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ADSL事業者のネットワーク(4)
イー・アクセスのネットワーク~噂のインターネット電話


 受話器の代わりにモデムをつなぎ、声の代わりにデータを乗せて、遅いながらも楽しいインターネットライフが始まったのは、ほんの少し前のことである。「アクセス用にもう1本引いちゃおうかな」「ISDNが引けるようになったみたい」「かっ飛び64kbps」なんてことをやっていたかと思ったら、あっという間に今度はインターネットから電話がかかって来る時代になってしまった。もちろん「ピ~ヒョロヒョロ」というわけのわからない奴ではなく、れっきとした「もしもし」の方。いわゆるインターネット電話の登場である。

 電話のネットワーク(PSTN~Public Switched Telephone Network~公衆電話交換網)に他の通信網を組み合わた通話ができるようになったのは、95年4月からである。当初は、片端に接続する、いわゆる「公―専」接続だけだったが、96年10月には、間を中継する「公―専―公」接続が、1997年12月には 「公―専―公」の国際接続も解禁され、あらゆるスタイルの相互接続が実現できるようになった。これに伴なって、各社からリーズナブルな電話サービスが次々に登場し、優先接続制度「マイライン」の登場を機に、通話料の価格崩壊が一気に加速していったのである。

 これと並行して、「専」の部分にインターネットを使う、インターネット電話もチラホラ登場しはじめたが、当時は、話題性以外にいまひとつパッとしなかった。なにせ、インターネット接続(あるいは通話用のアクセスポイントへの接続)自体がまだダイヤルアップだった時代。通信速度も遅いし(音質の低下や遅延に直結する)通話料もかかるしで、あまりいいことがなかったのだ。国際電話あたりになると経済効果も大きいのだが、一般ウケするメリットとはいい難い。が、インターネット電話に充分なクオリティをもたらすブロードバンド回線が、非常にリーズナブルな定額制で提供される様になると、そんな状況も一変する。長距離はもちろん、比較的近距離でも安さが大々的にアピールできるようになったのである。



イー・アクセスのインターネット電話

 さて、そんなインターネット電話だが、イー・アクセスのシステムはどのようになっているのだろうか。

 IP(Internet Protocol)上で通話を行なう技術を総称してVoIP(Voice over IP)と呼んでいる(筆者注1)。このVoIPを使い、PSTNの一部あるいは全てにIPネットワークを用いたものが「インターネット電話」あるいは「IP電話」と呼ばれているサービスで、各社からさまざまなソフトウェアやハードウェアがリリースされている。端末(電話機)がソフトかハードによって、利用形態が「受話器―受話器」「PC―受話器」「PC―PC」の3タイプになるが、この辺は専用ハードの有無の問題。ネットワーク的なサービス形態としては、IPネットワークだけですます「専」タイプと、一部に使う「公―専」と「公―専―公」の3タイプに分類できる。

 全てIPネットワークというのは、インターネット上で行なう音声チャット、あるいはその延長にあるサービスで、身近なところでは、各社のメッセンジャ(IM~Instant Messenger)がこの手の機能をサポートしている。Yahoo! BBのBBフォンやCATV局等が提供する電話サービスは、専用のハードウェアを使用しているが、加入者間で通話を行なう際のネットワークは、このタイプになる(必ずしもIPネットワークを使用しているとは限らないが)。接続相手が限られるが、PSTNに接続しないのでコスト的には最も安上がりな方法で、外部への支払いが基本的に生じないことから無料という極端なところもある(終日無料のところもあれば夜間のみのところもあり対応はさまざま)。

 イー・アクセスのサービスは、一部にIPネットワークを使った「公―専」タイプである。接続には、MicrosoftのMessenger(Windows XP付属のWindows Messengerまたは、MSN Messenger)の機能を使用する。対応ハードは今のところ無いため、かけるける方は、電話らしさの微塵もないPC+ヘッドセットの世界だ。インターネット上の「PC―PC」接続は、Microsoftの基本サービスとして提供されており(もちろんこちらは無料)、イー・アクセスが受け持つのは専ら「PC―受話器」の方。そのための認証や基本的な制御等は、Microsoft側のシステムが担当しているので、イー・アクセスの役割は「公―専」のゲートウェイと言ってしまった方が適切かもしれない。

イー・アクセスのインターネット電話
資料提供:イー・アクセス

 イー・アクセスのADSLユーザーや特定のISPのユーザー専用のサービスではなく、MicrosoftのMessengerとPassportサービスさえ利用できれば、誰でも利用できる、一般の電話機にかけられるインターネット電話サービスである。ただし、インターネット経由でアクセスする一般ユーザーと違い、イー・アクセスのADSLユーザーは、インターネットを通らずにダイレクトにアクセスできるという点が異なる。例えば、イー・アクセスのインターネット電話は、通常の電話と変わらない品質で通話できるようになっているが、そのためには、120~150kbps程度の帯域をコンスタントに得られる環境が必要になる。

 品質と帯域はトレードオフの世界なので、遅延が少なく、なんとなれば帯域保証も可能な閉じたネットワークの中と、不確定要素だらけのインターネット経由とでは、品質に差が出てしまう可能性がある。同じベストエフォートでも、イー・アクセス内の120kbpsは微々たるものだが、これがモロにインターネットを経由して来るとなると、時には重い120kbpsになってしまうのである。

 さて、通話料の安さが魅力のインターネット電話だが、既に挙げたほかにも、着信できないとか、利用できないサービスが多いといった欠点も数多くある。よくいえば、既存の電話を補完する存在であって、決してリプレイスする存在ではない。悪く言えば、コストのかかることを避け、安さを売りに採算がとれるところだけメニューにしたサービスともいえる。ひとつひとつ挙げて行くとキリがないが、着信に関しては、総務省が「050」から始まる11桁の番号をインターネット電話に割り振る方針を打ち出しており、将来的には、実現できる可能性は見えてきた。

 利用できないサービスとして特に致命的なのは、携帯にかけられない点(筆者注2)と緊急通報ができない点(筆者注3)だろうか。前者は、携帯キャリア側によるところが大きいが、緊急通報ができず回線の信頼性もあやふやとなると、ライフラインとして全く頼りにならない。少なくとも現状では、インターネット電話の他に固定電話や携帯電話が必須なのである。

 まだまだ歩き始めたばかりのインターネット電話なので、至らぬところも多々あるのだが、やはり「安い」というのは、何にも勝る強力な魅力であることはいうまでもない。そんなインターネット電話の未来を夢見つつ、インフラ探険隊は今回でひとまずお休みをいただくことにしたい。

筆者注1:
 一般には、ITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)で標準化された、IPネットワーク上でオーディオ/ビデオ/データ通信を行うマルチメディアプロトコル「H.323」に準拠したものが広く使われている。
筆者注2:
 携帯電話からかける通信費を下げると、ユーザーに直接かかる通信費が圧縮できるので、コストパフォーマンスのアピールには非常に都合がよい。したがって、キャリアはこちらを下げるのに一所懸命になるが、直接は見えない着信の方はさっぱりで、価格的に非常な不均衡が生じている。携帯キャリアが提示する接続料では、インターネット電話の安さがアピールできないくらい高価になってしまうのだそうだ。
筆者注3:
 110番などの緊急通報には、例えば、発信者が電話を切っても回線は切れずに保留の状態を保つなどの特別な条件を満たさなければならないため、一般の電話につなぐのとは異なる。

□イー・アクセス
http://www.eaccess.net/


(2002/06/07)

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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