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損失25dBの快適マンション
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関東一円在住の方が圧倒的に多い本連載で、中部地区は初登場のようだ。今回は、名古屋の快適ADSL事情をお伝えしよう。
名古屋と言えば「エビフライ」との誤解が広まって20年以上経つ。筆者は大学進学の時、名古屋から憧れの東京へ行くこととなった。その後何カ所か転居し十数年を経て、最終的に地元名古屋に戻ってきた。現在ではすっかり名古屋の生活に満足している。
筆者の住む瑞穂区は市内の南東に位置し、近所には事務機やミシンで有名なブラザー工業の本社や関連施設(病院、体育館、グランド…)が点在していていわゆる「ブラザー村」となっている。自転車で行ける距離にある瑞穂競技場は、Jリーグ、グランパスのホームスタジアムでもあり、高橋尚子が走った名古屋国際女子マラソンの舞台でもある。名古屋駅、栄といった繁華街や大須まで20分程度で出掛けることができる住宅街でも普通のサラリーマンがマンションを買える安さは魅力である。月極駐車料金が1万円前後と言えば東京の方には理解いただけるであろうか。その上ADSLが超快適とあれば、しばらくこの場所に住み続けようと思うのは当然であろう。ちなみに名古屋と言えば「エビフライ」ではなく「手羽先」と「味噌カツ」と筆者は思っている。
■始まりは2400bpsモデム
筆者のネットの世界に入ったのは10年ほど前だった。Niftyの会員が50万人に満たない頃だったと思う。今では死語になりつつあるパソコン通信はテキストベースの情報ではあるが当時は魅力的なものだった。このころのPC環境は中古で買ったNECの98でCPUは386、HDDは100MBくらいだったと思う。9600bpsのモデムは高価で手が出ず2400bpsのモデムはダウンロード中に文字がそこそこ読めてしまう遅さで、現在では考えられないくらいナローバンドだ。ダイヤルアップ接続なので頻繁につないだり切ったりしながら使用していた。
1995年、神戸の震災報道の中でインターネットという言葉を頻繁に聞くようになった。しばらくして会社にも接続環境が整いネットサーフィン(これも死語か?)が可能となったが、当時はコンテンツがプアで、必要な情報はパソコン通信の方が充実していた。
翌1996年、引越しをきっかけにISDNを申し込むことにした。この頃はISDNブームで東京都内ではINSの工事は3~6カ月待ちと聞いていた。妻が引越しの連絡をNTTに入れるときにINSの申し込みを同時に依頼する。名古屋でも1カ月では工事できないと言われ、同番移行ができないとか話が複雑になってきたのでNTTから会社に電話してもらうことにした。
当時筆者は名古屋のパソコン周辺機器メーカーに勤めていた。NTTから会社に電話があり「奥川さんですか。今から会社にお伺いして手続きさせていただきます」、電話番号から会社名がわかったようで、業界関係者と言うことか、いきなり担当者の「何とかします」の一言で引越し翌日にはINSが我が家にやってきた。会社も社員向けにダイヤルアップ回線を用意してくれていたので、電話代だけでインターネット接続ができるようになり、プロバイダー契約はしていなかった。PC Watch創刊の挨拶を書かせていただいたのはこのころですっかりインターネット漬けになっていた。
1998年、福岡に単身赴任することになり、プロバイダを色々検討したが、全国で接続できることやその他の比較の結果日本テレコムのODNを選択した。INSのライトを契約しTAは餞別に法林さんと編集の方からプレゼントしてもらった。感謝感謝。しかしダイヤルアップは変わらず、必要なときに接続する環境はそのまま、今思うと一人暮らしにブロードバンドがあったら楽しみは倍増だったという気がしてならない。
2000年、会社を辞めてしばらくプー太郎を決めこんだ。会社を離れると自宅での接続時間は急増し、2~3カ月くらいして電話代が激増していることに驚く。CATVやフレッツISDNなど常時接続を真剣に検討し始めた頃に仕事を始めてしまったので、また必要性を感じなくなってしまった。
■遅ればせながらADSL
2001年、ADSLは急速に広がっていた。周りの人間も名古屋めたりっくと契約したり、Yahoo!BB待ちにはまったり(?)していた。会社にADSL常時接続の環境があると自宅でそれほど必要性を感じなかったが、もともと日本テレコムのODNを利用していたのでJ-DSLのサイトは時々チェックしていた。1.5M→8MBへの無料移行のアナウンスはされていたのでその内申し込もうと考えていたのだ。
年末、たまたまWebサイトで自宅の電話番号を入力したところ「残りの回線が少なくなっています」の文字を見て慌ててポチッとマウスをクリックしてしまった。年末年始をはさんだ関係もあり1月の後半で1.5MのADSLがスタートした。契約前からスタパバンドを読んで心構えはしていたが、現実はつなぐだけで何もすることはなかった。ADSLモデムのリンクを見ても「下り1536kbps」とフルになっていたし、計測サイトでも1.28Mbpsくらいは出ていたので満足度は高かった。4月には自動的に8Mに移行され現在に至っている。リンクを見ると「下り6944kbps」とフルではないが、計測サイトではばらつきはあるものの4~6Mbpsとなっているので充分と言えよう。
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リンク速度は6944kbps
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■素朴な疑問
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お世話になっている笠寺局
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ADSLによって読者の多くの方が、生まれて初めて自分の家と電話局の距離に興味を持たれたのではないであろうか。筆者も思い起こせば、実家のベランダから電話局が見えたこと、学生時代電話料金が未払いになると電話が止められ、局まで支払いに行ったことなどいくつかの住居では電話局の場所を認知していたが、現在の家の電話がどこの局につながっているかは知らなかった。
ADSL申し込み前から笠寺局が対象の電話局であることはわかった。最初は名鉄とJRの笠寺駅が思い浮かべ遠いなと思っていたが、地図を見てもそのあたりに電話局は存在しない。よくよく調べてみると自宅から800mくらいの別の地名に笠寺局は建っていた。直線で800m、道のりで1km強、「オーッ近いじゃん」とニンマリしてしまった。
実際1.5MのADSLがつながってみると計測サイトでは1.28Mbpsくらいは出ていたので、さすが1kmと納得していた。ところがNTTの線路距離長と伝送損失のWEBサイトで確認すると1440m、25dBと表示されるではないか。エッ1440m、この差はナニ、ここから素朴な疑問に対する探求は始まったのである。
まずは電話局のすぐそばにあるカレーショップとメガネ屋の電話番号をインターネットタウンページで調べ距離と損失を確認。
カレーショップ | 460m | 18dB |
メガネ屋 | 560m | 22dB |
おかしい、通りをはさんだところにある店で500m、疑問はますます膨らむこととなった。この段階で我が家も400mほどの誤差があるので電話局内の交換機の配線が400mくらいあるのではと想像していた。要するに電話局の中で配線が400m、電話局の近所で線路距離長は500mくらいで、離れるにしたがってリニアに増加していく、道なり距離+400mがNTTの計測サイトの表示と考えたのである。
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電話局から自宅への道
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普通はこれで納得するのであるが、この疑問は筆者だけではないと思い始めさらに調査することとなる。
笠寺局から筆者の自宅に向かう道は比較的商店が並んでいる。店の看板から電話番号を調べればさらに正確なデータが取れると考え、深夜にデジカメをもって電話局へ向かうこととした。まずは電話局と同じ建物の中にある生協、隣の喫茶店、電気屋、スナック、コンビニ、スーパー、パチンコ店……、片っ端から店の看板を撮影し自宅までたどり着いた。
夜中12時過ぎにストロボをたきまくる怪しい筆者に、時々冷たい視線を送る人がいたのは当然であろう。看板に電話番号のない店はインターネットタウンページで電話番号を調べ、約50の店舗の距離と損失を調べた。グラフを見ていただきたい。結果は驚くべき(そんなことないか)内容だ。
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電話局からの実距離と線路距離長と伝送損失
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結論1.電話局に近いだけで線路距離が短いとは限らない
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電話線は地下から地上へ
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電話局のすぐ近所だと大いに期待するところであるが、今回のデータでは電話局から実距離300mくらいまでは、線路距離長と実距離は関係がない。大半の店舗は線路長400から600mの範囲に入っている。もしこれから引越しをされる方は実距離300m以内はかなり期待できるかもしれない。ただし損失は回線によってばらつきがあるので神に祈ろう。
実際に街を歩いてみると気付くことがある。電話局に電話線は直接入っていない。おそらく電話局には地下から接続されており、事実多くの電柱に地下から電話線が出てきている。地下から出てきた付近が一番近くで、逆に電話局のすぐ近所は少し離れた電柱からUターンして接続されているような気がする。
結論2.実距離と線路距離には400mほど差がある
素朴な疑問の出発点となった実距離と線路距離長の差は平均404mであった。元々「ご提供する線路情報については机上計算値であり、測定器等による実測値とは異なります」とNTTのWEBサイトにも表示されているが、推定できるのは、電話局内の配線長、地下と電柱上部の昇り降りの配線長で300~400mは必要と思われる。
結論3.不幸にもイレギュラーに線路距離長が長い電話番号がある
理由はわからないが、実距離、近隣と比較してイレギュラーに線路距離長が遠いケースがある。今回は電話局のすぐ隣の喫茶店の線路長620m、損失33dB、実距離425mの花屋の1510m、27dBなどは不幸と言わざるを得ない。逆にいえば回線の収用替えなどを行なうと劇的に改善されるのかもしれない。
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損失6dB、超高速ADSL喫茶?
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さて、今回調査した中で最も損失が少なかったのは6dBで5軒存在した。実距離は50~150m、線路距離長も390~420mだ。
あえて1位を選ぶなら最も線路距離長が短かった喫茶店「○も」、実距離130m、線路距離長390m、伝送損失6dB。一応店構えを撮影してきたのでご覧いただきたいが、ブロードバンドとは少々縁遠い感じがする。「損失6dB、高速ADSL喫茶」として売り出せばと思うが大きなお世話であろう。しかし、どれくらいの実測がでるのか試してみたいものである。
ちなみに子供会の名簿をたよりに同じマンション内も調べてみた。結果は単純で、1Fから7Fまでは筆者宅と同じ1440m、25dB、9F以上は1720m、29dB、一応上層階に行くほど遠くなっている。
■次は12MそれともFTTH?
筆者はモータスポーツファンで、今年の夏は鈴鹿8時間耐久レースをブロードバンド生中継で見た。スカパーが3時間ほど中継したので見比べると35秒ほど遅れて放送されていたが充分実用的だと思った。ラップチャートが常時表示されるのでテレビより優れている部分もあった。F1やフォーミュラー・ニッポンもスカパー生中継とF1-live.comやフォーミュラーニッポン公式サイトのラップチャート情報を併用して観戦するようになった。そんなこんなで常時接続のメリットはたぶんに感じていてダイヤルアップや64Kには当然戻れない。先日、突然12MのADSLモデムが自宅に送られてきた。送り主はYahoo!BBの代理店で、その後掛かってきた電話で既にADSLを引いていることを伝え返却手続きをした。12Mに興味がないことはないが現在の8M(実測6Mbps)で特に不満はないしNTTのサイトを見ると損失25dBでは大幅なアップは期待できない。どうせならFTTHとも思うが、これ以上のブロードバンドはコンテンツ次第だと思っている。5年前にルーターやスイッチングHUBがこれほど家庭に普及するとは思わなかった。きっと2~3年で世の中は大きく変わっているから、今はゆっくり静観しようと思っている。
■参考データ
居住地区 | 愛知県名古屋市瑞穂区 |
線路距離長 | 1440m |
伝送損失 | 25dB |
接続事業者 | イー・アクセス |
プロバイダー | 日本テレコム J-DSL |
スループット | 4~6Mbps |
(2002/11/21)
□Bフレッツ(NTT東日本)
http://www.ntt-east.co.jp/flets/opt/
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