■ネットとの出会い、テレホーダイ、常時接続の到来
筆者のパソコン通信歴は1995年から。阪神大震災で壊れた自宅から大阪府内に引っ越し、仕事でお付き合いのあった得意先の方からNifty-Serve(当時)への繋ぎ方を教わったのが全ての始まりだった。今でこそパソコンで通信するというのは当たり前だけれども、自分のパソコンの中に存在しないはずのテキストデータが初めて画面にバーッと表示された時は本当にカルチャーショックだった。当時はまだインターネットの敷居は高く、しばらくは「魔法のナイフ」と「茄子R」をフル活用してNifty-Serve一本の生活を送っていた。
その年の暮れにWindows 95が華々しく登場。そろそろインターネットなるモノにも触手を伸ばしてみるかと考えていたある日のこと、デスクトップ上にあったMSNのアイコンを偶然ダブルクリックしてしまったのが運のツキ。まんまとネットの世界に足を踏み入れてしまった。当時の回線速度は14.4kbps。ちょっとした画像を見るだけでも大変だったが、パソコン通信にはないグラフィカルな画面は感動的ですらあった。
その後、自分のサイトを作り始めたこともあって、通信環境は28.8kbps→33.6kbps→56kbps→ISDN(テレホーダイ)と徐々にグレードアップ。接続時間と支払額もうなぎ登りに増加していった。ちなみに当時は「24時間テレホーダイ運動」というのがあったほどで(笑)、筆者もいかに低料金で長時間快適に繋げられるか、というのをネット仲間と競っていた。あっちのプロバイダーが安いと聞けばそっちに移動し、こっちのプロバイダーはサーバーが快適と聞いたらまた移動。その繰り返しであった。ちなみに当時メインで使用していたリムネットはtelnetでしかCGIスクリプトのパーミッションをいじれない環境であったが、むしろそのおかげで? テレホタイムでもサーバーなどのパフォーマンスが落ちることが少なく、長年お世話になることとなった。
そして、フレッツ・ISDNが登場し、我が家にも常時接続環境がやってきた。常時接続が当たり前のようになってしまうと、もう歯止めが利かない。2度の転居を経て、ネット接続を取り巻く環境は徐々にグレードアップ。1年近くの様子見を経て導入したフレッツ・ADSLも今では8Mとなり、現在は比較的安定したブロードバンド環境を確保している。今、住んでいるマンションは私鉄の線路から20メートルと離れておらず、転居してきた時は「これだけ線路が近いとADSLに悪影響があるのでは」とドキドキしていたが、いざ接続してみると何の問題もなし。拍子抜けである。
現在は、1本のADSL回線を筆者と妻それぞれのノートパソコン、さらにサーバー用途で立てているマシンの計3台でシェアしている。サーバーマシンは安定した帯域を確保する目的で有線接続し、ほかの2台は無線LANで接続というスタイルである。
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筆者宅の近所。大阪市は新婚世帯に対する家賃補助制度があり、市外から転入してくる新婚家庭が多いため郊外に行くとやたらとマンションが多い |
筆者宅から100メートルほどの場所にある送電塔。ADSLをしていると影響が気になるものである |
■多すぎたブロードバンドの選択肢、無線LAN
本「ブロードバンド百景」らしからぬスムーズさで? 我が家にやってきたブロードバンドだが、もちろん導入にあたってはそれなりの紆余曲折はあった。
筆者の今の住まいは大阪市内である。政令指定都市ということもあり、ブロードバンドの選択肢だけは豊富にある。同エリア内には現在契約しているフレッツ・ADSLだけではなく、Yahoo! BBやイー・アクセス、アッカも利用可能だし、以前は大阪めたりっくという選択肢もあった。1年前に引っ越してきた時は提供エリア外だったBフレッツも、今はOKである。
では、なぜその中からフレッツ・ADSLを選んだのか? と言われると、これは単に「契約時にタイミングが合致したから」としか言いようがない。ダイヤルアップ→テレホーダイ→フレッツ・ISDNという比較的順当な道のりを歩んできた筆者の場合、いちばんお手軽に乗り換え可能なのがフレッツ・ADSLだったのである。料金的にもっと安いところはあるし、速度重視ならBフレッツや、関西電力系のケイ・オプティコムという選択肢もある。実際、1年前に現在のマンションに転入してきた時はケイ・オプティコムの「eoメガファイバー」に乗り換えようかと真剣に考えたりもしていた。
だが、ダイヤルアップの時代と異なり、正直言って現在は「どのプロバイダー/キャリアと契約するか」には、それほどこだわらなくてもいい時代だと思うのだ。数年前であれば、どこぞのプロバイダーはテレホタイムになると繋がらないとか、サーバーが激重だとか、ただブラウジングするだけでもさまざまな「障害」があった。そして、その「障害」の積極的な解決策は、プロバイダーをまるごと乗り換えることだった。プロバイダーを乗り換えることによってそれらの問題は解決したり、逆に思惑が外れてさらに深刻な状態になったり(笑)していた。
でも、いまは違う。どこのキャリアのサービスもおしなべて満足のいく水準だし、私のようにWebブラウズ中心の用途で使うのならどのインフラも大きな違いはない。キャリアを再検討する機会といえば、回線速度や料金・サービス内容で劇的な変化があった時か、もしくは転居などで物理的に環境を変更する時だけだ。筆者宅ではその転居時さえも「フレッツ・ADSLならスムーズに移転可能ですよ」「あ、そうですか」というやりとりだけであっさり契約延長が決まってしまった。転居後、しばらく経ってBフレッツ提供可能のお知らせが来たり、フレッツ・ADSLが12Mのサービスを始めたりもしたけれど、いまの料金と安定性があれば8Mで十分である。
あと筆者の場合、スループット向上にあまり熱心ではないもうひとつの要因がある。無線LANだ。筆者宅は実効速度がおよそ5MbpsのADSL回線を、IEEE802.11bの無線LANパソコン2台と有線1台で共有している。有線で接続しているサーバーマシンはともかく、メインで利用している無線ノートパソコンのスループットは実測1~3Mbps程度。つまり、これ以上スループットが速くなると無線LANがボトルネックになってしまうのである。実際に筆者の環境ではフレッツ・ADSLを1.5Mタイプから8Mタイプに変更した時も、「あれ? こんなもん?」という程度の変化しかなかった。
しばらくは今のままで我慢しとけ、という天の声なのかもしれない。
そんなわけで現在は、フレッツ・ADSLと最大11Mbpsの無線LANでしばらく我慢の状態である。もちろん、高速回線に憧れはあるし、より多くのキャリアを経験してみたいという気持ちもあるけれど、趣味と実益、そして家計との兼ね合いもあり、こればかりは仕方がない。最終章で述べる「とある要因」次第ではあるが、当面は今の環境のままになりそうな予感がしている。
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徐々に自宅サーバー化しつつある有線マシン |
電話台の下に鎮座するADSLモデムと無線ルータ |
■ナローバンドな訪問者にやさしく
筆者のネット接続の目的はWebブラウズのほか、Webサイトのメンテナンス作業が大きなウエイトを占める。単にファイルをUP/DOWNするだけであれば、回線は速いに越したことはない。しかし、サイトの動作チェックをブロードバンド環境で行なっていると、訪問者の方々も自分と同じレスポンスでサイトを閲覧できている、と勘違いしてしまいやすい。そうなるとサイトがいつの間にか重くなり、さらに自分自身はそのことをさっぱり実感していない、という困った状況に陥る。上で「ADSL導入前に1年くらい様子見していた」と書いたのは、提供エリアなどの問題ではなく、ネット仲間の移行状況を見定めつつ決めようと考えていたからである。サイト制作者にとって、訪問者の方と同じ条件でサイトにアクセスできないことほど無意味なことはない。
結局、仲間内でもブロードバンドへの移行が急速かつ大規模に行われたため、筆者自身も早期にADSLへ切り替えることになったが、案の定と言うべきか、その後サイトの1ページあたりのデータ量は一気に増えた。それまでは容量を調整しながらアップしていた画像ファイルを、そのままアップしてしまうようになったからである。思えば、インターネット黎明期には、重い画像をスムーズに表示するために前のページの下の方に画像のサムネイルを読み込ませて、あらかじめキャッシュさせておくというワザがあった。今では見かけなくなったけれども、同時に訪問者への細やかな気遣いまで失なわれつつあるのは少々残念だ。サイトを作る側の人間として、そういった視点だけは忘れないようにしたいと思っている。
■ブロードバンドでeラーニングを活用
この2~3年、物凄い勢いで普及したブロードバンドだけれども、速度面以外でブロードバンドがもたらした変化は何? と言われると、意外と答えにくいものである。とにかくまず普及ありきという状態でスタートしたためか、雑誌やテレビで語られる肝心の活用法も現実離れしている場合が多い。そういう意味では、いまのブロードバンドを取り巻く環境には、ある種の閉塞感が漂っているように思う。筆者自身も、自宅サーバーやWindows XPのリモートデスクトップを日々活用してはいるけれども、これがブロードバンドの目的か? と言われると明らかに違う。そういう意味では強力なコンテンツが早急に出てきてほしいなあ、と思う。
ブロードバンド・コンテンツの中で、筆者が最近「オッ、意外と使えるやん」と感じたのは教育分野での利用である。教育といっても学校教育レベルの話ではなく、いわゆるスキルアップや資格取得のためのeラーニングである。先日たまたま体験した某社のeラーニングは、音声ありムービーありと、実際に通学して講義を受けるのと比べても遜色ない内容であった。これまでも書籍添付のCD-ROMなどで模擬問題プログラムというのはあったけれど、ブロードバンド経由であれば常に最新の問題を活用できるし、音声やムービーも含めて活用できる。これは大きい。あと、サイト利用に有効期限が定められているため気合いが持続しやすい、という点もメリットかもしれない(笑)。
今はまだ通学するのと比較すれば価格が安いというだけで、書籍と比較すると割高な場合が多いけれども、これから先のブロードバンドの活用事例としては面白いのではないかと思う。現在は電話で行なわれているこれらeラーニングのサポートも、例えばリモートアシスタンスなどを使って完全にブロードバンドで完結させるようになってしまえば、よりスマートになるはずである。これはこれでサポートする側が大変かもしれないが。
■ホットスポットとブロードバンドの未来
さて、最後にキャリア選びの話で書いた「キャリア選定のとある要因」について触れて本稿の締めとしたい。
筆者はフレッツ・ADSLと同時に、NTT西日本のホットスポットサービス「フレッツ・スポット」も契約している。PHS接続より圧倒的に高速なので外出先で重宝するのだが、西日本地域限定のサービスであるため、出張で東京などに行った時などはまるで使えない。そのためか最近は自前でフレッツ・スポットを契約しているにもかかわらず、無料キャンペーン中の「Yahoo! BBモバイル」を使う機会のほうが多くなってしまった。
今後、Yahoo! BBモバイルが有料化されたら、ひょっとするとYahoo! BBモバイルと契約→自宅もYahoo! BBと契約→フレッツ・ADSLとフレッツ・スポットは解約、と数珠繋ぎにキャリアの乗り換えに至ってしまう可能性は大である。メインのサービスに不満がなくても、こうした周辺のサービス次第で乗り換えに至る可能性は十分にあるのだ(NTT東日本のMフレッツと乗り入れができればグーだが、そういった話は今のところ聞かない)。
そういう意味ではこのホットスポットだけでなく、いろいろなサービスが揃い始めた時点で、キャリア選びというのはもうひと波乱あるのかな、と思う。その鍵を握るのはIP電話かもしれないし、あるいはP2P絡みの技術なのかもしれない。いずれも数年前まではまったく知らなかった技術ばかりである。これから先にどんな技術が登場してくるのか、楽しみでもあるし、同時に少々怖い気もする。
いろいろと書いたが、筆者自身はブロードバンド環境を導入したことで間違いなく快適な生活が送れるようになったし、楽しみも増えた。仕事を通じて、またプライベートでも、ブロードバンドな世の中をじっくり堪能していきたいと思っている。
(2003/04/10)
■参考データ
居住地区 | 大阪市城東区 |
接続事業者 | NTT西日本「フレッツ・ADSL 8M」 |
回線の種類 | ADSL |
線路距離長 | 1090m |
伝送損失 | 22dB |
プロバイダー | InfoSphere |
スループット | 5Mbps |
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