開中です。はてなの近藤社長はブログを「人生記録装置」と名付けており、眞鍋かをりさんは「友だちにメールするような感覚」と称していますが、私たちとしても、日記以外の「何かを記録する」というブログの使い方を提案していきたいと思います。
□関連記事:@nifty、@niftyBOOKSとAmazon.co.jp対応の「ココログアフィリエイト」
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/7331.html
――携帯電話からの閲覧など、今後予定している新機能はありますか。
清田氏:携帯電話からの閲覧機能は検討項目に入っていて、順次展開していく予定です。ここ1年くらいは携帯電話について話していたのですが、まずはサーバー増強などを最重視していました。弊社の場合、「サービスを頑張ろうと人気が出ようと、スピードが遅かったら話にならない、すべてをストップしてでも速くしなさい」という会社なので。速度については一段落しましたので、携帯電話対応もそろそろでしょうね。
ブログ機能という意味では、TypePadと歩調を合わせながら、その上で独自のサービスを展開していくことになるでしょう。ソーシャルネットワークサービス(SNS)やRSSリーダーなどのサービスは、より密に連動していきたいですね。ブログのオープン性を外さないようにしつつ上手に融合していくこと、それはもはやブログとは呼べないかもしれませんが、新しいソーシャルソフトウェアとして随時検討しています。
――@niftyでは携帯電話専用のSNS「フレリン」も運営していますが、フレリンとココログの連動の可能性は。
携帯のユーザーとPCのユーザーは特性がまったく違うので、マーケットが異なるサービスを単純に繋げてもあまり意味がないかもしれません。PC向けのSNSや、フレリンのPC展開という可能性はあるかもしれませんね。
□関連記事:@nifty、携帯専用ソーシャルネットワークサービスを正式提供
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/7161.html
■ 有名人ブログやはてな共同キャンペーンで「競争よりまず認知を」
|
ココログを使っている有名人ブログ。眞鍋かをりがメガネ写真を公開した記事「なりきりTommy february6」は1,000近くのトラックバックを集めて話題に
|
――木村剛さんや室井佑月さん、眞鍋かをりさんといった有名人ブログが話題を集めていますが、有名人ブログの狙いは。
清田氏:ココログの開始当初はブログという言葉を誰も知らなくて、今後知られるのかもわからない状態でした。業界でも「ブログは流行せずに滅びるだろう」という意見が主流だったと記憶しています。その中でどうやってブログを広めていくか、と考えていた時に出てきたアイディアが有名人ブログですが、条件がいくつかありました。
1つは「あなたがやろうとしていることは単なるコラムではない。ブログとはこういう機能があって、こういうことができて、こんな未来があるんだよ」ということを直接本人に説明するということ。2つ目は、その説明の上でブログに興味を持っていただいた方に書いてもらうということ。ココログの有名人ブログは、ブログとは何なのかを一通り知っていて、「ちょっと面白いかも」と思った方ばかりなんですね。なのでそのブログを中心としたコミュニティも生成されるのだと思っています。
単にFAXで送られてきたエッセイを担当者が入力したブログでは、その有名人そのものの生の興奮がないので、読んでいて楽しくないし、コミュニティ的な広がりも期待できないでしょう。眞鍋かをりさんはもともとパソコンが好きな方ですが、トラックバックなんてマニアックな言葉を平気で使っています。ユーザーからのトラックバックもとても嬉しいみたいで、それは加藤ローサさんら、他の有名人の方も同じですね。
今後は有名人同士、または有名人から一般人へのトラックバックや、木村剛さんのように有名人と一般人がコラボしてオフ会が開催されたり、ひょっとしたらトラックバックで有名人に彼氏ができる、なんてこともあるかもしれません。有名人の生の顔が見えるのがブログのいいところなので、それを表現してもらおうと運営しています。
□関連記事:@nifty、ココログにて眞鍋かをりの日記をブログで公開
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/5821.html
□関連記事:@nifty、ココログで「加藤ローサのBlog de チェキ日記」を公開
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/5699.html
――はてなとの共同キャンペーンも展開中ですが、この狙いは。
清田氏:ブログの認知度は高まっているとはいえ、実際にはほとんど認知されていないという認識がニフティ内にはあります。そのためにブログをとにかく知ってもらおうというプロモーションの一環として始めました。
その一方、業界ではブログ乱立の時代になっているのですが、今は互いに狭いマーケットでシェアを食い合っている場合ではないと思います。この状態では、ブログは近いうちに滅びてしまう危険もあるでしょう。
はてなは競争相手ではありながらも一緒にブログの市場を広げていこうという仲間でもあるので、一緒になってブログを盛り上げていこうとしていることをマスコミや業界関係者、あるいはブログ業界に興味のあるブロガーに知っていただきたいと思ったのがそもそものきっかけです。もちろんブログの認知度も高めたいので、有名人の強力を仰いで、どんどんブログについて知ってもらおうと思って始めました。
――はてなを共同キャンペーンの相手に選んだ理由は。
清田氏:他のブログに比べて、はてなはココログに似ている部分があると思っています。はてなは「はてなダイアリーキーワード」でコミュニティが形成されていて、ココログはオープンな機能ながらもニフティのDNAと言うべきか、コミュニティ化しているブログが多いと感じているので、「この2社はユーザーレベルで仲良くできるのでは」と考えました。
□関連記事:ニフティとはてな、ブログ認知度向上のための共同キャンペーンを展開
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/7847.html
■ 有料ユーザーを柱にココログのみで黒字化を達成
|
有料版の「プラス」「プロ」。アクセス解析やオンラインアルバム、複数ブログ開設など多彩な機能が利用できるほか、容量も拡張できる
|
――収益面から見るとココログはいかがでしょうか。
清田氏:正確な数字は明かせませんが、ココログのみで黒字化を達成しています。内訳は有料ユーザーの料金がほとんどですね。有料ユーザーのパーセンテージは、無料を合わせたユーザー全体のうち二桁を占めるといったところです。二桁といっても10%程度ではなく、もう少し上の数字です。通常、有料と無料を合わせたサービスの有料ユーザー率は0.4%と言われているので、それに比べたら多いでしょうね。このほかに、「いきなりブログ」というパッケージや、有料のココログデザインなども収益に含まれます。
――有料サービスではプラスとプロ、どちらのユーザーが多いのでしょうか。
どちらもだいたい同じくらいの人気ですね。ココログプラスは「ちゃんとブログをやりたい」向けにさまざまな機能を追加し、ココログプロは「より本格的にブログをいじりたい」人向けに、詳細なカスタマイズ機能や大ディスク容量を提供しているサービスです。
逆に、無料のベーシックは気軽にブログを始めたい、試してみたいというユーザー向けなので、必要最低限の機能に絞っています。調査も行なったのですが、たとえばブログのカラーデザインを選択できる機能も、本当の初心者が触ると「僕にはデザインセンスないなぁ」と感じてそこで疲れてやめてしまう。ベーシックの機能拡張もいろいろ検討はしていますが、単にブログを始めてみたい人を混乱させることは避けたいと思います。
□関連記事:@nifty、ブログサービス「ココログ」の高機能プランを提供開始
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/4643.html
――今後の収益の展開は。
清田氏:ココログはおかげさまである程度の成功を収めたので、今後はさまざまな展開の可能性があると思っています。詳しくはまだ言えませんが、一般論では広告展開やアフィリエイト、有料サービスがあるでしょうし、対象デバイスを(PC以外に)広げることで収益が発生する可能性もあると思っています。
広告展開と簡単に言いましたが、広告展開の中にもさまざまな可能性があると思っています。単なるバナーではなく、ココログを1つの大きなコンテンツとコミュニティの集合体と捉えた時、そこに広告的な売上が発生する可能性が見えてきます。例えば、ココログでは1つのブログのアクセス数が平均100程度で、もしココログテンプレートを2,000人が使ったら20万人が見る計算になります。そうするとテンプレートそのものが広告になるといった広告商品もあるでしょう。
――ブログを利用したココログ以外の展開について教えてください。
清田氏:ニフティ全体のサービスをXML-Webサービス化して、サービス間の連携を可能にしたいと考えています。ニフティのシステムは確立されているものが多いので、すぐにとはいきませんが。これが実現すれば、例えば、自動車のサイトを新たに立ち上げようというときに、ニフティ内の車に関するサービスを連動し、ユーザーからは別のサイトへジャンプした意識をさせることなく、1つのサイト内でいろいろなサービスを提供できるでしょう。
ニフティにはたくさんの占いサービスがありますが、それは占いサービスへアクセスしないと利用できない。例えばココログのユーザーサイドバーに占いがついていてもいいかもしれませんし、XML-Web化ではそういうことが簡単に実現できます。それは我々の持っている資産を2倍にも3倍にも活用できる道でしょう。インターネットは放っておいても5年後にはそうなっていくと思いますが、ニフティとしてもXML-Webサービス化を推進していきたいと思います。
――本日はありがとうございました。
次回は、RSS検索「Bulkfeeds」運営やブログ解説書「Blog Hacks」執筆を担当、現在はSix Apartに所属する宮川達彦氏にお話をお伺いいたします。
□Bulkfeeds http://bulkfeeds.net/ | |
■ URL
ニフティ(@nifty)
http://www.nifty.com/
ココログ
http://www.cocolog-nifty.com/
(甲斐祐樹)
2005/01/14 11:17
|