■あっという間にハマッたネットの世界
1999年の春、関西でタウン情報誌などを手がける編集プロダクションに入社した私は、そこではじめてパソコンというものを使った。それまでは、メカ音痴の自分がハイテク機器の頂点に君臨するこんなややこしい代物を扱うことになるなどとは思ってもいなかったから、電源の入れ方さえわからず、いろいろと恥ずかしい思いをしたものだ。
1年後、フリーになったのを機にPC導入を決意。ちょうどそのころ、とある映画で音楽を担当してほしいという話がきていたので、東京の楽器店に音楽製作専用PCをオーダーすることにした。インターネットにはあまり重点を置いていなかったので、オーディオカードや音楽製作ソフトが充実したPCに仕上がったものの、インターネット接続は56kbpsアナログモデムという構成だった。「まぁ、仕事で使う資料は書籍や足で集めてくるから、インターネットなんてあまり使わないしね」と軽く考えていた。
しかし、何気にネットサーフィンなどしてみると、これがまた面白い。ディープな映画の話題やマンガ評など、マニアックな情報がわんさかと溢れ返っていて、ついつい読みふけってしまう。仕事が片付けば、メッセンジャーソフト「Odigo」で友人と世間話をする毎日。会話の中でHTMLのタグを教えてもらい、気がつけば自分のサイトまで作っていた。
あぁ、麗しきかなバラ色のネットライフ。
それがある日、友人から教わったサイトを訪れたことで、バラ色だったはずのネットライフがたちまち苦痛に満ちてきた。そのサイトとはある映画のオフィシャルサイト。そこで公開されている予告編が見れなかったのだ。クリックしても、なかなか始まらない。気がつくと30分以上もたってしまい、もうすぐダウンロードも完了だというのに、見る気も失せて席を立ってしまった。
この時はじめて感じた回線の貧弱さ。それと、休日にゆっくりとネットサーフィンしたいと思っても、11時以降のテレホーダイタイムにしか繋げないもどかしさとが相まって、ことあるごとに「遅いなぁ」「まだダウンロードできないのかよ」とブツブツ呟くようになっていった。
■ADSLがやってきた!
そこで申し込んだのがODNの「ADSLプラン 8M」。最初は「ADSLプラン 12M」にしようかどうかと迷ったものの、現在の56kbpsダイヤルアップ環境と比べれば8Mbpsでも充分速いハズ……と安易な気持ちで決定。モデムが届いたときは、ようやく文明人になれた気がして嬉しかった。
電話回線工事も無事に終了し、いよいよPCとモデムの接続。しかし、PCにLANカードがないことが判明。慌ててLANカードを購入し、ビクビクしながらPCケースを開けて作業開始。カードを挿入し、ケーブルがひと通りつながっているのを確認してPCを起動。説明書を片手に「Windows 98の場合は……なるほど、こうか!」とおぼつかない手でTCP/IPの設定を打ち込んでいく。しかし、全ての設定が終わる前にEnterキーを押してしまい、これまで見たこともないエラーメッセージを出してしまった。どうやら、何かのファイルが足りないらしい。
「アレ……? まぁいいか。あとで直せるよね」と自分にいい聞かせ、説明書の指示に従って再起動。なんとか起動したものの、ファイルが足りないというエラーメッセージは何度[OK]を押しても、さながらゾンビのようにしつこく立ち上がってきて他の作業ができない始末。もちろん、インターネットにも接続できず……。
吹き出す汗、徐々に震えてくる手……。
あさって締め切りの仕事がまだ残っているというのに……。
説明書のトラブルシューティングを読んでも、いまいちよくわからない。時間は深夜1時。明日は日曜日でサポートセンターもやっていない。まさか、PC内に取り残された大量の原稿を、古いワープロ引っ張りだして、ゼロから書き直すことになるのか……?
ほとんど半泣きになりながら、いつも迷惑ばかりかけている近くの友人宅に押しかけ、それらしきファイルをネットで検索してフロッピーディスクにコピー。見ると、ファイルを掲載していたサイトに、その症状への対処法が詳しく掲載されているではないか! どうやらファイルを入れなくても、なんとかなるらしい。良かった。友人にこれまた半泣きになりながら礼をいい、急いで自宅に帰りプリントアウトした対処法を見ながら操作。やがてPCは何事もなかったかのように起動し、人騒がせな夜はこうして終わりを告げたのである。
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ODNのADSLモデム。ルータタイプなので、ハブで複数台をつなげることが可能だが、接続されているのはまだ1台。今後はデータ置き場になっている古いPCも接続する予定 |
電柱から手前に伸びている電話線。局からの距離は約1.5kmなので、遠からず近からずといったところか。PCをもう少しチューンして速度を上げたい |
■現在のブロードバンド活用法
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シンセは全てMIDIインターフェイスを介してPCに直結。ミキサーでまとめた音はオーディオカードでPC内に取り込んでマスタリング。急ぎの時はメールに添付して音楽を納品する |
非常に情けない過程を経て、何とかブロードバンド環境を手に入れた私。いまでは、時々友人が送りつけてくるバカFLASHなんかも快適に落とせるので楽しい。私が音楽を担当した映画『KILLERS/パーフェクト・パートナー』では、追加で作った効果音をメールに添付して監督に送るということもやった。自サイトにもMP3にした曲をいくつか載せているが、その際の転送にもまったく負担を感じなくなった。まったくもって、ADSLさまさまである。
これだけ速ければボイスチャットで相談しながら、音ネタを転送しあって、曲作りのコラボレートをする事だって夢じゃないハズだ。現に、P-MODELはネット上で「MOD(※」の音ネタを募集し、「AMIGA」をステージ上で稼動させてリアルタイムにライブ演奏をやってのけた。現在は「ModPlug Tracker」の日本語版もフリーウェアとして手に入るご時世。遠方の人とネット上でModユニットを組むなんてことも、もちろん可能だろう。とっくにやってる人も大勢いる。製作者とクライアントの双方が光ファイバーを導入し、メールの容量を目いっぱい増やしておけば、曲の納品だってもっと手軽なものになるに違いない。
※MODとはAMIGA用ソフト「SoundTracker」の音楽フォーマット。サンプリングされた音源とシーケンシャルデータを併せて保存するため、容量が大きくなるが別の環境のPC上でもある程度近い再現性を持つ。現在はAMIGAだけでなく、WindowsやDOS、Macなどあらゆるプラットホームで利用できる。
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■ブロードバンドトーク番組『HYBRID』
業務提携している事務所「イエローキャブ・ウエスト」の紹介で、音楽家であり実業家の、ある方とお会いした。氏は関西でネット番組の放送局「Net-Channel-KYO」( http://www.nc-kyo.com/ )を運営している。社長と副社長のたった二人という小所帯ながら、さまざまなメディアにも取り上げられ、5年以上も続いている浪花の老舗である。こちらの放送局は何が凄いかというと、まだ光ファイバーが物珍しくやたら高価だったころから、すでにビル内にケーブルを引き込んで運営していたというから驚きだ。現在はイエローキャブ・ウエスト所属の女の子たちも何人か番組を持ち、可愛いトークを繰り広げて美少女好きな哀愁紳士たちの好評を博している。
そこで、私をはじめ奇妙な女性3人が集まって何かやろうということで盛り上がり、『HIBRID』というトーク番組が4月よりスタートした。毎週日曜日の午前0:00と正午12:00の2回、約1時間に渡って爆笑トークを放送中。毎回おバカな話ができるので、機嫌よく楽しくやらせていただいている。
すばらしい環境の中にいて、今後もブロードバンドとは楽しく付き合っていけそうだ。
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インターネット放送「HIBRID」のオープニング画像。ビル内の地下駐車場で撮影した。今後はショートムービーを撮る企画も進行中。ブロードバンドなら快適に観ることができる |
非常に小規模で行なわれているのがわかるトークの撮影風景。背景はブルーバックで、後から背景を合成する。このトークが世界中から見れるのだから、インターネットはスゴイ |
(2003/05/08)
■参考データ
居住地区 | 大阪府守口市 |
接続事業者 | イー・アクセス |
回線の種類 | ADSL |
線路距離長 | 1.5km |
伝送損失 | 不明 |
プロバイダー | ODN「ADSLプラン 8M」 |
スループット | 1.754Mbps |
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