■常時接続環境は、周りの強い勧めから
筆者宅のインターネット環境が、充実し始めたのは個人向けのダイヤルアップルータが発売されたのが始まりである。それまでは、ISDNルータでのダイヤルアップ接続を行なっていた。最初にISDN回線を利用するダイヤルアップルータを購入したのは、1997年4月である。購入したのは富士通のNetVehicle-1だ。ダイヤルアップルータのベストセラーとなった、NTT-MEのMN128シリーズやYAMAHAのRTAシリーズは、まだ発売されていない時期の製品であった。
この1997年に筆者が東京世田谷に住んでいた。当時は、その後に訪れる「インターネットと住所との関係」を、まったく意識することはなかった。その半年後、現在住んでいる東京都渋谷区に引越してきた。渋谷区といっても新宿に近い場所で、10分も歩けば都庁に着いてしまうので、どちらかといえば新宿の外れといったところである。ここに引っ越して、しばらくすると、通信好きな知り合いの間に「インターネット常時接続環境」が流行し始めたのだ。筆者は、部屋を空けていることが多いこともあり、ISDNルータでのダイヤルアップ接続に満足していたのだが、法林氏をはじめ数人の知り合いにそそのかされて、常時接続環境を導入することにした。
当時、比較的安価に常時接続環境を実現できるサービスとしては、現NTTコミュニケーションが提供している「OCNエコノミー」というサービスが有名だったが、筆者の住む地域では複数の事業者のサービスが提供されていた。筆者が何も考えずに引越しをしてきた現在の場所は、新しいサービスがいち早く提供される地域にあたり、より快適なインターネットインフラを手に入れるために住所が重要な要因になっていることを感じ始めたのもちょうどこの頃である。
OCNエコノミーは月々4万円弱のサービスだったが、導入している知り合いの話を聞くと、想像以上に地域や時間帯での実行速度の差が大きかった。実行速度がサービスを開始するまでわからないというリスクがあるならば、より料金の安いサービスを導入しようと採用したのが現KDDIの「DIONスタンダード」だ。サービスの仕様としては、OCNエコノミーとほとんど同じだったが月々の料金が1割以上も安かった。
当初は比較的安いということで採用したDIONスタンダードだが、結果としては非常に満足いくものだった。対応してくれた担当営業や電話でのサポート、実行速度、安定度といったもの、サービスに全てに満足していた。月々の通信費が急に数万円多くなってしまったのだが、それ以上に常時接続という環境の快適さがうれしかった。
■ブロードバンド環境が実現したのは2000年3月
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ファームのアップデートをまめに行ない、現在もADSL回線接続に利用しているLinksysの「The Linksys Instant Broadband EtherFast Cable/DSL Router」 |
それから1年半ほど過ぎた頃、それまでに比べると格安なインターネット環境、ADSLが国内でもサービス提供開始すると発表され、いくつかの実験サービスも行なわれていた。1999年のことになるが、当時「東京めたりっく通信」などがNTT東日本の電話回線を利用したADSLのサービスを提供するということで話題になったのを記憶している読者の方も多いのではないだろうか。
1999年暮れになり、NTT東日本からもADSLを利用した試験サービスの提供が発表された。幸運にも筆者が住む地域が提供地域に入っていることや、他社のサービスよりも利用する際に便利であることが予測されたので、このNTT東日本の「ADSL接続サービス」を選択した。実際に申し込んだのは、ADSL接続サービスをインフラにしたNTT-MEの常時接続サービスである。通話で利用している回線でADSLを利用するサービスの申し込みを行ないしばらくすると、NTT-MEから申請受領のメールがきた。そこには回線の適合性の調査の結果によりサービスが提供できない可能があるということ、適合性の調査には1~2週間必要で年末を挟むことから、開通は1月中旬から順次行なわれるといった内容が記載されていた。
その後、NTT-MEの対応の遅れなどもあって、実際に開通したのは3月初旬だった。現在はADSLといえば下りが最大8Mbps、上りが最大1Mbpsのサービスが主流だが、この試験サービスは下りが最大512kbps、上りが最大224kbpsという仕様だった。いまでこそ、さほど高速という速度ではないのだが、当時は月額3万円台半ばで128kbpsだったものが、月額7000円で512kbpsという常時接続環境が手に入れられるようになったのだ。実行速度もほぼ上限の512kbpsが確認できていたと記憶している。
その後、数カ月間ADSL環境が安定しているかどうかをチェックしていたのだが、非常に安定していることがわかり、それまで利用していたDIONスタンダードからの移行を行なった。筆者はテスト的にWebサーバーやメールサーバーを立ち上げることはあったが、定常的に運用を行なっていたわけではなかったので、環境の移行は速やかに完了した。この移行に役立ったのがLinksysの「The Linksys Instant Broadband EtherFast Cable/DSL Router」である。いまでいうブロードバンドルータであり、Webブラウザで簡単に設定ができるものとしては、最初の製品だった。この「The Linksys Instant Broadband EtherFast Cable/DSL Router」は、その後もファームウェアの更新を常に行ない、機能拡張やパフォーマンス向上を実現している。いち早くユニバーサルPnPを搭載し、何機種もブロードバンドルータを購入してきた筆者だが、現在でもADSL回線には、このルータを利用している。
■ADSLの高速サービスに移行するも、大きな問題に遭遇
下り512kbpsで始まった筆者宅のADSL回線は、高速なサービスが開始されるタイミングに合わせて、1.5Mbps、8Mbpsと高速化してきた。1.5Mタイプ以降も、NTTが提供しているADSLサービスを利用してきた。NTTの局舎までの線路距離長もさほど長くないため、フレッツ・ADSL 1.5Mタイプを利用しているときでも、非常に安定した状態で実効速度も1.2Mbps程度であり、理想的な品質でサービスの提供を受けていた。他の業者に遅れながらも、2001年暮れになるとNTT東日本でも8Mタイプのサービスを開始したが、しばらく様子を見てから移行の時期を考えていた。プロバイダーも試験サービスからNTT-MEのWAKWAKを引き続き利用している。
実際に8Mタイプに移行を行なったのは2002年2月。数カ月、8Mタイプのサービスをウォッチしていたが、筆者が危惧していたほどアナログ回線の品質での通信速度の低下が少なく、筆者宅の場合は8Mタイプに移行することで1.5Mタイプよりは非常に高い確率で高速なインフラが手に入るということがわかってきた。また月々の費用に関してもWAKWAKの場合には1.5Mタイプでも8Mタイプでも料金は変わらず、NTT東日本に支払う料金が月々200円しか増えないといった費用的な負担の少なさにも魅力を感じた。普段であれば、8Mタイプのサービスが始まったと同時に申し込みを行なう性格の筆者なのであるが、この時期には既に光ファイバーでのサービスを受けていたことから急いでインフラの速度向上を目指す必要もなく、ADSLサービスの8Mタイプ移行に関してはじっくりと検討することができた。
8Mタイプに移行して、初めてADSLサービスでのトラブルらしいトラブルに遭遇した。データ通信時に電話が着信すると、ADSLのリンクが切れてしまうのだ。時間帯などを変えて何度も試してみたが、着信時には確実にリンクが切れてしまい、通信ができなくなる現象が再現した。1.5Mタイプの頃には、まったく起こらなかった問題であるが、8Mタイプに切り替えることで、筆者宅に潜んでいた問題が表面化したことになる。
筆者宅はNTT東日本の局舎までの距離はそれほど遠くもなく、電話さえ着信しなければ比較的安定した状態で通信できるため、原因はすぐに見当がついた。保安器である。ある時期に作られた保安器では、電話が着信したときにADSLでの通信を行なう周波数帯と同じ信号を発する仕様になっているため、保安器からのその信号(ノイズ)によってリンクが切断されてしまうのだ。これは割と知られている問題であるが、NTT東日本としては通話に問題がなければADSLで通信ができない状態であろうとも、障害として受け付けないということになっている。逆に、通話時にノイズがのってしまうという場合には、基本的には障害として無料で対応してくれる。
ただ、保安器自体、アナログ通話の基本料金で保守されている部品ではあるが、通話とADSLを兼用しているタイプ1回線の場合、必ずアナログ通話の基本料金を払っているわけであり、ADSLでデータ通信ができなくなる根本的な問題に対しては、やはり障害として対応して欲しいと思うのは筆者だけだろうか。結局、通信が切断されたとしても障害ではないので、NTT東日本側としては、回線の調整であれば無料で行なえるという回答をもらったが、その作業はリンク速度を下げることであり、実行速度の大幅な低下を招くということになるのだ。
結局、さすがに納得はいかないものの、こちらの判断で作業費を負担して保安器を交換してもらうことにした。後日、筆者宅に作業に来てもらい、交換作業自体は1分程度で終了した。もちろん、着信時のリンク切れの問題も解決した。非常に高い確率で保安器が問題であることが分かっていながら1分程度の作業に7300円(税別))支払うのは、多少違和感が残ったのはいうまでもない。
■現在のADSLサービスには、ほぼ満足
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NTT東日本のADSLモデム(左)とMN128 SOHO SLOT IN |
この着信時に起きていた通信断の問題が解決してからは、ほとんどトラブルなしでADSLでブロードバンド環境を利用することができている。ただ、速度については満足はしていない。フレッツ・スクエアでの速度計測で約4.5Mbps。筆者宅でADSLモデムの設定画面で表示されている伝送損失は27dB。伝送損失が27dB程度であれば、あわよくば6Mbps程度の速度が得られてもいいはずだという気もする。測定したADSLモデムにはキャリアチャート表示などの機能がないので、ノイズが影響しているのかなどの原因は掴めていないが、今後通信速度が落ちるようなことがあれば、原因を調べたいと考えている。
さて、今年の秋には、各社から12M(もしくはそれ以上の)ADSLサービスの提供が予定されている。これまで同様、より高速なADSLサービスが安定して提供されるようになったら、筆者も新サービスに移行していくつもりだ。筆者宅の回線状況が、より高速なADSLサービスに対応できるのか、どの程度の速度が実際に体験できるのかなどが、すでに気にかかってしょうがない。
現在はNTT東日本のフレッツADSLを選択しているが、NTT東日本から8Mを超えるADSLサービスが提供されないのであれば、この先他の事業者に乗り換えることも考えている。より高速なADSLサービスに移行したときには、何かの機会に筆者の体験を報告したい。
■参考データ
居住地区 | 東京都渋谷区 |
線路距離長 | 1290m |
伝送損失 | 27dB |
接続事業者 | NTT東日本 1.5Mbps→8Mbps |
プロバイダー | NTT-ME WAKWAK |
スループット | 約4.5Mbps |
(2002/08/08)
□フレッツ・ADSLサービス情報(NTT東日本)
http://www.ntt-east.co.jp/flets/
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