■古い回線は、古い部屋と一緒にサヨウナラ
前回、第九景では、光ケーブル導入は滞ったままの状態で終わってしまい、ADSLはタイプ2回線を試してみるということで締めくくった。まずはそこから話をしたい。
そもそも通話回線はISDNで、これはこれでフルに利用している。ADSL開通のためにアナログにして、結果がよくない場合にまたISDNに戻すということは面倒なので避けたい。そこで「タイプ2」ということなのだが、すでに入っている専用線と通話回線とは別に、新規にメタル線を部屋の中に引き込むことになる。マンションのMDF(主配線盤)に空きがあるかどうかは、工事業者に来てもらって確認済み。これならサクッと工事して、すぐに終了するハズ……が、ここで問題が発生。部屋の壁に電話線を通すパイプがないことが発覚したのだ。外部からモジュラージャックまで、現在ある回線はパイプではなく、そのまま壁の中を這っているらしい。そんなムチャな。
面倒な作業を嫌がる工事業者を説得し、自分も補助をしながら無理やり壁の中にメタル線を通す。やっと開通して、めでたくブロードバンド環境!になったと思いきや、速度を計測すると1Mbpsも出やしない……。マンションと局の間に大きな幹線道路があることや、ISDN回線との干渉、家の中にあふれるPCや電化製品のノイズなど、考えられる原因は山ほどある。どうやら、前回懸念していた悪い予感が的中してしまったらしい。
キレイで住みやすかったマンションも、時代の変遷とともに次第に暮らしにくい環境に変わってしまった。これ以上ジタバタするのも面倒なので、思いきって引越しすることを決意した。しかし、筆者宅ではサーバーサービスを提供しているため、引越しには現在稼動しているサーバーを速やかに移送して、サービスが途切れることがないようにしなければならない。物理的にサーバーを動かす以上、移動時間中はどうしてもサービスは停止してしまう。従って移送後は、速やかにサービスを立ち上げる状態にしなければならず、そのためにも移送先は事前にインターネット接続環境が整った状態にしておく必要があるのだ。
■時間のかかるBフレッツは後回し。まずはDNSサーバーを
引っ越し後は、Bフレッツに固定IPを割り当ててもらえるサービスを受けようと考えていた。しかし、ケーブル引き込みには事前調査が必要で、実際の引き込み工事完了までおよそ1カ月かかってしまう。事前調査をするためにはその部屋の契約が完了していなければならず、さらにBフレッツに固定IPを割り当てるには開通後最低でも2週間ほど必要だ。それまでは以前のマンションも借りておかねばならないため、二重で家賃が発生し続けてしまう。
もちろん、そんな余分な金などないので別の方法を考えてみる。取りあえず、当分はフレッツ・ADSLにグローバルIPを付与してくれるKDDIのサービスを利用し、Bフレッツ導入はおいおい考えることにした。不動産業者に聞くと、前入居者はADSLを使っていたらしい。部屋を契約したあとすぐさまNTTに電話しフレッツ・ADSLの申し込みをしたら、1週間ほどで導入可能との返事をもらった。KDDIのサービスもほぼ同時期にスタートできるらしい。
サーバ移転の見通しがたったところで早速引越しの準備を開始。さっさと生活に必要な荷物を新居に移し、サーバーの置き場所と電源、LAN配線などのファシリティを確保。ADSL回線の開通とサービスの開始を確認したら、新居で新しいDNSサーバーの立ち上げ、自ドメインである「アルチザン」のDNSサーバIPアドレスの登録変更を行なった。
サーバ移転より先にDNSサーバーを立ち上げる理由は、サービスの速やかな復旧のためだ。DNSの機能とは、簡単にいうとドメイン名をIPアドレスに変換する仕組み(Domain Name System)のこと。これがないとWebやメールなどのサービスも、ドメイン名ではなくIPアドレスで指定しなくてはならない。ISDNからADSLに切り替えるにあたって、今まで使用していたIPアドレスが変更になる。
DNSはほかのドメインの情報を一定時間キャッシュしているため、早めにDNSを立ち上げて、アルチザンのDNSサーバーのIPアドレス情報が変わったことをインターネット上のほかのドメインのDNSサーバーに通知しておかなければならない。これをしないと、ほかのドメインからアルチザンで管理しているドメインが参照できなくなってしまい、メールが届かなかったり、Webページの参照ができなくなったりという障害が発生してしまうのだ。また、既存のDNS情報のキャッシュ許可時間を短く設定すれば、新しいDNS情報が行き渡るまでの時間も縮められるため、これも忘れずに実行しなければならない。
実際のサーバーの移送は深夜に行なった。日中では仕事で利用しているユーザーもいるため、実務に支障がでてしまうからだ。深夜に決行するということもあり、サーバーの移送には引越し業者などを使わず、知り合いである某誌で活躍中の「ゲリラリラ」のメンバーに手伝いを依頼した。
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生活に必要なものはすべて移動し、サーバだけが残された |
サービス停止時間をなるべく短くするため、急いで配線やラックを分解 |
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配線やラックの分解から輸送、組み立て、設置までお手伝いしてくれたチーム「ゲリラリラ」のみなさん、ありがとう! |
■ここでもADSLは遅かった……
移送は何事もなく速やかに終了し、早速立ち上げ。1台ずつIPアドレスの割り当て変更や各種設定、動作の確認を行なう。無事にすべてのサーバーが立ち上がって作業は終了した。
これであっさり終わったように見えたが、なんとこの新居のADSL回線はフレッツ・ADSL モアにもかかわらず1Mbpsも出ていなかったのだ。原因は簡単に判明。局までの距離が3km以上もあり、近くには高圧線と電車の線路がある。室内の電話線の取りまわしも不適切だ。引越しのときは光回線の引き入れが可能かどうかのチェックはしていたが、ADSL環境のチェックはまったくしていなかった。まさか、ここまで悪い環境だとは……。
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移送先のラックに取りあえず置いて電源を入れたところ。左のPCの上に並んでいるのが右からADSLモデム、SuperOPT90、AirStation G54。奥でとぐろを巻いてるのが電話線。これではノイズを拾いまくりだ |
筆者宅の玄関から見える鉄塔。よく見ると高圧線の交差点になっていて、かなりの悪影響がありそう。1km先に変電所、1分も歩くと線路があるという劣悪極まりない環境 |
引越しが落ち着いたところでBフレッツを申し込んだ。プロバイダーは同じKDDIにしようとしたが、Bフレッツ ベーシックタイプにIPアドレスを16個付与してくれるサービスがない。ビジネスタイプにならあるのだが、月額利用料が10万円を越えてしまうのだ。慌ててほかのプロバイダーを調べてみたが、16個のIPアドレス+Bフレッツ ビジネスタイプの組み合わせでならサービスを提供してくれるところばかりだった。あきらめかけたとき、Sonyが提供している「bit-drive」というサービスで、16個のIPアドレスの付与が受けられることを発見。早速申し込みをした。
光を引き込むための事前調査が行なわれた。壁に穴を開ける必要があるかどうかを確認してもらったところ、電話線を引き込んでいるパイプに通すことが可能という。ちょっと拍子抜けしたが、大掛かりな工事にならないでホッとした。2週間後に引き入れ工事が行なわれることも決定し、引き入れ当日を待った。
いよいよ工事当日。工事業者の事前説明によると、すでに建物の壁までは配線が終了しており、あとは屋内に線を入れて接続チェックをするだけとのこと。そんな工事、いつの間にやったんだろう。工事が始まると作業員は手際よく電話線が通っているパイプにケーブルを通し、あっさりと工事は完了してしまった。業者が持っているパソコンでフレッツスクエアに接続してみると、75Mbpsほどで接続していることが確認できた。
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いつのまにか外壁まで光ケーブルの配線が終了していた。左側が電話回線、右が光ケーブル。ここから屋内にケーブルを引き入れる |
テスターを使って損失をチェック。10dBという数字は工事業者の話によれば悪くはないとのこと |
新しい回線の開通で、またしてもIPアドレスが変更になるため、前述のDNSサーバーの切り替え作業を行なう。今回は物理的な移動がないので、利用者にサービスの停止をほとんど感じさせずに作業が終了した。
現在のスループットは15~25Mbpsほど。この値は、ブロードバンドルータ「SuperOpt90」、「AirStation G54」を通しての計測値なので、直に接続すればもっとスピードが出ると思われる。また、筆者のマシンはPentium III 500MHzという前時代的なマシンというのもスループットが伸びない原因のひとつかもしれない。
引越す以前の128Kbpsから比べるとすごい帯域の拡張となり、これでしばらくは帯域の心配はなくなった。だが、帯域が広がったことで、クライアントマシンの非力さがあらためて浮き彫りとなってしまった。さらなる悩みが発生してしまったが、引っ越しでもうお金がないので新しいマシンを買えないんだよなぁ~!
(2003/05/30)
■参考データ
居住地区 | 東京都三鷹市 |
接続事業者 | NTT東日本 |
回線の種類 | Bフレッツ ベーシックタイプ |
プロバイダー | Sony bit-drive |
スループット | 15~25Mbps(BNRスピードテスト計測値、ルータ2台経由) |
□ソニー ブロードバンドサービス bit-drive
http://www.bit-drive.ne.jp/
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