■Yahoo! BBさん、これ以上待てませ~ん。
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ISDNだった頃にはバリバリ活躍してくれたDSU内蔵のTA。今はもう、通電されることなく棚に押し込まれている |
「時代はADSL」。2001年はそういう年だった。当時自分が利用していたのは、INSテレホーダイ。日中は会社の専用線で接続していたので、自宅では夜間に接続できれば充分だったのだ。しかし2001年初春、仕事を辞めて自宅での作業が多くなったのを機にフレッツ・ISDNに変更。64kbpsながらも常時接続環境になったわけである。
その後、フレッツ・ADSLはまだまだ価格が高いイメージがあって様子見していたのだが、そこに登場したのが「Yahoo! BB」だった。なんとADSL 8Mの常時接続で低価格! これは夢か幻か。孫氏のオデ……いや、姿が光り輝いて見えた気がした。
今でこそ加入処理もスムーズで、「10営業日で開通」できるYahoo! BBだが、サービス開始当初の混乱はご存知のとおり相当のものだった。申し込みのアクセスが殺到する中、やっとの思いでWebから申し込んだのが6月下旬、その申し込みから10日後には本申し込みの通知が来た。よしよし、8月1日のサービス開始が待ち遠しいぞ。
しかし、近づくにつれ徐々に不安が増してくる。申し込み受理通知の後、何の連絡もないし、モデムが届くそぶりもない。そしてサービス開始の8月1日を目前に控えた7月30日、やっとメールが来た。「お客様の開通予定は8月下旬です」って、いきなり1カ月待ちかよ! まぁ、安い価格のサービスなのでその程度はガマンしよう……という気持ちが続いたのも8月下旬まで。9月になってもまったく連絡はない。サポートに電話をしても繋がらず、メールを送っても返事も来ない。一体、いつ開通するのだろうか。
Yahoo! BBに申し込んでいたことすら忘れかけていた頃、驚くべきメールが届いた。「お客様はISDNなのでアナログ回線に戻さないと開通できません」って、開通と同時に切り替えてくれるんじゃないの? 本申し込のときISDNだって表記されてたのに……せめてそのとき指摘してくれれば……。アナログに戻せばホントに開通するかどうかも怪しいと疑心暗鬼だったが、とりあえずその指示に従ってアナログに戻す。が、案の定その後も連絡は来ない。予約から約4カ月。ほとんど放置された状態であった。
■アナログ地獄からの脱出! こんにちはADSL?
秋も深まり、Yahoo! BB開通を待つのにも疲れてきた。というよりは、フレッツ・ISDNの常時接続を経験した後のダイヤルアップ接続はまさに「アナログ地獄」。一刻も早く抜け出したかったのだ。
そこでADSL 8Mサービスを中心にいろいろと検討した結果、「So-net ADSL」の8Mコース(アッカ・ネットワークスの回線)に決定。まずは、NTTに電話をしてYahoo! BBに電話回線を握られていないかチェックしてみる。当時この「回線握り」でプロバイダーの乗り換えができないユーザーの声をネットでけっこう見かけたので心配だったが、どうやら大丈夫のようだ。早速So-netに申し込んだ……が、自分と同じようにYahoo! BBを待つのに疲れた多くのADSL難民が、同時期に民族大移動を開始。各プロバイダーに押し寄せていたせいもあるのか、当時はすぐに開通というわけには行かず、実際には2カ月が必要なほどのラッシュだった。
そして師走のある日、「今週の金曜日に開通しますよ!」というメールがアッカ・ネットワークスから来た。あぁ、これでやっとうちもアナログ地獄から抜け出せる。もう、スキップでフルマラソンできるくらいウキウキ。予定通り工事日の午後にモデムが到着し、早速接続を開始した。
モデム・スプリッタ・LANケーブル類、すべて接続し終わってドライバなども組み込んだ。さぁ、魔法のスピードが体感できるぞ! と勢い勇んでブラウザを開くも、なにも表示されない。モデム設定情報などは表示されるので、どうやら外部接続に問題あるようだ。これはオカシイ。接続や設定に間違いがないか、何度も確認して接続をやり直すが、まったく変わらず。よく見ると表示されないのではなく、モーレツに表示が遅いらしい。カタツムリをスローモーションで見ている程のスピードで、ゆっくりとブラウザが読み込みをしている。「これって、どのくらいスピードなのか?」と、ADSLのスピード計測サイトに接続しようとしても、あまりに遅いためタイムエラーではじかれる。どうすればいいの~。
何とか食い下がって、速度計測ページに辿り着いた。そこで計測した結果、予想も出来ないほどの衝撃的な数字がブラウザに(超スローで)表示されたのだった!
【参考:スピードテスト】
最高データ転送速度 | 16.56kbps 2.07KB/sec |
平均データ転送速度 | 10.41kbps 1.30KB/sec |
転送データ容量 | 597.66KB(99.61KB×6回) |
転送時間 | 572.750秒 |
測定日時:2001年12月15日 午前5時11分
測定サイト:BNRスピードテスト 回線速度計測ページ
URL: http://www.musen-lan.com/speed/
利用ブラウザ:Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.5; Windows 98; Win 9x 4.90)
……はぁ? もしかして、間違って14.4kbpsモデムが届いてしまったのかーっ!? しかし、なぜかアップロードを計測すると、600kbpsほども出ている。ダウンロードが遅いのにアップロードが速いのは、低スループット特有の現象だ。アップはともかく、ダウンが前々世代のアナログモデム以上に遅いのはツライ。さらには、ただ遅いだけではなく接続も不安定で、繋がったり切れたりしている模様。56kbpsモデムで接続していた方が100倍……イヤ、計算上は5倍程マシなのだ。
■やれることはやってみる
翌日、朝イチでテクニカルサポートに電話をかけたが繋がらない。今でこそサポートはいつでも通じるが、まだ当時はサービス導入から日が浅く、どの事業者やプロバイダーもサポートへ電話が集中していた時期だったのだ。
スループットは遅いものの、リンク速度(モデム表示)は、下りで1000kbps~1300kbpsも出ている。通常スループットはリンク速度の80%前後といわれているから、800kbps程度は出ないとおかしい。その原因はノイズにあり。そう判断し、サポートへの連絡は後回しにして、ノイズ対策を考えることにした。さまざまな情報をまとめて自力で作成した対策案はつぎの6つ。
(1)モデムの電源を壁から直接取る(独立させる)
(2)モデムをPCから遠ざける
(3)ケーブル類の取り回しをスッキリさせる。
(4)ケーブル類に無駄なノイズが侵入するのを防ぐ
(5)フェライトコアやノイズフィルタを利用する
(6)ACの極性を合わせる
(1)の電源の独立化は、タップなどで接続している場合に他の機器から発生するノイズが電源経由で侵入してしまうのを防ぐため。これは他の機器の電源接続をやり直せばすむことなので簡単だ。ただ、我が家のように築20年近いマンションで電源の引き込み口が少なく、家電に包まれている生活をしていると、あっという間にタコ足配線だらけになってしまう。仕事柄AV機器が多く一部屋で30もの機器があるのでこの修正すらパズル状態だ。
(2)同じ理由でPCから出るノイズの影響を受けないようにする。しかし、離れたところに設置するため、長いLANケーブルを使ってPCとは別の部屋に設置したので、モデムの状況を見るのにいちいち隣の部屋に行かなくてはならなくなってしまった。
(3)のスッキリ化計画は、「見た目がキレイだから」ではなく、グチャグチャと乱雑なケーブルは、変な電磁波を拾ったり発生させたりしてしまうのである。かといってキレイに巻いてまとめるのはもってのほか。一番理想なのは短くすること。それでも余った分は、壁中を這わせて固定する。
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パソコン、ビデオデッキやモニターなどの機器が並ぶ。電源の確保だけでも大変だが、ノイズにも気を使わなくてはいけない |
アルミホイルで巻かれたケーブル類とADSLモデム。モデム自体をアルミホイルで包んだりもしてみたが発熱しすぎて失敗。各ケーブルはなるべく交差しないようにして配置 |
(4)は(3)に近いが、ノイズに強いケーブルを使用することが必要だ。モジュラーケーブルなら、ツイストペアケーブルにすればよい。今でこそ簡単に入手できるが、当時は入手しにくく、仕方がないのでケーブルに丹念にアルミホイルを巻いていった。何mもあるコードを何本もきれいに巻き終わる頃には、アルミホイル職人(?)になった気分だった。
(5)フェライトコアはケーブルの太さにあわせて数種類、ノイズフィルタはノイズの周波数にあわせて、NTT-ATの中継型のモジュラコネクタを3種類購入。結構な金額になってしまった。
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NTT-ATの広帯域コモンモードチョークコイルを内蔵したノイズカットフィルタ。外観は同じだが、それぞれの周波数特性は異なっている |
ノイズの原因がスプリッタであることも多い。当初、電話でのノイズが多く交換してもらったところ、リンクスピードも向上した。サポートに電話した翌日に交換部品が届くのだからスゴイ |
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左側の穴が長いのがわかるだろうか。この左側がグランド。右側は溝の幅が若干広くなっている。自宅のコンセントをよく見て確認すればわかる |
(6)家庭用のコンセントは交流だから、(+)(-)が無いと思っている人も多いが、実はそうではなく、ちゃんと極性が存在する。コンセントの穴を良く見ると長くなっている穴と、幅が広くなっている穴がある。この長い方がグランド、つまりアースなのだ。電源に接続する電気機器と、コンセントの極性が合わないと、機器間の電位差でノイズが発生する原因となることもある。
それぞれは、ほんの少しの効果しかないかもしれないが、それでもやれることはやってみよう……と上記すべてをやったところ、なんと!10kbpsだった実転送速度が700kbpsまで上がったのだ。ただし、接続が不安定なのは変わらず。常時接続と呼ぶにはまだまだ遠かった。
■普段は気がつかない劣悪な環境
ノイズの原因は屋内だけではなく、屋外配線であることも多い。先のノイズ対策を行っている間にも、NTTに連絡してNTT-MEに電話回線を調べてもらっていた。しかし、特に原因らしきものは見当たらず。電話線も近所までは地下を通り、マンションの直前で地上に出ているから外界の影響はないという。そうはいっても、モデムのキャリアチャートには、590kHz、690kHz付近と750kHz以上のデータレートは存在しない。590、690kHzはラジオ、750kHz以上は携帯無線基地が干渉しているハズ。改めて調べてみると、近所には高圧線があり、変電設備もある。また、そのすぐ近くに携帯電話のアンテナも立っている。見つからなかったがラジオアンテナも立っているに違いない。なんと恵まれた環境だろう(涙)。これではブリッジタップを外すとか、収容換えをしてもらうとか、高価なNTTのADSL対策のオプションメニューをしてもどれだけ改善されるか微妙なところだ。
また、当時はわからなかったがモデムのファームウェアがバージョンアップして、近端と遠端のキャリアチャートが見れるようになった。それによると、近端漏話時ではISDN干渉をドップリ受けている。マンションの他の世帯のISDNが原因らしい。こうなるともう、後は引っ越ししか方法はないのだろうか。
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アッカから提供された8Mbpsサービス用富士通製ルータタイプモデムでは、各帯域のデータレートが表示できる「キャリアチャート」機能がある。このデータレートが低い部分が、何らかの干渉を受けている可能性がある。この画面は後述の帯域制限後で、帯域制限前は53dB程度あった |
富士通製ルータタイプモデムのチャート機能で調べたラジオサンプルノイズ |
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富士通製ルータタイプモデムのチャート機能で調べたISDNサンプルノイズ(近端漏話時) |
収容局と自宅の間にある変電設備と高圧線。このすぐそばに携帯電話のアンテナもあった |
これらの対策を終えたころSo-netテクニカルサポートに電話で今までの経緯を報告する。どうにかならんものかと相談したところ、「帯域制限」をかける事で接続が安定するという。1Mbpsのスピードになってしまうが、現在の不安定な状態よりはいいと判断しお願いすることにした。とうとう、設定が変わるまでの1週間を辛抱すれば安定した常時接続になるのだ。……本当になるのか?
■1.5Mbpsにしておけばよかった!!
すでに帯域制限をかけることは決まっていたが、それでもまだジタバタしていた。NTT-ATのノイズフィルタも、組み合わせの順番でスループットが大きく変化することを見つけた。MTUやRWINを調整することで、さらに転送速度は改善された。そして帯域制限実行日の朝には、リンク1500kbps、スループット1200kbpsにまで引き上げることに成功したのだ。これならば、実用上はADSL1.5M並。何とか納得できる数字だ。人間努力すれば、何とかなるものだ。
しかし、午後にはアッカ・ネットワークスの帯域制限がかけられ、リンク1024kbps、スループット800~830kbpsに。急いでSo-netテクニカルサポートに電話して、帯域制限を外してもらうようにお願いしたが、
「一度かけた帯域制限は外せません。」
「がびーんっ!がびーんっ!がびーんっ!(エコー)」
……空しい努力だった。
ただし、ありがたいことに帯域制限をかけることで接続は安定した。突然切断されるということがなくなり、常に一定の速度も出ている。830kbpsというスピードは、かつて使用していたISDNや56kbpsモデムの10倍以上で、WEBやメール程度だったらなんら問題はないし、ブロードバンドコンテンツも大抵は楽しめている。が、ADSL 8Mの月額料金で実際は1Mbps。これなら最初から1.5Mbpsで工事してもらえばよかったかもしれない。いまさら1.5Mbpsに切り替えてもまた工事のやりなおしでお金がかかるし……。1.5Mbpsにするか8Mbpsにするかは思ったよりも難しい判断なのだと失敗してから初めて知った。
ベスト・エフォート型サービスだからサービス提供側には無論責任はないけれど、ちょっと割引とかにならないかなぁ。トホホ……。
光陰矢のごとし。字の如くアッという間にみんな光ファイバ接続になる時代が来るだろう。ADSLは光ファイバまでのツナギだと思っていたので、しばらくはこの速度でガマンしようと思う。Bフレッツも料金的に手が届くところまで来ている。あと少し、あと少し。それまではもうちょっとバタバタとやってみよう、無駄な努力を。
■参考データ
居住地区 | 神奈川県川崎市 |
線路距離長 | 2730m |
伝送損失 | 53dB |
接続事業者 | アッカ・ネットワークス |
プロバイダ | So-net |
スループット | 約830kbps |
(2002/08/01)
□So-netホームページ
http://www.so-net.ne.jp/
□アッカ・ネットワークスホームページ
http://www.acca.ne.jp/
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