■ 常時接続に乗り遅れ
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収容局は公社時代の電話局跡に置かれているらしい。線路長は1520m
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筆者が住んでいるのは福岡県の郡部だ。かつては東京に住んでいたが、フリーライターになったとき福岡市に移って2年半ほどそこで暮らし、以後は実家のある現在の場所に居を構えている。地理的には平野部の端に位置し、水田や果樹園などが広がる典型的な農村地帯といえるだろう。
近隣の街では福岡市までが約50km、松田聖子やブリジストン創業者の石橋正二郎氏などの出身地として知られる久留米市までは約20kmといったところ。ついでにいうと、カメルーン騒動で一躍有名になったあの中津江村までは40kmほどである(ちなみにアイドルの後藤理沙さんは当町の出身らしい)。
筆者が東京から福岡市に移り住んだ1993年は、まだまだパソコン通信が主力の時代。Nifty-Serve(現@nifty)から発生したフライトシミュレータのクラブに参加していた筆者は、当時まだバリバリのMacユーザーだったためARA(Apple Remote Access)という機能を使って電話による通信対戦などに興じていた。
そのうちインターネットが普及しはじめると、メンバーの中にもIP接続による対戦へ移行する人が現われ、同時にクラブの中心もNifty-Serveから離れて徐々に空洞化が進行していった時代だった。
筆者が最初に加入したISPはRIM-NETだったが、その後現在の住所に移ると、福岡市内のアクセスポイントへダイヤルアップ接続するのは辛い。久留米市なら隣接地域に入るがアクセスポイントを持つプロバイダーは当時まだまだ少なく、接続費用の試算に頭を悩ませたものである。
そんな中たまたまWebで発見したプロバイダーが地元福岡のTRY-NETだった。慌てて雑誌のプロバイダー一覧で調べたがどこにも載っていない。どうやら営業開始間もないところを偶然見つけたらしい。当然評判もなにもわからないが、久留米市内にISDNのアクセスポイントを持つという2つの条件を満たしているところは少なかったので、乗り換えを即決。ISDNテレホーダイ4800との組み合わせでかなりの期間こちらのお世話になった。
次に乗り換えたのはTikiTikiである。地元電話局内にアクセスポイントを持つのはOCNを除くとここだけという時期が長く続いたので、周囲の人間のほとんどはこぞってここに加入した。
おかげでテレホーダイも4800から2400に移行できて通信費を抑えることができたが、肝心のNTTのほうでフレッツISDNの導入が遅々として進まず、常時接続環境には完全に取り残されてしまう。
■ フレッツ・ISDNとフレッツ・ADSLがほぼ同時にサービス開始
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筆者の家は国道とバイパスに挟まれた新興住宅地の中。2軒先の家の上をかすめるように高圧線が通っている
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筆者の住む町からひと山越えたところに八女(やめ)郡という地域がある(黒木町というところがあって、女優の黒木瞳さんはたしかこちらのご出身)。山間部も多く地理的条件では筆者の町より悪いかもしれないが、隣接する八女市と市外局番が共通なためアクセスポイントの点ではむしろ恵まれていたようだ。その他の地域も多くがフレッツ・ISDNのサービス圏に入り、このまま自分のところだけが取り残されるのではないかという不安の中、サービスが開始されたのはようやく今年の2月に入ってからだ。
しかも、3月末には続いてフレッツ・ADSLがやってくるという。知り合いのある商店主の方は、フレッツ・ISDNの申し込みを行なったところ「1か月半後にはADSLが開通しますからお待ちになりませんか」と言われたそうだ。親切なサゼッションはありがたいが、立て続けにふたつのサービスを始めなければならないとはNTTもなかなかたいへんのようだ。
ちなみにその方は電話番号の変更を嫌ってフレッツ・ISDNと契約したが、その後知人から「TAが故障したので買いに行ったらすでに店頭に並ばなくなっていて、しばらく電話が使えずに困った」という話を聞いて不安になり、現在ADSLの導入を真剣に考えているという。
ともかく、こうしてようやくブロードバンドへの道が開かれたわけだが、当面は1.5Mプランだしフレッツ以外の選択肢もない。どちらかというと常時接続によってテレホーダイに縛られた生活から開放されるほうが嬉しかった(ADSLにしてトラブルに遭うくらいならフレッツ・ISDNでもいいか、と一時は思っていた)。
この時点ではブロードバンドに関する知識がまったくといっていいほど欠落していたので、とりあえず雑誌を拾い読みして情報を集める。プロバイダーは費用が手ごろなのと、サポートがよさそうだという理由でWakWakをチョイス。この決定には、いざとなったら同じ局番内にアナログモデム用のダイヤルアップAPがあるという安心感も後押ししている。
ちょうど同じ頃、NTTの線路情報開示システムでわが町のあたりも線路情報を利用できるようになったのでさっそく調べてみると、線路長1520mに対して伝送損失が47dBと出た。この値がいいのか悪いのかもさっぱりわからないという状態だったが、「ブロードバンドスピードテスト」サイトで公開されている統計情報をみると、距離の割にかなり損失が大きいと判明しショック。
わが家は国道(地方の3桁国道)から交差点をひとつ曲がった町道沿いの新興住宅地の中にある。収容局は街中に残る公社時代の電話局内に設置されるらしいが、1520mという線路長は道路の感覚からするとかなり長い感じだ。家からそう遠くないところを高圧送電線が通っているというのも不安材料である。
■ やっと来ましたブロードバンド
フレッツ・ADSLの申し込みを行なったのは3月の29日。WakWakのサイトからプロバイダー契約といっしょに申し込んでいる。
ちなみに電話番号は変更を余儀なくされた。アナログ→ISDN化に続き2度目であるが、田舎暮らしのフリーライターにはあまり仕事もなく、さほど問題にならなかったのは不幸中の幸いというべきか。メールアドレスのほうは、もともと仕事用に使っている@niftyのアドレスは残してある(1時間コースに切り替え)ので、プライベート関係にだけ新アドレスを通知して済ませている。
実際にADSLへ切り替えを行なったのは4月の15日。これはNTTの料金締め日に合わせたもので、実際には9日ぐらいから切り替え可能だったと記憶している。
それに先立って11日にはWakWakとNTT西日本からそれぞれ書類とフレッツ接続ツールが、12日にはレンタルのADSLモデムが到着。モデムは1.5Mタイプで8Mとの兼用型ではなかった。この時点では8Mサービスの開始はいつになるかわからないという話だったのでとりあえず納得したが、現在では9月末に開始という話が伝わってきているので、どうせなら兼用型にしてくれていればよかったのにと思う。
切り替え工事自体はまったく何事もなく終わった。「これから切り替えますから」と「終わりました」の2本の電話があっただけ。筆者がやったことといえば、切り替え終了の電話を受けるためにDSU内蔵のルータをいったん外して、電話を直接モジュラージャックにつないだことぐらいである。
ただし室内の配線は少しややこしい。というのも筆者の仕事部屋にはドアホンユニットというのがついていて、インターホンからの呼び出しに電話の受話器で応答できるようになっているからだ。
それでも標準的な状態だったらドアホンユニット→電話という接続だけで済むのだが、ISDN化したときにここの配線がちょっとややこしいことになってしまっている。現在の状況は次の図のとおりだ。
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現在の配線状況
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図の左側の赤い垂直のラインが普通につないだ場合の線で、本来ならこの途中にスプリッタを入れてADSLモデムへと分岐させればいいはずだ。ところがかつてISDNの切り替えに来た担当者がちょうどこの図でスプリッタがある位置にDSUをつなぐように工事していったので、いったんDSUにつないだ線を再びドアホンユニットへリターンする形になっているのである。
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レンタルのADSLモデムは1.5Mタイプ。ルータはYAMAHAのRTA54iを使用
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この流れをどうしたらいいかわからなかったので、とりあえずDSUをそのままスプリッタに置き換え、リターンした線はドアホンユニットを経てFAX兼電話につないでみる。もちろんスプリッタで分岐したほうはそのままADSLモデムにつなぐ。ドアホンユニット-スプリッタ間の距離は3mほどある。
ルータはYAMAHAのRTA54i。購入時点ではブロードバンド化の見通しはまったく立っていなかったが、とりあえず将来に備えるということで昨年9月に買ったものだ。ちなみにそれ以前はNTT-TEのMN128(初代モデル)をずっと使っていた。
図中には緊急用のアナログモデムも入れてあるが実際に使うことはない、捨てられなくて残っている盲腸みたいな存在。実は現在でも@niftyのパソコン通信サービスを利用しているが、これもインターネットからTelnet接続でアクセスしている。
■ トラブルフリーの4カ月
このようにいささか変則的な配線でケーブルの引き回しにムダがあるし、さらに47dBという伝送損失も気になるところだったが、実際には配線をすませて電源を入れるだけでなんの問題もなくブロードバンドへの移行を果たすことができた。まったく拍子抜けがするほどだ。
導入直後に測定したスピードテストの結果は次のようなものだった。まずブロードバンドスピードテストによる、Windos XP機とWindows 98SE機とのダウンロード速度比較を挙げる。
【参考:Windows XP機で計測】(測定日時 2002/04/15 13:12:00)
回線種類/線路長 | ADSL/1.5km |
キャリア/ISP | NTT フレッツ・ADSL 1.5Mbps/wakwak |
ホスト1 WebArena(NTTPC) | 1.23Mbps(539kB、3.8秒) |
ホスト2 at-link(C&W IDC) | 1.13Mbps(539kB、3.9秒) |
推定最大スループット | 1.23Mbps(153kB/s) |
【参考:Windows 98SE機で計測】(測定日時 2002/04/15 13:21:02)
回線種類/線路長 | ADSL/1.5km |
キャリア/ISP | NTT フレッツ・ADSL 1.5Mbps/wakwak |
ホスト1 WebArena(NTTPC) | 790kbps(539kB、5.8秒) |
ホスト2 at-link(C&W IDC) | 800kbps(539kB、5.5秒) |
推定最大スループット | 800kbps(100kB/s) |
測定サイト:ブロードバンドスピードテスト v2.0.8
URL: http://www.bspeedtest.jp/
続いてWin98SE機によるアップロード/ダウンロード結果。
【参考:BNRスピードテスト】(測定日時 2002/04/15 13:16:29)
ダウンロード速度 |
WebARENA | 1028.525kbps(1.028Mbps) 131.54kB/sec |
PLALA | 1132.479kbps(1.132Mbps) 144.96kB/sec |
3.ASAHI-Net | 1051.792kbps(1.051Mbps) 134.63kB/sec |
推定転送速度 | 1132.479kbps(1.132Mbps) 144.96kB/sec |
アップロード速度 |
データ転送速度 | 394.15kbps (49.26kB/sec) |
転送データ容量 | 600KB |
転送時間 | 12.178秒 |
測定サイト:BNRスピードテスト Ver2.103
URL: http://www.musen-lan.com/speed/
利用ブラウザ: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; Q312461)
ご覧のとおりで、当初懸念した割には実用的なスピードが出ているのではないかと思う。最初のうちはもしトラブルやスピード低下があれば、室内配線から徹底的にいじってやろうと意気込んでいた。言い替えればその分不安も抱えていたわけだが、その後もまったく問題が起きないので「のど元過ぎればなんとやら」でもうほったらかしっ放しである。
田舎ゆえにサービス開始は遅くなったが、その間に技術もサービスも成熟したというところだろうか。あとは9月末と噂されている8Mプランで快適な環境が得られるかどうか気になるところだ。
■参考データ
居住地区 | 福岡県浮羽郡 |
線路距離長 | 1520m |
伝送損失 | 47dB |
接続事業者 | NTT西日本 フレッツ・ADSL 1.5Mbps |
プロバイダー | WakWak、@nifty |
スループット | 約1.3Mbps |
■ URL
NTT西日本 フレッツ・ADSL
http://www.ntt-west.co.jp/service/adsl/type1.html
2002/08/29 11:20
福住 護 計算が苦手という理由で文学部に進みながら在学中にパソコンにはまり、理科系と文科系をつなぐ仕事をめざすフリーライター。現在はおもに市販アプリケーションのレビューやオンラインソフトの紹介記事を執筆。ペンネームは福岡県在住を暗にアピールしたくてつけた安易なモノ。 |
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