■ アナログモデムの音にテレホーダイ……懐かしくも甘酸っぱいナローバンド時代
私がインターネットを始めたのは1995年の夏。あの「テレホーダイ」が始まった直後であり23時になると会員同士がプロバイダーの回線を取り合うという、殺伐とした戦いが繰り広げられていた時代です。私も「早く繋がってくれないとチャットメンバーが寝落ちしちゃうよ! 」と泣きそうになりながら数十分、運が悪いときには1時間以上も待ち続けるという涙ぐましい毎日を送っていたわけで、接続に成功した瞬間アナログモデムから流れる 「ピーピーガガーピギョー! ピギョー! ザー……」という音といったら私の中では「勝利の雄叫び」にしか聞こえないくらい嬉しい音だったりします。古い映画を見ているとたまに流れてくるアナログモデムの音を聞くとアドレナリンがドバーっと噴出してついつい興奮してしまうのもこんな日々を過ごしてきたからなんですね。いまさらながら納得。
まあ、これだけ苦労して接続しても当時の回線速度は28.8kbps~33.6kbps程度。それに加えてバックボーンが128kbps程度というプロバイダーもざらにあったので、インターネット網は毎日が大渋滞。1枚の画像を表示するのに十数秒待たされるなどのさらなる試練が待ち構えているわけです。インターレースGIFが懐かしいですハイ。
そんな、超がつくほどナローなバンド時代から9年が経ち、今では定額で常時接続が当たり前、画像なんて1秒間に30枚表示されちゃうくらい(つまり動画ですが)までに回線速度も上がり、いわゆるブロードバンドが基本の時代となっています。その原動力となったのは間違いなくADSL。しかし、このADSLというのはなかなか曲者で、家から収容局までの距離によってはお世辞にもブロードバンドとは言いがたい回線速度を叩き出すこともあり、「回線速度の格差」が顕著に現われています。そして、そんな私もADSLを導入した時には「お世辞にもブロードバンドとは言いがたい」組所属だったわけです。
■ Yahoo! BBではじめてのADSL。ブロードバンドってなに?
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これがなんだかすごそうな電話線、「ツイストシールドモジュラーケーブル(フェライトクランプ採用)」。実際に効果があったのかといわれると……。私の気力を上昇させることはできたと思う
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私が夢のブロードバンド生活を求めてYahoo! BBのADSLサービスに申し込んだのは2002年の2月。早く使えるようにならないかな~と心待ちにしていましたが、Yahoo! BBに住所を登録した際、アパートの部屋番号を間違えてしまい隣の住人にモデムが届きまくっていたことが発覚。そのうえADSL用に新しく回線を引き直す「タイプ2」を選んでいたことも重なり、実際に利用できるようになったのは申し込みから2カ月が過ぎた2002年4月だったのでした。
さて、「とうとう私もブロードバンドの仲間入りか!? 」と意気揚々に回線速度を計ってみたところ、そこに表示された数字はなんと140kbps。「あれ、140KB/secの間違いじゃないの? 」と自分の目を疑ってみましたが、何度見直しても140kbps。「ははーん。きっと接続方法間違えたんだなっ。」と再セッティングを試みるも、今度は110kbpsに低下!
これではISDNのマルチリンクで接続した時の速度と同じじゃないですか……。絶望しながらサポートセンターへ泣きついてみたところ、「収容局から家までの線路距離が4km以上あるのでごめんなさい」との厳しい現実を突きつけられてしまったわけです。収容局から家までの直線距離は2km程度だったので線路距離も2.5kmくらいだろうと勝手に思っていたのですが、途中に線路や川を挟んでいるためかなり迂回をしているとかなんとか。こちらこそ、こんな所に住んでいてごめんなさい。
といっても、当然のことながら100kbps台の回線速度で納得できるわけもなく、冷蔵庫の電源を抜いてみたり、なんとなくモデムを縦横斜めに置いてみたり、ツイストシールドモジュラーケーブル(フェライトクランプ採用)というなんだかすごそうな電話線を購入してみたりと、効果があるのかないのかわからないありとあらゆるノイズ対策を試みる日々を過ごし、なんとか250kbpsまで上昇させることに成功。今となっては「たかが100kbpsくらい速くなったところで嬉しいのかい? 」と思ってしまうところですが、当時私がwebサイトで公開していた日記にはこう記されていました。
「下りも250kbpsなら上りも250kbpsで、20MBのファイルのやり取りも10分程度で完了。ISDNなら1時間コースなのに! なんか倍速から8倍速のCDRドライブに変えたとき並の感動です! 」
もう気持ちだけはブロードバンド。それでいいんです。「Yahoo! BBのBBはブロードバンドのBBですから、Yahoo! BBユーザー=ブロードバンドユーザーなんです! 」このような暗示をかけて自らを納得させなければやってられない状況でした。自分のことながら涙が出そうです。
【回線状況】
居住地区 | 埼玉県さいたま市見沼区 |
接続事業者 | Yahoo! BB 8M |
回線の種類 | ADSL |
プロバイダー | Yahoo! BB |
スループット | 下り250kbps・上り250kbps |
■ ADSLナローバンドの救世主「リーチDSL」に救われた!
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デザインもシンプルで色もクリーム色なため業務用というか特別な人用チックなイメージが拭えないYahoo!BB用のリーチDSLモデム。ちなみにイーサネットとの接続はストレートケーブルではなくクロスケーブルを利用する
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その頃、インターネット業界では「時代はブロードバンドだね! 」という空気が蔓延し、さまざまなコンテンツで「ファイルサイズの肥大化」が進行していました。そんな中、ナローバンドユーザーにとって一番の強敵となったのは保存ができない動画のストリーミング配信。ビットレートは256kbps、512kbps、1Mbpsと上がっていき、ナローバンドでは再生時にバッファリングが頻発したり、音だけしか流れなかったりと、まともに視聴することが難しくなっていたわけです。気持ちだけブロードバンドな私もその影響をモロに受け、日が経つにつれて「本当にこれで満足なのかい?」と自問自答するようになりました。
そこで、当時Yahoo! BBが本格的に対応を始めたという「リーチDSL」への変更を決断。なんの問題もなくブロードバンダーとなったADSLユーザーの方には馴染みのない言葉だと思うので簡単に説明すると、データ通信に利用する周波数帯域をノイズに干渉されにくい低周波数帯域に限定して伝送距離を伸ばす――という通信方式です。経路距離が4km以上な私にはピッタリであり救世主様的な存在であり迷うことなく即申し込み。
それから約1カ月後、ちょっとゴツイ感じの新しいモデムが届き、リーチDSLの世界へ突入する準備が整いました。これでまた「250kbpsデス。」とか表示されたら収容局の隣に引っ越してやろうかくらいの覚悟を決めつつ回線速度をチェックしてみたところ、見事に630kbpsまで上昇! 20MBのファイルのやり取りも、カップラーメンが出来上がる頃には終わってしまうほどの速さです。まあ正確には5分弱かかるのでちょっと麺が柔らかめになってしまいますが、以前の回線速度では麺にスープが全て吸収されちゃいそうな勢いでしたからね。こう考えるとすばらしい成長ぶりであることがよくわかります。リーチDSL、そしてYahoo! BBありがとう!
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Yahoo! BBのwebサイトで公開されているリーチDSLの平均通信速度。我が家は4km超で630kbpsだったので平均よりやや下回る結果となった
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【回線状況】
居住地区 | 埼玉県さいたま市見沼区 |
接続事業者 | Yahoo! BB リーチDSL |
回線の種類 | ADSL(リーチDSL) |
プロバイダー | Yahoo! BB |
スループット | 下り630kbps・上り360kbps |
■ 光回線で一気にレベルアップを狙う! しかしそこには大家さんという厚い壁が……
時は流れ、世間では光ファイバの波が押し寄せていました。ADSLに比べて割高だった回線利用料やプロバイダー料も値下がりし、数万円かかる工事費も無料になるキャンペーンを実施してくれるなど、まるでADSLから光回線への切り替えをしなさいとでも言われているような状況です。そこで私も、真のブロードバンドユーザーになるべくNTTの光ファイバサービス「Bフレッツ」を導入することにしました。
申し込みから1カ月後、Bフレッツが使える環境なのか調べたい、ということで我がアパートにNTT東日本の調査員がやってきました。緊張の空気が張り詰める中、まずはNTT東日本からの軽いジャブが入ります。「え~、部屋へ光ファイバを引き込むために利用する電話用配管が通っていないのでベランダから直接光ファイバを引かなければいけませんね」。
電話用配管の件は、比較的新しい建物なので大丈夫だろうと思い込んでいただけに、一瞬動揺してしまいましたが「あ~それならエアコン用のダクトを使ってください」と軽く切り返します。が、「お~電柱から部屋までの距離が長すぎるから屋根伝いに中継点を設置しなければいけませんよ」とすばやい反撃。続けて「ん~中継点を設置するには建物に穴を開ける工事が必要なのですが大丈夫ですか?」とのダブルパンチ!
なにか不穏な空気を感じつつも不動産屋へ電話してみたところ、「え~建物に穴を空けるような工事は大家さんからNGが出ていますので……」というアッパカットをくらってしまいました。いやいや、戦いはまだ終わっちゃいない! 私は大家さんに直談判し、「この地域はADSLだと回線速度が遅くなってしまうので、今のうちに光回線に対応しておけば入居者も殺到するだろうし家賃を上げても大丈夫ですよ。きっと。」と必死に光回線を導入するメリットをアピールしたにもかかわらず、光回線はおろかインターネット自体には全く興味を示さない大家さん。「ま~とにかく穴を空けるのは控えてくださいね。」……終わった!
他にも光回線を引く方法としてアパートの住人と一致団結して集合住宅向けのプランを提案するという道も残されていましたが、残念なことにインターネットへの愛が感じられない大家さんとこれ以上戦う気力は残っていません。我が家では堂々と「メガ! 」と叫べるようなブロードバンド回線を導入することは難しいだろうと確信し、とうとう引越しという最終手段を決意してしまったわけです。ここまでがんばったんです。これは名誉ある撤退なんです……。
■ 収容局の近くを求めて物件探し。そして夢のブロードバンドユーザーへ?
引越し先を決めるにあたってまず初めに調べたのは、収容局の場所であることは言うまでもありません。駅まで何分とか近くにコンビニがあるかなんてことはブロードバンドを求める者にとっては二の次なのです。ということで、新居は収容局までの直線距離が1km程度で、その間に線路や川がない場所を選びました。
そして新たに契約したYahoo! BB 50Mが開通しました。収容局の場所もしっかりチェックしたことだし再びリーチDSLにお世話になることはないだろうと安心しつつも、宝くじの抽選結果を確認する時のようなドキドキワクワク感を胸に回線速度の測定を実行したところ、表示された数値は6.2Mbps! 引越しは無駄ではなかった! 喜びを噛み締めながら6.2Mbpsの威力を試すべくストリーミング動画の再生に挑戦。ビットレートはもちろん1Mbpsを選択します。「おお……1Mbpsの映像がこんなに美しかったなんて……これこそ私が求めていたブロードバンド……。」ブロードバンドへの夢を胸に抱いてから約3年、ようやく「メガ」レベルの回線を手にすることができたのです。今では胸を張って「ブロードバンドユーザーだ! 」と叫べるようになり、とても幸せな毎日を送っております。
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Yahoo! BB 50Mのトリオモデム3-G。上部に刺さっているのはオプションで契約した「無線LANパック」の無線LANカード
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パソコン側の無線LANは、USBスティックタイプを採用している。セットアッププログラムを内蔵しているため、USBコネクタに差し込むだけで自動的にセットアップが完了する
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【現在の回線状況】
居住地区 | 埼玉県さいたま市南区 |
接続事業者 | Yahoo! BB 50M |
回線の種類 | ADSL |
プロバイダー | Yahoo! BB |
スループット | 下り6.3Mbps・上り0.8Mbps |
と、ハッピーエンドで終わりを迎えたいところですが、回線速度への欲求が治まることはありません。次なる目標は、旧居では叶わぬ夢と散った光回線の導入です。最近は光回線対応済みの集合住宅も増えているものの、建物自体が新しい場合が多く家賃も高額なため、私の懐事情では見て見ぬフリをするしかなかったのです。ということで、光回線導入に向けて大家さんとの新たなる戦いの火蓋が切って落とされてしまったわけです。インターネットが大好きで、物わかりのいい大家さんだといいなぁ……。
【編集部より】長らくご愛読いただきました「ブロードバンド百景」ですが、無事百回を迎えることができました。連載はひとまずここで終了とさせていただきます。ご愛読、誠にありがとうございました。
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2004/12/22 11:05
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西野滋仁(にしの しげひと) オンラインゲームで真っ直ぐに敷かれた人生のレールから飛び出し、5年の歳月を個人サイトの運営につぎ込み、インターネットこそ我が人生と言い切る若干26歳。現在、ソーシャルネットワークサービスで人間関係の再構築に奮闘中。 |
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