■中古マンションはADSLに最適
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築30年以上ながらブロードバンド対応オフィスだった
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毎月、雑誌で紹介するために、フリーウェアやシェアウェアを大量にダウンロードする。採用するソフトは50本程度だけど、それを選び出すために、通常は100本、多い時は200本を試す必要がある。1本のファイル容量が平均1MBとして、100MBから200MBもの容量だ。最近はオンラインソフトも多機能になり、デザインに凝っているため、総容量が数百MBを超える場合もある。海外ゲームの体験版を扱えば、1本当たり50MBを超えるファイルが当たり前だ。ISDN時代はCD-ROM1枚分のファイルをダウンロードするだけで丸2日かかった。ダウンロードツールを駆使しても辛い作業だった。
当時私は、都内の2DKの賃貸マンションを借りていた。築30年近い建物だが、外部から直接電話線を引くタイプだったからADSLサービスを早くから利用できた。しかし、私はISDNを解約したくなかった。なぜならISDNのアナログ2回線をそれぞれ電話とFAX専用に割り当てていたからだ。引っ越してから1年ちょっとで電話番号を変えると、また取引先への通知やクレジットカード会社などへの変更手続きが必要だ。これはなにかとメンドウな気がした。そうかといって新規にアナログ回線を引くと電話加入権だけで7万円以上もかかる。
ところが、ADSLについて調べると、タイプ2という契約方法がある。ADSL通信専用回線を増設する場合は、電話加入権は不要なのだ。というわけでさっそくNTTのWebサイトで申し込むと、あっさりADSL回線が開通した。私の部屋は電話線が1回線しかなかったけれど、工事屋サンはひゅるひゅると新しい電話線を壁に通して、あっというまに外にある装置に繋いでしまった。小規模の中古マンションの場合、電話配線がシンプルなため簡単に工事できるようだ。こうして私は比較的早くからADSL回線の恩恵を享受できた。こんな物件は珍しいかもしれない。選ぶときは家賃と広さしか考慮しなかっただけに、私は幸運に感謝した。ADSL8MBサービスへの移行もスムーズで、常に最先端のブロードバンド回線を利用し、ダウンロード時間は大幅に短縮した。
■インターネットマンションにもいろいろありまして
そのラッキーな賃貸マンションに住みはじめて2年経ったとき、仕事場が手狭になったため、もうすこし広い部屋に移ろうと思った。しかし、フリーライターにとって賃貸マンションは狭き門だ。私はちゃんと青色申告をしているし、同世代の会社員並みに稼いでいるつもりだ。しかし企業に属さないライターに対して世間は冷たい。さらに、2LDKや3LDKの物件を探すと賃料は急に跳ね上がる。そんなとき、ふと住宅情報なる雑誌を見ると、新築マンションの月々のローンが家賃より安い場合もある。
そんなわけでモデルルーム巡りを始めたけれど、選択の決め手はインターネット回線ではなく“窓から電車が見える”ことだった。なにしろ一日中引きこもって働くわけで、少しでも景色が良いほうがイイ。鉄道好きな私にとって良い景色とは、電車が見えることが必須条件だ。インターネットマンションが流行り始めていたけれど、この業界を見ていれば、現在のインターネット環境に関する売り文句は当てにならない。2年も経てばマンションのインターネットサービスは陳腐化するに違いない。なにしろ数年前のインターネットマンションはOCNの128Mbpsを100世帯でシェアするような物件が普通だった。今では考えられないことだ。
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マンション購入時に最優先した“電車が見える”窓からの眺め
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約2年間のモデルルーム巡りでいろいろな物件を見たけれど、インターネットに対する取り組みにはものすごく差がある。100Mの光ファイバーを敷設して各住戸に100BASE-TX対応のLANコネクタを設置しているタワーマンションはかなり力が入っていると思った。電話回線が2回線まで対応済みというだけでインターネット対応と宣伝するファミリー向け物件は誇大広告のような気がした。しかし、現在どんな良い設備を備えたとしても、やはり5年後は通用しないだろう。だからこの際、インターネットについては無視。立地と価格と広さ、そして電車(笑)を重要視して物件を探した。
■400世帯で光ファイバー10Mが1本?
私が選んだマンションは、400世帯以上の大規模タイプ。大規模物件のメリットで共有施設も充実。宅配ロッカーがあるから、外出中にも編集部から送られた製品サンプルを受け取れる。送るときはフロントのお姉さんが宅配便を手配してくれる。もちろん、窓からはちゃんと電車が見える!
住宅金融公庫の審査も終わり、デベロッパーとの契約も完了。なにかと忙しくせわしない日々も落ち着いた。そんなおり、デベロッパーからは“ブロードバンド設備の説明会”という案内が届く。まだ入居募集が終わっていないので、客寄せ的な意味合いもあるのだろう。マンション選びの決め手にはしなかったけれど、やはりどんな設備かは気になる。物件のパンフレットにはブロードバンドが標準装備で、管理費に料金が含まれていると書いてあった。さっそくモデルルームへ足を運んだ。
あまり期待はしていなかったけれど、話を聞いて落胆した。400世帯以上もあると言うのに、マンションに引くネット回線は10Mbpsの光ファイバーがたったの1本! そこから各住戸へ上下1MbpsのHomePNA 1.0で分配するという。ちょっと待て、いくらなんでもそれは細すぎないか? 入居まであと1年以上あるし、すでにNTTはBフレッツのマンションタイプ(各住戸10Mbps)を発表したばかりだ。1年先にはもっと安くて速い設備が登場するかもしれないのに、現在の私の環境であるADSL 8Mよりも遅いとは……。
このプロバイダーは大手マンション開発会社とNTT系列の会社が出資した合弁会社で、マンション販売会社の子会社的存在。マンション管理会社も系列の関連会社が入っている。つまり、購入時点で他のプロバイダーを選択するはずがない。当てにはしていなかったけれど、私はかなり気落ちした。ところが説明会の担当者は、入居者には最先端のブロードバンド常時接続を提供するなどと夢のようなことを言う。違うでしょう……。
■このままじゃ時代に逆行するぞ!
私は思い切って質問してみた。10Mbpsを400世帯でシェアすると、夕方から夜にかけて回線がパンクしないのか? 今から機材を手配しないで、1年後に手配すればもっと安くて良い環境になるはずだが、スペックの更新はないのか? 光ファイバーを引くと言うが、こんな細い線ならむしろADSLを使いたいが対応できるか? などなど。しかし答えは「技術的なことは判りませんので後日……」。おいおい、それじゃなんのための説明会なんだ!
回線が細いことはこの際置いておくとしても、ADSLが引けるかどうか不明という点は気になる。ADSLも引けず、1MbpsのHomePNAで、外部との回線は10Mbpsと言うなら、もしかしたら私はとても間違った買い物をしてしまったのだ。説明会の担当者では頼りない。私は販売担当者を通じてメールで問い合わせた。その答えが情けない。「現状のインターネットの使いかたからみて、十分なスペックです。なぜならHomePNAの1MbpsやADSLの8Mは本来の速度を出していないので、光ファイバーは10Mbpsで対応できます……」
なんともユーザーをバカにした話だ。さすがに私のように一晩で1GBものダウンロードを実行する人間は少ないだろう。しかしこのマンションには400世帯以上、1000人を超える人々がいるのだ。そのなかには私以上にヘビーなダウンロードマニアがいるかもしれない。そうでなくても、100世帯が512kbpsのストリーミングを再生したらどうなるのか。ダイヤルアップではメールしかしない人でも、ブロードバンドになったとたんに新しいコンテンツを体験したくなるハズだ。光ファイバに手が届く時代に、このマンションはテレホーダイタイムの悪夢が繰り返されるというのか!
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移転後の仕事場。面積は減ったが収納は大幅に増えた
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リビングダイニングルーム(LD)の使い方がわからず、ファクトリーと化している
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■他の購入者たちが気付き始めた……
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マンションのインターネットはあてにならないと覚悟して、ISDNとADSLをそのまま移転したけれど……
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ただし、まったく悲観すべきではないかもしれない。すでにいくつかのマンション向けプロバイダーからは、理事会が承認すれば、希望者だけが割り増しし料金を支払うことで高速なネットサービスが利用できるというサービスが登場している。スピードネットのように、無線を使うプロバイダーに加入するという手もある。いざとなれば、マンションの利用者全員でプロバイダーの変更を決議すればいい。400世帯で10Mbpsなら不満続出までは時間の問題だ。
そんななかで、少しずつ良いニュースも入ってきた。まず、最寄りのNTT交換局が50Mbpsの光ファイバに対応した。これを受けて、マンション側のプロバイダーがさらに高速なサービスを発表した。すでに契約中のマンションに対して、管理会社と理事会に働きかけて回線増速を促すそうだ。新築マンションには初めから適用されればいいのだが、そこはコメントしていなかった。管理会社や理事会の決議が必要だという点はメンドウだが、入居開始後に増速される見通しはある。
さらに、新しいマンションでもADSLが使えることがわかった。NTTへ電話回線の移転を伝えたら、光ファイバだけではなく、予備も含めて100対のメタルケーブルも引きこんでいるそうだ。これでとりあえず従来の通信環境は維持できそうだ。上下1Mbpsのネット回線は、予備回線にするか、ルーターを通さないでオンラインゲームで遊ぶために使えばいい。
いよいよ入居も近づき、内覧会(引渡し前のチェック)で再びインターネットサービスの説明を受けた。私は再度、回線速度の不満を伝えた。前回と別の担当者だったが、私以外にもずいぶんたくさんの問い合わせがあったらしい。NTTのフレッツサービスがどんどん速くなったり安くなったりすると、新聞やテレビでニュースになる。購入者はそれを見るたび、自分のマンションのインターネット回線を確認し、どんどん陳腐化していくことに気付く。問い合わせたくなるはずである。私も捨て台詞を言わせていただきましょう。
「インターネットマンション協議会に参加してる会社が、いまどき上下1Mbpsのサービスなんかやっていて恥ずかしくないの?」
■入居してみたら100M&VDSLに……
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中央の灰色の機械がVDSLモデム。使い方はADSLモデムとまったく同じ。青い箱はプラネックス製ブロードバンドルータ。右が新たに購入した高速タイプ。左はADSL時代に使っていたもの
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結局、マンション側のインターネット設備は当てにならないという結論に達した。私は今までどおりISDNとADSLをふたつとも移転させるとNTTに伝えた。そして、引渡し当日。新居の鍵とともに手渡されたインターネット接続機器は……なんと、VDSLモデムだった。住宅設備の説明書には、マンションのインターネット設備が変更になり、100Mbpsの光ファイバーを1本引きこみ、各住戸には15MbpsのVDSL回線となったとある。これは朗報だ。とにもかくにも、15Mbpsはマンション向けのネット回線としては最高速の部類になる。
さっそくパソコンをつないでみた。速い! メールもFTPも速いしストリーミングは滑らかに再生できる。実測値は6Mbpsだが、ADSL-8Mの実測値は2.5Mbpsだったから、2倍の速度が出たわけだ。また、なぜかこのVDSLは下りよりも上りのほうが速いので、メール送信が一瞬で終わる。Webサーバーへのアップロードもかなりスピードアップされた。これからはダウンロードマニアを卒業してアップロードマニアになってしまいそうな勢いだ。
ただし、ちょっと不満もある。このプロバイダーの場合、無通信時間が続くと接続を切られてしまう。しかも認証はWebサーバーを使うため、いちいちブラウザを起動する必要があるのだ。この問題はメールチェッカーで10分おきにメールサーバーにアクセスすることで解決した。また、ルータを設置してからは自動的に回線を維持できるようになった。もうひとつ、Webブラウザで新しいページを開くと、しばしば強制的にプロバイダーのページが開かれてしまい、すぐに目的のページに行けない。これは慣れた。
それよりも困ったことは、余ってしまったADSL-8M回線だ。マンション側プロバイダーのVDSLへの変更を、もっと早く通知してくれたら、ADSLの移転は発注せずに済んだはず……。そんなわけで、いま私の通信環境はVDSLがメイン。ADSLは未使用のまま料金を支払い続けている。この回線は何に使おうか。固定IPをくれるプロバイダーと契約して、自宅サーバーを立ち上げてみようかと思案中……。
■参考データ
居住地区 | 東京都大田区 |
線路距離長 | 不明 |
伝送損失 | 不明 |
接続事業者 | NTT-ME |
プロバイダー | CYBERHOME |
スループット | 約15Mbps |
(2002/10/3)
□サイバーホーム
http://www.cyberhome.ne.jp/
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