■どうせうちは局から3.5kmですよ。
フレッツADSLの1.5MBを導入したのは2001年の初夏のこと。当時は「スループット680kbps、ウハハハ!」なんて胸張って自慢していたが、ここ1年くらいは伏し目がちな日々が続いた。世間はアッ!! という間にADSLで24Mbpsなんていう時代に突入。なんですか。なんなんですか。さみしいじゃないですか。
なんでもうちは局から3.5kmくらい離れているらしい。ADSLのコースを乗り換えたくても賭けに出るようなもの。まぁこの速度はしょうがないよなぁとほとんど諦めていた。というか、ブロードバンド系コンテンツも300kbps向けなどが多いし、ファイル転送に苦労しているわけでもないし。友達に「同じADSLの1.5Mでも1Mくらい出てるよ」と言われてもフ~ンでやりすごし、自分としてはこのまま時代の流れに沿って料金さえ下がってくれればイイデス……という感じだったのである。FTTHの導入も薦められたが、そんなに困ってもいないという理由で考えないようにしていた。
それまでは都会の街角で見かけるだけだった赤いシャツを来た人たちが、ある日からとうとう近所の商店街の中のクリーニング店の前にまで現われた。おかげで買い物に出ようとするたびに赤い紙袋を手渡そうとするのだが、それでもかたくなに避けて歩いていたのであった。いわゆるひとつの諦めムードってやつで。
■クマにぶっとばされて気合注入! FTTH導入決意
某社主催のカンファレンスに参加した際、講師を務めた知人がスクリーン上であるコンテンツを紹介した。それはWebカメラを使って行う「だるまさんがころんだ」のようなゲームである。自分の顔を表示しながらカメラの前で動くと、それに反応してキャラクタが匍匐前進する。蜂蜜を舐めながら振り返るクマさんに見つからないように進んでいくのだが、途中で見つかるとぶん殴られて、クルクル回転しながら飛ばされてゲームオーバー。そのユーモラスさに惹かれた。
もちろん帰宅後即チャレンジ。知人と誘い合って匍匐前進してみたがここで問題が。(なぜか深夜に)会社の回線からアクセスしている知人はスイスイ進むのに、自分のキャラクタは動きが鈍い。当然クマさんに見つかっては飛ばされまくり、挙句の果てにはぶん殴るクマさんまでがスローモーション化する始末! 気が付けば知人はゴールしているではないか。何度やっても同じ結果だ。くやぢい! きっと速度のせいに違いない!! こうなったら乗り換え! ADSLは怖いから一気に光にワープ! エンゲージ! というわけであっけなくFTTH導入を決意。アホらしい理由だが事実なのである。ま、通常「貴方はどういうきっかけでFTTHに乗り換えたんですか?」などと聞く人はまずいないので、当然「クマです」と答えることもないだろうからいいのだ。
ADSLでお世話になっているISPでBフレッツの工事費を負担するというキャンペーンが実施中だったこと、マンションとは名ばかりな建物ゆえに、共同でドーンと引き込みましょう! なんていうことが無理だったこともあって、ひとりでひっそりBフレッツのニューファミリータイプ(NTT東日本)を引き込むことにした。
ISP経由で申し込みを済ませてから、工事についていろいろと確認を取らねばならないので大家さんに電話。「光のケーブルを引き込みたいんですが、その件でご相談を」と申告すると「はいぃ??」という答えが返ってきた。この瞬間、自分がこの建物の光導入第1号なのだと悟った。工事の際何が問題になるか大家さんにはさっぱりわからないというので、一応NTTの調査を待ってからまた報告するということで一旦終了。そしてこのあとの調査で衝撃的な事実が発覚するのであった。
■なぬ? ペンキで蓋が開きませんだと?
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ペンキで塗り固められたボックス。ボックスだけでなく、周辺のあらゆるものが壁と同化させるべく塗り固められている
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後日NTTから2名の実施調査隊がやってきた。いよいよこの建物に光が通るかどうか調べてもらうわけだ。部屋担当と外のMDF担当に分かれて調査開始。まず部屋の中のモジュラージャックのカバーをはずし、管が通っているかどうか見てもらったところ、管は来ているという。そのまま黄色と黒のしましま模様のケーブルをズルズルと中に通している。それは何かと聞けば、工事に備えてのことらしい。ここにこんな風に通して、外はここですヨ、と工事担当者にわかるようにしてるのだとか。
説明を聞きながら玄関を出て、通路で会話をする。
「で、ここを通して……ここ(部屋の外の壁についた小箱を指差しながら)から出てくるわけですが……」
「何か問題が?」
「ここからケーブルを出す必要があるんですけど、開けるなら壊すことになります」
「え? 何で壊すんです?」
「壁の色と同じペンキで塗りつぶされてて、完全に固まってるようなので」
「ええっ? ……(汗)」
「多分、建物を作ったとき外観を整えるために業者さんが塗ったんだと思うんですけどねぇ。まぁ蓋を壊しても、買ってくればまた新しいのをつけることはできますよ。割と簡単に手に入りますよ。そんなに高くないですよ」
「でもそれって建物を壊すことになりますよね……」
「まぁそうかもしれないですねぇ」
「大家さんがなんというか……」
「でもこれが開かないと……」
「新しい蓋を付けたとしても、またペンキ塗らないと現状回復になりませんよね」
「そうですねぇ」
「そっ……それはさすがに無理だなぁ」
と困っていたら、追い討ちをかけるように上の階で調査していたMDF担当者から声がかかった。
「MDFですが、管が細くてケーブルが入りませんでした」
古い建物にはありがちなパターンらしい。八方……というか二方塞がりである。この時点で通常ルートでの引き込みを諦めざるを得ないのは決定的となった。汗をかいた作業服姿の2人の若者と、ぼさぼさ頭でヨレたTシャツにスウェットズボン姿の女が玄関先で立ち尽くし、次の手段を考える。最終的に「それしかない」というわけで、すぐそばの電信柱からケーブルを引っ張ってきてベランダを這わせ、エアコンのダクトを通じて室内に直接通すことになった。角部屋だったことが幸いしたのである。
「かくかくしかじかで電柱から直接ベランダを通して引き込むしかないみたいです。ベランダの手すりに取り付けるらしいんですが問題はありませんか」と大家さんに報告すると無事OKが。「でもMDFには入らないし、分岐用のボックスは固まっているし。うちは角部屋なんでよかったんですが、他の部屋の方が引き込みたくなったとき困りませんか?」と余計な心配をしてみるが「ま、そのときはそのときに考えましょ~!」というお返事。大家のじいさんはおおらかだった。
■ベランダからこんにちは
いよいよ工事当日。予定より3時間以上遅れてようやく工事開始。外を見ると小雨の中、電線にはしごがかけられている。電線にはしご! まさかこのままはしごに登らないよな? と思っていたら……上っていた!! ケーブルをベランダまで伸ばす作業だ。傍から見たら実に物々しい。そしてベランダからこんにちは。本当にこんにちはであった。ベランダが騒々しくなったので窓を開けてみたら工事のおじさんが2名、はしごを伝って乗り込んでこられたところ。目が合ったとたん「あ、どうもこんにちは」と挨拶されてしまった。礼儀正しい方である。
配線としては当初ベランダの手すりを這わせる予定だったが、屋根伝いに這わせる方法に変更された。手すりだと何かと不便だろうし、引っ掛けて断線する心配も減るという現場をみた工事のおじさんの機転である。こちらとしても布団が干しやすいので大歓迎だ。ケーブルを屋根の梁伝いに固定し、エアコンダクトに通すところまででベランダからの使者の仕事は終了。あとは室内担当者に引き継がれ、2人はまたベランダから去って行った。
それにしてもこの部屋に越してきてから、大家さんに「あなたも長いねぇ。気に入ってるの? そんなに居心地いいかね?」といわれるほどずいぶん経つが、ベランダから人が入ってきたのは初めてだ。もっとも、工事じゃなければ110番しなくてはいけないし、そうそうあったら困るが。
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ベランダに乗り込むべく電線にかけられたはしご
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はしごを使って配線準備。電線と平行にはられたワイヤーにはしごをかける
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ベランダでの作業の様子。物干し竿と洗濯バサミが生活観のリアルさを増してます…
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ベランダの屋根に取り付けられた光ケーブル。屋根ボロすぎ(苦笑)
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エアコンダクトを塞ぐゴム? に穴をあけ、ケーブルを室内へ
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壁に穴を開けられないのでエアコンのホースを使って固定されたパネル
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■ヒマだったので工事風景をADSL回線使って生中継
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某Yahoo!メッセンジャーとWebカメラを使って即席LIVE放送。部屋のアラを隠すためにサイズは小さめで
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ベランダの使者から引き継いだ室内担当の方は2名。ざっと数えたところ、外も含めればこれで関係者は6名に上っていた。1本の光ケーブルを通すために大変な騒動となった。工事費用がかかるのも納得。
この部屋はただでさえ定員1名を自称する狭さなのに、そこに大人の男が2名も来たもんだから完全に定員オーバー気味。相手の作業スペースも狭くて大変そうだが、こちらも居場所に困る。仕方ないのでベッドの端にちんまりと座って工事の成り行きを見守ることにした。
(ヒマだ…)
(エアコン見て汚ねぇホースだなぁ拭けよ! とか思ってんだろうなぁ)
(しまった! あの壁、ホコリの塊がいっぱいついてるんだった! 掃除機かけるの忘れてた)
(こんな狭くて汚い部屋に住んでる女の気が知れないとか思ってないかしら)
(ジロジロ見てんじゃねぇよとか思ってるかしら……)
(狭くてやりにくいとか絶対思ってるな。間違いなく)
(いつ終わるのかな~……)
あんまり凝視していたので気を使ってくださったのか、途中で「これが光ファイバですよ」と細い細い線を見せていただいた。こんなに細い線で最大100Mbps通信なんて信じられない!! と一時的に感動するも、しばらくするとまたヒマに。
ここでふと気が付いた。既存の電話回線とは別に光ケーブルを引き込んでいるわけなので、ADSL回線はまだ生きているのである。流行のインスタントメッセンジャーを使えば簡単に映像が送れるご時世だ。年中顔を見ていないと気が済まないような相手はいやしないので、普段なかなかその機能の真価を発揮することができないインスタントメッセンジャーだが、コンテンツになりそうなことが今まさに目の前で展開しているではないか!!
というわけで、おもむろにWebカメラを引っ張りだしてマシンに接続。「今、光の導入工事中ですが、Yメッセンジャーで生中継中!!」と知人にメッセージを送信。即席ライブ放送開始だ。滑らかな映像とはいかないが、狭い我が家のさらに狭い一角で、2人のおじさんがケーブル工事をしている様子が映し出されている。すばらしい……。なぜ突然Webカメラが向いたのか一瞬不可思議な顔を見せた担当の方々であったが、そのまま作業は継続された。その間こちらではテキストチャットを使って数名に実況。手持ち無沙汰状態から開放され、中継している自分に酔いしれ、ある種のコーフン状態になったのであった。
(明日につづく)
(2003/09/04)
□フレッツ公式ホームページ(NTT東日本)
http://www.ntt-east.co.jp/flets/
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