■ 出会いは常時接続
私がインターネットに出会ったのは1988年である。大学で情報工学を専攻していたのだが、その学科がインターネットに接続されており、研究室に配属されるとともに利用環境が与えられた。当時はまだインターネットという名前すら一般的ではなく、日本ではJUNETと呼ばれていた時代である。帯域も今と比べれば格段に細かったのだが、それでも常時接続だった。おかげで当時の主要なインターネットサービスを一通り経験することができた私は、これは面白いということで就職先もインターネットに接続している会社を選び、そこでネットワーク管理に携わり、勤務先は変わったが今もネットワーク管理の仕事をしている。
こうしてみると、大学でインターネットと出会ってその先の人生が決まってしまった感もあるが、そこには最初から常時接続という恵まれた環境でインターネット生活をスタートできたことも影響していると思う。
■ 早すぎたCATVインターネット狙い
就職してからも会社に行けば常時接続ということで特に不自由なく使っていたのだが、そこに個人でも利用できるプロバイダーが登場した。自宅でも旅先でもインターネットを使いたいと思っていた私は早速契約した。1996年のことである。
ちょうどその頃、勤務先の寮を出ることになり、現在の家に引っ越したのだが、当時ADSLや光ファイバはまだ先の話だがCATVインターネットはそろそろ実用化されるだろうと言われていたので、CATVの入っているマンションを選んで引っ越したという思い出がある。しかし、実際にはCATVが入っているからといって必ずしもCATVインターネットが導入できるわけではない。
案の定、CATVインターネットが実用化されても私の住むマンションには導入されず、ISDNだけは引いたがダイヤルアップIP接続での生活が続いた。もっとも、仕事が忙しくて自宅に帰っても接続する時間がなく、また会社に行けば常時接続だったので、特に困ることはなかった。
■会社をやめて失ったもの、それは常時接続
ところが2001年の春、会社をやめた。そしてしばらく無職生活を送ることにした。しかし無職になってもインターネットは使う。もはや「会社に行けば常時接続」の手は使えないので、いきおい自宅での接続時間が伸び、従量制でどんどん課金されることになる。ここでNTT料金の推移を見てみよう。
【NTT料金の推移】
年月 | 料金 | 備考 |
2001年2月 | 7,029円 | |
2001年3月 | 8,373円 | 3月末で退職 |
2001年4月 | 10,314円 | |
2001年5月 | 4,887円 | 1か月間旅行したので少ない |
2001年6月 | 9,893円 | |
会社をやめた途端にNTT料金が1万円を突破している。しかも私は滅多に電話をしないので、この料金の内訳は基本料を除いてほぼ全部ISDN通信料である。これ以上増えるかもしれない通信料におびえながらISDNで使うぐらいなら、さっさとADSLか何かを引いた方が気が楽である。
■ ADSLがやってきた
そんなわけで自宅に常時接続の導入である。当時サービスが提供されていたのはADSL 1.5Mbpsまでだったので、回線はそれに決めた。他に考えたのは以下のことである。- すでに引いてあるISDNをアナログに戻さず、新規にADSL回線を引く。
- 固定のグローバルIPアドレスを1個でいいからもらう。
- 現在利用中のプロバイダーにとらわれず、安く済みそうなところを選ぶ。
いろいろと探した結果、WAKWAKに転送量2GBまで800円/月、それ以上は従量制だが最大1400円/月というコースがあり、追加で2000円/月払うと固定IPアドレスが1個もらえることがわかった。このコースを利用するには回線をフレッツADSLにするしかないので、この組み合わせでいくことに決めて工事を申し込んだ。申し込みから工事まで1カ月ぐらい待ったように思う。
そして工事の日。NTTから工事のおっちゃんがやってきた。私も見ているだけでは退屈なので一緒に作業した。まずマンションの配電盤から自宅までADSL線を引く。そしてその線を奥の部屋まで伸ばし、NTTから提供されたADSLモデムと接続。配線ができたらパソコンとADSLモデムをつないで接続性の確認。何の問題もなかった。
「一緒に作業してくれたので速度試験をサービスしましょう」とのことで、フレッツのWebサイトにつないで転送速度のテスト。結果は1Mbps を記録した(スピードテスト参照)。おっちゃんによると彼の自己ベストらしい。それもそのはず、自宅から10分も歩けばNTTの収容局である。CATVインターネットを目指して家探しをしたときには考えもしなかったところで好条件に恵まれていたのだった。
【参考:BNRスピードテスト】
ダウンロード速度 |
WebARENA | 936.033kbps(0.936Mbps) 119.76KB/sec |
PLALA | 859.712kbps(0.859Mbps) 110.14KB/sec |
ASAHI-Net | 1104.339kbps(1.104Mbps) 141.43KB/sec |
推定転送速度 | 1104.339kbps(1.104Mbps) 141.43KB/sec |
測定日時: 2002年8月31日(土) 午前7時9分
測定サイト:BNRスピードテスト 回線速度計測ページ
URL: http://www.musen-lan.com/speed/
■ 自宅での常時接続の使い道
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画面1 Live365のホームページ。「J-POP」で検索すると日本の音楽を流す放送局も出てくるが、なぜかアニメ関係のものばかりである
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さて、これで心置きなくインターネットが使える。しかもこちとら無職。日がな一日使いまくりである。会社にいたときと違って利用の制限もない。おかげで楽しい使い道がいくつも見つかった。それを紹介する。
・OSのネットワークインストール
私はBSDやLinuxなどUNIX系OSの愛好者である。これらのOSの多くは、OS自身をネットワーク経由でインストールすることができる。そんなわけでADSLが開通して最初にやったのがFreeBSDのネットワークインストールだった。転送量はOSの種類や設定によって差があるが、最初は必要最小限のものだけを入れることにしておけば500MBもないので1時間もあれば十分である。OSが動いたら、あとはアプリケーションが必要になるたびに追加でネットワークインストールすればよい。
・インターネット放送局をBGMに
私は音楽が好きで、よく聴く曲はノートPCに入れて持ち歩いたりしているが、そうではない音楽をBGMとして流したくなるときがある。そんなときに利用するのがインターネット放送局である。私がよく利用するのはLive365(画面1)というサイトで、ここに多数の放送局が登録されている。ジャンルで選んでもいいし、キーワードで検索もできる。私がよく選ぶのは環境音楽を流す放送局で、音楽をかけたまま寝ることもある。
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写真1 上がヤマハRT54i。4ポートのハブを内蔵しているがそれでは足りないので、下のNETGEAR(8ポートのハブ)を経由して各PCと接続している
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・自宅にもサーバを構築
私は以前から自分用にドメインを取得し、サーバーを借りて運用しているが、サーバー1台では障害が起きたときにメールも受け取れなくなってしまう。そこで自宅マシン用に固定のグローバルIPアドレスを1個取得し、そちらをバックアップのサーバーとして運用している。
もっとも、自宅は一人暮らしなのになぜかPCが5台もあるので、ヤマハのRT54i(写真1)をルータとして設置し、ルータの設定でいくつかのプロトコルをサーバ用PCに向けるようにしている。
なお、ルータやADSLモデムなどの機材はどれも非常に安定した動作を示しており、トラブルも皆無である。しかし、プロバイダーやNTTによるメンテナンス、あるいは豪雨時の瞬間的な停電などによってまれに接続が切れることがあるので、サーバを完全に自宅に移すことはせず、現在もバックアップ用として運用している。
■常時接続と従量制課金
ところで、ADSL導入時にWAKWAKの従量制課金コースを選んだと書いたが、実際にどれぐらいのデータを転送し、そして課金されたのだろうか。WAKWAKのサポート用Webページで月ごとの通信量を見ることができるので、その数値をご覧いただくことにしよう。
【通信量の統計】
年月 | 上りデータ量 | 下りデータ量 |
2002年4月 | 84MB | 1,289MB |
2002年5月 | 87MB | 531MB |
2002年6月 | 11,191MB | 1,570MB |
2002年7月 | 1,293MB | 866MB |
ここには4月以降の数値しかないが、それ以前も含めて今年の5月までは「2GB まで800円/月」のラインを超えたことは一度もなかった。何か違う意味で「2GBの壁」である。しかし6月に入って突然2GBを大きく突破し、しかも上りが急激に増えた。そのわけは……。
■ 2GBの壁を超えて
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写真2 ピクセラのCaptyTV。ビデオ端子から映像と音声を取り込んでMPEGに変換し、USBでMacに転送する
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自宅にはMacも1台あるのだが、今年の春、このMacに接続するMPEGエンコーダー(ピクセラのCaptyTV、写真2)を購入し、テレビの録画を始めた。普段は録画したビデオをノートPCにコピーして電車の中で見たりしているのだが、6月から7月にかけてNetWorld+Interopのネットワーク構築で18日間出張することになった。この展示会では外部と19.2Gbpsという超高速ネットワークで結ばれるので、これならMPEGのビデオでも転送できるだろうと思い、CaptyTVでタイマー録画したビデオをその超高速ネットワーク経由でノートPCに転送して見ることにした。
しかし、ADSLでは上りと下りの速度は異なる。下りは前述の通り1Mbpsぐらい出るのだが、今回の転送は上りであり、実際にやってみると400kbpsぐらいしか出ない(スピードテスト参照)。「しか出ない」というのもぜいたくな話だが、この速度だと1時間番組を録画した約270MBのMPEGファイルの転送に約90分かかる計算になる。それでも常に最新の映像が手に入る喜びは大きく、連日ビデオを転送した結果、6月の上り転送量が11GBなどという数字になってしまったのである。
もっとも、2GBを超えた分は従量制で課金されるといっても、1400円/月が上限なので実は大した差はない。そのことがプロバイダーもわかってきたのか、この従量制課金コースは7月をもって廃止されてしまった。今は自動的に移行した1000円/月の定額コースを利用している。
【参考:BNRスピードテスト】
アップロード速度 |
データ転送速度 | 424.55kbps (53.06KB/sec) |
転送データ容量 | 600KB |
転送時間 | 11.306秒 |
測定日時: 2002年08月31日(土) 午前6時48分
測定サイト:BNRスピードテスト 回線速度計測ページ
URL: http://www.musen-lan.com/speed/
■ そして次なる展開へ
そんなこんなで常時接続に出会ってから15年目である。こうして振り返ってみると、大学だったり会社だったり、自宅でもCATVやADSLといろいろあったが、いつも常時接続という島を求めて漂流する旅人のような日々だったと思う。
最近はADSLプロバイダーも8Mbpsなどより高速なサービスを競っているが、個人的には下りに関しては現状の1.5Mbpsで不満はない。それよりも上りの帯域が細いことが問題で、これはADSLを増速してもさほど改善されないであろう。そうすると光ファイバ導入という話になりそうだが、それも視野に入れつつ自宅のネットワーク環境の更新を検討し始めたところである。また新たな島を求めて漂流を始めたのだ。うまく漂着できたら、それもまたブロードバンドの一風景として報告できればと思っている。
■参考データ
居住地区 | 東京都目黒区 |
線路距離長 | 780m |
伝送損失 | 17dB |
接続事業者 | NTT東日本「フレッツ・ADSL 1.5M」 |
プロバイダー | WAKWAK |
スループット | 1.1 Mbps |
■ URL
WAKWAK
http://www.wakwak.com/
Live365
http://www.live365.com/
NetWorld+Interop 2002 Tokyo
http://www.interop.jp/
2002/09/12 11:10
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