学生時代しばらくドイツに住んでいたのだが、彼の地でのネット環境はまさに暗黒の「中世」さながらであった。「情報」への欲求の薄いヨーロッパにあって、比較的テクノロジー先進国のドイツでさえ、インフラもプロバイダーも日本より数年は遅れていた。さらに、マックユーザーであった私は、Windowsマシン用のものより十倍以上もするISDN拡張カードが買えず、泣く泣くピーヒョロヒョローの音とともにモデムのランプを見つめたものだった。
■CATVバンザイ! 高速ネット通信がやってきた
帰国した私は、はやる気持ちを抑えてネット環境を比較検討した。ADSLにリスクを承知で申し込むよりは、CATVで実績のある関西の雄J-COM関西さんにお世話になる事にした。はじめからCATV回線が入っているマンションであったし、これは正しい選択だったと思っている。
晴れてブロードバンドユーザーの仲間入りを果たした私は、1Mbps近くのスピードに目がくらくらしながらネットブラウジングを楽しんだ。理論値10Mbpsにはほど遠い速度ではあったが、CATVでもこのくらいで普通だというからさして不満はなかった。
■でもやっぱりルータは設置したい
問題は、契約で「複数台のPC接続およびルータ接続禁止」だったことだ。これにはまいった。だって、複数台PCを持ってればネットワークで繋ぐのは常識でしょ? 繋いじゃえば今度はルータを介して接続を共有したい、と思うのは人情じゃないですか……。
で、はじめはEthernetのケーブルを付け替えたり、1台にソフトウェアルータを入れてみたり(規約違反ではないと自分に言い聞かせながら)と、ずいぶん試行錯誤を繰り返したんだけど、やはり結論として「面倒くさ~い!」。
ましてやAirMacを導入してからは、ローカルネットワークによるファイル共有とインクジェットプリンタの共有という2つの大きなメリットをあきらめてまで、ルータ内蔵無線LANベースステーションをケーブルモデムに繋いではいけないという規約を守るのがばからしくなってしまった。気の弱い私はずいぶん悩んだのだが、プライベートIPアドレスは解析すればわかってしまうからダメとかいう本当かどうかわからないネット情報を見ながら、やはり今ひとつ不満を抱えながらも良い子のままでいたのであった。
この一連の環境の変化で気づいたことは、「常時接続は無線LANを介したノートパソコンでこそ、その恩恵を最大限に受ける事ができるのでは?」ということだった。常時接続のどのコンテンツをどのように利用するかで価値判断は大きく変わるので、全ての人に当てはまるとは思わないが、少なくともわたしの環境では大きなファクターだった。このことは後でもう一度考えてみたい。
そうこうするうちに、私の良いネチケット(?)が報われたのかどうかは知らないが、転勤が決まり新天地へと居を移すことになったのである。
■いざADSLへ。ルータ設置も問題なし
さて、CATV回線の安定感・クオリティそのものには満足していたのだが、前述の約定の問題と、もうひとつ金額が不満であった。たしかにテレビ番組視聴との同時契約で若干の割引はあるものの、ちまたで目にするADSLの月額固定料金と比較すると価格的メリットでは見劣りした。しかも、「ベストエフォート」という横文字でごまかしてはいても、理論値10Mbpsなのに実質平均700kbps程度というスループット(集合住宅だからか?)は、いちかばちかの要素の多いADSLと大して変わらないばかりか、当時の月額料金に見合うものではなかった。
幸か不幸か転勤先の住まいは借家で、新たにCATV回線を引くことがむずかしかったため、選択肢はADSLに限られてしまった。当時、私の住居地へのサービス展開はフレッツ・ADSLが一番速かったので、何の迷いもなくフレッツ・ADSL 8Mサービスを申し込んだ。サービス開始当初という事もあったのだろうか、担当者は親切で、交換局から3.6kmも離れている私の環境で出来ることをいろいろアドバイスしてもらったし、また工事日程の設定や局内工事も迅速で気持ちよかった。
もっともCATV時代よりは回線速度の低下は覚悟しなければいけなかったが……。フレッツの担当者さんからはこの距離ではサービスそのものも難しいかもしれないと言われていたので、つながってリンクが確立しただけでもラッキーという感じだった。ネット上の回線速度測定では平均700kbps出ていて、まずまず。ADSLモデムに接続した電話の音質がやや落ちたのが気になったが、聞きづらいほどではなかったので良しとしよう。
ところが数週間経ったある日、朝起きてみるといつもは点灯しているリンク確立を示すランプが点滅している。それもひどく気怠げにだ……病気か? この気怠い間隔の点滅は、信号を検出できていない事を示すという。私は気怠くなるどころかハラハラしてそのランプを見つめた。初めてモデムをセットした時はわずか数秒でリンクが確立したのだが、リセットしてもなかなかつながらない。「がんばれ~切れないでくれ~」とADSLモデムに必死で話しかける私をひややかな妻の視線が刺す。時間ははや20分はたった。目が「いつまでやってんのよ」と言っている。その視線を「おまえだって常時接続の恩恵にあずかってるだろ! 昨日家計簿ソフトダウンロードしてやったの誰だと思ってんだ!」と跳ね返す。
しかし、無情にもランプはときどき速い点滅を繰り返すだけ。この速い点滅を経て点灯にいたるわけなんだが……。2度は私の念力というか脅しというかが効いて(?)復活したものの、とうとう3度目はなかった。ADSLモデムの電源はタップじゃなくてちゃんと壁から取ってるし、近くに電子レンジはないし、使用開始直後から何も変えてないのに~(涙)。サポートに電話してみたものの、やはり打つ手はないと同情されるのみ。「同情するなら信号くれ!」と叫んでみても、サポートの人のせいじゃないからしょうがない。
こうなったら過去はすっぱり忘れて、未来を見ないといけない。アナログモデムに戻るくらいなら、またサカイさんを呼ぶ!(=引っ越すの意)くらいの覚悟でいかないといけないね。「どこにそんな金があんのよ」(妻談)
■おっかなびっくりYahoo!BBへ
そうはいうものの残る選択肢はYahoo!BBの8Mサービスのみ。ちょうど悪名高きサポートの改善策が発表された頃で、まだ一抹の不安はあったが申し込んでみた。やはりモデムが届いて、設定が完了するまでにはフレッツ・ADSLよりも時間がかかったが、あらかじめWebに記載されている日数と同じだったので不満はなかった。やはり正確な情報の開示は重要ですね。
いざ開通して使い始めてみると、良い知らせと、悪い知らせが。
まず良い方は、以下の通り。
1. 回線が安定した事。というか一度も切れる事がない。
2. 回線接続ユーティリティ(PPPoE関連)を使う必要がない事。
3. BBフォンの恩恵を受けられる事。やっぱりBBフォン同士の通話が無料というのはすごい。
4. 電話のクオリティが前より良くなったこと。
悪い方は、以下の通り。
1. 回線のスループットがフレッツより100~200kbps程度落ちたこと。Yahoo!BBの方式の方が距離には強いと思ってたんだけど、なぜ? でも、回線がしょっちゅう切れるよりはよっぽどまし(切れた場合モデムのリセットをするんだけど、そんなこといちいちやってられる?)。
2. サポートが利用しづらい。
というわけで乗り換えは大成功。しかも、2カ月ほどたってから12Mbpsコースへの変更が可能になって、アップロードのスピード向上こそなかったものの、ダウンロードが少し速くなって前のフレッツ・ADSLの時より速くなったのだ。こうして私のブロードバンド環境はここでひとまず落ち着き、そして現在まで問題なく使えている。
■本当のブロードバンドの利点とは?
そこでさっき書いた無線LANのことをまた考えてみたい。今私のうちでは、次のような環境になっている。
根っからのMacユーザーなのだが、仕事の関係でWindowsマシンも使えないと不便なので1台を追加した。このMacとWindowsの両デスクトップマシンは、私の部屋にある。モデムからの距離は約8メートルであるが、この間はフラットイーサネットケーブルで接続している。これらのパソコンには21インチの大きなCRTをあてがって、腰を据えて仕事をする時やグラフィックをするときにはここでやる。そしてiBookはもっと生活に密着した作業を一手に引き受けているのだ。
私の場合、メールチェック、日記、所蔵本のデータベース化、テレビ番組の検索、そしてインターネットラジオ、DVDプレーヤとしてテレビに接続、などをすべてiBookで行なう。デスクトップマシンでやる事は、Excelで大きな表計算をする時、スキャナを使う時とか、自分のWebの更新(やっぱり大きい画面の方がやりやすい)、ビデオの編集に限られている。
このように見ると、今の環境からもしiBookを取り去ってしまったら、私の生活環境は一変してしまう。たとえば、奥の部屋にいる妻にメールが来てるよ! と声をかける。妻は片道20歩は歩いてデスクトップマシンがある私の部屋まで来なくてはならない。料理をしながらレシピを検索するのも難しくなるし、インターネットラジオを居間で聞く事ができなくなる。
皆さんがどのようなブロードバンドコンテンツを利用しているかわからないが、私にとってこのインターネットラジオというのが大事な部分なのである。私の居住地はラジオが入りにくい盆地だし、なにより留学時代に習ったドイツ語の学習のためには、ドイツ語放送をリアルタイムで聴けるということはこれ以上はない環境なのである。
しかも、たとえデスクトップパソコンを無線化したとしても、これらのことはデスクトップパソコンでは少し都合が悪いのだ。私はアップルコンピュータのファンであるが、デザイン性に優れているとはいえ、リビングにiMacなどを置くのはやはり抵抗がある。ましてやうちのWindowsデスクトップパソコンだと見栄えも悪いしファンの音などが気になる。私の場合これらのコンテンツ利用にはノートが一番なのだ。iBook+Mac OS Xならスリープからの復帰も大変速いので、気軽に膝の上にのせたくなるのが嬉しい。従ってAirMacカード内蔵すなわち「無線LAN」という要素も、私にとっては「ブロードバンド」「常時接続」と同じくらい大きいものなのだ。ここで一句「ぶろーどばんど 生かすも殺すも 無線LAN」。そんなことない?
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Yahoo!BBのADSLモデムとAirMacを並べて設置している
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メールやWebサイトのチェックなど通常のパソコンワークはすべて無線LAN接続のiBookで行なっている
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■次なる目標は?
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近所に、気になる「情報夜間工事中」の横断幕が
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iBook片手に、いや両膝にのせて書いているのだが、窓から外を見るとショベルカーが見える。最近うちの前の国道は頻繁に掘り返されているのだ。今夜もやるつもりか? 土曜日だぞ。うるさいやら振動で眠れないやら迷惑きわまりない。工事の看板をよく見ると「情報管路夜間工事中 ご協力ください」とある。これって光ファイバのこと? あわてて某大手FFTHサービス会社のページをチェック! 県庁所在地カバー完了? よっしゃー、地域選択!よしこい!……え、山梨県まだなの? ……くすん。
「拝啓 光の国から僕らのために来てくれた会社殿
騒音我慢しますから、工事が終わったら家の前のバス停の頭にIEEE 802.11g方式の無線LANステーションを設置してくださいませ。貸家だからケーブル引き込みの許可取れないと思うのです。よろしくお願いします。あと、モニターしますから料金安くしてください。 敬具」
(2003/03/06)
■参考データ
居住地区 | 山梨県甲府市 |
接続事業者 | Yahoo!BB |
回線の種類 | ADSL |
線路距離長 | 3600m |
伝送損失 | 56dB |
プロバイダー | Yahoo!BB |
スループット | だいたい700kbps |
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