■始まりは音響カプラの300bps
いまさら20年も前の話をしても始まらない気がするが、私にとってコンピュータ同士の通信といえば電話機をガポッと押し込む「音響カプラ」が最初だった。というか、それしかなかったのである。パソコンといってもPC-9801F2が最新鋭とかいう時代だった。いまじゃ「ナンデスカ、ソレ?」といわれそうな機種だ。
しかし、当時はそれでもスゴかった。たった300bpsでも、外部の大型コンピュータ(大学の計算センターの汎用機や東大のVAXなど)につながって、自在に大型やUNIXマシンが使えたというのは、知識欲ばかりある貧乏学生にとってはとてつもなくエポックメイキングな出来事だったのである。
パソコン通信の発展とともに、300bpsのモデム(マイルーパーとかヘイズ・スマートモデムとか)がでてきて、やがて1200bps、2400bps、9600bps、14400bpsと毎年のように進化してきた。もちろんISDNも出ると同時に申し込んだ。レンタルのターミナルアダプタ(TA)にモデムとFAXをつけて2回線同時利用、ついでにWWIVでパソコン通信ホスト立ち上げて……、なんてことをして悦に入っていたものだ。
パソコン通信の終焉が見え始めた頃、すでに我が家は試作品のOKI製TA(型番なし)を使って非同期38400bps接続が可能だったのである。
Windows 95の登場以降、インフラと通信機器の発展は急速に進んだ。私もNECのISDN-TA AtermIT35を導入し、インターネットへの接続をISDN同期接続に切り換えた。その後、自分用のマシンも増え、家族も増えていった。
Windows Me/2000が登場するころには、ネット上から取得するデータ量がISDN導入当初の数倍にも膨れていた。仕事上オンラインソフトの評価を頼まれることが多く、ダウンロードに掛かる手間はできるだけ短縮したい。1MBのファイル落とすのに4~5分もかかっていたのでは、IEのアップデートで40MBなんて冗談じゃない。そろそろISDNではきついと思い始めたが、1.5Mbps専用線を引く金などあるわけもない。だが、希望はあった。CATVとADSLが普及し始めたのである。しかし、そのあたりの状況をしつこく調べてみると、どうも芳しくない。ざっと以下のような理由だ。
- 住まいが賃貸マンションであるため、CATVの導入には管理してる不動産会社とオーナーの許可がいる。長居するつもりもない住居のために、あちこちに頭を下げてケーブルを引くというのも面倒くさい。
- CATVにすると使えないソフト(チャットやゲーム、サーバーの類)がある。テストしなきゃならないソフトがあるのにそれはまずい。
- CATVだと回線を共有するためにセキュリティの問題が発生する。
- CATVは初期投資がけっこう高い(当時は高かった)
- ADSLにはアナログ回線が必要だが、バックグラウンドで動いているUUCPがISDNを使っているため、ISDNは生かして新規回線敷設になる。
- CATVにしてもADSLにしても、自宅が対応地域に入るにはもう少し時間がかかる。しかも申し込んでからかなり待たされそう。
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ISDN以外にもすでにアナログ2回線(うち1本は奥様用)があるし、このマンションでそこまでやると後が面倒だ。というわけで、この時期に進めていた一戸建て新築計画が滞りなく終わり、無事に引っ越してから改めて考えようと、ブロードバンド計画はとりあえずペンディングにした。
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いまも現役で使っているお仕事マシンのPC-9801RA21改。中身はAMD5x86/160MHz、親指シフトのASKeyboardも現役だ。ちなみに散乱する薬のパッケージはいろいろある持病のもので怪しいクスリではない
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半分以上引退している通信機器3台。一番下のモデムはすでにタダの台、その上がNEC AtermIT35、縦置きされてるのがMN128-SOHOで、これらは現役。後ろにちょこっとだけ見えるのがブロードバンドルーターのKY-BR-CB100。コーラは精神安定剤
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■自宅完成! CATVかADSLか、それとも光ファイバか?
そして歳月は過ぎ、Windows XPのβテストをやっているころ、多大なる借金の賜といえる一戸建ての自宅が完成、引っ越しとなった。この時点でADSLはYahoo!BBとNTTフレッツADSL、CATVは太田ケーブルネットが選択でき、どれであっても工事さえ済めばすぐに利用できる状態にあった。
しかし、手放しで喜んでいいわけではないようだ。当時はフレッツADSL 1.5Mが主流で、最速のADSL 8Mサービスは始まったばかり。ADSL 8Mをすでに導入したユーザーに聞いてみたが、8Mbps! と威張るほどのスループットはでないという。ADSLルータもそこそこの数が出回ってきていたが、どうもあまり評判はよろしくない。ではCATVかというと、これもコストやら使い勝手の問題やら、いろいろ問題があった。
そこに現われたのがNTTの光ファイバ、Bフレッツのニュースである。「申し込みは11月1日から」というメールを受け取ったのが2001年10月29日。工事、開通までは多少時間がかかるかもしれないが、いまからADSLを入れてあーだこーだと文句をいうよりは、最初っから速さが保証される光ファイバのほうが有利ではないかと考えた。一戸建てだからコストから考えてもファミリーしか選択肢はないが(まだニューファミリーは存在しなかった)、いまさらADSLに金を使うこともないだろう。11月1日に申し込めば遅くても年末には使えるかもしれない、と。いまからするとその見込みはかなり甘かった……。
■ずれまくった開通予定
さて、11月1日午前9時を待って速攻で申し込んだのはいいが、返事が来たのが11月6日。それはまだいいとして、そのメールにおける開通予定が以下のようになっていた。
「開通予定時期 お申込了承後概ね(4)カ月」
おいおい。11月1日から4カ月って、えーと3月? マジですか? てなことをブツブツいいつつ、たった4カ月の待ちのためにADSL導入してルータ買って、というのもバカらしいので素直に待つことにした。遅くても3月下旬になれば光ファイバだと信じていたのである。
それから2カ月が過ぎた2002年の初春。そろそろ準備期間にはいろうかという時期なのに、なんの音沙汰もないNTTにメールしてみた。「11月1日に申し込んでからなんにも音沙汰ないけど、いつごろになりそう?こっちで準備することとかないの?」(かなり意訳)。数日後たってやっと返事が来た。「光設備の工事完了は2月中旬を予定しており、その後開通工事となります」。
ほうほう、2月中に工事完了と。だいたい予定どおりにいきそうだな、じゃあもう少し待ちますか、と思っていたら、2月25日に以下のようなメールが届いた。
「お申込みいただきました当初、概ねの開通開通時期をご案内いたしましたが、Bフレッツのお申込みを多くいただき、新たな光ケーブルの敷設が必要になりましたことから、開通工事時期に変更が生じてしまいました。大変申し訳ございませんが、お客様の開通は3月下旬~4月上旬になる見込みです」。
なに? 1カ月ズレる? と文句をいっても始まらない。こんなことならADSL入れときゃよかったと思いつつ、すでにもう4カ月待ったこともあって、いまさらADSLなんか使えない。仕方がないが、待つことにしよう。
しかし、それからまた2カ月後のゴールデンウイーク直前の4月22日にメールが届いた。「大変申し訳ございませんが、光ケーブルの敷設工事が予定以上に遅れております。再三に渡り、信頼を裏切る結果となりますが、藤田洋史様の開通工事日は、5月下旬になる見込みです。大変申し訳ございません」。
これで私はキレた。「ふざけんなコラ!」とまでは言わなかったが、似たようなことをメールに書いて、電話もかけた。担当者は平謝りで見込み違いを詫びていたが、回線がこないことには話にならない。ここまできてさらに待たす気か? GW明けにとっととやれ! と叱咤して電話をブチ切り、回答を待った。で、4月30日に返事が来た。「お客様の開通日は5月25日以降に添えるよう努力いたします」。
いまさら「添えるように努力」じゃねぇだろ、いますぐやれよともう一度キレかけたが、具体的なアクションを起こす前に、工事担当のME東京から電話が掛かってきた。
「5月20日にやります」。「え? はい? そうですか20日ね」と言いつつ、頭の中にはクエスチョンマークが。「5月25日以降」ってのはなんだったんだ? しかし、とりあえず開通は5月20日に決まった。それでも申し込みから半年以上経っている。
■やっと工事。引き込みはちょっと面倒だった
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地階のRCブロックを避けるため、電話線の配管は1階の床下を走る。コレが難関だった
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さて工事当日。担当者が合計11人やってきた。えらい騒ぎである。電柱からケーブル1本引くのになんでこんな人数いるのかと思ったが、後でそれは納得した。光ファイバを根幹線から引き込んで設置するというのはけっこうな作業なのである。なにしろ、折れないというか曲げることができないのだ。途中、どこかで1カ所でも曲げが入ったら全部やり直しなのである。もっと単純・簡単な作業を想像していたが、普通のメタル線の比ではない神経質な方法を取らないといけないらしい。
最大の問題は、どこから引き込んでどこに出すか? ということ。仕事場は半地下にあるから、当然そこにファイバが出てこないといけない。手っ取り早いのはエアコンの配管の脇を通すことだが、電柱からの引き込みがいまひとつやりにくいという。ならば、既存のアナログ線が通っている配管に通してローゼットから出せばいいという話になり、2Fの電話線引き込み口からファイバを通すことになった。
電話回線のローゼットは1Fリビングと地下にある。この通りに光ケーブルを通すには、1Fでいったん引き出してから地下に送り込む必要がある。2F→1Fリビングへの引き込みはすぐに完了した。しかし、そこから地下室へ送り込んでも地下室側のモジュラーのところにケーブルが出てこない。どこかで引っかかっているようだ。
聡明な現場監督はそこで一瞬考え込んだものの、おもむろに道具を取り出すと、ひっかかる部分だけのワイヤー部をカットして地下室へ送り出した。結果的に曲げは存在しない状態になっている。これでOKか? と思いきや、またもや問題発生。ファイバーケーブルの長さが足りないのだ。長さにして約3m。大した長さではないが、メタルと違って延長のできない光ケーブルは足りなかったら全トッカエとなる。結局、工事車に積んであったロール巻きのファイバケーブルをひっぱりだしてもう一度引き直し、やっと地下室まで光ファイバを通すことができた。
メディアコンバータが取り付けられると、担当者が回線チェック。NTTのフレッツ・スクウェアに用意されているスピードテストを何回か繰り返す。背後から伺っていた私は、7.3Mbpsという数値が平均して表示されることを確認し、差し出された書類にハンコを押した。
担当者曰く、「ここの回線はけっこう速いですね。普通4Mbpsとか5Mbpsくらいなんですが」とのこと。そーかそーか、いいことじゃないか。半年以上我慢してたんだから、ベストエフォートの10Mbpsとはいっても、そのくらい速くないと納得いかんだろうて。とは口に出さなかったものの、ニヤけた顔をしながら工事関係者に缶コーヒーを振る舞って工事は無事終了。
そしてすぐにブロードバンドルータを買いに行く。が、現物であったのは京セラMETEOR KY-BR-CB100のみ。今日中に使いたい私はそれでもいいやと納得した。ダメなら取り替えればいいやという目論見である。ちなみに、無線LAN付きのルータは最初っから Out of 眼中。スループットが出ないのはわかりきっているし、すべてのPCが仕事場に集中している我が家では、無線LANにする意味がない。
さて、ルータの本格稼働である。とりあえずつなげてベンチマーク。フレッツスクエアやブロードランド、BNRスピードテストなど、いろいろ試してみると、平均すると5.5Mbps、状態のいいときで6Mbps強というところ。ルータなしの直結状態だと平均6.5Mbps、調子いいときは7Mbpsを越える値になるから、ルータで約1Mbps分食われている計算になる。ちと食われ過ぎな気もするが、速度のでないADSLよりは全然マシだと思って自分自身を納得させる。
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既存の電話回線の引きこみを利用して光ファイバを通す。壁のところで輪になっているのが光ファイバケーブルだ
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こちらは光ファイバの分岐元。電柱に装着された根幹線から分岐する形で自宅へ引っ張る
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1Fリビングにあるモジュラーローゼットの裏側を通る光ファイバが見えるだろうか。ごくわずかに覗いている青くて細い線がそれだ。ここを通すのに1時間近くかかった
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設置されたメディアコンバータはNTTのレンタル品。2段重ねになっていて、下側に光ファイバが入り、上側からイーサネットケーブルが出てくる。この先がPCまたはルータへ
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■月額プラス300円で10倍!?
とかやってるうちに、Bフレッツ・ニューファミリー100Mbps登場! なんてニュースが出てきた。そこでまたブチ切れですよ。「聞いてねーよ!? 半年以上待ったあげく、やっと10Mbpsが開通したと思ったらもう100Mbpsかよ!?」(かなり短縮かつ要約)。怒りにまかせてこんな意味の文面をメールをしたものだが、さすがに担当者は冷静沈着だった。
「東京の一部のエリアで5月から受付をさせていただいておりますが、藤田様のエリアにつきましては、9月よりお申込受付を開始し、10月より順次開通工事ができるようになりました」。
あ、そうですか。まだダメですか。すいませんね、早とちりで。で、10月10日に来たメールには、我が家もニューファミリーの対象区域になったことが書いてあった。「変更工事代金1万9100円が別途必要になります。メディアコンバータの取替えと、弊社交換機工事が必要となり、お伺いしての工事となります」。
つまり、またあの配線工事をやり直して工事代金1万9100円を払った上、100Mbps対応のハードウェアを揃えないといけないわけだ。そもそも年代が古い我が家のLANは10BASE-T仕様。NICは一部100BASE-T仕様のものがあるが、全部ではない。HUB/NIC/ルータからして買い直すことになり、合計すると軽く5万円を越える出費である。
そこまでする価値があるのかと調べてみたら、100Mbpsといってもスループットは15Mbpsとかいう20Mbpsとかいうレベルらしい。じゃあまだいいや、と放置モードに入ることにした。NTTの担当者にはチョット悪いことをしたと反省。ごめんなさい。
その後、ルータのファームウェアがバージョンアップされてVer.1.13からVer.2.10Eになった。入れ替えてみるといきなり速くなった感じがする。計測してみるとWindows XP+ルータ環境で、ダウンロード速度が7Mbpsを超えることがある。同じマシンをWindows 98にしてテストすると瞬間最大風速6.5Mbps程度になった。XPのが速いのは確かだが(もちろんWindows 98のレジストリをいじってMTU等の設定はやってある)、やはりルータ自体のスループットも大幅に上がっているようだ。
結構やるときはやるじゃないか京セラ、と喜んでいたらファームウェアにバグがでたとかいうので公開中止、すでに入れ替えた人は前のファームに戻せという指示が出た。よく読んでみると、問題になるのは主に無線LAN利用時とUPnP関係の問題のようだ。我が家ではどっちも関係ないからいいやとそのまま使っている。特に問題らしいものはない。ちなみに、いま現在も新ファームは発表されていない。どうなる京セラ、がんばれ京セラ。とりあえずまだ使っているぞ京セラ。
■参考データ
居住地区 | 東京都大田区 |
線路距離長 | 非公開 |
伝送損失 | 非公開 |
接続事業者 | NTT東日本「Bフレッツ・ファミリー10M」 |
プロバイダー | So-net |
スループット | 6.5Mbps(フレッツ・スクウェア計測値、ルータ経由) 5.3~6.3Mbps(BNRスピードテスト計測値、ルータ経由) |
(2002/11/28)
□Bフレッツ(NTT東日本)
http://www.ntt-east.co.jp/flets/opt/
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