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海底ケーブルネットワーク(4)
ベールを脱ぐ光通信技術


今回、光通信や海底ケーブルについていろいろなお話を伺った枝川登氏
 1980年代後半に商用化された光通信技術は、その後の10年で飛躍的な進歩を遂げた。ファイバ1本あたりの伝送容量は、年2倍のペースで増加を続け、たった10年で1000倍以上の大容量化を実現してしまった。パソコン同様、これもデジタルなエレクトロニクス技術の進歩の賜物と思いきや、その根底を支えていたのは、意外とアナログな光技術の結晶だった。

 海底ケーブルネットワークの秘密を探るインフラ探検隊。今回は、その基盤となる光通信技術の開発現場を訪ねて、新宿のKDDI本社から20kmほど北上。埼玉県上福岡市にあるKDDI研究所にやってきた。ここKDDI研究所は、移動体通信やIPネットワーク、マルチメディアなど幅広い分野にわたる基礎研究や技術開発、システム開発などを行なっているところ。今回はその中のひとつ、光通信や海底ケーブル分野の研究開発を行なっている光通信グループにおじゃまし、グループリーダーである工学博士・枝川登氏にお話をお伺いした。お忙しい中、貴重な時間を割いてくださった枝川氏ならびに、セッティングにご尽力いいただいた広報部、企画・報道グループの石塚潤三氏には、この場を借りて改めてお礼を申し上げたい。

 日米間を光で結ぶ最初の海底ケーブル、TPC-3(Trans Pacific Cable-3)が開通したのは1989年。光化によって、それまでの数倍にレベルアップした海底ケーブルではあるが、当時の容量はまだ、わずか280Mbps。光が本領を発揮するのは、その後に登場する光増幅という技術と、これを使うことによってはじめて意味を持つようになった波長多重という技術が使えるようになってからのことである。まずはその少し前、光通信の実用化に至るまでの基礎技術から覗いてみよう。



光通信の基礎技術

 光通信は、電気の1・0信号を光の点滅に置き換え、ファイバを使って遠くまで伝送しようという技術である。光通信の研究開発が始まった1970年代は、光通信の要となる半導体レーザーや光ファイバが登場したころで、最初の10年間は、これら基本技術を切磋琢磨していく時代だった。もちろんその立て役者は、1本のガラス繊維「光ファイバ」。いかに光の減衰をなくし、閉じ込めた光をできるだけそのままの形で遠くまで送れるようにするかというのが、当時の大きなテーマであり、そのための研究開発が盛んに行なわれた結果、光通信が商用レベルの通信技術として利用できるようになった。

 窓などに使われているガラスの断面を見たことがあるだろうか。おそらく、緑色で全然透き通っていなかったはずだ。透明だと思っていたガラスも、厚さが増すに連れてどんどん透明度が薄れてしまい、やがては光が全く通らなくなってしまうのだ。光ファイバも同じガラスの仲間なのだが、こんなお先真っ暗なガラスではまったく話にならない。光が遠くまで届くように、どこまでも限りなく透き通ったものににしなければいけない。通信に使う光ファイバには、非常に純度の高い石英が使われているが、その透明度は、冬の晴れた日の大気の透明度に匹敵するといわれている。こんな日は、東京だと100kmくらい先にある富士山までよく見えるのだが、レーザー光にとっての光ファイバは、それくらいの透明感なのだそうだ。これが1970年代初期の光ファイバだったら、おそらく新宿から上福岡すら見晴らせなかったことだろう。

 そんな石英ファイバの中を通る光信号は、光の波長によって減衰する割合が異る。損失がいちばん少ない光波長は、1.5μm(周波数にすると200THz)付近であり、現在の光通信には、このもっとも低損失な1.5μm近辺の波長が使われている。点滅する光を作り出す光源となるのが、半導体レーザー(*)。CDやDVDなどのピックアップにも用いられている、あのピカっと光るデバイスだ。半導体というのは、電流を通す導体と通さない絶縁体の中間にある物質で、微量の不純物を加えるとその性質が大きく変化する。添加物の電子が余っているか不足してるかによって、半導体はN(Negative)型とP(Positive)型に分類され、電子が余っているN型は電子が、不足しているP型は正孔が電荷を運ぶ。この2種類の半導体を接合して電流を流すと、接合境界付近でいろいろな現象が起こるのだが、添加物によっては、電気エネルギーを光の形で放出する現象が現われる。この光を発振させて取り出すのが半導体レーザーの仕組である。

* レーザーという名前は、誘導放出による光の増幅装置という意味の「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」の頭文字をとった略語。


 カラオケなどでよく、マイクをスピーカーに向けたり近づけたりすると、ピーという大きな音が出ることがある。これをハウリングというが、スピーカーから出た音をマイクが収音し、それが増幅されてスピーカーから再生され、再びマイクで収音し……、というのを繰り返すため、この発振現象が起きてしまうのだ。半導体レーザーは、実はこれと同じようなことを光に対して行なう光発振器なのである。半導体の内部で、光の反射と増幅を繰り返してやると、ハウリングと同様に、光もいちばんバランスのとれた周波数で発振を起こす。取り出した光は、特定の周波数の位相の揃った規則正しい光なので、指向性や干渉性に非常に優れているのである。

 さて、CDなどに使われるレーザーは、赤色レーザーと呼ばれているように、可視光線の領域の光だ。波長にすると0.6μmくらいで、素材にはガリウム・砒素(GaAs)という2種類の元素を使う。このGaAsは、とても不安定な壊れやすい素材で、これを壊れないようにするためにたいへんな苦労があった。一方の通信で使うレーザー光は、可視光線のような見える光ではなく赤外線の領域。1.5μm近辺の波長にあわせるためには、赤色レーザーよりもさらに多い、4種類もの元素(InGaAsP[インジウム・ガリウム・砒素・リン])を使用する。当初は、2種類であれだけたいへんなのだから、4種類のハンドリングなどとてもできないと思われていたのだが、実際に作ってみるとこれが非常に安定しており、まさにおあつらえむきの素材になってしまった。限りなく透明な石英ファイバと高安定な半導体レーザーによって、光通信の本格的な実用化が始まったのである。



光を光のまま伝える光増幅技術

 いくら低損失な石英ファイバといえども、光はいずれ減衰して弱くなってしまう。数十kmの距離ならよいのだが、数百kmとか数千kmという伝送では、何らかの方法で弱くなった光を十分な強さに戻してやる、いわゆる中継ということをやらないといけない。初期の海底ケーブルに使われていた中継器は、受信した光をいったん0・1の電気に戻し、再び光の点滅にして送信するという仕組だった。伝送途中で崩れた波形はきれいに整えられ、十分な強度に甦った信号が再送されるので、これを再生中継方式と呼んでいる。要するに中継器の中身は送受信器そのものであり、短距離の送受信を繰り返して伝送距離を延ばす、それが1980年代の中継だった。この再生中継方式では、常にリフレッシュされた高品位な信号を伝えられるのだが、中身が送受信器であるがために、たとえばビットレートを上げましょうとなったら、中継器の送受信機を全部交換していかなくてはいけない。新しい技術を投入しようにも、いったん敷設してしまうと、仕様の変更には莫大なコストと労力が必要なのだ。

 そんな1980年代後半、イギリスとアメリカでほとんど同時にエルビウムドープファイバというのが開発された。エルビウムという元素は、0.5μmとか0.6μm、0.8μm、0.98μm、1.48μmといった特定の波長の光を吸収する性質がある。吸収したエネルギーは、いずれ吐き出すことになるのだが、エルビウムはそれを光の形で吐き出す。それもうまい具合に、光通信に使う1.5μm帯の光で吐き出してくれるのだ。エルビウムドープファイバは、このエルビウムを石英ファイバに添加したものなのだが、エルビウムはファイバの中に混ざった状態でもその性質を失うことがなく、エルビウムの大好きな波長の光を与えて弱った光信号を通してやると、見事に増幅された強い光信号がエルビウムドープファイバから出てくるのである。

光増幅の仕組

 それまでにもさまざまな光増幅技術があり、KDDI研究所でもいろいろな研究を行なっていた。が、それぞれに問題点があり、「光増幅技術というのはどれをとっても帯に短しタスキに長しだね」といっていたところにこつ然と現われた新技術。よくよく調べて見ると、今まで抱えていた問題点もすべてクリアしてしまう。「これはひょっとすると」ということで、海底ケーブルに応用するための本格的な研究が始まった。

 受け取った信号をきれいな信号に再生して送るという中継は、教科書どおりの非常にエレガントな方法である。一方のエルビウムドープファイバは、とりあえず弱くなった光のレベルだけ上げてそのまま送っちゃえという、なんともアナログアンプ的な安直な方法である。ましてや、1回も再生中継せずにそれだけで太平洋を横断しようなんてのは言語道断。ほとんど夢物語であり、そんなことはできっこないというのが大方の見解だったという。がそんな雑音はよそに、当時のKDD研究所では、1989年にこのエルビウムドープファイバを使った904kmの伝送実験に成功する。これを知らされた当時のAT&Tは、着手しかけた新しい再生中継方式の開発を急遽ストップしたほどで、それまでの業界の常識を完全に覆す、たいへん画期的なものだった。

 早速KDD研究所とAT&Tは、光増幅方式の実用化に向けた共同開発をスタート。その成果はTPC-5として実を結ぶことになる。1993年に着工したTPC-5は、南北2つのルートを通って太平洋をループ状に結ぶネットワークである。二宮から宮崎を経て、グアム、ハワイ、米国本土へとつながる南回りは1995年に。翌年には、二宮〜米国本土間を結ぶ北回りが開通し、絶対ムリだといわれた太平洋を、光増幅だけでぐるりと一回りしてしまったのである。

 光増幅のすごいところは、電気回路を一切通らないという点。二宮を出た光は、途中エルビウムドープファイバという中継所で何度もエネルギーの補給を受けながら、そのまま一気に米国本土までたどり着いてしまう。先週は、4000kmの海底ケーブルを一気に敷いてしまうというのに驚いたが、光がそのまま完走してしまうというのはさらにびっくり。波形は多少乱れるかもしれないけれど、電気回路を介さずに光信号のまま増幅する方式なので、同期がどうのビットレートがこうのといった煩わしさはない。エルビウムが増幅できる帯域が、1.53〜1.56μmと少し幅があるというのも大きなポイントで、この帯域幅を使うことによってはじめて、商業的に使える経済的な波長多重が実現できるようになったのである。この辺のお話は、また来週。

(2001/10/24)


□KDDI
http://www.kddi.com/

鈴木直美
幅広い技術的知識と深い洞察力をベースとした読み応えのある記事には定評がある。現在、PC Watchで「PC Watch先週のキーワード」を連載中。
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