■テレホーダイの効果なし
最高100Mbpsの光接続環境が、我が家にはある。しかし私の場合、光接続の普及率が高い都心に住んでいるわけでも、対応地域を目指して引っ越したのでもなく、光接続環境が向こうからいきなり飛び込んできたのである。
話は昔々にさかのぼって、まだインターネットなど登場していない頃、私の最初のネットワークは音響カプラーを使ったものだった。速度は300bps程度で、この時代にネットワーク上を流れていたのはテキストデータだけ。その後、モデムの速度は倍々ゲームを続けたが、常時接続(専用線)はまだまだ料金が高く、個人で利用するのはあきらめていた。そこに登場したのがISDNだった。
バルク接続(2B)で128kbpsの理論値に近い速度が出るというISDNに惹かれ、マンションに引っ越したタイミングでISDNを利用することにした。確かに速い。こりゃ快適、と喜んだのもつかの間。翌月電話料金の請求書を見て、妻が激怒。会社勤めをしている個人が毎月払うような金額ではなかったのだ(7万円弱だった)。
バルク接続の128kbpsは確かに快適なのだが、電話料金は当然倍になる。この単純計算が私の頭の中から欠落していた結果である。「テレホーダイがあるじゃないか」という声が聞こえそうだが、テレホーダイが威力を発揮するのは当然夜23:00~翌朝8:00の夜中だけ。圧倒的に昼間が多い私の使い方では、どう計算してもテレホーダイ導入の経済的メリットはなかったのだ。
■捨てる神あれば拾う神あり
2001年の3月、それまで住んでいたマンションから戸建ての家に引っ越すことになった。どうせ家を建てるのならと、電気工事にLAN配線をオプションでお願いした。引っ越し先の地域では、浦和ケーブルTVが利用が可能だという情報を得ていたからだ。これでCATV接続の家庭内LANを敷設しようと意気込んでいた。
しかし、である。実際に引っ越してみると、道の反対側ではCATVが利用できるのだが、我が家の側はサービスエリアになっていない。ブロードバンドに大きな期待を寄せていた私としてはこの現実に意気消沈する思いであった。ということは、もちろん通信環境はISDNのままである。そのころ私が所属していた会社は1.5Mbpsの専用線を敷設して通信環境にはかなり恵まれていたので、会社と自宅の格差に何ともやりきれない思いを抱いていた。
そんな憂鬱な状態で2カ月間ほどすごしたある日、うら若き女性が我が家を訪れた。
「試験サービスで、光無線のインターネット接続のご案内をしているのです」と彼女。電柱を通る東京電力の光ファイバー網から自宅の窓際まで無線で接続し、最大1.5Mbpsの伝送速度が出るという方式で、1カ月の試用サービス後に本稼働を開始するという。CATVに裏切られた気持ちでいた私がこんないい話を断るはずもなく、即座に申し込み。通信環境劣悪孤島の我が家に最新の無線アクセスがいきなりやってきたのである。
■1.5Mbpsから100Mbpsへ、超ブロードバンド環境に成長
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無線環境導入に合わせて導入したコレガのルータ「BAR SW-4P」 |
試験サービス中の通信速度は2Mbps。導入したときは天にも昇る気持ちだった。いくつかの測定サイトでの計測結果は、おおむね1.5Mbps。そう、ISDNのバルク環境より一桁アップである。そして、私が利用している無線回線はまだユーザーが3人しかいない。ベストエフォート方式といってもほとんど専用線状態なのだ。回線の状況は、正直言って試験期間中はかなり不安定だったが、正式に開始されてから安定しはじめ、1年経った今ではとても安定している。
さて、この試験サービス中の3カ月間は料金も無料。その後はいちばん安い「プランI」に決めた。モデムのレンタル費を含めて3350円のプランIは、月間5GBまでのデータ総量規制があり、それを超えるとスピードが60Kbpsまで落ちるというもの。総量5GBというのがどの程度か予想しにくかったのだが、結局プランIを使っている間、一度も総量を越えることはなかった。
これで数カ月間生かされていなかった念願のLAN配線もやっと活用できるようになり、無線の受信機にコレガのルータを通してLAN環境を作った。
普通はこの環境で十分なのだが、2002年に入って、スピードネットの会員専用HPに「悪魔の囁き」とも思われるメッセージが掲載された。「光有線100Mbps」の文字が視野に飛び込んできたのである。「100Mbpsを体験してみたい」という理由で、その場で申し込んでしまった。
工事は2回に分けて行なわれた。最初の工事は幹線から我が家の前まで支線ファイバーを敷設するための工事である。関電工の高所作業車が我が家の前の電柱までケーブルを敷設しているのを横目で見ながら仕事に出かけた。「あれが我が家につながるんだ……」と思うとなぜか感慨深い。
それから1週間後、我が家への引き込み工事もはじまった。2~3人で工事に来るのかと思っていたが、実際には10人ほどのスタッフが登場である。
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中央の細い線が光ケーブル。ちょっと見では電話線と変わらない |
ケーブルの屋内引き込みは、部屋の換気ダクトから行なっている |
「こんなに大人数で?」と聞くと、「すみません、第一号ユーザーなので……」という担当者の答え。ここで実地体験を積むために大人数になったのだという。今回の工事費は28000円だったのだが、毎回工事の度にこれほどの人数が必要だったら、工事費が10万は必要だろうな、などと思いながら工事の進み具合を見ていた。
幹線から分岐している分配機のところにもスタッフがいて、我が家のセッティングスタッフと携帯電話でやりとりをしている。「アップして~」「ダウンして~」などの会話が交わされる。私の頭の中は「?」でいっぱいの状態だが工事は滞りなく進捗。最後に「はいOKです。減衰は2dBですので問題ないですね」と言われ、接続したことを確認して工事は無事終了した。
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有線光のメディアコンバータ。一番下の細い線が光ケーブル。コネクタではなく、直接メディアコンバータの内部に接続されている。壁に直接金具で止めている |
メディアコンバータ正面 |
■ルータ入れたら繋がらない
工事の際、セッティングはPCのLANカードにコンバーターからクロスのLANケーブルを利用して接続した。接続が完了したので安心してルーターを入れたのだが、どうやっても繋がらない。どこに原因があるのかまったく不明で、なぜか無線での接続状態に戻すとルータを入れても問題なく繋がるのである。
スピードネットのサポートに連絡を取り、状況を説明する。もちろん同社のサービスは、ルーターなどを入れた場合サポート外になるのだが、いろいろ原因を教えてくれた。実は接続できなかった原因はこのルーターにあったのである。
接続できなかった理由は、このルーターがWAN側10Mbpsであることだった。そこで早速、同じくコレガ社の「BAR SW-4P Pro」を近所の上新電機に買いに走った。この製品はWAN側100Mbpsで、スループットは50Mbpsを超えるという製品だ。しかし、残念なことに在庫がない。メーカーに問い合わせてもらったが、メーカーも生産中で1カ月ほどかかるとの返事だった。
泣く泣く家路につき、しばらくの間100Mbpsの接続環境はPCダイレクトで、LANは後日と諦めかけた翌日、上新電機から電話があった。「大阪の上新電機に1台ありましたので、明後日にはこちらに届きます」というのだ。いっぺんに上新電機のファンになったのは言うまでもない。
早速翌々日にルータを購入し、再度セットアップ。セットアップといってもコンバーターとルータをクロスケーブルで接続し、そこからPCに接続するだけだ。今度は無事一発で繋がった。最初に接続した先は速度測定サイト。結果は8~12Mbpsである。
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現在利用しているネットワーク機器。下がコレガ製のルータ「BAP SW-4P Pro」、上がPCI製の8ポートハブ「EH-805P」 |
わざわざ大阪から呼び寄せられた「BAP SW-4P Pro」はWAN側100Mbps |
■100Mbpsの恩恵はFTPで体感
現在私はフリーでライティングとコンサルティングを行なっている。コンサルティング契約を結んでいる会社に、仕事上のデータ交換のためにFTPサーバーを立ててもらっているが、このFTPサーバーへのアップロード、ダウンロードの時に光接続の威力が発揮される。ネットサーフィンなどでは10Mbps前後というパフォーマンスだが、FTPでは40Mbps以上のパフォーマンスが得られている。ルータの製造元、コレガ社の測定による実行スループットが45Mbpsであることを考えれば性能をめいっぱい使い切っているということだろう。
実際問題として、光接続でも100Mbpsという数値が出ることはない。ご存じの通り、プロバイダーのバックボーン、アクセス数の関係で、50Mbps以上のパフォーマンスを得ることはまれだからである。また、ファイヤーウォール、ウイルスチェックソフトなど、通信のパフォーマンスを劣化させる要素があるので、1/10の10Mbpsが現在の我が家のパフォーマンスとなっている。
しかし振り返ってみれば、引っ越した瞬間はISDNが最高の環境という、情報デバイド地域だったのが、わずか半年ほどで最高の環境が得られたのだ。苦労してブロードバンドにたどり着いた方々には申し訳ないが、私のケースでは、さいたま市というピンポイントにブロードバンドが向こうから飛び込み営業をかけてきたのである。
現在の通信環境には満足なのだが、要望がひとつだけ。それはIPがダイナミックであることだ。ユーザーのひとりとして、固定IPサービスの早期提供を期待したい。
■参考データ
居住地区 | 埼玉県さいたま市 |
線路距離長 | 360m |
伝送損失 | 2dB |
接続事業者 | SpeedNet「FTTHサービス」 |
プロバイダ | SpeedNet |
スループット | 最大40Mbps、常時10Mbps |
(2002/07/04)
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