■ リピータ・ブリッジ・ルータ・スイッチ……さまざまな用語
インターネットに接続する場合、最近ではルータを使うケースが一般的になってきました。また、無線LANと有線LANが混在する環境では、インターネットアクセス用のルータとは別に無線LANのアクセスポイントも必要になりますが、最近では両者の機能を内蔵した製品も数多く販売されています。
ところでインターネットの世界では、2種類以上のネットワークを接続する場合に、リピータ・ブリッジ・ルータと言われる仕組みを利用することになっています。このリピータ・ブリッジ・ルータの区別に加え、スイッチと呼ばれる仕組みや、アクセスポイントと呼ばれる仕組みなどが混じった結果、「なにがなんだか」という状況になっているのが昨今です。
ユーザー側が混乱しているだけならばともかく、メーカー側でもときどきこうした仕組みを間違えたままキャッチコピーを書いたりしているケースもあるため、ユーザーを余計に混乱させることになってしまっています。筆者は以前に「ルーティング機能付きスイッチ」というキャッチを見たことがありますが、ルーティングの機能のないスイッチはありません。
そこで今回から数回に渡って、このあたりを少し整理していきたいと思います。
■ リピータって何?
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図1:最初のリピータの利用方法
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まず今回は基本的なところで、リピータについて説明したいと思います。リピータ(Repeater)を日本語化すると、「中継器」というのが適切な訳になるでしょう。元々は10BASE-5や10BASE-2の頃に広く使われた技術です。
例えば図1のように、セグメント1とセグメント2という、物理的に2つに分かれたネットワークがあったとします。この2つのネットワークを同一のものとして扱いたい場合は何らかの形で結線してやる必要があります。
ところが直接接続することができない(10BASE-5の場合、取り回しが難しい関係で物理的に配線が困難な場合が少なくありませんでした)場合に、リピータが使われるわけです。この場合、リピータはセグメント1から送られたデータをそのままセグメント2に、セグメント2からのデータをそのままセグメント1に流すという以上のことは行ないません。
このリピータは、10BASE-5/2の頃にも使われていましたが、もっとも普及したのは10BASE-Tが登場した時期です。10BASE-Tの場合、図2に示すように「ハブ(Hub)」と呼ばれる機器を中央に置き、ここにすべてのクライアントが10BASE-Tケーブルで接続するという形をとりますが、さらにハブ同士も接続することが可能になっていました。
このハブの中身は、実のところリピータそのものです。ハブのどのポートにも簡単な回路が搭載され、「自分のポートから来たデータを他ポートに送り出す」「他のポートから来たデータを自分のポートに送り出す」という処理を行なっていました。高価格なインテリジェントハブの場合はまた別ですが、安価なハブはデジタル回路が一切ない、単なるアナログの中継器だったわけです。
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図2:リピータハブ
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さて、このリピータが廃れた理由はなにかというと、以下の点が挙げられます。
(1)10BASE-Tの場合でもカスケード接続を行なうと、リピータの回路遅延が積み重なり、あるところからタイムアウトが発生する。このため、あまり段数を重ねたカスケード接続ができない。
(2)10BASE-Tのケースはともかく、100BASE-Tになると遅延問題が深刻になり、カスケード接続自体がほとんど不可能に近い
(3)データの中身を見ないでそのまま送り出す関係で、ネットワークの利用効率が上がらない
(3)については、スイッチを説明する際に詳しく説明するとして、ここではまず(1)について説明しましょう。ただし、これは技術的というよりは、経験則的な話になりますが、リピータを使う場合は4段までが限界で、これを超えるとネットワーク全体の調子がおかしくなります。従って、例えば図3の左のようなケースはぎりぎりOKといったところです。
1番経路が長いのはリピータハブ6→リピータハブ3→リピータハブ1→リピータハブ4もしくは5という経路で、途中に入るリピータは4つです。ところが図3の右図のように、もう1つリピータハブを追加した瞬間にトラブルが出る可能性があるわけです。こちらのケースでは、リピータハブ6→リピータハブ3→リピータハブ1→リピータハブ4→リピータハブ7となり、間に5段のリピータが入る計算になります。
ネットワークをきちんと設計して使っている分には問題はないのですが、「そろそろポートが足りなくなってきたからハブを1個追加するか」と深く考えずに対処した瞬間にネットワーク全体の調子がおかしくなる、なんてことが現実に頻発していたわけで、これはリピータを使う限り避けられないことだったりします。
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図3:リピータハブの限界
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(2)についても簡単に説明します。10BASE-Tでは4つまでのリピータを経由した接続が可能でしたが、100BASE-Tでは1つもしくは2つ(クラスIと呼ばれるリピータハブは1つ、クラスIIと呼ばれるリピータハブは2つ)に制限されます。1つの場合では、カスケード接続が不可能ということですし、2つの場合でもカスケードが1段のみ可能な程度ですから、使い勝手は大幅に悪くなります。
こうした制限により、従来のリピータハブは急速にスイッチングハブに置き換わっていきました。特にスイッチングハブの価格があるタイミングから劇的に安くなったため、今ではリピータハブを買おうとすると、同じ構成のスイッチングハブの倍以上の金額を支払わないと購入できないほどです。こうして、有線LANの中から「リピータ」は急速に駆逐されてしまいました。
■ いまも使われるリピータ
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図4:無線LANにおけるリピータ
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こうした経緯もあって、有線LANではすっかり見かけなくなったリピータですが、意外にも無線LANの世界で現在でも健在です。無線LANの場合、アクセスポイントとクライアントが直接見通せる場所にないと、うまく通信できないことがあります。そんな場合、図4のように中間地点にリピータを入れることにより、解決できる場合があります。
この場合のリピータも、やはり受け取ったデータをそのまま送り出す、という仕組みを搭載しており、これにより簡単に無線LANのカバー範囲を広げることが可能です。ちなみに無線LANにおけるハンドオーバーはまた異なる技術で、必要とする機材も遥かに多くなります。
リピータはあくまで手軽にカバー範囲を広げる手段であって、その分いろいろ制約があるのは有線LANの時とよく似ているかもしれません。なお、無線LANのリピータも原理的にはデジタル回路を一切搭載せずに作ることが可能ですが、現実問題としてはすでにある無線LANのコントローラを使って製造することが多いためか、純粋なリピータより凝ったことをしているケースが少なくないようです。ただしユーザーからはそうしたことは見えず、単に中継器として使えるようになっています。
2005/04/11 11:01
槻ノ木 隆 国内某メーカーのネットワーク関係「エンジニア」から「元エンジニア」に限りなく近いところに流れてきてしまった。ここ2年ほどは、企画とか教育、営業に近いことばかりやっており、まもなく肩書きは「退役エンジニア」になると思われる。(イラスト:Mikebow) |
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