■シャープ X1との出会い
私はネットワークに金をかけない主義である。ビンボー、……かどうかは想像におまかせするとして、できるだけプロバイダーや回線にはお金をかけずに済ませたいと思っている。幸いなことに、職業柄プログラムもかける。できるだけ自作できるものは自作で済ませてしまおうと思っている。
そんなわけで今、筆者の部屋でブロードバンドルータとして動いているのは、16年ほど前に販売されたシャープ製8bitパソコン「X1 TURBO Z」。ルータとしてだけではなく、家庭内LANのファイル共用サーバーやメールサーバーにと成長を遂げ、いまやわが家のネットワーク中枢としてなくてはならない存在になった。
ちょっと長くなるが、まずはX1を解説したいと思う。筆者にとっては記念碑的マシンなのだから。
約20年前にシャープのテレビ事業部が「テレビが見れるパソコン」としてX1シリーズを販売した。当時は、日本電気のPC-8801シリーズや富士通のFM-7シリーズなどのヒット作が登場し、8bitパソコン黄金期と呼ばれていた時代。この時代のパソコンは現在とは違って、機種が違えば互換性がない。各社はシェアを取るのに躍起になっていたが、圧倒的なシェアを誇っていたのは日本電気。シャープにはMZシリーズがあったが、シェアは伸び悩んでいた。そこで、打倒日本電気という意気込みで投入したのがX1シリーズだった。その最大の魅力は、他社の機種では処理が重く移植できなかった名作、当時アーケード版で大流行したシューティング・ゲーム「ゼビウス」がプレイできたことだった(笑)。
高校進学の時期だった筆者は、パソコンへの興味もあったことからコンピューターを専攻する工業高校の情報技術科へ進学した。同級生たちは進学祝いとして親にパソコンを買ってもらっていたが、わが家はあまり裕福ではなかったため、友人の家に遊びに行ってゼビウスをプレイしていた。そのたびに「いつか自分もX1を買うんだ!」と、ずっと思い続けていた。
そして高校を卒業して社会人になり、X1シリーズの末期に近いモデルとなるX1 TURBO Zをついに購入! それはそれはうれしかった。
だけど、だけどである。時代はすでに16bit CPUに代わりつつあった。念願かなって購入したマシンだが、仕事も忙しくなったために、すぐにテレビとしてしか使わなくなってしまった。そして自宅ではパソコンに触らないまま十数年が経つことになった……。
■2台のパソコンをインターネットに繋げるために
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近代的なパーツを使ってよみがえったシャープのX1 TURBO Z。外見は骨董品なみだが、中身はしっかりとしたPC/AT互換のPCサーバー |
PC/AT互換パソコンとWindowsの出現により、急速にインターネット接続が広がっていく中、筆者はパソコンに触らずに過ごしていた。実は会社では毎日コンピュータに触れていたのだが、それは会社や工場で使用されるサーバー・コンピュータ。パソコンとは別の世界だった。そこで使っていたコンピュータはすでに32bitかそれ以上だったが、普通に販売されているパソコンも知らない間に32bitになっていた。その事実を知った時のショックは大きく、まるで自分がとり残されてしまったように感じたものだ。そしてすぐさま電器店に赴き、富士通のFMVを購入してしまった。Windows 95が登場した当時のことだった。
このFMVはよく活躍してくれた。主にゲームだったけど(笑)。それでも長く使っているうち、新しいゲームタイトルの動きがなんだかぎこちなく感じてきた。パソコンを持っている知人に聞いたところ、ゲーム用ならパソコンを自作したほうがいい、トータルでは安くあがるという。時代はWindows98が発売され、自作PCがブームになっていたころ。周りの友人たちにできるなら自分にできないはずはない!と奮起。早速パソコンの自作に取り掛かり、苦労の末になんとか完成させることができた。
FMVではゲームだけでなくインターネット接続もしていた。マシン内蔵のアナログ56kbpsモデムである。しかし、より高性能の自作PCでもインターネットに繋ぎたい。普通なら自作PC用にモデムを買うのだろうが、根っからの貧乏性が「No」という。FMVに代理アクセスソフト(別のパソコンからダイヤルアップ接続を行なうソフト)を入れることも考えたが、自作PCからはメールの送受信やダイヤル切断ができないといった不自由があった。そうこうするうち、当時はやっていたダイヤルアップルータが欲しくなってきた。しかし低スペックの自作パソコンがもう一台買えるほど、ダイヤルアップルータの価格は高かったのだ。
そこで、Linuxのダイヤルアップルータを自作することを考えた。ここからX1 TURBO Zの改造が始まったのである。
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奥に3枚並んでいるのがLANカード。PCIバスのLANカードはサイズが合わないので、カードの固定ブラケットを外してケースの梁となる補強板で固定している |
手前が内蔵HDD。X1のケースファンの隣に設置。X1純正電源のパーツを流用し、HDD固定ブラケットと同時にヒートシンクとして利用 |
■コントローラブルなルータを目指して
X1 TURBO Zは、FMVの実装レイアウトを参考にマザーボードや電源を入れ替えて改造。つまりこの時点で中身はPC/AT機になっているが、見た目はX1のまま。カッコいいし、ケースも買わないで済んだ。
ダイヤルアップルータとして、電話線やコンピュータ本体からのノイズを減らすため外付け56kbpsモデムを購入し、シリアルで接続。肝心のOSは、X1 “TURBO” ZということもあってTurbo Linuxを試してみたものの、モデムを認識できなかったためRedHat Linuxを使用することにした。
ちなみにLinuxは当時広がりつつあり、趣味のレベルで使っていた。もともとUnixは得意である。何より魅力なのはタダで使えるということだ(笑)。
次に目指すのは、市販ルータには必ず搭載されているルータの制御機能。Webサーバーの機能と自分で書いた制御プログラムで、ルータの起動や停止、ログ確認などをブラウザからコントロールできるようにした。シャットダウンはブラウザコントロールだけではなく、ネットワークが停止した場合でも電源ボタンを押せばLinuxがサスペンドする処理にし、システムが停止できるようにLinuxカーネルを一部書き換えた。ちなみにシステム停止の改造部分は、ftpサーバ-で公開している。興味のある人はぜひ見てほしい。
このころ利用していたのはテレホーダイ。ダイヤルアップがパソコンからの操作で可能だったので、自動的に接続、切断を行なえる機能を追加した。毎夜10時50分になると、ダイヤルアップルータが起動し、11時01分にダイヤルアップで接続。翌朝7時50分にはダイヤルを切断し、7時55分に電源を切断する……という自動運転スケジュールを組んでみた。電源投入に関しては、BIOSの電源投入機能を使い、それ以外の作業はLinuxのスケジューリング・サービスであるcron機能を使用。ダイヤルアップ接続、切断がルータの時刻を使って自動的に行なわれるため、信頼できる時刻をルータに設定する必要があり、自動的に日本標準時を公開されているサーバ-から時刻を取得して、自動的にルータに設定するようにした。
自動的に接続、切断ができるようになったので、次に作ったのは時限公開ホームページ。公開している個人ホームページから、ルータ側で家のサーバー内のページにアクセスするためのリンクページを自動生成するようにした。ダイヤルアップでIPアドレスが変わると、自動的にインターネット上の個人ホームページをアップロードするようにした。
とまあ、便利に使っていたのだけど、ダウンロードが5KB/s程度のダイヤルアップでは、数百MBもある動画やLinuxのパッチをダウンロードすると、数日に渡ることも珍しくなかった。週末家にいるときは一日中ネットに接続して、のんびりと過ごしたいという希望もあり、ジワジワと常時接続に対する憧れが沸いてきた。
ちなみに、ISDNには手を出そうと思わなかった。基本料金が高くなるし、第一ターミナルアダプタ代がもったいない。結局ISDNは経験せずに今に至っている。
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ルータの制御画面。各種ログの参照、ダイヤルアップや固定URLの制御、家庭内LANでのファイル共用機能の再起動、ルータの再起動・停止などが行なえる |
ADSLモデムやハブ、ベアボーンPCが山積みされている机上の一角。一番下のひときわ大きいケースは初代FMV |
■そしてADSL開通! 格安のプロバイダー探し
当時の常時接続といえばケーブルテレビかADSL。ケーブルテレビはサービスエリアではなかったので、タイミングよくサービスエリアに入ったばかりのフレッツ・ADSL 1.5Mに加入した。
ここで間違いをひとつやっている。今はADSLは回線とプロバイダーがセットになっていったり、Yahoo!BBのように両方を兼ねているところが増えているが、それを知らず、別に申し込まなければいけないものだと思っていたのだ。それで当時契約していたプロバイダーはADSLに対応しておらず、新しいプロバイダーを探す必要が出てきた。
これまで、多くのダイヤルアップのプロバイダーを探したように、検索エンジンでひたすら探しまくる毎日。大手プロバイダーは月額2,000円程度。なんとかこれを、ダイヤルアップ契約と同程度の月額1,000円ほどに抑えたい。そして、なんとか見つけたのはいいが「現在会員は募集していません」とのこと。あきらめかけたその時、友人からADSLだけで月額980円、年払いだとさらにオトクなプロバイダーがあることを聞いた。友人のアドバイスもあり、サービスも安定して提供されているとのことなので、現在の「アルファインターネット」に決定した。
1.5Mbpsでの接続は、ダイヤルアップ時の速度5KB/sが一気に32倍の160KB/sとなり、常時接続で時間を気にする事もなくなったので、非常に快適なものとなった。そしてダイヤルアップルータは、ADSL接続のためにブロードバンドルータへと改造が必要になった。
ADSLの導入が遅かったこともあり、LinuxのADSL接続ソフトもすでに開発されてインターネット上に公開されていたので、これを流用。常時接続になったことで、ルータの自動起動、停止をやめ、24時間運転となった。この結果、時限ホームページも常時公開となり、ダイナミックDNSと呼ばれる固定URLで、外部からアクセス可能なページを提供できるようになった。
■まだまだ発展途上
筆者の場合は、自宅のサーバー上でホームページを公開しているために、常時接続で24時間稼動をしている。アクセスログを確認してみると、ポートスキャンを仕掛けられたり、httpプロクシの踏み台として使おうとされた形跡もある。NIMDAなどのウイルスの増殖活動時に見られるログに遭遇したことも。
簡単にやられてはたまらないので、ルータ側のファイアーウォールで防御しているが、Linuxでも完璧という保証はどこにもない。同じような環境を構築しているサイトでも、クラックされたり、Linuxそのものが感染するワームにやられたりしたことがあるようだ。やらなければならないこはとまだたくさんある。
プロバイダーもさらに安いところが登場しているようだが、個人的に引っ越しする予定もあり、回線は取りあえず現状のまま過ごしている。
「どうして1.5Mbpsのままなのだ?」といぶかしむ意見もあると思う。でも、1.5Mbpsもあれば十分、それよりできるだけ安く常時接続したい、という筆者のような考えのユーザーも多いはずである。手間はかけるけども、金はかけたくないと、今でも思っている。
安さを求める旅には終わりがないのだ。
(2003/04/24)
■参考データ
居住地区 | 神奈川県横浜市緑区 |
接続事業者 | NTT東日本「フレッツ・ADSL 1.5M」 |
回線の種類 | ADSL |
線路距離長 | 1,990m |
伝送損失 | 29dB |
プロバイダー | アルファインターネット |
スループット | 1.2Mbps(160KB/s)程度 |
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