■有線LANから無線LAN、そしてまた…
今年5月に、10年以上住んだ横浜市内のマンションから、都内のマンションに引っ越した。日本を大混乱させたバブル経済もようやく落ち着きを見せ始め、バブル期の頂点には分譲価格が1億円前後もした都内のマンションだが、現在はその半額以下で売りに出されるという変化の時代だ。筆者の新居は95世帯もの家族が一緒に住む高層マンションではあるが、完成入居時にはごく普通の電話回線以外、何もネットワーク環境が用意されていなかった。至れり尽くせりが普通となったマンション設備事情から見れば、ブロードバンド設備のないケースは、もはや明らかに少数派だ。
横浜のマンション時代以前には、わけあって恐らく日本で一番最初にDOS/V互換機を自宅に導入し、PC同士を補完接続する「家庭内有線LAN」を早々に導入し、同じく当時まだ標準的な呼び名すら決まっていなかった「ピア・トゥ・ピア方式の無線LAN」をテストする機会にも恵まれ、将来の企業や家庭内ネットワークのあるべき姿やその操作感覚はうっすらとではあるが予測出来る幸せな環境にあった。
思えば、生まれて初めて「パソコン通信」と呼ばれるネットワークを、当時の自宅であった大阪の帝塚山で体験したのはもう20年近く昔のことだ。それからそれ程の年月が経たないうちに、シアトルから生まれて初めて国際パソコン・モバイル・ネットワークを体験、当時すでに、いずれ起こる、世界中を巻き込んだ大きなネットワーク環境の変化にも確信を持ったものだ。
思い起こせば、筆者にとってネットワーク環境の変化は、「自室の模様替え」のようなものであった。つまり、「自宅」、「職場」、「出張先」のどこにいても、簡単かつ快適に仕事や趣味を続行できるように、最新技術を問題解決手段とし、一般世界の動きよりもほんの少しだけ早く、目に見える形で通信環境を改善・構築してきたのだ。
以前の横浜の自宅では、今では懐かしい感のある「ISDNテレホーダイ」から移行した最初の1.5Mbps低速ADSLから、ブロードバンド環境はスタートした。同時に、暑さ寒さの厳しい季節に、エアコンの無い自室から逃げ出し、常に快適なリビングルームで「こたつネットパソコン」するためにルーターやハブを買い込み、モバイルPCを自室から持ち出し、LANケーブルを引き回すという幸せな生活がしばらくは続いた。
しかし、廊下や階段上に引かれた派手なカテゴリー5ケーブルの圧倒的な存在感は、家族からも同居する犬からも評判はすこぶる悪く、筆者のお気に入りの「紐付き快適生活」はそう長くは続かなかった。
書いてる方も本当は良く理解していないのではないかと思われるようなマニュアルと2~3日悪戦苦闘し、まだ規格化もされていなった無線LANを辛うじて自宅に開通させたのは、まだADSL登場以前、アナログモデムの時代だった。スピード的にはその昔、米国内で販売されていたコードレス電話の子機のような無線モデムと大して変わらない当時の無線ネットワークではあった。
当時はインターオペラビリティのための標準化や、パケットスピードの改善など解決すべき問題は多々あったものの、ケーブルレスのサイバーな感覚は、近未来的なネットワークの到来を予感させるに十分であった。その後、何度か無線LAN装置そのものは技術的変化を遂げたが、本来の仕組み自体には大きな変化もなかったことは読者の皆様もご存じの通りだ。
■引っ越しを機会に「有線LAN」の復活!
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「家庭内LAN基本結線図」:中央左の「パソコン書斎」(筆者自室)からマンション内3部屋・5カ所にイーサネットを引く
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いつの頃か長く憧れていた閑静な田舎暮らしにも飽きがきて、都心のマンションに引っ越すことが家族の総意となり、現在のマンションの契約が無事終わった。いつになく同居人がマンションのキッチン周りや天井の形状、ワードローブのカラーやドア位置、居室ドアのカラーや表面仕上げなどを熱心に見ているなあと思って、筆者は目も通したことのないマンションのパンフレットをぼんやりと見ていたら、どうも今回のマンションは、自室内のインテリア仕様変更がオプションで可能であるらしいことが理解できた。
ダメモトでさっそく販売業者に「LANケーブルの設備改造」を確認したら、「お金しだいで自室内は何でも仕様変更OK」という返答があり、晴れて「マンション自室内どこでも有線LANネットワーク」の実現となった。
業者には、分譲時のパンフレットに掲載されている間取り図コピーの上に、外部からの通信回線が入ってくる居室(筆者のパソコン書斎)からの各居室までのケーブリング・イメージ図を提供するのと、ネットワーク関係に使用する主にケーブル類、パッチボックスや各部屋のLANコンセント用フェイスプレートなどの規格の最低限基準を指定するだけで、意外と簡単に実現できた。
当初、実際の工事は、マンションの施工業者の指定する電気業者が副業的に行なうものと錯覚して詳細な工事作業指示書を作成したが、当然のことながら専門でないマンションの施工業者は、ネットワーク工事を自ら行なうはずもなく、素人である私の指示書をそのまま、孫請けのネットワーク構築部門を持つ専門の電気会社に手渡していたようで、恥ずかしい思いをしてしまった。しかし、そこはやはり専門業者、居室内の工事も完璧で、10数頁に渡る工事後の「回線試験報告書」に関しても完璧にレポートされていた。
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入居前の内覧会での「パソコン書斎」のコンセント、パッチボックス位置。人間は左右の感覚はまだしも、上下の感覚はけっこう不確かだ……コンセントとパッチボックスは机の上に来るように設計したはずが、入居前で机がなく、取り付け位置がやけに低く見えて不安だった
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新製品機器のテストなどで頻繁に必要になるACコンセント、ACアダプタでも全部が使えるように無駄のない造りのモノを選んでもらった
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これから分譲マンションに入居する方や、すでに入居しているが今後有線LANを設備しようと考えておられる方に、少しでも参考になればと思い、以降のお話を進めたい。まず、筆者もまだ本当は良く理解はしていないが、「家庭内LANには有線、無線のどちらが適切なネットワーク環境だろうか?」という単純かつ基本的な疑問がある。結局、筆者は今回その両方を設備してしまったが、無線LANはいつでも取り付けたい時に実現できるモノなので、タイミングについてはほとんど気にする必要はないだろう。
筆者宅では、愛犬シーザー以外の家族、ワイフと娘の2人はクライアントPCとして少し重量級のフル装備ノートPCをそれぞれ持ち、自室で常時有線LANに接続している。ノートPCを使ってはいるが、基本的に自室から持ち出すことは皆無であり、ノートを選択した理由は単に蓋の閉まる適切なサイズのパソコンが必要であるからに過ぎない。
この点は「ホームノマド」を自認する筆者とは大きな隔たりがある。ワイフと娘にとっては、LANの接続形態は有線だろうが無線だろうがまったく問題ではなく、ネットワークの安定性とある程度のスピード感が最重要視される世界なのだ。筆者の10年足らずのネットワーク経験からだけでは、製品すべての事実を代表するにはあまりにも小さいが、短い実体験からあえて言うならば、まだまだ無線LANよりも有線LANの方がかなりその辺りの信頼性は高いと思わざるを得ない。
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ADSLモデム+ルータ、16ポートハブ、無線アクセスポイントを設置して稼働中の様子
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筆者の「パソコン書斎」ほぼ全景。原稿書きや仕事等はほとんどここで行なう
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有線LANの場合、あとは、本当にマンション自宅の中ならどこでもネットワーク接続ができる、と言えるくらいあちこちにLAN接続ポートを作ることが可能かということが重要な問題だ。ただ、これは単に「多ければ、多いほど良い」というモノでもないので場所の選択とその存在意義に関して十分な検討が必要だ。
筆者宅でも大きな問題となったのは、入居前の青写真の状態でLANポートの位置を決めなければならないことだ。新しく購入した家具のサイズが変化したとか、キャビネットのドアの位置や開く方向が変わったために、事前に設置した便利なはずのLANポートの位置がかえって使いにくい位置になってしまったりした。また、筆者の大失敗で、「テレビの裏側の壁面にLANポートを付け忘れる」という致命的なポカをやっている。
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引っ越し前のリビングルーム。やけに広く感じるのは単に家具がないから
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家具やテレビで一挙に狭くなってしまった。テレビの裏側にイーサネットポートを忘れたのは人生最大のチョンボだ! デジカメ写真のレビューや家族旅行のプランはモバイルPCをTVに接続して大画面を見ながらワイワイガヤガヤ相談できる
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■これからはテレビとネットワークの関係が重要かも…
テレビとネットワークは切っても切れない間柄になりつつあるが、引っ越しと同時に購入しようと考えていたプラズマテレビのサイズや設置する位置、角度などが完璧に確定していなかったために、前述のような不測の事態になってしまった。今となっては、テレビの周囲でLAN接続が必要になった場合、最寄りの既設LANポートから引き出さねばならない。つまり、何メートルかは見苦しいカテゴリー5eのケーブルが床上に露出させるか、なんらかの化粧カバーを取り付ける必要があり、本来予想されたインテリア感覚との間に大きなギャップが生じてしまう。やはり、有線LANはそれなりの緻密な検討期間が必要なモノだと実感した。
その点無線LANは、本来の目的がイーサネット有線LANの「ラスト50メートル」のエリアを何とか「紐無しネット生活」ゾーンに変身させるのが目的なので、広すぎないマンション自室内なら、ほぼ全域に電波が届くだろう。しかし、筆者の実体験からしても、異常なスピードダウンが起こったり、まったく接続不可になったりという不測の事態が、たまにではあるが起こることもまた事実だ。外部へ出て行く回線が、アナログ56kbps→ISDN→ADSL→光と、どんどん高速になる現代において、無線LANの基本テクノロジーは高速化の道を辿っているものの、高速化の面で多少遅れがちであるのもやや気になる点だ。
一方、イーサネット有線LANの場合、マンション自室の部屋という部屋すべてにLANポートを取り付けたとしても、最後の何センチメートル、あるいは何メートルかはケーブルのお世話にならざるを得ないのも事実なのだ。そのため、家庭内モバイル(ホームノマド活動)をする筆者だけが、できる限り体積の小さな2メートル内外のLANケーブルを持っている。無線LANなら、駆動中のモバイルPCをそのまま自室からリビングに持ち出したり、家中をウロついても、いったん接続されたネットワークは保持してくれることは十分理解しているが、やはり経験値による有線LANの確実性や信頼性、スピード感からはなかなか脱却できないでいるのが現状だ。
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リビングの出窓下のイーサポート
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ここならシェーズロングに寝ころんで、不動の「寝たきり宅内モバイル」が実現する。この姿勢ならワイヤレスLANの方が快適かも……
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ダイニングカウンターの下にあるイーサポートとACコンセント
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友人が来た時など、食卓でも次の旅行先の情報などを表示しながら楽しく食事ができる
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■スピードがすべてではないが――近未来計画が進行中
現在、筆者宅では、今では低速ブロードバンドに分類される8MbpsのADSLを最大家族3人で共用していることがあるが、インターネットが混雑する時間帯を除いて、その人数をあまり意識したことはない。家族全員が流行のストリーミング系を楽しむこともまずなく、メールのやり取りと検索エンジンによる調べモノが主たるインターネットの用途である我が家では、回線スピードが低速にも関わらず、幸いにもその手のストレスは皆無で幸せだ。
さて、入居時に何もネットワークが入っていなかった筆者のマンションだが、やはりインターネットに対する住人の興味は強く、近く光ファイバを導入する前提で管理組合の会合がスタートした。たまたま部屋番号の関係から初代の理事の1人を務めている筆者も、この機会にサービス開始日から長く付き合ってきたADSLからようやく光に乗り変える予定だ。
現在、導入候補として、有線ブロードネットワークスと、NTTのBフレッツの両社が挙がっている。95世帯くらいのスケールがあれば、多くのネットワーク業者は、一部の例外を除き多くの場合、その固定の設備やその費用を自社で負担する方式のプロポーザルが提示されるケースが多い。
筆者のマンションでは、事が予定通り進行すれば、居室まで直にイーサネットが配線される100Mbpsの有線ブロードネットワークス回線と、NTT Bフレッツ回線を使う50MbpsのVDSL方式のどちらかを住人が選択できる方式で進めている。Bフレッツ回線は数字上のスピード的には半分の50Mbpsではあるが(実際の運用でそれ程大きなスピード感の違いは感じないと思うが)、自由にプロバイダーを選択可能というメリットがある。
マンション住人の中には、すでにISPと契約済みでインターネット上にホームページやメールアドレスをお持ちの方も多いと予想されるので、スピード重視という選択肢だけでなく、現在のインターネット環境からスムースに移行できるという選択肢も必要だろう。
マンションへの光導入が無事に終わった際には、続編として、またご紹介したい。
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「パソコン書斎」にあるホームNAS(?)たった60GBだが過去のデジカメ写真などのライブラリーが保存・収録されており、家族が好きな時に取り出し、活用する。いずれは動画の世界だろうが、今は、リビングで見るDVD映画のコンテンツで十分か!? 小さなお子さんの居る家庭などでは、きっとハンディビデオのMPEGデータがメインなのだろう
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新しく買ったCLIEだけのために無線LANも再度テスト導入。まあ、いずれは撤去かも……
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(2003/10/23)
■参考データ
居住地区 | 東京都台東区 |
回線の種類 | ADSL 8M |
接続事業者 | イー・アクセス |
線路距離長 | 不明 |
伝送損失 | 不明 |
プロバイダー | OCN(元Dreamnet) |
スループット | 下り約2.0Mbps |
□イー・アクセス
http://www.eaccess.net/
□OCN
http://www.ocn.ne.jp/
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