■ISDN化も一苦労
第1回のブロードバンド百景で法林氏は書かれていました。──当時、月額約4万円で128kbpsの常時接続を提供していたNTTの「OCNエコノミー」(現在はNTTコミュニケーションズが提供)を思い切って契約することにした。月額約4万円は決して安い金額ではなかったが、時間を気にしながら接続するよりも「つなぎっぱなし」にした方が得られるものも大きいと考えたからだ──と。
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見渡す限り畑なのよ~ |
私もそう考えました、考えましたとも。で、当時地元のNTTに電話しました。「あの~OCNエコノミー……」「は? なんですか?それ」「………」どうしてかって? それはウチが田舎だからです。この田舎というキーワードが、後々まで尾を引こうとは、当時想像もしなかった。
話はさかのぼって、ISDN黎明期。1992年頃だったと思うけど、鳴り物入りで始まったISDN(INSネット64)は、NTTの強力なプッシュもあって、急速に普及を始めた時期でしたね。当時アナログ回線だった我が家も「64kbpsの高速通信」というコピーと「1回線で2回線分利用可能」という言葉に惹かれて、NTTに問い合わせた。「あの~ISDN……」 「は? なんですか?それ」 「………」
あ~、もうなにをいわんかやである。末端の事業所単位まで情報が行き渡るのが遅いのだ。世間(自分の回りのごく狭い範囲のみだけど)はISDNで盛り上がっているのに、我が地域のNTTでは「そんなもん知らん」、なのである。それでもシツコク問い合わせた結果、ISDNはメデタク開通しました。が、ここにも落とし穴。「電話番号変わります」。
え!まじっすか? 名刺やらなにやらぜんぶ作り直しなんですけど……。それでも1回線で2回線分使える魅力に負けて、メデタク導入となったISDN。電話とFAXの番号を別々にできたのでヨシとしよう。確かに便利だもんね。
そうこうしているうちに、悪魔の果実「テレホーダイ」が始まりました。深夜11:00~翌朝8:00まで定額料金という、俺って深夜電力温水器? 的なアレ。それでもインターネット黎明期と相まって、毎晩ネットサーフィンに明け暮れたっけ。このサービスは、設備の変更がないのか、課金システムの一部を手直しするだけのようで、導入には苦労した覚えがない。田舎でも完全対応のサービスでしたね。
■待ちきれずにISDNルータを導入
もちろん、そういう幸せな時期は長続きしない。次に始まったのが、いわゆる常時接続サービス。フレッツ・ISDNってやつですね。いい加減、夜型の生活にうんざりしていたし、なによりもインターネットが便利なツールからないと困るツールにまでなっていたので、フレッツ・ISDNには大いに期待してました。
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常時接続を待ちきれずに導入したヤマハの「ネットボランチ RTA52i」。現在も音声回線の発着信ログ取りマシンとして活躍中 |
しかし、いつまでたってもうちはサービスエリアにならない。待てど暮らせど、ならない、ならない、ならない……。仲間内はみんな夜型から、まっとうな昼型に成り上がっているのに、私だけはいつまでたっても夜型、しかも時間限定、すね毛の生えたシンデレラインターネット野郎から脱却できない。イライラは日ごとに積もれど、サービスエリア入りは遥か彼方。
いい加減我慢の限度を越え、ISDNルータを導入。ご存じのようにISDNルータは、必要なときにダイヤルアップしてくれて、その後自動的に回線が切れる。テレホーダイよりはコストが掛かるものの、維持できる程度であるに違いないと見越して導入。いやー、便利でしたよ、ISDNルータ。いつでも、どこでもインターネット。ブラウザが起動すると同時にインターネットに接続できる幸せ。これは最高でしたな、NTTからの請求書が届くまでは……。
他人のささやかな幸せを打ち砕いてくれる1通の請求書が届いてから数カ月。やっと、我が町にもフレッツ・ISDNはやってきました。もう天にも昇る気持ちでNTTにさっそく連絡。「フレッツ・ISDN申し込みたいんですけど」 「調査に1カ月程かかります」 「えっ? じゃ開通は?」 「調査結果しだいです」 「………」。もう我慢の限界。ええ、ゴネりましたとも。そして、次に出てきた現場担当責任者と思わしき方はさらりと一言。「え?調査? 1カ月も掛かりませんよ、明日できます」。はぁ~、いったいなんなんだよ、この対応の違いは。
すったもんだで、開通したフレッツ・ISDN。こりゃもう天国かってくらい快適でした。やっぱ、インターネットって、いつでも繋がってなければ意味がないのね。接続料金に怯えることなく繋がっている幸せ、安心感。いつもそこにある膨大なデータベース。これを幸せと言わず、なにを幸せと言うか……そんな幸せを噛み締めていた頃、都会はすでに次の段階に入っていたわけですな。
■畑の中の謎な倉庫
私がフレッツ・ISDNの導入に驚喜していた頃、世の中ではなんだかブロードバンドなるものが台頭してきていたのです。「東京めたりっく」が開いたパンドラの箱、いわゆるADSLが世間にじわじわ浸透している頃ですね。まぁ、当初はたいして気にもとめなかったし、いくら田舎でもそのうちどこかがサービスしてくれるだろ? くらいにしか考えてませんでしたから。
そうこうしているうちにブロードバンドコンテンツなるものが現れ始めたんです。まぁ、ほとんどが動画で、それもナローバンド用のものも併設されてたりしたので、これも特に気にはならない。サーカスの熊が自転車に乗るようなもので、すごいなーとは思っても、それが即実用というか、役に立つシロモノじゃありませんでしたから。ところが、その後しばらくすると、企業のWEBサイトが変わり始めた。64kbps程度の速度だと延々待ったあげく、出てくるのは特に意味はないFlashアニメーションだったりする。企業イメージってものがありますから、着飾りたいのはわかるんですけど、TVのCMと違って、ユーザーは目的があってサイトを訪れるわけですから、そこんとこはどう考えてるかのかなと、怒りを噛み殺しながら考えてたりしたわけです。
そうこうするうちに、ADSL常時接続業者も増え、当初ADSLに否定的だったNTTまでもがサービスに参入してきた。こうなると、もういてもたってもいられない。毎日各ADSL業者のWebサイトにあるサービスエリア拡大情報を眺めるわけです。しかし、相も変わらず我が町にADSLはやってこない。う~、田舎はイヤじゃ~。
しかし、とうとうNTTが愛の手を差し伸べてくれました。ある日、我が町の名前がエリア拡大情報に! いやっほ~~、これでうちもADSL! さっそくNTTに申し込み。「実はADSL……」 「あ~、そこはまだサービス範囲外ですねぇ」 「!!」
またやられました。ADSLは局単位の整備なので、町の名前があってもそれだけじゃダメなんですな。町の名前=町中心部のみ対応。ちょっと町の中心から離れてるとNGなんですわ。そして、その時の電話ではじめて知りましたよ、畑の真ん中にある倉庫みたいな金属ボックスが交換局だなんて。謎の物体の正体が知れたのは嬉しい話ですが、ADSL開通とは別問題。ちきしょー、なんとかならんかーとゴネてもこればっかりはどうしようもなさそう。結局半年ほど待ってやっとフレッツ・ADSL 1.5Mがサービス範囲に。そのときすでに、我が町はADSL 8Mサービス範囲になってましたけどね。
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この倉庫みたいなのが交換局。まじですか?
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ウチの近所にあるこれも交換局らしい。驚き
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■電話番号ってダレのもの?
もちろんADSL導入も一筋縄じゃ行きません。まずは、ADSLを導入するにはアナログ回線が必要なのはご存じの通り。ところが、うちにはNTTが言うところの未来のデジタル回線、ISDN回線が導入されているのは前述のとおり。なので、ADSLを導入するには次の4つの選択肢があることになる。
1案 |
ISDNをアナログ回線に戻してフレッツ・ADSL導入 |
→ |
電話番号が変わる、電話番号が1つしか使えない |
2案 |
ISDNをアナログ回線に戻し、さらにアナログ回線をもう1本引いてフレッツ・ADSL導入 |
→ |
電話番号が変わる、電話番号が1つしか使えない |
3案 |
ADSL Type2の導入 |
→ |
月々の料金が1600円高くなる |
4案 |
加入電話ライトを新たに引いてフレッツ・ADSLを導入 |
→ |
電話番号がひとつ増える。月額2090~2390円高くなる |
『1案』はISDN回線をアナログ回線に戻してADSLを導入するという選択肢。ところが、我が家は音声回線とFAX回線の2つの電話番号を使っているので、電話番号が1つしか持てないアナログに戻すのはNG。『2案』は、ISDNをアナログ回線に戻し、もう1回線アナログ回線を引いて、ADSLとFAX、もしくはADSLと音声回線を共用にするという選択肢。これは新規にアナログ回線を引くことになり、設備設置負担金7万2000円が新たに掛かってしまう。
ここで、大きな問題は「電話番号が変わる」ということ。電話番号が変わる不便さは、先のISDN導入時に身に染みて知っているので、これは絶対NG。となると『3案』、ADSLタイプ2の導入ですね。タイプ2は、ADSL用アナログ回線を新規に引くことになるが、ADSL線には電話番号が振られずADSL専用になる。その分設備設置負担金が不要で、加入電話の基本料金は掛からない。フレッツ・ADSLの料金は、通常のアナログ(音声)回線混在タイプが3450円に対して5050円と、1600円ほど高くなるけれど、私のようなニーズには最もコストパフォーマンスが高いことになる。なんだかISDNに無駄に踊らされたような気もするが、この際忘れよう。
(ちなみに『4案』は、加入電話ライトを新たに引いてフレッツ・ADSLを導入するもの。これなら設備設置負担金は不要だが、基本料金が月々640円高くなり、回線利用料など含めて月額トータルで2000円以上のコストアップ。『3案』の方が安上がりなのだ。)
というわけで、遅ればせながらブロードバンドと相成ったわけですが、ここでは田舎のメリットがちょっぴり出た。それは、ADSLモデムの性能向上。当初ADSLモデムはどうにも不安定なシロモノだったらしく、リンク速度が遅いとか、それ以前にリンクが確立しないって話もちらほら。ところが、我が家に来る頃には、ADSLモデムもすっかり第2世代に進化したようで、1.5M/8M共用のタイプが来た。我が家は倉庫……じゃなくてNTT局舎から3kmほど離れているので、通信速度はあまり期待していなかったのに、なんと1Mbpsほど出ている。700kbpsも出れば御の字だと思っていたので、これは嬉しい誤算。田舎なんで電話回線網がシンプルなのか? とはいえ、速度そのものには15分で慣れた。もっとも、64kbpsに戻れるかと聞かれると絶対NGですけどね。
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1階に設置したルータとADSLモデム
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2階に設置したハブ。ワイヤードで1階と結んでます
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ちなみにNTTさんは日々設備の整備に努力されているようで、先日何気なくダウンロード速度を見たら153KBと表示されている。153KBと言えば、1.224Mbps。実効速度で153KBと言えば、1.3M近くは出ていることになる。うっほー、これは嬉しい。これでBフレッツが一般的になるまで、しばらくは枕を高くして寝られそう。
ともあれ、田舎で常時接続は苦しいです。なんといっても選択肢がNTTしかない。ADSL業者、どこのを選ぼうかなぁ~なんて1回言ってみたいもんです。そういえば、全国展開をしているYahoo! BBのサービス範囲に入っているんですよ、我が町は。我が家が入ってないってだけでね。はぁ。友人たちの中には、いまだフレッツ・ADSLすら来てないところがあるから、これで「日本は世界一のブロードバンド大国」なんて白書が出たら、官邸に殴り込みですね、いやほんとうに。そういう思いをしている人は、案外少なくないと思いますよ。
■参考データ
居住地区 | 千葉県八街市 |
線路距離長 | 2940m |
伝送損失 | 35dB |
ADSL事業者 | NTT東日本「フレッツ・ADSL 1.5M」 |
プロバイダ | DTI |
スループット | 1.3Mbps |
(2002/06/20)
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