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CATVのインフラ(3)
CATVでインターネット


 電話回線や専用線が主流だった時代に、安価で高速な常時接続環境を実現する新しい手段として登場したCATVインターネット。ADSLやFTTHの登場で話題性こそ薄れてしまったものの、現在も着実に加入者数を伸ばしており、既に100万人を越えるユーザーが、インターネットのアクセス回線に、このCATVのインフラを利用している。イッツ・コミュニケーションズの取材をもとにお届けするCATVのインフラ第3回は、そんなブロードバンドの旗手「ケーブルインターネット」の世界に迫ってみたい。

 総務省の発表では、2001年6月末のDSLサービス加入者数29万1000人に対し、CATVは96万7000人となっている。最新のデータでは、8月末にDSLが51万人。CATVは四半期の集計であるため実数は不明だが、過去のデータから110万人弱と推測でき、全国規模(エリアカバー率98%)で展開しているフレッツ・ISDN(8月10日に100万回線突破)と並ぶ、たいへんポピュラーな常時接続網といえる。

 ケーブルインターネットの第1号「武蔵野三鷹ケーブルテレビ」が商用サービスを開始したのは、1996年10月のことである。定額+従量制だったため、今のようなリーズナブルなイメージはなかったものの、ブロードバンド化に向けた大きな第一歩だった。東急ケーブルテレビジョン時代のイッツ・コミュニケーションズが、商用化を前提としたインターネット接続サービスの計画を明らかにしたのは、そんな第1号の誕生から遡る1年前のことだった。当初は、1997年4月のサービス開始をめどとした計画だったのだが、途中、導入を予定していたHP(Hewlett-Packard)社がケーブルモデム事業から撤退。予定は1年遅れてしまったが、98年4月に無事本サービスの開始となった。

 以来3年半で、インターネットサービスの加入者は5万。テレビ(多チャンネルサービス)とは比べ物にならないスピードで増加しているという。また、インターネット単体という契約は意外と少なく、8割強がテレビと併用する形で利用されているそうだ。今後はIP電話の計画もあるようだが、セットにするとグ~ンとお得(インターネット5200円、テレビ3800円、併用7000円)というのが、CATVならではのセールスポイントといえよう。


□インターネット接続サービスの利用者数等の推移(総務省)
http://www.joho.soumu.go.jp/pressrelease/japanese/sogo_tsusin/net_sokuhou.html
□DSL普及状況公開ページ
http://www.joho.soumu.go.jp/whatsnew/dsl/


双方向インフラが支えるケーブルインターネット

双方向通信の帯域マップ
 イッツ・コミュニケーションズが早くからインターネット事業に参入できたのは、同社のインフラが当初より双方向サービスを前提とした設計になっていた点にある。テレビの再送を専門としてきた旧世代のCATVシステムが、局から加入者宅への下り方向の伝送しか想定していないのに対し、上り方向にも伝送できるように作られていたのだ。

 双方向通信の仕組は、異なる周波数帯域に振り分けることによって、1本の同軸ケーブルで複数の番組を伝送しているのと同じように、上り方向と下り方向の通信を周波数帯で分割する。基本的にはどのように分割しても構わないが、帯域の大半は、CATV本来の放送に使用しているので、上り用には未使用の低い周波数帯を使用する。テレビの第1チャンネルは90MHzからだが、その下のFM放送(76~90MHz)も再送の対象であり、具体的にはこれらと干渉しないように少し間を空けた10~55MHzが下り用の回線として使われる。当然、局から加入者宅に至るまでのアンプや分配器といった中継機器も、すべてこの双方向仕様になっていなければいけないので、双方向化されていない再送専門局からのインターネット事業参入には、かなりのコストと時間を要することになる。

 既にインフラが整備されていた同社では、1994年から双方向テレビやCATV電話、PHS/C(Personal Handy-phone System on Cable~PHSのアクセス回線にケーブルテレビを使うシステム)などの実験に着手。各種実験の成果が、ケーブルインターネットという形でまずは実を結ぶことになったのである。

 では、実際のシステムはどうなっているのだろう。CATV網の下り回線の信号を受信してPC側のインターフェイス(一般に10BASE-T)に変換したり、ユーザー側の信号を変換して上り回線に乗せる役目を担う、ケーブルインターネット用の送受信器をケーブルモデムという。CATV網の末端は、テレビもインターネットも同じアンテナ用のF型コネクタになっており、ケーブルモデムの網側は、テレビと同じように同軸ケーブルを使って接続する。イーサネット側のモジュラージャックは、PCのネットワークカードやハブと接続する。

 間にケーブルモデムが入るが、基本的にはセンターのLANに直結したのと同じで、ダイヤルアップやPPPoE、PPPoAのような特別な接続手続きは不要。PCを起動すればIPアドレスなどを自動的に取得し、いつでも通信できる状態になる。イッツ・コミュニケーションズの場合には、プライベートアドレスで運用しているため、一部のゲームなどが利用できないケースが予想される。が、その代わりといってはなんだが、端末の接続台数に制限がないというのが1つの特徴である。ハブを介せば家中のPCで利用できるし、間にルータを入れて家庭内のLANと分離するのも自由である。

 電話網と異なり、局からツリー状に分岐していくCATV網の場合には、加入者側の数百~数千台のケーブルモデムが、センター側の1台のモデムと通信を行なう。このセンター側のモデムをCMTS(Cable Modem Termination System)といい、これが加入者側の全モデムをコントロールするケーブルモデムの親玉である。インターフェイス的には、CATV網のヘッドエンドシステムとバックボーンのネットワークを結ぶ装置であり、F型のRFインターフェイス(上りと下りに分かれているが)とイーサネットやATMなどのLAN/WANインターフェイスを持つ点は、加入者側のものと同じである。

 通常は、このCMTSの先が局のLANになっており、ここに局内の各種サーバーを設置。ルータを介して、外部のネットワークに接続する。イッツ・コミュニケーションズの場合は、6つの放送センターが622MbpsのATMネットワークでつながっており、放送と同様、インターネット関係もすべて中央の「たまプラーザ放送センター」に集結。ここから、210Mbpsの専用線で上位のIIJに接続している。

イッツ・コミュニケーションズの構成

ケーブルモデム

 上下用に割り当てたRF信号を使ってデータ通信を行なうケーブルモデムは、簡単にいえば、電話回線で使うアナログモデムのRF版である。以前に登場したADSLモデムのときには、広い帯域(といっても数百kHzだが)をドーンと使えないADSLモデムならではの苦労話をお伝えしたが、広帯域伝送を前提としたCATV網の場合にはその心配もないようで、純粋な伝送部分は、アナログモデムの周波数帯をそのまま高周波、広帯域化したような感じである(通信の管理や制御面のプロトコルは複雑化しているが)。なにせ相手はテレビの信号を送るケーブル。1チャンネルあたり6MHzもの帯域が使えるので、変調速度でスピードを稼ぐのは訳のないことなのである。

 イッツ・コミュニケーションズが使用している、Terayon製のケーブルモデムは、ケーブルモデムの中でもちょっと変わった製品で、変調後の信号を広帯域に拡散して多重化するS-CDMA(Synchronous Code Division Multiple Access)という伝送方式(ノイズに強くセキュリティが高いといわれている)を使用。上下ともに6MHzの帯域をフルに使い、非対称ではなく対称の伝送を行なえるのが大きな特徴である。

 転送速度は1チャンネルあたり最大14Mbps、ネットワーク上のデータ帯域は最大8.2Mbpsである(イッツ・コミュニケーションズでは、公称14.3Mbpsのベストエフォートとしているが、おそらく純粋な転送レートを指しているのだろう)。ただしCATV網の性質上、この帯域が配下の全ユーザーで共有されるため、上位回線にいく前に、アクセス回線上で帯域不足が発生する可能性がある。同社の場合には、各サブセンター単位での共有になっており、現在は下り回線にそれぞれ2チャンネル分を使用。今のところ、アクセス回線上での帯域不足は発生していないそうだ。ちなみに、数百k~数Mbpsで帯域制限をかけている局が多いが、同社の場合は、特に帯域制限もかけていないという。また、常時安定して1Mbpsが出せることを努力目標に挙げていたことも付け加えておく。

 末端で分岐していく下り回線に対し、CATVの上りは、多数の回線が1本に合流していくスタイルになる。このため、末端のわずかなノイズが次々に積算され(流合雑音という)、上り回線は十分なSN比が得られないことが多い(*1)。SN比が悪ければ、伝送速度を下げるなどの対処が必要となる。チャンネルそのもの絶対数が少ないので、チャンネルを移動して回避したり、チャンネルを増やして帯域を拡大することはままならないのだ。HFC化が進みさらなる広帯域化が期待されるCATVではあるが、こと上り回線の周波数帯域に関しては、今後も改善の予定はないため(現行の機器がすべてそのように設計されている)、インターネットの使い方によっては、この点に大きな不満を感じるユーザーもいるだろう。ちなみに同社では、上りは128kbpsで帯域制限をかけているようで、他局も上りは概ね数百kbpsである。

*1 加入者宅からの流合雑音を防ぐために、一般にケーブルモデム用のアンテナ端子だけ特別に、上り帯域を伝送できるようにしている。このため、ケーブルモデムは別のコネクタに移動することができず、同軸ケーブルを外すことを禁じたり、最初から外せないように固定されていることも多い。


もう1つのケーブルモデム

 代表的なケーブルモデムには、このほかにDOCSIS(Data Over Cable Service Interface Specification)という規格がある(先のTerayonもDOCSIS仕様の製品をリリースしている)。この規格は、米国のCATVプロバイダの業界団体MCNS(Multimedia Cable Network System)が推進するもので、国内でも多くの局が採用している。

 DOCSISモデムは、アナログモデムやデジタル放送に似たストレートな変調を行なっており、タイミングをずらして送信を行うTDMA(Time Division Multiple Access)方式で多重化を行なう。伝送速度は、下りが6MHzをフルに使って30Mbpsないし43Mbps(実効率は27Mbps/38Mbps)。速度が異なるのは、2種類の変調方式(64QAMと256QAM)の違いで、低速なほうが当然ノイズに強い。

 コンディションの悪い上りには、下りよりもさらにノイズに強い(言い換えると効率の悪い)2種類の変調方式(QPSK/16QAM)と5種類の変調速度(60/320/640/1,280/2,560baudの5種類で使用帯域は0.2~3.2MHz)が用意されおり、最大で5Mbpsないし10Mbps(実効率4.5Mbps/9Mbps)となっている。現在はさらに、先のS-CDMAとA-TDMA(Advanced frequency agile Time Division Multiple Access)を使った時期バージョン「DOCSIS 2.0」の開発も進められており、上りの伝送速度が、下り並みの30Mbpsに拡張されるそうである。上りに難のあるケーブルインターネットだが、まだまだ今後が楽しみだ。


□イッツ・コミュニケーション
http://www.itscom.jp/

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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