■ きっかけは、とあるパソコン
はじめて「パソコン」なるものが我が家に来たのは、1985年の春のこと。大学生だった姉が研究用に購入した NEC「PC-9801F」という、当時最新鋭の16bitパソコンだった。しかし、どんな高級なパソコンだろうが、中学生だった自分にとっては「パソコン=高価なゲーム機」でしかなく、まさしく宝の持ち腐れ。また、音響カプラを使ったパソコン通信という存在を知っていても、興味はまったく沸かなかった。そんな自分がパソコン通信に目覚めたのが、それから9年後の1994年。とあるパソコンに出会ったことがきっかけとなった。
そのパソコンとは、DTVの先駆けともいえる存在、知る人ぞ知る名機 Commodore「AMIGA」だった。ひょんなことからAMIGAを手に入れた筆者は、その動画表現能力に圧倒されつつあれこれ遊んでいたが、しばらく経つとAMIGAそのものについての情報の少なさに困るようになってきた。
当時、情報源のパソコン雑誌と言えば、そのほとんどがNEC PC-9801シリーズに関するものばかりで、ようやくPC/AT互換機の情報が出始めてきたぐらい。自分が目にすることができたAMIGAに関する日本の情報といえぱ、1、2冊程度の書籍があった程度で、あとはショップか海外書籍に頼るしかなかった。新しい拡張カードやソフトウェアの使い勝手、機能に関するレビュー、ちょっとした改造の方法や注意点など、ほんの些細な情報ですら入手するにはとても苦労したものだ。
そんな状況の中、日本でもっとも先進的かつ膨大なAMIGAの情報を扱っていたのが、当時のNifty-Serve(現@nifty)のフォーラムのひとつ「AMIGA Forum」だった。その存在を知った筆者は、即座に14.4kbpsモデムを購入し、Nifty-Serveに入会した。そこには信じられないほどの情報があふれていた。今まで苦労して集めた情報は言うに及ばず、最新の情報から、かゆいところに手が届く細かい情報、さらにはフリーソフトなど、まさに自分のほしい情報が集まっており、そのショックに呆然としたものだ。もっと早く知っていれば……と後悔したのは言うまでもない。
■ 恵まれすぎたインターネット接続環境&放置された自宅の通信環境
Nifty-Serveのおかげで快適なAMIGAライフを送り、AMIGA本体も3台ほど増殖した1995年の冬、ちょっとした転機がおとずれた。やはり、ひょんなことから株式会社インプレスにアルバイトとしてもぐりこむことに成功したのだった。しかし、そこで激しいショックを受けることとなった。
そこは、当時としては先進的なネットワーク環境が構築されていたのだ。すべてのPCは10BASE-Tで接続され、インターネットは6Mbpsという途方もないスピードの上に常時接続。アルバイトであっても1人1台以上のPCが用意され、インターネットは使いたい放題(もちろん仕事で)。さらにメールアドレスとNifty-Serveのアカウントまで付与されたりと、いたれりつくせり。IT系出版社ということを考えても、それらは夢のような環境であった。
半面、あまりに会社が快適な環境だったために、自宅の通信環境が放置されることになってしまった。100MBを超えるような巨大ファイルから、Nifty-Serveのログファイルといったミニマムなファイルまで、ダウンロードはすべて会社で行ない、MOなどで自宅へ持ち帰る、というスタイルができあがってしまったのだ。自宅からはせいぜい休日にメールチェックするためにダイヤルアップする程度になってしまった。
そのうち、個人で加入しているプロバイダーあてのメールまで会社でチェックするようになった。自宅ではとうとうテレホーダイ1800の料金分も使い切らないまでに利用量が落ち込んだため(利用料金が20円なんて月もあった)、テレホーダイも解約してしまった。そんなわけで2001年までの7年間とちょっとの間、自宅の通信環境はISDNやADSLへアップグレードするどころか、33.6kbpsのモデムへアップグレードしたこと以外は完全放置。おかげで自宅用PCも「高価なゲーム機」状態に逆戻りしてしまったのであった。
■ 待てど暮らせど……
2001年の初夏、一身上の都合から会社を離れることになった。そこで困ったのが、今までのインターネット接続環境が一気に崩壊してしまったことだ。もちろん、通信インフラのほとんどを会社に頼っていたわけだから、これは当然のこと。しかし、モデムとPCはあるのだから、まったくインターネットに接続できなくなったわけではない。とは言っても、かろうじて接続できるというだけであって、33.6kbpsのモデムじゃいかんせん遅すぎる。
そんな状況の中、もうこれ以上ないといったベストタイミングで登場したのが「Yahoo! BB」だった。ベストエフォートとは言え、8Mbpsのスピードで月額3,000円を切るという衝撃の低価格をウリとしたこのADSL接続サービスに、喜び勇んで飛びついた。筆者は神奈川県の江ノ島にほど近い場所に住んでいるが、当初はこの辺りの収容局(藤沢別棟局)は9月頃に開通予定となっていた。
まあ、最初は申し込み人数も多いだろうし、9月になったところですぐに開通するとは思ってなかったので、しばらくのあいだは56kbpsへ微妙にパワーアップしたアナログモデムとテレホーダイで過ごすことにした。それでも来るべきブロードバンド環境を思えば、それほど苦痛だとは感じなかった。しかし、9月が過ぎ、10月も半ばになったというのに局内工事状況は何度も延期されていく。その上、延期の連絡ひとつよこさない状況にだんだんと不安を覚え始めていた。当時、Yahoo! BBのサポートはメールしかなかったが、それでも現在の状況を少しでも把握したいとメールを出しまくった。
しかし、どのメールにも判で押したような定型文が返ってくるだけ。それも、「大変ご迷惑をおかけしています、今しばらくお待ちください」といった内容だ。どうしてこういう状況になったのか? 一体どれだけ待てばいいのか? これだけではさっぱりわからない。「受注が多すぎて工事の予定が立たない」とでもメールにあればもう少し我慢もできたろうが、何ひとつ現在の情報を開示しないYahoo! BBに対して、日に日に不信感が募っていった。
そして、とうとうメールの返信すら来なくなり、完全に放置されたと感じた11月頃。さすがにこれ以上我慢するのもバカバカしく、一人でブチ切れていたところで精神衛生上好ましくないだけ。いい加減見切りをつけ、ほかの接続業者を探し始めたのだった。
■ 申し込みから3日、スピード開通
Yahoo! BBのせいなのか収容局のせいなのか。どうもこの地域でのADSLは鬼門だと感じ、次の候補として選んだのが、CATVインターネット接続を提供していたJ-COM@NetHome湘南だ。自宅はその昔、裏手に建設されたマンションの電波障害で、すでにCATVサービスを無料で加入していたのだ。そして幸いなことに、ケーブルテレビサービスに加入していると、通常は35,000円かかるインターネット接続サービスの初期費用は大幅に割り引かれて15,000円になり、わずかではあるが月額基本料も安くなると言うのだ。その話を聞いただけで、ほかに何も考えずに即座にJ-COMへ連絡した。すると何と、3日後には工事業者を手配できるというではないか! もちろんその場で契約。Yahoo! BBで煩悶していたのが嘘のようなスピードで契約が完了することとなった。
工事は期日どおり3日後に行なわれた。当初は、工事と言ってもすでにテレビ用の回線が屋内に引き込まれているのだから、分配器を使って配線を分岐させるだけかと勝手に思い込んでいた。だが、実際の工事はもっと大掛かりなもので、電柱に設置されているCATV用の分配器から、PCのある自室へ直接ケーブルを引き込むというものだった。自分の部屋にはケーブルを引き込めるような穴はない。エアコン用のダクトでもあれば、そこから引き込むことも可能なのだろうが、それすらもない。そこで、壁に直接穴を開けて線を引き込むという強引な方法で解決することになった。
工事終了後は、特に問題も発生せず、あっさりとインターネット接続が完了した。晴れてブロードバンドの仲間入りとあいなった。ここまで簡単にできるのであれば、最初からCATVにしておくべきだったと、この時点でまた後悔したのは言うまでもない。まったく、Yahoo! BBでの数カ月は一体なんだったのだか……。余談だが、藤沢別棟局でYahoo! BBが開通したのは、年明けだったらしい。それが本当なら待ってなくてよかったと、つくづく思うのであった。
当時のJ-COM@NetHomeの接続速度は、ベストエフォート型の2Mbps。さっそくWebサイトで回線のスピードチェックをすると、そこで目にした数値は信じがたいものだった。なんと1.92Mbps! 2Mbpsのベストエフォートでこの速度には大満足。さすが「CATVインターネット接続は、ADSLのように収容局との距離は関係ない」という宣伝をしていただけある。ちょっと料金が高いけど、えらいぞ!J-COM!
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ケーブルを引き込むために、壁に直接穴を開けて強引にローゼットを作っている
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外側は雨漏りしないよう、しっかりとシーリング。見た目はちょっと汚いが、実際には遠めにしか見えないので、それほど気にならない
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■ 不満があるも、あっさり解消
しばらくの間はルンルン気分でブロードバンドな環境を満喫していたのだが、使っているうちに不満もチラホラ出てきた。
最初の不満は、サービス内容の確認を怠った自分が悪いのだが、J-COMはルータの使用を全面的に禁止していたことだ。我が家でPCを使う人間は筆者一人ではあるが、IT系ライターのはしくれとして、メインで使用するPC以外にも原稿執筆用テストPCやノートPC、はてはドリームキャストなどなど、複数の端末が稼動していた。しかし、J-COMではインターネット接続可能なPCを1台に限定していたのだ。
複数台接続するためには、オプションの「追加IPアドレスサービス」に申し込まなくてはいけない。そうは言っても、IPアドレスをひとつ追加するごとに月額1,000円の使用料が追加されていくので、稼動しているPCすべてに適用しようものなら、それだけで毎月数千円の追加になってしまう。結局、苦肉の策としてCATVモデムはメインPCに直結するものの、Windowsの「インターネット接続の共有」機能を使って、ルータ代わりとした。(契約違反かもしれないが)
また、上り速度が128kbpsということもネックとなった。ちょっとしたメールのやりとり程度では問題はなかったが、仕事上どうしても画像、場合によっては動画ファイルのやりとりも発生する。そのような場合はイライラさせられることが多かった。
しかし、そんな不満も2002年になってあっさりと解消された。なんと、下り8Mbps、上り2Mbpsへ増速するとのアナウンスがされたのだ。しかも、ルータ使用も登録制ながら解禁。おかげで一気に不満ゲージは下がっていった。増速後の速度は下り約3.8Mbps、上りは約2Mbpsと、下りが期待したほど速度が出なかったものの、結果には満足。そしてルータを使った接続環境を構築できて大満足。あとはサーバー解禁となれば、もう文句なしの超満足が得られるのだが……。それでもえらいぞ!J-COM!
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自宅のPC環境。画面には写っていないが、部屋にはテスト用のPCが数台転がっている
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CATVモデム(右)とメルコの無線ルータ。まだルータ禁止だった頃、本気でほかの常時接続サービスへ変更しようかと悩んだ
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■ Yahoo! BBを試す
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Yahoo! BBの無料お試し期間キャンペーンを申し込んでみたものの、期待したほどの速度は出なかった。がっくし
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今、Yahoo! BBが2カ月無料お試しキャンペーンなるものを、ものすごい勢いで展開している。その昔放置されたとはいえ、やはりその存在は気になるもので、どうせ無料なのだからと、さっそく申し込んでみた。
結果から言えば、最高速度は1.86Mbpsというものだった。念のため、あれこれ調整するも、1.86Mbpsを超えるスピードはとうとう出なかった。まあ、線路長2.3kmでこのスピードなのだから、そこそこの速度は出ていると言えるだろう。そんなことよりも驚いたのが、申し込みから1週間ちょっとで開通できたことだ。もちろん、それだけサービス体系が落ち着いたということだろうが、それでも以前数カ月待たされた身としては、なんだか複雑な気分だ。
結局、Yahoo! BBの無料お試しキャンペーンで分かったことは、速度やサービス内容を考えたら、結果としてJ-COMに加入したことは間違いでなかったと再確認できたことだった。
今後サービスを乗り換えるとしたら、もうFTTHしかないだろう。現時点では、そこまでの速度を必要としていないことと、接続料金の関係から、もうしばらくは待つべきと考えている。しかし、自前でFTPサーバーやメールサーバーなどを構築したいという欲求もあって、もしかしたら突発的に導入するかもしれない。もっとも、CATVインターネットもまだ速度向上の余地が残されているようなので、欲求と速度向上のどちらが先になるかで今後の選択肢が変わっていくことだろう。
■参考データ
居住地区 | 神奈川県藤沢市 |
接続事業者 | J-COM@NetHome湘南 |
回線の種類 | CATV |
プロバイダー | J-COM@NetHome湘南 |
スループット | 約3.8Mbps |
2003/03/13 11:12
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目黒廣道 1972年兵庫県出身。趣味は寝ることや車、バイクなど。パソコン雑誌の編集を経て、気がついたらフリーライターの肩書きも持つことになった便利屋。最近は映像編集やインターネットTV番組の制作なども請け負っている。 |
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