■何もなかった田舎暮らし
筆者は典型的なO型。性格も熱しやすく冷めやすい。自分に関わることにはとことんこだわるが、その他はどこか他人事。数年前、自分にとってブロードバンドとは、都会の誰かがやっている程度の、まさに他人事だった。どんなに頑張っても田舎には来ないだろう……そう、自宅の周りは田畑ばかりである。そう考えた瞬間、諦めるのも早い。
筆者はインターネット歴7~8年の、利用者という観点ではヘビーユーザーになる。当時、チャットやネットサーフィンが日課だった筆者にとって、毎月、NTTより送られてくる電話代の請求は頭痛の種だった。
そんな田舎だが、ついにブロードバンドが手に入る! と、目を輝かせたことがあった。それは、衛星インターネットサービス、その名も「Mega Wave」がサービスを始めると、雑誌で読んだときである。空からインターネットの電波が降ってくる――なんて素敵! しかも、速度は最大1Mbps。当時、我が町の最速インターネット環境、ISDN(INS64)の15倍の早さ! それになんといっても使い放題!
しかし、現実は甘くなかった。衛星インターネットは下りのみのサービス。上りはダイヤルアップなどの別回線が必要だ。嗚呼、なんたる勉強不足! 月々の電話代節約が最大のテーマである筆者にとって、上りが従量制であることは許せない。衛星インターネットは再び他人事となってしまった。その後しばらく、筆者はタイムプラスを駆使しての、胃の痛い生活が続くのである。
■すべてを変えた東京暮らし
2001年11月。転職して始めた東京暮らし。景色が一変するとはこのことをいうのだろうか。それ以前、CATVやADSLという定額常時接続サービスがあることは知っていた。しかし、筆者の環境でそれは手の届かないところにあった。それが今、東京に住むことで、選び放題なのだ。転職してよかった~!
導入することを決意したのは、ADSL。CATVは導入工事費がネックとなったことと、放送サービスではスカイパーフェクTVに加入済みなので、検討から外すこととする。決めたとなれば、1日でも早く導入したい! 即座に、Yahoo! BBとフレッツ・ADSLに申し込んだ。早く開通し利用できるADSLサービスを選ぼう。そう、両社を天秤にかけたのである。
結果、工事日が先に決まったのが、Yahoo! BBだった。申し込みから約10日間。当時は「放置プレイ」と悪評高い時期だっただけに驚いたものだ。ちなみに、フレッツ・ADSLは、Yahoo! BB開通の2日前にコンサルティングの電話がかかってきた。今でこそフレッツ・ADSLの開通は早いようだが、当時はこんなものだった(NTTさん、当時はご迷惑おかけして、ごめんなさい~)。
■おそるべしYahoo! BB
開通したYahoo! BBの実効速度は約3M。ISDNに比べ、その速度差は歴然! 今までがジージーだとすれば、ADSLはパッパッ!とホームページが表示される。非常に快適!
しかし、そのままでは終わらないYahoo! BB。大きな落とし穴があった。ADSLモデム付属品のスプリッタを介すと、電話機が使えないのである。正確にいうと呼び出し音が鳴らない。スプリッタを外し電話線を電話機にダイレクトにつなぐと、当然ながら呼び出し音が鳴るのだ。しかし、その状態ではADSLが使えず導入した意味がない。どうやら、スプリッタが不良のようだが……。
ここで意地悪な筆者は、Yahoo! BBのサポート能力を試してみることにした。メールで今回の不具合を事細かに記載し、サポートに送ってみたのである。しかし、2週間を経て戻ってきた返信メールは、「調査中です。申し訳ありません」。こうなったら、いつYahoo! BBからまともな調査報告が送られてくるか待ってやろう。しかし、暖簾に腕押しとはこのことか。結局、続報はなく、かといって新しいスプリッタが送られてくることもなかった。
しばらくして、Yahoo! BBの利用料金をクレジットカードの利用明細で調べてみると、課金されていないことがわかった。晴れて、障害発生中の課金停止ユーザーとなったのである。「“課金停止”よりも新品のスプリッタを送った方が安いんじゃない?」、そうツッコミたかったが、このまま無料期間が続くのも悪くない。幸い、引っ越し以来、電話はほとんど携帯からの発着信で済んでいるし……。それから数カ月間、無料ブロードバンド生活を楽しませてもらった。
■興味津々 FTTHの導入へ
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マンションのMDF室。青いチューブの中に光ファイバが収納されている。MDFから自室へは、空きの配管があってラッキー! |
東京に越してきた2001年11月当時、転職先ではFTTHの営業をやっていた。「ADSLはFTTHまでのつなぎ!」マジでそう思っていた。Yahoo! BBを使うも、それは、FTTHが来るまでのつなぎだった。だからこそ、Yahoo! BBのそんな障害も、「つなぎ」と思って気にしていなかったのである。
その時、導入を考えていたサービスが、USENの「BROAD-GATE01」。なんと言っても、最大100Mbps。ライバルのBフレッツに比べ、月額はかなり安い。量販店のデモコーナーで、プラズマテレビに映るUSENのストリーミング映像を見ると、導入のボルテージは高まる一方! FTTH導入と同時に、リビングのテレビをプラズマテレビに買い換えようと思ったくらいだ。我ながら気が早いものである。
だがしかし、USENが来ることはなかった。我が街へはエリア拡大の見込みがないらしい……。量販店の店頭応援に来ていたUSENの営業マンからその事実を聞かされ、結局、Bフレッツを申し込むことにした。「BROAD-GATE01」は、またサービスエリアに入ったときに考えよう……。漠然とだが、一刻も早く“光”の世界を体験してみたかったのだ。
当時Bフレッツは、最大10Mbpsのファミリーか最大100Mbpsのベーシックが申し込み可能だった。もちろん、どうせやるなら最大100Mbps! である。清水の舞台から飛び降りる気持ちで、Bフレッツ ベーシックを申し込み! ISP代を入れると、毎月10,000円以上の出費……イタタタ。しかし、未知なる最大100Mbpsの世界を体験してみたい。そんな少年のような心で、申し込んだのは、2002年3月の頃だった。
筆者は賃貸マンションに住んでいる。わずか12世帯の小規模マンション。賃貸かつ小規模ということもあり、光ファイバを単独で部屋まで直収することとした。申し込みから数週間後、Bフレッツが部屋に引き込めるかどうか、工事業者が下見にやってきた。幸い、マンションには十分な配管スペースが残されており、引き込みOKとのこと。実際の工事は、下見から約2カ月後になると知らされた。
■光を導入するために
光を導入するにあたり、何はともあれ形を整えたいと思う。光をお迎えするのに失礼なき環境を作るのだ。USENのパンフレットには、推奨PCのスペックは、PentiumIII 600MHz以上とある。既に旧式となっていた、メインPCをリプレースすることとした。それが今でも愛用中のThinkPad i1620 である。足を棒のようにして量販店を回り、格安アウトレット価格でゲット。型式が古いためか、標準搭載OSがWindows MEだったため、OSはもちろんXPに載せ替えた。同時に、メモリも買い足し、計384MBとした。
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USENパンフレットのスペック図。当時言われていた、光ファイバの導入スペック。Pentium III 600MHz以上というCPUスペックを参考に、新しいPCを購入 |
さらに、光で存分にストリーミングを楽しむべく、ディスプレイを購入。PC作業中に、ストリーミング映像を楽しみたいではないか。さっそく、15インチのTFT液晶ディスプレイを購入。デュアルディスプレイは、Windows XPの標準機能であり、PCの外部映像出力端子につなぐだけで、簡単に環境を構築することができた。画面が2倍になって実に快適! さぁ、あとは光ファイバの工事を待つだけだ。
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ディスプレイもデュアルに |
■光導入! しかし……
2002年6月。光回線の工事導入当日! ブロードバンド百景での導入記では、高所作業車が登場しての大がかりな工事の模様が紹介されるが、マンションのためか、何も難しいことがなかった。既に、マンションのMDFまで光ファイバの事前工事が行なわれていた。当日は、MDFから部屋までの配管に光ファイバを通し、メディアコンバータを設置するだけ。宅内工事は1時間ほど。工事業者の方が持ち込んだノートPCでスピード計測を行ない、その数値を見せられ、「書類」にサインし、工事完了である。
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乳白色の皮膜に覆われた光ファイバ。光ファイバを通すだけの配管スペースが残されていてラッキーだった |
モジュラージャックから引き出された光ファイバ。光ファイバを導入したあとのモジュラージャック。光ファイバを通すため、業者はモジュラージャックのカバーを交換した |
Bフレッツを導入して、速度はおおむね予想の範囲内だった。最初はフレッツ・スクウェアで10Mbps程度しか速度が出ずに焦ったが、EditMtuで調整の結果、46Mbpsまで向上した。単純に速度の比較でいえば、Yahoo! BBなど及びもつかない。
しかし、である。“光の速度ならでは”という、何かがなかった。速度向上は体感を伴ってこそ、実感できるものだ。CPU交換やメモリ増設によって、アプリケーションの起動時間が大幅に早くなった時のような実感を期待していた。しかし、ADSLからFTTHへ乗り換えても、残念ながらその感覚が得られなかったのだ。
期待していたストリーミング映像だが、自分の常用していたサイトの最大ビットレートは1Mbps。実は、ADSLでも問題なく視聴できていた。光になって、再生までの待ち時間が減るかと思ったが、そうでもなかった。結局のところ、ストリーミング映像は、配信側のサーバの能力や途中のインターネットの経路の混雑度が重要なのだ。1Mbpsのコンテンツを視聴するのに、FTTHは過剰投資だったかも知れない、そんな風に思い始めた。
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皮膜に覆われた光ファイバの実体は、髪の毛ほどに細い |
スピードテスト結果。フレッツ・スクウェアにて計測。当時、チューニングをした上での限界の数値 |
■Yahoo! BBへ戻るも
Bフレッツを導入して1カ月ほどの2002年7月、Yahoo! BBが、最大12MbpsのADSLサービスを、試験サービスという形で開始した。FTTHもADSLも実用的にはそれほど変わらないのではないか、と思っていた頃、思い切って、Yahoo! BBの12Mサービスを申し込んでみることにした。
Yahoo! のWEB上でさっそく申し込んでみる。約10営業日で開通。速度も前回に比べて1Mアップの4Mbps弱の数値を叩きだした。その日から、Yahoo! BBに切り替えて使ってみた。Yahoo! BBは、DHCPだ。Bフレッツと違ってPPPoEによる認証はない。PCを起動してADSLモデムにLANケーブルが接続されていれば、そのままネットにつなげることができる。PPPoEも、ルータを利用すればルータ側で認証ができるため気にならないが、当時、ルータを持っていなかった筆者は、だいぶ使い勝手に差を感じた。件のストリーミング映像も、Bフレッツが待ち時間であるバッファリングタイムが短い気がするが、実用上の大きな違いは感じなかった。
そうなると、気になるのは、コストパフォーマンスの差だ。ADSLとFTTH、その月額の差は歴然としている。かくして、7月末日をもって、Bフレッツ・ベーシックを解約することとした。筆者は、光ファイバの情報サイトの管理人であり、なんとも後ろ髪を引かれる思いであったが、背に腹は代えられなかった。
解約日当日、会社から半休をもらって、Bフレッツの取り外し工事に立ち会った。工事といっても、メディアコンバータに接続される光ファイバをニッパーのような工具で切断し、モジュラージャックの現状を復旧させるだけである。工事時間はものの10分。こうして、2カ月足らずで、私のFTTH生活は終わりを告げることとなった。
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乳白色の光ファイバを切断し、取り外されたメディアコンバータ。撤去工事は実にあっけないものだった |
マンションの前に残された主なきクロージャ。撤去後も、屋外の光ファイバ(青色のケーブル)とクロージャはそのままである |
■光は復活するか
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屋上のスカパーのアンテナ。将来、このアンテナが撤去できる日が来るのであれば、FTTHへ戻ることを真剣に考えたい |
FTTHを導入した当時から、もう1年が経とうとしている。その間、FTTHを取り巻く環境も大きく変わった。まず、月額が安くなった。ニューファミリーなら、月額4,500円。同じ最大100Mbpsでも、ベーシックの半額である。そして、絶対に必要と言われた導入工事費も、プロバイダによっては無料ではないか! 1年でここまで安くなると、再びFTTHを導入してみようかという気になってくる。
しかし、筆者のネット利用目的は、1年間、さほど変わっていない。ストリーミング映像も、筆者が利用するサイトの最大ビットレートは、1Mbpsのまま、変わらない。一部のサイトでは、5Mbps以上のストリーミングを流しているが、商用では主流ではないようだ。まだ、FTTHは時期尚早だろうか。
そんな折り、筆者にFTTHの再導入を真剣に考えたくなるニュースが流れてきた。スカパーが光ファイバを利用して、スカパーの番組や地上波、BS放送を配信するというのである。筆者はサッカーの海外リーグチェックのために、スカパーとWOWWOWの双方に加入している。現在のマンションに越してきた当時、立地的にスカパーの電波が受信できず、呆然とした。
現在は、家主と交渉し、スカパーのアンテナをマンション屋上に設置することで、問題は解決している。しかし、マンション外壁にスカパー用の同軸ケーブルを這わすことは、何ともスマートではない。それが、光ファイバを導入することで解決できるのなら、筆者にとって、十分にFTTHを再導入するきっかけとなる。
光ファイバを使った放送サービスは、電気通信役務利用放送法を利用し、KDDIが光ファイバを用いた映像配信サービスを表明したことなど、今ちょっとしたブームになりつつあるように見える。1本の光ファイバで、インターネットもIP電話も多チャンネル放送も、そんな欲張りなことが当たり前のように実現できる日が、楽しみでならない。
(2003/06/05)
■参考データ
居住地区 | 東京都台東区 |
接続事業者 | Yahoo! BB 12M |
回線の種類 | ADSL |
線路距離長 | 1,400m |
伝送損失 | 32dB |
プロバイダー | Yahoo! BB |
スループット | 4.0Mbps |
□Yahoo! BB
http://provider.bb.yahoo.co.jp/
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