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バックナンバー
第76回:これさえあれば外出中も安心! 携帯電話で自宅の様子を確認できる「EZ de DIONモニター」
[2003/10/28]
第75回:無線LAN運用のカギはチャネルに有り 干渉を避けるための設定方法を探る
[2003/10/21]
第74回:これからの情報発信の本命になるか? blogの魅力を探る
[2003/10/14]
第73回:デュアルバンド対応&機能強化で巻き返しを図るアイ・オー・データ機器「WN-AG/BBR」
[2003/10/07]
第72回:低価格路線で変わるプロバイダーのあり方
[2003/09/30]
第71回:インターネット経由でのWakeup On LANに挑戦
[2003/09/16]
第70回:Yahoo! BB 26M+無線LANパックは実用的か?
[2003/09/09]
第69回:アッカ・ネットワークスの26Mbps ADSL開通! ~他のADSL事業者との違いが明確に~
[2003/09/02]
第68回:イー・アクセスのADSLプラスIIでAnnexC/Iの違いを比較
[2003/08/19]
第67回:WPAで無線LANはどう変わるのか? ~その2 実際にWPAの利用と問題点~
[2003/08/12]
第66回:WPAで無線LANはどう変わるのか? ~その1 WEPの弱点とWPAのしくみ~
[2003/08/05]
第65回:Yahoo! BB 26Mを再検証 ~約2Mbpsの速度向上を確認~
[2003/07/29]
第64回:Yahoo! BB 26M速攻レビュー
~ダブルスペクトラムの効果はいかに?~
[2003/07/22]
第63回:エレコム LD-WLS54AG/APが実現するデュアルバンド同時通信環境
[2003/07/15]
第62回:長い沈黙を破って登場した新Atermシリーズ ~AtermWR7600Hでトリプルワイヤレスは本格化するか?~
[2003/07/08]
第61回:ついにやってきた20Mbps超ADSL時代 ~24/26Mbps ADSLの全体像を考察する~
[2003/07/01]
第60回:アクセスポイント間通信でネット家電の無線化に挑戦
[2003/06/24]
第59回:リビングのテレビでお手軽Webブラウジング パナソニック「Tナビ」の実用度はいかに?
[2003/06/17]
第58回:モデル追加されたメルコ LinkStation 静音化対策&機能追加でリベンジなるか?
[2003/06/10]
第57回:ノートPCの無線LAN環境を考える すでに802.11gに対応した機種も……
[2003/06/03]
第56回:MPEG2やDivXも家庭用テレビで再生可能 「Play@TV」で快適なテレビ生活ができるか?
[2003/05/27]
第55回:PHSと無線LANの一発切替ツールが登場 b-mobileはモバイル通信の救世主となるか?
[2003/05/20]
第54回:待望の802.11a/gデュアルバンド対応無線LAN アイ・オー「WN-G54/BBR-S」の完成度はいかに?
[2003/05/13]
第53回:HDD&DVDビデオレコーダーをネットワーク対応に パナソニック ブロードバンドレシーバーを試す
[2003/05/06]
第52回:デスクトップPCもワイヤレス化したい!エレコム LD-WL5411/PCIを試す
[2003/04/22]
第51回:IP電話は普及するのか? VoIPサービスの現状と今後を考える
[2003/04/15]
第50回:IEEE 802.11gに登場した新たな選択肢 corega WLAP-54GT Setを試す
[2003/04/08]
第49回:こんなにも多機能になったプリントサーバー 使いやすく進化した2製品を試す
[2003/03/25]
第48回:汚名返上を目指すドラフト版IEEE 802.11g 新ファームウェアでメルコWBR-G54とLINKSYS WRT54Gを試す
[2003/03/18]
第47回:実力を発揮するのはこれから? ソニー ブロードバンドAVルータに隠された謎を解けるか
[2003/03/11]
第46回:ハードディスクもネットワークで増設する時代に メルコ LinkStation HD-80LANを試す
[2003/03/04]
第45回:ブロードバンドはどこを目指すのか? 混迷するADSL
[2003/02/25]
第44回:5,000円でも機能は十分? 低価格ルータ3機種を比較
[2003/02/18]
第43回:祝・FTTH2回線開通~BフレッツとUSEN BROAD-GATE 01を比較する
[2003/02/04]
第42回:リンクシスの意欲作~802.11g対応無線LANルータ Wireless-Gを試す
[2003/01/21]
第41回:新環境でADSL 3回線を比較
[2003/01/14]
第40回:どうする? どうなる? 引越に伴うADSLの移設
[2003/01/07]
第39回:12Mbps ADSLの最新の動向を事業者に聞く ~イー・アクセス編~
[2002/12/24]
第38回:フレッツ・ADSL モア開通 ~NTT東西の12Mbpsの実力はいかに?~
[2002/12/17]
第37回:12Mbps ADSLの最新の動向を事業者に聞く ~アッカ・ネットワークス編~
[2002/12/10]
第36回:大幅に進化したIEEE 802.11aチップセット アイコム SL-5000を試す
[2002/12/03]
第35回:待望の802.11a対応ワイヤレスLANコンバーター ソニー PCWA-DE50を試す
[2002/11/26]
第34回:常時接続環境でストリーム配信に挑戦 BROAD STREAM TSR-MS4をテスト
[2002/11/19]
第33回:アッカ・ネットワークスの12Mbps ADSL開通 オーバーラップの効果は如何に?
[2002/11/12]
第32回:低価格化が進むIEEE 802.11b対応無線LANルータ NECアクセステクニカ「WARPSTARΔ WB7000H」を試す
[2002/11/05]
第31回:インターネット経由でテレビが見たい! 「INFOCITY ドコデモTV」を試す
[2002/10/29]
第30回:第2世代チップで普及へ弾みを付けるIEEE 802.11a Atheros Communicationsインタビュー
[2002/10/22]
第29回:PPPoE 2セッション同時接続可能になったフレッツ・ADSLを検証
[2002/10/08]
第28回:ホットスポットをどこまで便利に使えるか? ソースネクストの「どこでも無線LAN」を試す
[2002/10/01]
第27回:フレッツ・ADSL モアで何が変わるのか? NTT東日本インタビュー
[2002/09/24]
第26回:単体製品へと回帰するIEEE 802.11b 小型アクセスポイント3機種を試す
[2002/09/17]
第25回:選択肢が増えてきた802.11a対応製品 NECのAterm WA7500Hを試す
[2002/09/10]
第24回:このままでいいのか? あまりに違うルータのパッケージ記載内容と実性能
[2002/09/03]
第23回:無線LANのセキュリティソフトは有効!? ソースネクストの「鉄壁 無線LAN」を試す
[2002/08/20]
第22回:Yahoo!BB 12M開通! 他のADSLへの影響はいかに
[2002/08/13]
第21回:FREESPOT始めました! メルコの導入キット「FS-01」を試す
[2002/08/06]
第20回:これからの無線LANはセキュリティ設定がカギ IEEE 802.11aに対応したアイコム「AP-120B」を試す
[2002/07/30]
第19回:NASの実力はいかに? アイ・オー・データの「HDA-i120G/LAN」を試す
[2002/07/23]
第18回:ADSL 12Mタイプの方式乱立で混迷の時代となるか?
[2002/07/16]
第17回:NETWORLD+INTEROP 2002 TOKYOレポート ようやく見えてきた次世代技術の使い道
[2002/07/09]
第16回:速度だけを強調したルーターはもう古い
[2002/06/25]
第15回:緊急警告!! 今すぐ無線LANのセキュリティを設定せよ
[2002/06/11]
第14回:2回線のADSLを同時接続しスピードアップに挑戦
[2002/05/28]
特別編:USENのHFC通信の詳細について聞く
[2002/05/23]
第13回:イー・アクセスの新ファームウェアを試す
[2002/05/14]
第12回:プレイステーション 2を無線LAN化
[2002/04/30]
特別編:アッカ・ネットワークスに聞く
[2002/04/24]
第11回:フレッツ・ADSLを8Mタイプに移行
[2002/04/16]
第10回:ルータとしての完成度はいまひとつ?!
[2002/04/02]
第9回:安定性向上に効果あり、FBM方式を試す
[2002/03/19]
特別編:アッカ・ネットワークス インタビュー
[2002/03/13]
第8回:アッカの8Mbps ADSLを導入
[2002/03/05]
第7回:UPnP対応ルータで半分だけ解決されるMessenger問題
[2002/02/19]
特別編補足版:近端漏話とカッド構造の密接な関係
[2002/02/15]
第6回:802.11a対応無線LANアクセスポイントを試す
[2002/02/05]
特別編:つながらない!? ADSL 8Mサービスの現状を探る
[2002/01/30]
第5回:ハッキリ言ってくだらないスループット論争
[2002/01/22]
第4回:エレコム LD-WBBR4のWindows Messenger対応ファームを試す
[2002/01/08]
第3回:Windows XPのブロードバンド度をチェック・3
[2001/12/18]
第2回:Windows XPのブロードバンド度をチェック・2
[2001/12/04]
第1回:Windows XPのブロードバンド度をチェック
[2001/11/15]

第51回:IP電話は普及するのか?
VoIPサービスの現状と今後を考える


 昨年から試験サービスが開始され、徐々に商用サービスが展開されはじめたIP電話サービス。実際に筆者も利用してみたが、あまり魅力のあるサービスとは思えない部分も多い。今後、IP電話はどれくらい普及するのか、サービスの現状と今後を考えてみる。


ARPUを上げよ!

筆者宅にあるIP電話機器

 日本のブロードバンドは低価格化によって爆発的に普及した。しかし、低価格化によって終焉を迎えるかもしれない……。そんな危惧さえ感じてしまうほど、事業者間の価格競争は激しい。ADSLの例が最たるもので、サービス開始当初は6,000~7,000円前後だった月額料金は、わずか3年ほどで3,000円台と約半額にまで下がっている。

 これは、ユーザーにとってみれば実に歓迎すべきことだが、事業者にとってはあまり好ましい状況ではない。月額料金を下げれば、それだけ設備投資などに費やした資金の回収期間は延びる。マーケットが拡大し続け、十分な資本があるうちはまだ良いが、マーケットが成熟し、資本が底をつき始めれば、ビジネスとして立ちゆかせることが難しくなりかねない。つまり、どこかの時点でARPU(Average Revenue Per User:1ユーザーあたりの単価)を上げなければならないわけだ。

 実際、ここ最近、各事業者やプロバイダーで行なわれている「××カ月無料キャンペーン」は、この状況が見てとれる良い例だろう。このキャンペーンを新規ユーザー獲得のための前向きな戦略ととらえることもできるが、これ以上ARPUを下げられないため、一時的な負担で、ARPUの高いユーザーを獲得する戦略をとったという後ろ向きのとらえかたもできる。現在のADSLは、爆発的な普及、とどまることを知らない技術革新で全力疾走し続けているが、冷静に考えると、利益が得られる場面が見えにくい状況とも言える。これで本当に健全なビジネスモデルなのかという疑問さえ禁じ得ない。

 話が少しそれたので、もとに戻そう。要するに、現状のブロードバンドをより利益効率のいいビジネスにするためには、ARPUを上げることがカギを握っていることになる。そして、その最有力候補と考えられているのがIP電話ということになる。IP電話という付加的なサービスをユーザーに提供することで、機器のレンタル料や通話料などを発生させる。これによって、ARPUを増加させようというわけだ。しかも、050などの電話番号が付与される以上、電話番号を変えたくないと考えているユーザーの解約を防止することができ、長期にわたる安定した収入を計算できることになる。現状、IP電話が注目されているのは、ユーザーにメリットがあることはもちろんだが、このような事業者側の台所事情もからむからだ。


複雑すぎるサービス体系

 しかしながら、商用サービスが開始されたIP電話もサービス内容としてはあまり充実しているとは言い難い。特に、現状は複雑なサービス体系、使い勝手の悪い機器、制限の多すぎるサービス内容と、弱点が多すぎて魅力を感じることができない。

 中でも問題なのは、IP電話のサービス体系が複雑すぎる点だ。詳しくはこちらに掲載される各IP電話サービスの比較を参照していただきたいが、現状のIP電話は、VoIP基盤ネットワークを提供している事業者、回線サービスを提供する事業者、ISPサービスを提供する事業者と3種類の事業者が関係する実にわかりにくい構造となっている。

 基本的な考え方としては、VoIP基盤が同じならIP電話で「無料通話」が可能というものとなるが、プロバイダーの系列などといったこともあり、特定のVoIP基盤が特定の事業者にしか提供されていないなどの問題がある。また、ISPによっては複数の事業者と提携していることから、異なる内容のサービスが数種類提供されていることもある。

 この問題は、最終的にユーザーにしわよせが来る。IP電話の最大のメリットは「無料通話」が可能になる点だ。しかしながら、前述したように同じVoIP基盤を利用しなければ無料通話は不可能だ。現在のサービス体系では、利用している回線事業者によってVoIP基盤が限られることが多々あり、サービスに加入しても特定の相手と無料通話できるとは限らない。また、現在利用しているISPで複数のIP電話サービスが提供されている場合、どのような相手と無料通話がしたいのかをよく考えてサービスを選ばないと、無料通話を実現できないことになる。

 たとえば、こんな話がある。筆者は、本サイトやケータイWatchなどでおなじみの法林氏と電話で会話をすることがよくあるのだが、2人あわせて5つのIP電話サービスに加入しているにもかかわらず、どれひとつとして無料通話ができない状況にある。

 これは極端な例かもしれないが、実際にユーザーがサービスを選ぶ際にも同様のことが起こり得るわけだ。現状のサービス体系では、IP電話に加入したはいいものの、相手とVoIP基盤が異なるため、無料通話ができないことが多い。そもそも、ユーザーがサービスを選ぶのに、純粋なサービス内容や料金を比較して検討するのではなく、VoIP基盤などといった系列やプロバイダー同士のつながりを考慮せざるを得ないなどというのは実にナンセンスだ。


ホットスポットの二の舞を避けられるか?

  もちろん、このようなユーザーの負担を軽くするための努力も行なわれている。具体的には相互接続の実現だ。たとえば、先月にはプロバイダー8社による「IP電話普及ISP連絡会」が正式発足というニュースもあり、相互接続などの意見交換が行なわれるようになりつつある。このような事業者間の相互接続(VoIP基盤の相互接続)が実現すれば、ユーザーがどのサービスに加入していようと、無料通話が可能になることも期待できる。

 ただし、さまざま事情で相互接続が難しい事業者もないとは言えないうえ、実際に相互接続を実現するには相互接続の料金設定やユーザーから徴収した料金の分配などといったやっかいな問題も控えている。これが絡むと実現するのは相当に難しいはずだ。

 この状況は、一時の勢いをなくした公衆無線LAN(いわゆるホットスポット)に似ている。ユーザーの囲い込みばかりに執着し、一向に相互接続が進まなかった公衆無線LANの現状は見ての通りだ。すでにサービスから撤退した事業者もあるくらいだ。IP電話が、これと同じ道を進むのであれば、その未来は決して明るくないだろう。

 しかしながら、単純に相互接続を実現できない理由がもうひとつある。たとえば、現状、VoIP基盤を提供する事業者がすべて相互接続を実現したらどうなるだろうか? 固定電話の通話料はすべて無料となり、事業者は月々の基本料金と機器のレンタル料しか顧客から徴収できなくなる。通話料もARPUを向上させる重要な要素であることを考えると、これが徴収できなくなるのは大きな痛手だ。こうなれば、極端な話、IP電話、いや固定電話というビジネス自体が瓦解してしまいかねないかもしれない。

 相互接続は、事業者にとって多くの顧客を得ることができる大きな武器であることは確かだが、あまり進めすぎると自らをも傷つけてしまいかねない諸刃の剣だ。これが急速に進められるとは、やはり考えにくい。

 このほかにもIP電話には、細かな欠点がたくさんある。現状不可能な、一般回線から050番号への着信は実現される見込みだが、携帯電話やPHSなどへの通話ができないことがあったり、0120などのフリーダイヤル、110などの3桁番号への非対応など、電話としての制約が多すぎる。また、現状、IP電話用に提供されるルータ機器の中にはUPnPやVPNなどへの対応ができない機種もあるなど、機能的な不備も多い。

 ただし、これらの改善はそれほど難しくはないだろう。技術的な問題である以上、時間とともに解決される問題だ。プロバイダー同士の政治的な問題に比べれば断然解決しやすい。


面白みに欠ける

 そして何よりIP電話で致命的なのは、面白みに欠ける点だ。確かに、市外通話や海外への通話が格安で利用でき、場合によっては無料通話も可能なのは、IP電話の大きな魅力だ。しかし、実際にIP電話を使って通話してみれば誰もが感じると思うが、「普通に電話できるね」という感想しか持てない。

 もちろん、ユーザーが何ら意識することなく、シームレスにIP電話を使えるのはすばらしいことだ。しかし、電話という道具は、すでに何十年にもわたって使われてきた、いわば使い古された道具だ。この技術的な基盤が変わったとしても、そこに新鮮味はない。ADSLのような回線であれば、インターネットへの接続が速くなったなど、肌で感じることができる新鮮味を味わえるが、IP電話の場合は、極端な話、請求書を見るまでは使っているという実感すら持てない。

 要するにライフスタイルを変化させるような魅力に乏しいのだ。筆者も実際にYahoo! BBのBBフォン、So-netのSo-net フォン、有線ブロードネットワークスのGATE CALLの3つのIP電話を利用しているが、機器のセットアップ時に多少の新鮮さを感じた程度で、IP電話を使った通話自体にもはや興味を持つことはない。IP電話に魅力が感じられない最大の理由は、実はこの点が大きいのではないだろうか。

 IP電話には、相互接続、機器やサービスの充実といった改善点が数多く存在する。しかし、これらが単純に改善されても、ユーザーに対する魅力を提供できなければ、今のまま盛り上がりに欠けるままかもしれない。技術的には、テレビ電話のように、音声だけでなく、映像も伝送できるというような新しいソリューションも提供可能なだけに、こういった新しい何かがIP電話に存在しなければ、爆発的な普及は望めないのではないだろうか。

(2003/04/15 清水理史)


□関連記事:急速に展開するIP電話サービスを比較
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/990.html

清水理史
 製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる ADSL」ほか多数の著書がある。
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