■ブロードバンドは何のため?
本コーナーで過去にも紹介したとおり、今のところ、筆者宅はADSL接続サービスの回線が2本、引き込まれている。1本はNTT東日本の「フレッツ・ADSL」、もう1本はイー・アクセスによるBIGLOBEの回線だ。それぞれ申し込み時は、1.5Mbpsサービスや8Mbpsサービスを契約していたが、現在はいずれも12Mbpsサービスで契約している。プロバイダーについてはいずれもBIGLOBEで契約していたが、両方とも同じでは変わりばえがしないため、現在はフレッツ・ADSLをDIONで接続している。
12Mbpsサービスについては、比較的早い段階から申し込み、筆者が居住する地域でサービスが開始されるのとほぼ同じタイミングで利用を開始することができた。ただ、いずれのADSL接続サービスも8Mbpsサービス契約時に6Mbps近くでリンクアップしていたため、ほとんど速度の向上はなく、現在はリンクアップで6Mbps+α、スループットは5Mbps程度になっている。「ある程度、スピードが出てる人にとって、12Mbpsサービスは事実上の値上げかもね」なんていう業界筋の声もあったが、まさにその通りの結果になっている。
もちろん、今後、ADSLモデムのファームウェアが改善されて、もう少しスピードアップが望めるかもしれないが、個人的にもすでに速度競争には興味を失いつつある。ルータのスループット論争も同じで、目先のスループットよりもユーザビリティや機能の方が重要と考えている(そうじゃない人も居るだろうけどね)。
■これからはIP電話だ
そんなブロードバンド環境において、次なる注目を集めているのが「IP電話」だ。本誌でもIP電話関連のニュースが数多く報じられているが、筆者もたいへん注目している。IP電話の技術的な解説は割愛するが、要するに「IPネットワーク上で実現する音声通話サービス」で「VoIP(Voice over IP)」という技術によって実現される。
通常の電話サービスは交換機や電話網などによって構成されているが、VoIPでは音声データをIPデータに変換し、IPネットワーク上で転送する。インターネットでも利用されているIPネットワークを活用することで、通常の電話サービスよりも安価にサービスが実現できるという特長を持つ。「インターネットと同様にIPネットワークを利用する」ということで、国内でインターネットが流行り始めた頃にあった「インターネット電話」を想像するかもしれないが、接続環境がブロードバンドに移行し、プロトコルにも新しい技術が登場したため、通常の音声通話サービスと変わらないレベルの音声品質が得られると言われている。
また、IP電話に「050」からはじまる専用電話番号を割り当てられており、IP電話を実現する機器やサービスによっては既存の電話機もそのまま接続できるため、使い勝手の面でも本格的に通常の音声電話サービス並みに使えると期待されている。
ただ、IP電話には規格に微妙な違いがあり、サービス提供会社によって、料金やサービス内容なども異なる。また、多くのIP電話サービスは110番や119番、携帯電話・PHSなど、一部のサービスに発信できないなどの制限もあり、即座に電話サービスをIP電話に置き換えることは難しいという側面もある。
■標準のADSLモデムと同タイプを利用
筆者の環境で、最初にIP電話のサービスが提供されたのは、BIGLOBEが提供する「FUSION IP-Phone for BIGLOBE」だ。このサービスはBIGLOBEの「使いほーだいADSLeコース」(イー・アクセスのADSL接続サービスを利用)のユーザーを対象にしたもので、昨年末からの試験サービスを経て、今年3月からは正式サービスに移行している。ちなみに、FUSIONとはフュージョン・コミュニケーションズのことで、同社はIPネットワークを利用した長距離・国際電話サービスを提供している。
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IP電話対応の「Aterm DR302CV」(上)と従来の「Aterm DR202C」。外見はほぼ同じ。前面に追加された[VoIP]LEDが緑色に点灯しているときはIP電話が利用可能
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「Aterm DR302CV」(上)と「Aterm DR202C」の背面。電話機を接続する[電話機]ポート、スプリッタの[PHONE]に接続する[電話回線]ポートが追加されている
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BIGLOBEの「使いほーだいADSLeコース」では、イー・アクセスの12Mbpsサービスに接続するためのADSLモデムとして、NEC製の「Aterm DR202C」が採用されている。Aterm DR202Cにはルータ機能が内蔵されており、機能や使い勝手はAtermBR1500などのものを継承している。IP電話サービスを利用するには、ルータ部分にIP電話を実現するためのハードウェアを実装する必要があるが、同コースではAterm DR202CのVoIP対応版とも言える「Aterm DR302CV」が提供された。並べた写真を見るとわかるが、前面にVoIPのLEDが追加され、背面には電話機と接続するアナログポート、スプリッタのTEL端子と接続するポートなどが追加されている。WWWブラウザによる設定メニューも電話周りの項目が増えた程度で、大きな差はない。つまり、IP電話サービスを利用する前と、ほぼ変わらない使い勝手で、IP電話の利用が開始できるわけだ。
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VoIP対応ルータでは図のように回線と接続する。スプリッタからのケーブルを2本ともVoIP対応ルータに接続しているのがポイント
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実際の機器の接続方法は図の通りだ。すでにADSL接続サービスを利用しているユーザーから見ると、スプリッタから伸びたモジュラーケーブルを2本ともADSLモデムに接続しているところが不思議に見えるかもしれないが、これはIP電話と通常のアナログ回線をAterm DR302CV内で自動的に切り替えて、発信できるようにするためだ。つまり、Aterm DR302CVに接続した電話機から発信するとき、相手が通常の電話であれば、FUSION IP-Phoneで発信し、携帯電話・PHSであれば、通常のアナログ回線から発信するわけだ。多くのIP電話サービスで提供されるVoIP対応ルータは、こうした接続形式を採用している。
■良好な通話品質
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設定画面は従来のAterm DR202Cとほぼ同じ。見慣れた設定画面なので、安心して使える |
電話に関する設定項目はシンプル。「050」から始まるIP電話番号はサーバ登録時に自動的に設定される |
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IP電話サービスのサーバへの登録状態も設定画面内で確認できる |
機器の接続が完了したら、インターネットに接続し、IP電話サービスのサーバーに登録を行なう必要がある。FUSION IP-PhoneではBIGLOBE内に用意されているページにアクセスし、そこでユーザー名やパスワードなどを入力すれば、必要な情報がAterm DR302CVに登録される仕組みになっている。同時に、「050」ではじまるIP電話番号も発行されるが、発行されたIP電話番号が気に入らなければ、やり直すことができるようだ。筆者は数回やり直し、結構な『良番』を入手することができた。また、Aterm DR302CVに登録されたIP電話番号などの情報は、基本的に本体の電源を切っても保存されており、仮にAterm DR302CVを初期化してしまった場合でもFUSION IP-Phoneのページに接続すれば、同じIP電話番号を登録してくれるようだ。
さて、気になるIP電話の音質についてだが、これはかなり良好と言って差し支えない。相手に「これはIP電話で掛けているんですよ」と話さなければ、まずわかることはないレベルだ。音声通話中に大容量のファイルをダウンロードしてみたり、複数のパソコンでいくつものセッションを動かしてみたりしたのだが、通話が途切れるということはほとんどなかった。特に、2月に公開されたファームウェアに更新した後は、まったく通話の途切れがなかった。回線の品質にもよるのだろうが、8Mbps以上のサービスを契約し、スループットで数Mbps出ている環境であれば、安心して使えそうだ。
ところで、前述のように、Aterm DR302CVには電話機を接続するためのアナログポートが装備されており、市販の電話機なら、そのまま接続できる。当初はシンプルでコンパクトな電話機を接続していたが、現在はNTTドコモのPHS用ホームステーション「パルディオ 903U-II」を引っ張り出し、我が家に余っているNTTドコモや旧NTTパーソナルのPHSを子機登録して利用している。パルディオ 903U-IIはPHSを子機として登録できるコードレスホンの親機で、現在でも1万円程度で購入できる。
■難しいIP電話の損得勘定
試験サービス開始から数えて、すでに3カ月。筆者宅のFUSION IP-Phoneは、何の問題もなく、利用できている。3月からは正式サービスに移行し、月額料金と通話料が掛かることになったが、相変わらず固定電話への発信はFUSION IP-Phoneが主力だ。おかげで、通常の回線は着信と携帯電話・PHSへの発信のみという状況になりつつある。
ただ、そこで気になるのが「IP電話の損得勘定」だ。通常の回線では市内通話が「3分8.5円(NTT東日本の場合)」なのに対し、FUSION IP-Phoneは全国一律で「3分8円」に設定されている。FUSION IP-Phoneではこの他に、基本料とレンタルモデムIP電話機能利用料がそれぞれ月額280円ずつ請求されるため、IP電話を利用していないときに比べ、月額560円の負担が増える。つまり、この月額560円分を取り返せるだけの通話が見込めれば、元が取れるわけだが、通常の回線でも割引サービスなどがあるため、一概に「どこに何分以上掛ければ、元が取れる」とは言いにくい。ただ、市外通話や国際電話が多いユーザーであれば、通常の回線との通話料の差額も大きくなるので、IP電話を導入するメリットはあるだろう。
また、多くのIP電話サービスでは、同一サービスに加入するユーザーに対しての発信が無料になるというメリットがある。もちろん、FUSION IP-Phoneも同様なのだが、残念ながら、これについては今ひとつメリットが感じられない。
BIGLOBEのFUSION IP-Phoneは、BIGLOBEでイー・アクセスのADSLを利用するユーザーに限定されており、他のADSL接続サービスやFTTHサービスのユーザーは対象になっていない。また、他の大手プロバイダでも提供されていないため、とにかく無料通話の対象となる相手が少ないのだ。FUSION IP-Phoneのページでは同サービスの加入者の他に、『株式会社ブロードバンド・エクスチェンジが提供するCATV事業者向けIP電話サービス利用者』『NPO法人「地域間高速化ネットワーク機構(IXO)」参加プロバイダーにおけるFUSION IP-Phone for IXO利用者』も無料通話の対象であると紹介されているが、ユーザーにしてみれば、それが具体的にどこのサービスの契約者なのかがわからないのだ。できることなら、もう少し具体的に何らかの情報を提供して欲しいところだ。
こうなってくると、OCNやSo-netなどで提供されているNTTコミュニケーションズのIP電話サービスがユーザー数も多く、魅力的ということになるのだが、BIGLOBEの場合、ADSL接続サービスの契約を切り替えない限り、IP電話サービスを乗り換えられないので、当面はこのまま使うしかなさそうだ。
IP電話には、各社サービスの相互接続や「050」ではじまるIP電話番号への着信、携帯電話・PHSへの発信など、まだまだ課題が多い。しかし、パソコンを使わなくても利用でき、通信コストも安いIP電話は魅力的なサービスであり、これからのブロードバンド環境に大きく影響を与えることになりそうだ。今後の各社の動向もじっくりとチェックしていきたい。
(2003/05/01)
■参考データ
居住地区 | 東京都世田谷区 |
接続事業者 | イー・アクセス |
回線の種類 | ADSL |
プロバイダー | BIGLOBE |
スループット | 5~6Mbps |
□FUSION IP-Phone for BIGLOBE
http://phone.biglobe.ne.jp/fusion/
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