■ 通信速度は過去10年間で1,000倍を超える!
通信というものに初めて手を染めたのは、すでにひと昔前になる10年ほど前。パソコン通信と呼ばれていたころニフティに入会したのがきっかけだ。当時は日本独自規格のNEC製のマシンが全盛だった時代で、筆者も例に漏れずNEC製のPC-9801RX21を使用。初めて使ったモデムも、やはりNEC製の「COMSTARZ CLUB 24/5」という2400bpsのアナログモデムだった。
アナログモデムを使ったダイヤルアップ接続時代の苦い思い出は、電話料金もさることながら、なんといっても家に1本しかない電話回線を占拠してしまったことだ。家族にも多大な迷惑をかけたものと反省している。OSやアプリケーションのアップデートファイルのダウンロードは、家族が寝静まった夜半に行なうのが常だったが、そんな時に限って緊急の電話があるもので、翌朝になって家族からのクレームに、なんど肩身の狭い思いをしたことか。
その後、現在使用しているADSLモデムの「Aterm DR202C」になるまでには数々のモデムを使ってきたが、ノートPC用のPCMCIAタイプや携帯電話用などを含めると、9つのモデムを使ってきたことになる。それら使用モデムの遍歴を別表にまとめてみた。それぞれ感慨深いものがあり、読者の方の中にも懐かく見ていただけるモデムもあるではないだろうか。その間の通信速度の向上を振り返ると、10年間でなんと1000倍を超える凄まじいスピードで進化してきたことがわかる。
■ さらば哀愁のアナログモデム
アナログモデムとして最も愛着を感じているのは、モデム遍歴の中では使用期間こそ短かったが、ADSLへの移行直前にお世話になった「IGM-B56KH」だ。IGM-B56KHはADSL移行後も処分するには忍びなく、大事に保管していた。だがひょんなことでもうひと働きしていただくことになった。それは筆者のホームページの掲示板での話が発端になって、「10万アクセス記念品」として進呈すると約束したのがきっかけだ。
そして、無事10万アクセスに到達した2002年2月10日、下手クソな字で「継続こそ最大の力なり」とサインをしたモデムは、とある方に貰われていった。別表はIGM-B56KHのデータ受信速度を引き取られていく前にSpeedTestで記念に測定したものだ。
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哀愁のアナログモデム「IGM-B56KH」。ユーザーズマニュアルも残っていた
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我がホームページの「10万アクセス記念品」として「継続こそ最大の力なり」とサインして贈呈させていただいた「IGM-B56KH」
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IGM-B56KHのデータ受信速度
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■ ブロードバンド常時接続の夜明け
ブロードバンド常時接続の夢を現実に引き込んだのは、やはり1995年12月に出版された『ビル・ゲイツ 未来を語る』(ビル・ゲイツ著/西和彦訳)だっただろう。情報通信網をハイウェイに見立てて、将来は約1,000倍に高速化された「情報ハイウェイ」が張りめぐらされ、世の中の構造すら変革されるという、ビル・ゲイツが熱く語る「ハイウェイへの道」に、疑心暗鬼ながら胸躍らせたものだ。
では、日本におけるブロードバンド常時接続の実質的な先駆けはというと、やはり2000年9月に当時の森首相が所信表明演説の中で掲げた「e-Japan構想」だろう。翌年2001年1月には、内閣に設置されたIT戦略本部が策定した「e-Japan戦略」が発表され、「5年以内に世界最先端のIT国家となるため、高速で安価な通信網の整備や国家制度の確立を図る」という目標を旗印に、IT国家へのスタートが切られた。
その後、本年2003年7月には「e-Japan戦略II」が策定され、また今年の8月には総務省の情報通信政策局から「2004年度のIT政策大綱」も発表された。日本初の新IT社会を目指す取り組みによって、ブロードバンド常時接続は夢から現実になってきた。
■ ADSLがやってきた![1.5Mサービス編]
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筆者宅の収容局になるNTT西日本の京都支店京都八幡別館
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すでにパソコン通信で入会していたニフティが、ADSL接続サービスを実施すると発表したのは、時あたかも「e-Japan戦略」が発表されたのと同じ2001年1月だった。ISDN回線にも乗り換えず、通常の電話回線によるダイヤルアップ接続でこの日を待ちこがれていた筆者は、開局予定が決まり次第に連絡が入るよう、回線業者のイーアクセスの情報配信サービスに登録を行なって待っていた。
その後、3月になって在住エリア(京都八幡)の開局が6月に予定され、ニフティで申し込み受付が開始された旨の連絡が入り、速攻で申し込みを行なった。
ところが、開局待ちで約3カ月待たされた6月1日、ニフティの初期費用キャンペーンが始った。4月3日以降の申し込み分については初期費用のディスカウントが行なわれ、8,000円も安くなるという。早く申し込んだために、みすみす高い初期費用を払うのも口惜しいので、すでに申し込んであった契約を解約し、新規申し込みを行なってキャンペーンを利用した。
さて、いよいよ待ちに待った2001年6月29日、我が家にもADSLがやってきた。別表はADSLモデム(MegaBit Gear TE4111C)のデータ受信速度をSpeedTestで測定したもの。MegaBit Gear TE4111Cの管理メニューの機器状態情報では、下り1,536kbpsと表示されていて、最大通信速度が確保されていた。データ受信速度(SpeedTest測定値)が一夜にして91kbpsから約15倍の1.323Mbpsに変わり、さらに電話をしながらインターネットができる環境に、我が世の春が訪れたようにさえ感じたものだ。
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MegaBit Gear TE4111Cのデータ受信速度
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■ ADSLの速度変更をしたものの……[12Mサービス編]
1.5Mサービスを導入して約5カ月、まだ感動が覚めやらぬ2001年12月に我が在住エリアにも8Mサービスがやってきた。1.5Mサービスの初期費用に充当されて手に入れたADSLモデムは使えず、新たに8Mサービス用に月額500円のレンタル料が必要とのこと。また情報によると、線路距離長と伝送損失によっては回線速度の向上が期待できないことや、近い内にさらに高速なサービスが登場する可能性があったため、とりあえず8Mサービスはパスをして12Mサービスを待つことにした。
筆者が利用するニフティのイーアクセス回線は、8Mサービスが始まって約1年後の2002年10月、既存ユーザー向け12Mサービスへの速度変更の受付開始がアナウンスされた。まだ1.5Mサービス用のADSLモデムの償却も済んでないが、将来のFTTH(光ケーブル)へのつなぎを考えて、最後のADSLと思って12Mサービスへの速度変更を申し込みを行なった。これは特に問題なく、2002年11月14日に移行が完了した。
我が家のADSLとパソコンの接続関係を下の図で説明しよう。まず1階のリビングルームに設置されたモジュラージャックからスプリッタを介し、約20mのモジュラーケーブルで2階のADSLモデムに配線し、ハブで3台のパソコンに繋がっている。本来正しい接続方法としては、モジュラーケーブルがノイズに弱いことから、スプリッタとADSLモデム間を至近距離として、ADSLモデム以降のLANケーブルで延伸するのが好ましいとされている。
では、なぜセオリーから外れような接続になっているかというと……。- (1)通信状況を知るADSLモデムのランプをメインPCを使いながら見たい
- (2)1階のモジュラージャック近くにADSLモデムを設置する適当な場所がない
- (3)アナログモデム時代に敷設したモジュラーケーブルをそのまま使用した
つまりノイズの影響で少々の回線速度が落ちても、使い勝手を優先してADSLモデムの設置環境を決めているのだ。別表はADSLモデム(Aterm DR202C)のデータ受信速度をSpeedTestで測定したもの。特殊な接続方法の影響からか、ADSLモデム(Aterm DR202C)の管理メニューにあるADSL回線の状態では、下り2496kbpsと表示されている。1.5Mサービスに対し約62%向上したものの、最大通信速度の約20%にしかならない。
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ADSL回線からのLAN接続図
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Aterm DR202Cのデータ受信速度
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■ ブロードバンドのインフラに期待するもの
ADSLは、FTTHやCATV(ケーブルテレビ)のつなぎと言われながらも、すでに敷設された電話回線を利用できる強みと低価格を武器に爆発的な勢いで普及を遂げ、総務省発表の2003年7月末現在の加入者数では854万所帯となり、推定による普及所帯率は約18%にもなった。
ところがいかんせん悲しいかな、メタル線(電話線)ゆえのノイズの影響や信号減衰の壁には勝てず、サービス名の進化(1.5M→8M→12M→24M)と実際の回線速度は乖離する一方だ。はたまた繋がれば幸いなほうで、線路長距離によっては繋がらない地域も多々現存する。
すなわち、ベストエフォートの名のもとにADSLの恩恵をこうむって輝いて光る地域と、恩恵をこうむれない影の地域の明暗が、ADSLが進化すればするほどにより明確になりつつある。
では、ブロードバンドのインフラに期待するものは、どのようなものか? 「2004年度のIT政策大綱」には『国民利用者が地理的格差なくどこにいてもIT利用をできる環境が重要なので、条件不利地域等における光ファイバネットワークの全国的な整備の促進等への取り組み重要』とあるが、希望する国民の誰もが平等に恩恵を享受できるインフラであってほしいものだ。
また総務省の「ブロードバンドサービス地上インフラ未整備地域調査」によると、ブロードバンドサービスがひとつも利用できない世帯は、全国に約530万世帯を数えるという。その多くは人口が少ない「地方」で、サービスが届かない主たる理由は採算性だ。
そのような中で、離島だろうが山間部だろうが、南の空が見える場所に仰角35度の直径45~60cmのバラボラアンテナを設置するだけで、155Mbpsの速度を持ち、ADSLやFTTHと同等の料金の超高速インターネットサービスを利用できるという、夢のような衛星インターネットの話が現実になろうとしている。
衛星インターネットは、NEC、NEC東芝スペースシステム、JASTの3社により設立された「超高速インターネットサービス企画」で事業化の検討がされていている。衛星には「e-Japan重点計画-2003」で謳われた「高速・超高速インターネット利用環境の整備」の一環として進められている「WINDS」を活用する予定だ。スケジュールは、2005年度末にHII-Aロケットにより打ち上げられ、2006年度に衛星インターネットの実験を開始する予定だ。なお商用サービスは、2007年度の早い時期に自前の衛星を打ち上げ、同年の後半には開始したいとしている。
まだまだ先は長いので、進歩が早いブロードバンド分野において、4年後(2007年)のインフラ整備状況を予測するのは困難だ。しかし現在の光需要を考えれば、今後もFTTHのサービスエリアが拡大することは確実で、衛星が稼動する時点で市場が残されているかどうかの懸念もある。
しかし、日本全国を一気に、かつ確実にカバーできるインフラは、衛星インターネット以外にしかない。日本のデジタルデバイド(いわゆる地域間情報格差)を解消し、ブロードバンド難民の救世主として期待の星の1つになることであろう。
■参考データ
居住地区 | 京都府八幡市 |
回線の種類 | ADSL 12M |
接続事業者 | イー・アクセス |
線路距離長 | 4,090m |
伝送損失 | 36dB |
プロバイダー | @nifty |
スループット | 下り約2.1Mbps程度 |
■ URL
イー・アクセス
http://www.eaccess.net/
アット・ニフティ
http://www.nifty.com/
首相官邸 情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/index.html
総務省 情報通信行政(IT政策)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/joho_tsusin.html
超高速衛星インターネットサービス企画
http://www.nec.co.jp/press/ja/0308/2001.html
2003/10/30 11:13
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