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【Blog Hackers Conference 2005】
Six Apart宮川氏やはてな伊藤氏が語るブログの未来と課題

 5月27日、ブログ解説書「Blog Hacks」のイベント「Blog Hackers Conference 2005」が東京・お茶の水で開催された。同書の著者であるSix Apartの宮川達彦氏とはてなの伊藤直也氏から、ブログを取り巻く現状や今後の動向について講演が行なわれた。


APIやタグを利用したブログの新しい活用事例

Six Apartの宮川達彦氏
 Keynote Speechとして初めに登壇した宮川氏は「Blog Hacksの最後の章は、サードパーティーが公開しているAPIを使ってブログをもっと面白くしようという内容だった」と前置いた上で、「最近でもいろいろなサービスがAPIを公開していて、それをブログとつなげると面白い」」とコメント。FlickrのAPIを利用したいくつかのサービスやアプリケーションを紹介した。

 Flickrは、ユーザーが任意のタグを設定することで、タグを介して画像を共有できるサービス。はじめに宮川氏は自身で作成した「Image Aggregator」を紹介。これはFlickrのAPIに、米Yahoo!が公開している動画検索のAPIを加えたもので、入力したキーワードに該当するYahoo!のクエリーの検索結果とFlickrのタグの検索結果が同時に表示される。

 宮川氏は「Yahoo!は検索エンジンを使っているのに対し、Flickrはユーザーが設定したタグのために信頼性ではYahoo!ほど高くないかもしれないが、時系列で他の人がアップロードした写真がどんどん見られる」と説明。「ビジュアルを使うサービスのAPIを使うと直感的に面白いものができるという例」とした。

 FlickrのAPIの活用例として「geobloggers」「Spell with Flickr」も紹介された。geobloggersは、FlickrのAPIとGoogle Mapsを組み合わせたもので、緯度と経度をタグに入れておくとGoogle Map上に画像が表示される。Spell with Flickrは、アルファベットの画像にそのアルファベット名のタグが設定してあり、入力したキーワードのタグを呼び出してキーワードを画像で表示する。宮川氏は「Flickrに関しては、アップロードした画像にクリエイティブコモンズのライセンスを付与できるため、Flickrの画像から他のコンテンツで自由に参照できる画像を探すこともできる」とした。

 続いて紹介されたのは、ブックマークにタグが付与できる海外のソーシャルブックマークサービス「del.icio.us」で、宮川氏はO'REILLYが開催したイベント「Emerging Technology Conference」でのdel.icio.usのAPI活用例を紹介。このイベントはflickrとTechnorati、del.icio.usを利用し、「ETech 2005」と入力された情報がイベントのWebサイトに集められている。宮川氏は「pingで情報を集めるような一極集中型ではなく、各サービスで決まったタグを打つことで情報を集められるという、タグを使った面白い試み」とした。


Yahoo!の動画検索とFlickrのタグを組み合わせた「Image Aggregator」 Spell with Flickrで「BLOG」と入力した結果

ユーザー主体の新しいWebの在り方「Web 2.0」とは

Googleを使ったGreasemonkeyの一例。検索結果の画面にRSSやブックマーク情報などが表示される
 APIの次には、ユーザー定義のJavaScriptをドメインごとに実行できるFirefoxの拡張機能「Greasemonkey」が紹介された。宮川氏は「Greasemonkeyを使えば、検索ウィンドウの位置など、サイトの気に入らない部分を自分の好きなように書き換えることができる」と説明。その例として、Googleの検索結果から自動でRSSタグ情報やdel.icio.usのブックマーク情報などを表示するGreasemonkeyを紹介した。「製作者が作ったWebだけが1つの姿ではなく、それを見ている人が自由に書き換えたり、APIでサイトの好きなところだけを集めてくるといったことが、新しいWebの在り方として“Web 2.0”や“Content Remixing”などと呼ばれているが、その1つとしてFirefoxのGreasemonkeyは面白い(宮川氏)」。

 このGoogleを利用したGreasemonkeyでは、クリックすると画面を遷移することなく次の情報が展開されるが、これはAjax(エージャックス、Asynchronous JavaScript with XML)と総称される技術を利用しており、Webブラウザに実装されているJavaScriptの機能を使って実現されている。宮川氏は「GreasemonkeyもJavaScriptで、今なぜJavaScriptが再び注目されるのか」と前置いた上で、「複数のプラットフォトームでも動作するクラスプラットフォームの実現という意味ではJavascriptは有効。Greasemonkeyに限ればFirefoxだけなのでクロスプラットフォームを気にする必要もない」とのメリットを挙げた。

 また、「JavaScriptはHTMLの知識があればプログラマーでなくても書けるし、プログラマーであればもっと面白いことができるという中間的な部分も人気の理由ではないだろうか」とコメント。「ブログの周辺テクノロジーでも、XML-RPCやトラックバックなどは非常に簡単なAPIだが、こういった取っ掛かりになる機能が簡単であることは重要だと思う」との考えを示した。


Greasemonkeyの概要 再びJavaScriptが注目される理由

ブログを取り巻くSPAMやRSSの課題も提起

ブログにおけるSPAMとRSSの問題
周辺技術の紹介ののち、宮川氏はブログを取り巻く現状の中から「SPAM」と「RSS」に関する問題を提起した。

 SPAMに関しては、「コメントスパムはブログを持っている人であれば一度は体験しているのでは」とした上で、自身のコメントスパムの対策を紹介。コメントのブラックリスト機能や、管理者が承認したコメントのみ表示するモデレーション機能に加えて、自作のプラグインでASCII文字のみのコメントをはじく、画像で表示した文字を入力しなければ投稿できないといった対策が公開された。宮川氏は「ほとんどのスパムは踏み台にされているPCが使われているが、そのネットワークのIPアドレスがブラックリスト化されていて、それを使ってはじく方法もある」と付け加えた。

 コメントスパム対策としてSix Apartが提供している認証サービス「TypeKey」は、IDとパスワードでユーザーを認証し、誰が投稿したコメントかを確認できるが、宮川氏は「TypeKeyはAPIも公開されていて、ブログ以外でも自由に使える」と説明し、その一例としてTypeKeyを使ったWikiを紹介。さらに「TypeKeyはSix Apartにユーザー登録する、いわば中央集権型」と例えた上で、「中央集権型でなくてもユーザー認証できる『OpenID』という認証方法もある」とした。

 最近では無料のブログを使い、検索されやすいキーワードでエントリーを作成するというSEOとアフィリエイト目的の「SPAMブログ」も多いという。宮川氏はその対策として、エントリーに含まれたURLのリンク先と個数からフィルタリングするという方法を紹介。「アフィリエイトリンクが異常に多い、本文が異常に長いといったブログをフィルタリングする」。宮川氏は「これはアドホックな対策で本質的ではない。Bulkfeedsの利用者の間で、スパムかどうかをユーザーが判定するフィルタなどを作って対策してみたい」と語った。


TypeKeyやOpenIDによる認証システム スパムブログの問題

 RSSに関しては、宮川氏の運営する「Bulknews」のRSSフィードによるアクセスのうち、約半分近いアクセスが1つのRSSリーダーによるものだという事例を挙げ、「30秒に1回アクセスするといった設定もできるバージョンもある」と指摘。「作者とコンタクトを取った上で、初期値で登録されているBulknewsのRSSを削除してもらう、クロール時間の最小値を上げてもらうといった対策をお願いした」とコメント、「今後は無料で利用できるCDN(コンテンツ配信ネットワーク)や、P2PでRSSを配布する仕組みも考えてみたい」とした。

 最近ではネットエイジがRSS広告事業の会社を設立する、トランスコスモスが参入するといった話題が相次いでいるRSS広告だが、宮川氏によれば「今までRSSはテキストがわかりやすく整理されていてシンジケーションしやすい、検索エンジンを作りやすいというメリットがあったが、広告が入ってくるとそのメリットが薄れる」という課題があるという。「RSS検索の場合、広告のテキストが検索の対象になってしまう。また、RSS検索などで検索結果の広告付きでRSSを再配信する場合、違うドメインで広告を再配信することが規約違反になる可能性もある(宮川氏)」。

 RSSは再配信しやすいフォーマットでもあるが、宮川氏は「RSSを配信しているからコンテンツを勝手に再利用していいという意味ではまったくない」と注意を喚起。「クリエイティブコモンズのようなライセンスなど、RSSのアグリゲータ側と配信側が合意できるような規格や規定があるといい。または今後求められるのでは」とコメント。「これはRSSやATOMがまだコンテンツ管理やパブリケーションのメタデータが整備されていないという問題提起」とした上で、「ブログがより成熟したプラットフォームへ向かう途中段階の課題なのではないか」と締めくくった。


RSS広告の課題 RSS再利用における問題

技術者の視点から語る「『ブログの終焉』こそが終焉」

はてなの伊藤直也氏

「ブログの終焉」をBlog Hackerの視点で考える
 宮川氏に続いて登場した伊藤氏の講演は「ブログの終焉?」「amazletモデルSEO的考察」の2部構成。「とあるブログを中心に話題になった『ブログの終焉』」について、Blog Hackerの視点から考えてみたい」と講演を始めた。

 伊藤氏はまず、「はてなブックマーク、del.icio.us、Bloglines、Flickrといった、ブログが前提で作られたサービスが最近では流行しているが、ブログが終わったらこういうサービスも終わりになるのだろうか」との意見を披露。「そうではなくて、ブログがプラットフォームになったことの象徴ではないか」とした。

 続けて伊藤氏は「ブログの良かったことは、パーマリンクという概念が普及したこと」と指摘。「1つのURLでコンテンツを取得できることで、記事がインターネットの最小単位になった。他の人の記事にリンクを張るときにパーマリンク1行でいいというのは、普通に使えるが実は革新的なこと」とブログのメリットを挙げた。

 さらに伊藤氏は「RSSやAtomというメタデータによる情報配信も、ブログという流通基盤で成り立っている。APIについても、事業者がこう使いなさいという使い方に対してユーザーの使いやすい方法を選択できるという、ユーザーに優しい世界に近づいている」と指摘。「こういう面から、ブログはプラットフォームになってきていると感じている」との考えを示した。

 伊藤氏は「インターネットとWebサイトの間には決まった方法論がなかったが、最近ではここにブログが登場して、Webサイトはブログのようなもので作るといった流れができている」と指摘。「これはブログがWebサイトを作るためのツールとして定着したのか、というとそこは本質ではないだろう。ブログが広めたのは、WebサイトをCMSと呼ばれるWebアプリケーションで構築すると言う方法論。個人の領域までCMSが及ぶことで、結果としてブログという整えられたアーキテクチャによるWebサイトができあがり、初心者が使ってもWebにやさしいアーキテクチャで作ることができた」。

 伊藤氏は「Webの世界では、未来のWebの形として“Web 2.0”という考え方があるが、これはOSではなくWebがプラットフォームになるという考え」と説明。米Yahoo!のエバンジェリストであるJeremy Zawodny氏がFlickrについて語ったブログを引用し、「核となる機能をAPIで外に公開する、RSSを提供して拡張性を持たせるといった点はブログにも共通する話。ブログがうまくやってくれたおかげで、ユーザーが意識しなくてもこの点が広まっている。Web 2.0の観点から見てもブログは新しいアーキテクチャ」と指摘、「“ブログの終焉”こそが終焉、という考えでひとつお願いします」と自身の講演の第1部を締めくくった


ブログは「終焉」ではなく「プラットフォーム化」している ブログはCMS的なツールでサイトを構築するという方法論を広めた

ショッピングサイト「amazlet.com」運営の裏話も披露

ツールとショッピングサイトから構成される「amazlet」
 伊藤氏の第2部は、自らが運営するショッピングサイト「amazlet.com」に関するもの。amazlet.comは、Amazonアソシエイト・プログラムのアフィリエイトリンクをユーザーが簡単に作成できるツール「amazlet」とセットになっており、Amazletで作成したアファリエイトリンクにはAmazlet.comへのリンクが表示されるほか、商品のリンク先をAmazlet.comへ設定することもできる。

 amazlet.comの仕組みを伊藤氏は「amazletツールで作ったアフィリエイトはユーザーのもの、検索経由でのアフィリエイトは開発者である僕のもの」と説明。「商品のリンクはAmazon.co.jpでいいけれど、“posted with amazlet”という形でリンクを1つ下さい、という仕組み」。伊藤氏は「リンクの数は稼げるけれど、アンカーテキストは常に“amazlet”という言葉で固定されていて、アンカーテキストに書いている内容を利用したSEO効果は期待できない」とした。

 amazlet.comにリンクされたページは、Googleで約147,000件、Yahoo!で約50,000件、MSNで約20,000件が登録されているという。伊藤氏は「異なるドメインからのバックリンクが増えるほどSEOされるはずなので、amazletを使ってもらうほどサイトへのトラフィック数は増すだろう。また、1人が何回も使うことでアフィリエイトの収益は指数関数的に伸びていくのではないか」と考えていたが、実際には季節の変化や検索エンジンの仕様変更といった影響のほうが大きかったという。伊藤氏は「アンカーテキストによるSEO効果は予想以上に高いのではないかと感じた。amazletではそれを期待できないのが痛い」と語ったものの、「SEO対策の効果がアフィリエイトの注文個数という形で現われるところがSEM(検索エンジンマーケティング)的には面白い」との魅力を示した。


amazlet.comの収益の仕組み amazletとそのSEO効果

amazletツールのアフィリエイトリンクには、amazlet.comへのリンクが挿入される amazlet.comのSEO総括

「日本人はブログより日記」が2年の時を経て再び検証

 宮川氏、伊藤氏の著者による講演の後は、ブログに関わる人物が5分の持ち時間でスピーチを行なう「Lightning Talks」が行なわれた。このLightning Talksの中からいくつかのスピーチ内容を紹介する。

 山下たつを氏は、Amazon.co.jpの商品ページで表示される「あわせて買いたい」「この○○を買った人は、こんな本も買っています」といった商品紹介がテーマ。「自分のブログで紹介してきたおすすめ商品、というようなサービスをやってみたい」とコメントし、自らの取り組みを紹介した。

 山下氏が着眼したのは、Amazon.co.jpのアフィリエイトレポートから確認できる「売れた商品」と「発送日」のデータ。「誰がどの商品を買ったかという情報はAmazon.co.jpからは提供されない。これが匿名で個人の識別ができれば、Amazon.co.jpのような商品紹介もできるだろう」と前置いた上で、「同じ日に注文があった商品は同じ人が買った」という仮説を披露。「データが大量にあれば、データは近似化できるはず」として、自作のツールを披露した。ただし、大量のデータがなければ近似値が取れないため、「そもそもそれほど売上がないアフィリエイターはレポートを見るだけで十分かもしれない」という。


Amazon.co.jpの商品紹介機能 Amazon.co.jpの商品紹介機能を自分のブログで実現するための取り組み

同じ日に注文があった商品は同じ人が買った」と仮定 Hackに利用した「相互情報量」の理論

「日本人にはブログより日記」というタイトルの影響力
 はてなの近藤淳也代表取締役は、以前にWebニュースで取材された際にタイトルにつけられた「日本人にはブログより日記」というフレーズに関して講演。「Googleなどの検索では未だに上位に来るため、記者の方々に『はてなはブログではないんですよね』『ブログはお嫌いみたいですが』と聞かれてしまう」との裏話を披露したのち、「あの取材から2年たった今、あらためてブログを検証してみたい」と語った。

 はてなダイアリーでは、日付ごとページを作成する「日記モード」、記事ごとページを作成する「ブログモード」、日記モードとブログモードの中間の「日記モード・見出し別ページ」という3種類の表示モードが用意されているが、近藤氏はこのモード別ユーザー比率を調査。初期設定が日記モードであり、他のモードは後から追加された機能のために全体では日記モードが圧倒的だが、最近登録した男性ユーザーでは「日記モード・見出し別ページ」の利用率が高く、その中でも25~35歳のユーザーでは、7割以上のユーザーが「日記モード・見出し別ページ」を利用しているという。

 近藤氏は「日本人は日記に慣れていると思うが、ブログの標準化はあなどれないということを学んだ」とコメント。2年後の意見を「日本人にはブログより日記、だけど結構ブログ好き」と訂正した上で、「たまには日本からも世界の標準を生み出していきたい。その挑戦をはてなでやっていきたい」と語った。


はてなダイアリーユーザー全体のモード別ユーザー比率 男性、特に25~35歳の男性にはブログ的な表示モードが好まれる

属性別のモード割合 2005年版「日本人にはブログより日記」の結論

blogWwatcherの概要
 東京工業大学 奥村研究室の南野朋之氏は、ブログ検索「blogWatcher」を紹介。blogWatcherは、2003年度のIPA未踏ソフトウェア創造プロジェクト「blogページの自動収集と監視に基づくテキストマイニング」によって開発されたもので、HTMLの構造を解析することでRSSを使用せずにブログ情報を収集できる点が特徴。特定のキーワードの注目度や評判を判断する機能も搭載している。

 5月9日に公開された新バージョン「blogWatcher 2.0」では、RSS非対応のサイトをRSS化する「なんでもRSS」が追加された。なんでもRSSは、日付情報に基づいてエントリーを自動で抽出し、RSSフィードを生成する仕組み。南野氏は「公開から2週間で40,000アクセスがあり、4,000サイトが登録されている」と語った。


5月9日の新バージョンで公開された「なんでもRSS」 なんでもRSSの仕組み

小鳥改め小鳥ピヨピヨ氏の「こんなHackなら、いっそのことしないほうがマシだ」。自身のブログで投稿を受け付けた結果が発表され、「コメントをモールス信号に変換」など変わったアイディアが続出


画面いっぱいの大きな文字を使ったプレゼン技法「高橋メソッド」に対抗し、ooba氏が考えたのが文章の要所を隠すという手法、名付けて「もんたメソッド」


関連情報

URL
  Blog Hackers Conference 2005
  http://hacks.bloghackers.net/archives/2005/05/blog_hackers_co_1.html

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(甲斐祐樹)
2005/05/30 15:17
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